fate/extra night   作:iekiron

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家に帰る道

「――じゃあ、岸波は別の聖杯戦争のマスターだったのか?」

 並んで歩きながら、敵のマスター・衛宮士郎が尋ねて来た。

「そうだよ。

わたしとセイバーが参加した聖杯戦争は、冬木市の聖杯戦争じゃない。

遠い場所の、別の聖杯戦争」

 微妙にはぐらかして答える。

 さすがに、未来から来たとか月が戦場だったとか言いづらい。

 この時代の人間がムーンセルを知っている筈がないし、一般人が単独で月まで行くなどできなかったと思う。

「わたし達はその聖杯戦争で最後まで残って、聖杯の力でこっちに戻って来たんだ」

 自分で言って、また何か違和感を感じた。

 どうやら、まだ本調子には戻っていないらしい。

 

 結局、わたしは衛宮士郎の申し出を受ける事にした。 

 士郎達の本拠地には他にもマスターやサーヴァントが集まっているという話だが、わたし達を今倒す気なら、彼らだけで十分なはずだ。

 少なくとも、仲間の所に連れて行って袋叩きにしよう、という意図はない。 

 敵の情報もきっと集められるだろうし、敵に知られていると分かっている場所で一夜を過ごすほど、わたしの神経は太くない。

 安全に傷を癒せる場所は、素直にありがたかった。

 ……まぁそのせいで、士郎の家に行く事に反対していたセイバーがむくれて霊体化してしまい、さっきからわたしが話しかけてもロクに答えてくれなくなってしまっているが……。

「聖杯戦争ってそんなにあるのか。

聖杯が一つじゃないってのは聞いた事あるけど」

 士郎の口調に苦いものが交ざった。

 彼も聖杯を欲する魔術師の筈だが、何となく、士郎は聖杯を嫌悪しているのではないか、と思った。

「……聖杯は万能の願望機だから、色んな人が欲しがるじゃない。

願いを叶えられるのが一人なら、どこでも争いになるんじゃないかな」

 少なくとも、わたしの経験した聖杯戦争はそうだった。

 色んな願いを持った人達が集まり、一つの『万能の器』を求めて争った。

 

 ――共に闘った赤い弓兵も、何度か別の聖杯戦争の事を口にしていた。 

 彼は今でもどこか別の世界で、サーヴァントとして闘っているのだろうか。

 

「聖杯戦争という名前かは分かりませんが、聖杯を巡る争いは、様々な時代や場所で起こっています」

 士郎のサーヴァントが口を挟んだ。

 彼女のクラスもセイバーらしい。 

 容姿だけでなく、クラスまで同じである。 

 ……案外正体はセイバーのお母さんとか、因縁の深い相手ではあるまいか。

『それはないぞ、マスター』

 それまでだんまりを決め込んでいたセイバーが、わたしだけに聞こえる声で耳打ちしてきた。

『この青いヤツがどこの英霊かは知らぬが、そこまで深い因縁のある相手ならば、少なくともどちらかは気付く。

私はあやつに見覚えがないし、向こうもそんな感じであろう?』

 セイバーが一人称を変えている。

 彼女個人と関係のない英霊だと言う事を強調したいらしい。 

 ……この二人、あまり相性は良くなさそうだ。

 

「ところで士郎、わたしからも今のうちに聞きたい事があるんだけど」

 身の上話を切り上げて、今一番の問題に入った。

「ここのアリーナがどこにあるか教えてくれない?

できれば、早めに入りたいんだ」

 さっきの戦いで分かった事だが、セイバーは霊格が完全には戻っていない。 

 それどころか、全ての能力値が、ムーンセルでの聖杯戦争開始時と同じ位まで下がってしまっているのだ。

 士郎のセイバーは確かに強敵だが、決勝戦の相手だったセイバーのサーヴァントはもっと強かった。 

 さっきの戦いも、セイバーの霊格が完全だったならば、あそこまでボロ負けする事はなかった筈だ。

 早めにアリーナで力をつけて、セイバーの霊格を取り戻さなければならない。

「む?

アリーナって何だ?」

 と、士郎が変な事を聞き返してきた。 

 ……はて、この聖杯戦争では言い方が違うのか?

「マスターとサーヴァントが決戦まで訓練できる所だよ。

士郎だって、ぶっつけ本番で本戦に出てたわけじゃないでしょ?」

 何故か士郎が考え込むような顔をしていた。

 別に、特別な事は言っていないよな?

「……あー、道場とかなら家にあるぞ。

剣の訓練とかならできると思う」

 士郎がまた変な事を言ってきた。 

 ……道場で剣の訓練って、相手はどうするんだ。

 わたしがするのか?

「そういうのじゃなくて、迷宮(ダンジョン)敵性プログラム(エネミー)を倒したりとか、暗号鍵(トリガー)を揃えたり」

 また士郎が難しい顔をしている。

 何か、さっきから会話が微妙にかみ合ってなくないか?

「……あのさ。

何か聞きにくいんだけど」

 向こうもそう思ったのか、少し慎重に切り出してくる。

「ダンジョンとかトリガーって何さ?」

「何さって……。

集めるでしょ、暗号鍵(トリガー)

監督役に集めるように言われたでしょ?」

 マスターは、決戦に出るために相応しい力量を持つ事を証明しなければならない。 

 二つの暗号鍵(トリガー)を集める事は、決戦の前の試練(タスク)である。 

 これがないと、決戦場に入る事すらできなかった筈だ。

「いや、言われないぞ」

 ……だと言うのに、きっぱりと士郎は否定してきた。

「そんな……暗号鍵(トリガー)なくても、不戦敗にならなかったの?

決戦場の入り口あたりで、『期間内に暗号鍵(トリガー)を揃えられなかった者に、この先に行く資格はない』とか言われなかった?」

 あの、明らかにボスキャラとしか思えない神父に。

「いや、決戦場所とか監督役が決めるものじゃないだろ」

 

 ――あれ? 

 

『うむ。

やはり我らの知る聖杯戦争とはルールが違うようだな、奏者よ』

 ようやく少し機嫌を直したらしいセイバーが、わたしにだけ聞こえる声で耳打ちした。

「……えーっと、その、士郎?」

 怪訝な顔をしている士郎に、今更ながらルール説明を頼む。 

 ――初っ端からこれで大丈夫か、わたし。

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