――時間を少し遡る。
冬木のサーヴァント達も、聖杯戦争が始まった事を感じ取っていた。
傍観する者もいれば、戦う気になった者もいる。
衛宮士郎とセイバーもまた、聖杯戦争に乗って戦いを始めた者がいないかを調べるべく、夜の巡回を再開していた。
町に目立った異常はなく、それが『始まった聖杯戦争』の異常だった。
聖杯戦争が始まっているのに、夜の町に異常がない事は有り得ない。
異常がないのは、自分達が異常を異常と認識できていないからだ。
多くの矛盾の中に、小さな真実が隠されてしまっていた。
「アヴェンジャーの時を思い出しますね」
白い息を吐きながら、セイバーは呟いた。
彼女が言ったのは、第五次聖杯戦争が終わった半年後の秋に冬木市で起こった、『繰り返される四日間』という異常である。
第三次の聖杯戦争の脚本で再現された、四日間だけの第五次聖杯戦争。
その中では、第五次で倒されたマスターやサーヴァントも再現され、役割を変えて四日間の出来事を繰り返していた。
「む。
それって、おかしくなってる事を、俺達がおかしいと思えなくなってるって事か?」
傍らを歩く士郎が問うた。
はっきりと言葉に出して確認する事で、おかしくなっている部分を見つける事ができるように。
「――ええ。
明らかに矛盾している事実であっても、私達はそれが当然であると認識してしまい、異常自体に気付けない。
……今回の聖杯戦争はその類だと思います」
言いながらセイバーは目を伏せた。
小さな矛盾は、すぐに目につく。
――それは例えば、彼女が未だ現界しており、衛宮士郎のサーヴァントのままである事だったり――
セイバーが第五次聖杯戦争の後も現界し続けているならば、彼女のマスターは
第五次聖杯戦争の後において、セイバーが冬木市に残る為には、それ以外の可能性がないからだ。
世界は矛盾を嫌う。
士郎が矛盾に気付いてしまえば修正され、セイバーがいない世界か、遠坂凛がセイバーのマスターである世界になるだろう。
『繰り返される四日間』でもセイバーは士郎のサーヴァントとして現界していたが、その矛盾を誰も口にしなかった。
二人が話している内に、士郎が普段から通う学舎・
校門から校庭を見渡し、怪しい物を見つけようと目をこらす。
「パッと見た感じ、特に異常はないな」
「そうですね。
残っている魔力の痕跡も、いつもこの学園に通っているシロウと凛と桜のものと、時たま学校に足を運ぶイリヤスフィールやアーチャーやライダーやキャスター、セラやリズ達のものだ。
この学園の敷地内に、サーヴァントはいない。
もし校舎内に私達の知らないサーヴァントがいるとしても、気配で感じ取れるハ、――ッ!」
セイバーは言いかけた言葉を途中で切り、目を見開いた。
どうした、と士郎が問いかけた瞬間、校舎が光って見えるほど強力な魔力が奔った。
「シロウ!
サーヴァントの気配です!」
「ああ、分かってる。
行くぞ、セイバー!」
校門を乗り越え、二人は一気に校庭を突っ切った。
目指す魔力の源は、穂群原の校舎の屋上にある。
「セイバー!
このまま――」
士郎は言いかけた言葉を切った。
校舎に辿り着いた瞬間、現れた時と同じく、唐突に魔力が消えたのだ。