fate/extra night   作:iekiron

6 / 49
対峙

 二人が屋上に着いた時には、すでに感知した魔力の持ち主たるサーヴァントの姿はなかった。

 ただ、かすかな魔力の残り香があるだけである。

「……すでにこの場にはいないようです」

 周囲をじっくりと見回して、セイバーが言った。

 屋上が無人である事を確認した後も、少しも警戒を緩めていない。

「柳洞寺のキャスターのように、空間転移のできるサーヴァントでなければ、そう遠くには行ってないと思います。

隠れてこちらの様子を窺っているのかもしれない。

私のそばから離れないで下さい、マスター」

「ああ、分かってる」

 士郎も短く答え、魔術回路のスイッチを入れた。 

 

 ――サーヴァントは他のサーヴァントの気配を感じ取る事ができるが、例外も存在する。 

 最も顕著な例は、暗殺者(アサシン)のサーヴァントのスキル『気配遮断』である。

 第五次聖杯戦争の中盤以降に参加した黒い暗殺者は、サーヴァントにも見破られずに、衛宮邸の結界を突破してみせた。

 サーヴァントの戦闘面での強さだけでは、聖杯戦争には勝ち残れない。 

 戦力の劣るサーヴァントは、正面から向かって来るより、敵マスターの暗殺を狙うからである。 

 最優のサーヴァントたるセイバーが最も警戒する事は、マスターを狙われる事だった。

 

「教室を一つ一つ見て回るぞ、セイバー」  

 士郎は校舎の中に入る事を選択した。

 屋上の入口に足を向け、扉に手をかけかけて――

「――!

待ってください、シロウ。

サーヴァントを捕捉しました!」

 

 ――足が止まる。

 振り返った瞳の先で、セイバーが地面を睨んでいた。 

 強い視線はコンクリートをつき抜け、下に居るであろう標的を捉えている。

「向こうもこちらに気付いているようです。

ここに向かって来ています」

 翠の瞳が主を見返る。

 その視線は、どうするのだ、と士郎に決断を迫っていた。

「……ここで待とう。

戦闘になるようなら、迎え撃つ」

 静かに言い終えると士郎は口を噤み、出てきた扉を凝視した。

 屋上は静かな凪に入り、やがて訪れる嵐を待つ。  

 

 ――そうして扉が開かれる。

 

「――えっ?」

「なッ?」

 同時に二人の『マスター』から驚きの声が上がる。 

「……ふむ。

こういう事もあるか」

 赤い服の『セイバー』が感心したように頷き、青い服の『セイバー』は油断なく来訪者を見つめている。

「セイバーが、もう一人?」

 呆然とした声で士郎が呟く。 

 

 瞬間、彼の脳裏に浮かんだのは、気高き理想を喪失して黒く染まってしまった――

 

「それは違います、シロウ。

どこの英霊かまでは分かりませんが、あれは私ではありません」

 青き従者の言葉で、士郎は我に返った。

 見ると赤いサーヴァントが独創的なデザインの剣を取り出し、すでに戦闘態勢に入っていた。

 一方で、マスターであろう学生服の少女は何か不思議な物を見るかのように、ぼんやりとセイバーを見つめていた。

「マスター、命令を。

あの敵は、この場で倒します」

 セイバーも迎撃態勢に入り、不可視の剣を構え、跳びかかるために脚に力を溜めている。

 張りつめた空気が穂群原の屋上に蔓延した。

「待てセイバー、まだ戦うと決まったわけじゃな――」

「セイバー、わたし達の敵を倒して!」

 慌てて制止する士郎の声をかき消して、学生服の少女(マスター)の声が響いた。

 士郎が何か言うより早く、従者達は行動に移っていた。

「見てるがよい!」

 赤い剣士が迫り来る。

「退がって下さい、マスター!」

 青き騎士王が迎え撃つ。

 

 赤と青のサーヴァントの視線が交錯し、互いの虚像を砕かんと剣を振り下ろした――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。