「――そういう訳なんで、バゼット達も十分気をつけてくれ。
あのサーヴァントの攻撃は、アンタ達とは特に相性が悪いと思う」
廊下をてくてく歩いていると、玄関から士郎が誰かと話している声がした。
曲がり角からひょいと首を出してみると、彼はスーツ姿の女性と話し込んでいた。
「なるほど、姿の視えない攻撃とはまた厄介ですね。
攻撃が視えないのであれば、
アヴェンジャーの宝具も、痛みを返すタイミングを計れません」
「ああ、しかも一撃でサーヴァントを倒せる力を持ってる。
不意討ちだったけど、二体のサーヴァントが瞬殺された。
あの拳を喰らえば、いくらバゼットでも耐えきれない。
アンタ達はマスターが前衛で戦わざるえないんだから、なるべく戦闘を避けた方がいい」
昨夜の穂群原学園での戦闘の話だった。
どうやら女性は、アヴェンジャーとかいうサーヴァントのマスターらしい。
……しかし、マスターが前衛で戦うとはどういう意味か。
サーヴァントの宝具でマスターがラスボス化でもするのか。
「士郎君の話は分かりました。
ですが、余計な心配です。
相手の能力が分かっているなら、その能力を使えない状況を作り出すまでだ。
セイバーの攻撃が当たったのですから、相手も無敵というワケではないでしょう」
「けど、そのアサシンを知ってたマスターの話じゃ、あいつの『気配遮断』は魔術で感知できるモノじゃないらしいぞ。
セイバーの『直感』でも、致命傷を避けるのが精一杯だった。
出会っても気付くことすらできない。
気付いた時には終わってる。
そんな中で、あいつに能力を使わせない状況を作り出せるのか?」
どうやら、ユリウスのアサシンへの対策を話しているらしい。
あのサーヴァントには、正攻法では立ち向かえない。
少なくとも、わたしはそうだった。
彼を倒す為には、何らかの罠に嵌めてあの男のスキルを封じるしかない。
「教会組には話してあるのですか?
あそこはランサーがいますし、そう簡単にマスター暗殺を行えるとは思えませんが、相手はアサシンです」
「言ってるよ。
カレンもマスターなのに監督役を代行する気みたいだし、一番に標的にされてもおかしくない。
けどあいつは、『全ては主の御心のままに。私を
「……彼女らしい話だ。
さすがは求める者に対して拒む事のない、サドマゾシスターです。
まぁ、みすみすカレンが攻撃されるのを、ランサーが許す筈がありませんが。
――それで、そちらがそのアサシンの事を知っていたというマスターですか?」
スーツの女性はこちらに目を向けた。
覗いていた事は最初から気付かれていたらしい。
「ああ、岸波白野だ。
岸波、彼女はバゼット。
アヴェンジャーのサーヴァントのマスターだ」
「初めまして岸波白野。
バゼット・フラガ・マクレミッツと言います。
……あと士郎君、私はアヴェンジャーとランサーのマスターです」
きりっとした表情で訂正するバゼット女史。
士郎が困ったような表情になった。
アヴェンジャーとやらは基本の7つのクラスに含まれない、
わたしもあちらの聖杯戦争で、基本のラインナップではないサーヴァントと戦った事がある。
このバゼットという女性も、『彼』と同じ、イレギュラーなマスターなのかもしれない。
しかし、こちらのランサーのマスターは、さっき名前の出ていたカレンとかいう人じゃなかったのか?
「初めましてバゼット。
岸波白野です」
取りあえず挨拶を返す。
バゼットという女性からは、対戦相手に対する敵愾心や殺意は、特に感じない。
だがそれでも、士郎のように気安くこちらと協力できそうな相手には見えない。
聖杯戦争参加者としては、こちらが当然なのだろう。
「それでは士郎君、私はこれで失礼します。
それと夜の巡回の際には、必ずセイバーを伴って下さい。
一人で出歩いて気付けば死んでいる、などという事はないように」
「分かってる。
セイバーが苦戦する相手に、俺が勝てるわけない。
この異常が解決するまで、セイバーには苦労をかけて悪いが、付き添ってもらうよ」
頷く士郎に、『そもそもサーヴァントは有事の際の戦力として召喚されているのですから、それが悪い筈ないのですが』と呆れ顔で言い、バゼットは戸を閉めた。
その士郎に対する親しげな感じに、何故か違和感を覚えた。
――そう、どう見ても簡単に他のマスターと協力しそうにないこのマスターが、第五次では間違いなく敵であった筈の士郎の身を心配しているように見えた事が――
「今の人も、衛宮邸に住んでるの?」
居間に引き返そうとする士郎に声をかける。
「住んでるってワケじゃないんだけどな。
ちょっとの間、ここに下宿してた」
――そう言えば士郎は、たまにマスターが五人に増えると言っていた。
凛に桜にイリヤという少女に今のバゼット、後はさっき言っていたカレンという人物だろうか。
……桜のライダーも藤村先生も女性だけど、何か士郎の家、女子率高すぎじゃなかろうか?
『ふむ、オマケに奏者と余も性別は女だ。
しかも全員が華のような美女ばかりと来ている。
……うむ、こればかりは余もあの士郎を認めざるを得ぬな。
まさにこの衛宮邸は、あやつを
霊体化していたセイバーが、珍しく士郎に対して感心したように頷いているのを感じる。
なるほど、
権力者達が国中の美人を集めた楽園、男性にとっては夢のようなものなのだろう。
……しかしハーレムの主の筈の士郎が、王様というより召使いのポジションにしか見えないのは、如何なものか。
「お茶にしよう、岸波」
わたしに付いてくるよう促しながら、士郎は背中を向けた。
その背中に見入る。
昨夜と同じ、その背中。
わたしをかばい、アリスを背負った背中。
あの後結局ありす達を見つける事はできずに戻って来たけど、弱い者を守るように立つ、いつか見た正義の味方のような姿。
――また、ちくり、と胸が痛んだ。
私の最萌えキャラ、バゼットさんがようやく登場。
基本昼間はほのぼのさせるつもりなのですが、会話の内容は結構物騒だなぁ(汗)