fate/extra night   作:iekiron

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グロ描写あります。
苦手な方はご注意ください。


誰かさんが見つけた

 アスファルトを蹴る男の貌は、もはや平静とはいいがたい。

 自身が出会ってしまった災厄に恐怖し、逃げ惑うだけである。

 頼みの綱のサーヴァントは暴風の前に吹き飛ばされ、裸のマスターのみが残って震えている。

「に、げ、ないと――」

 震える足に鞭打ち、青年は離脱を計る。

 

 走る。

 振り返るな、駆けろ!

 走る。

 止まるな、駆けろ!

 走る。

 足を止めれば、食われるぞ!

 

 あのふざけた格好をした最悪から逃げて逃げて、何とか人ごみに紛れるのだ。

 一般人に紛れればあの敵も、さすがに自重する筈だ。

 逃げ足に力をこめ、顔を上げて、ふと前方に人影が通り過ぎるのを見つけた。

 

「アレ、は」

 

 身体が止まる。

 網膜が捉えるは、三人の人間。

 その中の一人の、いつか見たロングヘアの背中。

 見覚えのある学生服。

 月の学園で、相見える事を夢見た好敵手。

「……なみ」

 彼女を呼ぶ。

 かつて親友と呼んだ少女を。

 どうしたいのかは分からない。

 助けて欲しいのか、逃げろと言いたいのか。

 それでも、呼びかけずにはいられなかった。

 例え仮初の役割の、仮初の親友だったとしても。

「岸波っ――!」

 口にしたのと同時に、背中から胸に何かが突き抜けた。

 見れば、自分の胸から串が突き出している。

 ごぽり、と口元から赤い滴が零れた。

「人形ト同ジ。

美味シクナイモノ、イラナイネ」

 耳元で囁くような声がした。

 視線を向けると、どこかで見た事があるようなピエロがいた。

 メイクの施された目に映るのは、自身ではない。

 虚ろな瞳が捉えているのはやはり、どこかで見た事のある女生徒だった。

 道化の口が、三日月の形に吊り上がった。

「……美味シイモノ、見ィツケタ」

 

 

 

                  ◇

 

 

 

 ふと、誰かに呼ばれた様な気がして、後ろを見た。

 振り返った先には当然、誰一人としていやしない。

「岸波?

どうかしたのか?」

「……ううん。

気のせいだった」

 言って士郎の方に身体を向けた。

 虫の知らせ、という奴だろうか。

 何やら妙な感覚だった。

 

 ――昨夜と同じく夜の巡回に出かけたわたし達は、深山町から新都にまで足を伸ばしていた。

 昼日中は賑わっている場所だと士郎はいうが、夜のビル街は閑散としており、異次元に迷い込んだかのような印象を受ける。

「普段は夜でも人通りがあるんだけどな。

聖杯戦争が始まってるせいか」

 白い息を吐きながら士郎が言った。

 確かに、それほど小さくない規模の都市の割にはすれ違う人間の数が少ない様な気がする。

 もっと仕事帰りのサラリーマンなどに出くわしていてもおかしくない。

「そうかもしれません、キャスターが何かした訳ではありませんし。

教会が一般人を巻き込まない為に、夜間の外出を控える様に働きかけているのでは?」

「あいつらの仕事を具体的には聞かなかったけど、それ位はやってるかもな。

隠蔽工作も楽じゃないだろうし」

 

 士郎と青いセイバーの話を聞きながら、カレンという少女を思い出す。

 年に似合わない荘厳さを身に纏う修道女。

 監督役でありながらランサーのマスターという反則みたいな存在。

 だが、マスターとして戦う気はないという。

 直感だが信じてもいい、と思った。

 確証がある訳じゃないが、あの少女はかつて月で見た神父と同じく、信用はできないけど信頼はできる、問われれば真実を話す人物だ。

 他のマスターから仕掛けられた時以外、彼女がランサーを使う事はないだろう。

 あの少女なら、公然とは言えない手段で一般人の目から聖杯戦争を守ったりもしてそうだ。

 

 

 

 ビル街の中にあった公園を歩く。

 踏みしめる大地は冷気のせいもあり、余計硬くなっている気がした。

 街灯に照らされ、三つの影が長く伸びている。

「そう言えば、岸波は聖杯戦争の勝者になったんだよな?」

「そうだよ。

一騎打ちのトーナメント戦を勝ち抜いて、わたしが最後の一人になった。

それがどうかした?」

「いや、大した事じゃない。

おまえが聖杯を手に入れたなら、その聖杯をどうしたのか気になってさ」

 士郎から来た素朴な疑問。

 聖杯戦争は聖杯を奪い合う戦いだ。

 参加者としては、聖杯を手に入れた者がソレをどうしたのか、何を願ったのかは気になって当然だろう。

 答えようと口を開いて――

 

「――アレ?」

 そこで何故か言葉が詰まった。

 

 

 ――えっと、わたしはトーナメントを勝ち抜いて、最後に待っていた『彼』との戦いに勝利して、聖杯(ムーンセル)と繋がって、それから――

 

 

『退がるのだ、奏者(マスター)!』

 鋭い声と共に唐突に実体化したセイバーが、わたしの思考を遮った。

 半瞬遅れて自分達に向けられる殺意に気付く。

 見ると士郎と士郎のセイバーも臨戦態勢で、険しい視線を前方の人影、――否――、『群れ』に向けていた。

「アレは――」

 そこにいたのは、黒い獣……だろうか、人間サイズの。

 野犬にしては大きく、発達した前足には鋭い凶器(ツメ)が光っている。

 恨みのこもった視線は生者を呪う骸の様だ。

 同じカタチをしたソレらは、いつの間にかわたし達を取り囲み、包囲を狭めてじりじりと迫ってきていた。

「サーヴァント……という感じではないな。

冬木にも敵性プログラム(エネミー)がいるのか?」

「『無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)』です。

近くにアヴェンジャーがいるのでしょうか?」

 サーヴァント達が一歩、わたし達の前に進み出た。

 

”――――ッッッ、ッッッ――――!”

 

 威嚇の声を上げていた獣の一体が、いきなり彼女達に飛びかかった。

 人間の反応速度を遥かに凌駕する野生の動きで、獣の凶器がセイバーの剥き出しの胸元を狙う。

 

「はっ!」

 

 裂帛の気合いと共に、セイバーの身体が弾けた。

 と思った瞬間、赤い剣に獣の胴が両断され、断末魔が寒空を木霊していた。




モブマスターの親友、散る。
そしてCCCで出番のなかったピエロさん登場です。
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