fate/extra night   作:iekiron

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中華風天丼

 シスターとランサーに向かい合う形で、わたしと士郎も席に着く。

 月の聖杯戦争で見た時のランサーは大英雄らしく、生粋の戦士という感じだった。

 こうして飲食店で食事を取っている姿は、この時代の(ちょっと怖い筋の)一般人と見紛うほど、違和感なく馴染んでいる。

 

「……でも、何でアロハ?」

「何だよ。

似合わねぇか?」

 不思議そうに問い返してくるアロハ男。

 そうだね、自然すぎて逆に不自然なほどよく似合ってる。

 似合いすぎるからおかしいのだと気付いてくれアイルランドの悲劇の大英雄。

「ランサー。

いつか出会うだろうとは思ってたけど、冬木市側のサーヴァントとして出会うなんて意外だった。

それに、こっちの凛がマスターじゃなかったんだね」

「まぁな。

こっちじゃ結構マスターが入れ替わったりしちゃあいるが、トオサカの嬢ちゃんがオレのマスターだった事はねぇよ」

「何だ。

アンタ達、知り合いだったのか?」

「ああ、別の戦場に出張った時にちょっとな。

そういう嬢ちゃんは、確かアーチャーの……あー、キャスターのマスターだったか?」

「奏者は余のマスターだ!

無礼な事を申すな槍兵(ランサー)!」

 激高したセイバーが実体化した。

 燃え盛る怒りに、白い陶磁器のように美しかった貌が朱に染まっている。

「そうだったか?

まぁおまえさんが言うなら、そうなんだろうよ」

 セイバーの怒りを軽く流しながら、コレ何とか自然消滅してくれないかなー、と祈る様な目で器を覗いているランサー。

 流されたセイバーが、ランサーに飛びかからんばかりに殺気立った。

「待て、ここじゃまずい。

戦いに来たんじゃないだろ。

あと、白昼堂々店舗を廃墟にリフォームなんてされたら、お店の人が泣いてしまう」

 士郎が慌てて間に入った。

「そうですね。

隠蔽工作も手間ですし」

 今にも爆発しそうなセイバーを前にしても全く表情を変えずに、シスターも同意した。

 

「それで衛宮士郎。

彼女が例のマスターですか?」

「ああ、岸波白野だ。

冬木の聖杯戦争のマスターじゃないけど、もし彼女がサーヴァントを失うような事になったら、教会で保護してやって欲しい。

岸波、こっちが冬木市の監督役代理のカレン・オルテンシア。

冬木教会の司祭の代理でもある」

「――――?

マスターなのに、監督役?」

 ――何だろう、それは。

 代理だろうが何だろうが、マスターが聖杯戦争を監督する?

 

 監督役という立場なら、それこそマスターやサーヴァントの行動を制限できる、様々な特権を持っているはずだ。

 わたし達の聖杯戦争では、監督役はAIが担当していた。

 聖杯戦争を監督するならば、中立の立場の者であるべきではないのか。

 マスターは参加者である。

 公平を期すならば、参加者が監督役を兼任するというのは、どうなんだろう。

「心配いりません。

監督役は、聖杯戦争を公のものにせず、円滑に進行させる為に派遣される者。

聖堂教会の隠蔽工作が不可能なほど周辺被害を出す場合や聖杯戦争自体の続行が困難になる場合など、特殊な例を除いて、貴方達参加者に関与するつもりはありません。

サーヴァントも私の護衛のようなものですし、そもそも私は、ランサーの令呪をもっていません」

 わたしの考えを読んだのか、カレンという少女はカソックの裾を捲り上げ、包帯にまみれた両腕を見せた。

 軽く解いて晒された白い素肌には、確かに令呪の跡は見えない。

「……でも、サーヴァントを従えている。

ランサーが誰に槍を向けるかも決められる。

あなたはマスターだ。

勝者として聖杯を手に入れられる資格だってある。

誰が勝者になるのか、結局はあなたの意向次第になるって事じゃない。

そんなのが、公平な監督役だって言えるの?」

 言うなれば、監督役としての特権を持ち、かつサーヴァントを従えた一人の参加者だ。

 公平どころか反則の存在だろう。

 

「…………」

 銀のシスターの感情を映さない瞳が、射抜くようにわたしに向けられる。

 何か、古傷を抉られていく様な、奇妙に居心地の悪い感覚。

 威圧されてなるものかと、彼女を睨みつけて――

 

 

 

「アイ、マーボードーフ三皿おまたせアルー!」

 

 

 

 ――ごとんごととん、と目の前に第二第三の麻婆豆腐が置かれていた。

 

 

 

「……あの、俺たち頼んでないんですけど……」

 運んできたちびっこ店長に、愕然とした表情で士郎が言った。

 皿からは湯気が立ち昇り、出来たばかりのあつあつである事が分かる。

「私が注文しておいたのです」

 呆然とする士郎に、横合いからカレンが声をかけた。

 興味なさそうにわたしを見ていた瞳に、好奇の色が浮かんでいる。

「えっ。

――ああ、何だ。

初めから御代わりを頼んでたのか、アンタ」

 ホッとした表情になる士郎。

 カレンの目が細くなり、口元が三日月の形に吊り上がった。

「いえ、貴方達の分を。

わざわざ足を運んでくれた、そのお礼です。

うちの駄犬達にもお裾分けしてあげなければ、と言ったでしょう?」

 

 感情の伺えなかったシスターの貌に何故か喜悦の色が浮かび、士郎の顔が青ざめて絶望の色に沈んだ。

 

 

 ……なるほど。

 言われてみれば『うちの駄犬達』って複数形使ってたな、このシスター。

 




カレンに駄犬と呼ばれたのは、士郎が最初だったハズ。
子ギルはどうだったかなぁ。
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