衛宮士郎と岸波白野達が帰路につき、穂群原学園は再び静寂を取り戻した。
暗い校舎に人影はなく、日が登るまで穏やかな刻が流れる――
その筈だった。
「ひゃあぁ、危ない所でしたね~。
セイバーが近くにいなかったら、戦いになってる所でした」
無音の闇を陽気な声が破った。
無人のはずの教室の扉が開き、一人の少女が廊下に出て来る。
「召喚されていきなり、あんな強いのとニアミスするとは!
あの青いの、マスター弱っちそーだったクセに、セイバー倒すとかチートすぎです!」
少女は頭を振りながら喋り続けている。
ピンクの髪についた大きな青いリボンが揺れ、狐を連想させる耳がピコピコ動いた。
「あの青いのとガチンコしようと思ったら、マスター抜きではさすがに厳しいですね。
……まぁ、白野さんって言うマスターがいたクセにあっさりやられた赤いのは論外ですけど」
狐耳の少女はこの場にいないライバルをこきおろしながら、むむむっと先の戦いに思いを巡らせる。
■
――衛宮士郎と彼の従者が穂群原学園に着いて最初に感じた魔力は、彼女のものである。
召喚されて校舎の屋上に降り立った瞬間、彼女は強敵の接近に気付いた。
『やばッ、デンジャー警報感知!
耳にピンときました!』
刹那の思考で不利を悟り、身を隠す事を選択する。
屋上から走り出て、自身の魔力をジャミングし、空いている一室に滑り込んだ。
『那須野の決戦を思い出すこの空気……要注意です!』
敵は階段を駆け上がり、彼女が召喚された屋上へと向かっていた。
魔力は強大、召喚直後の肩慣らしの相手にしては荷が勝ちすぎる。
対決するなら万全な状態で、戦力を見定めてからにしたい。
『何とかこのまま別れたい所ですが、一度気付かれたからには難しいかな』
屋上に向かった敵は、すぐにでもここも探しに来るだろう。
アサシンのサーヴァントでもない限り、見つからずにやり過ごすのは至難の業である。
『やっぱ一戦、交えなきゃならないですかね』
自分一人ならばそれも良い。
この身は神の一側面。
八万の軍勢が来ようと恐れはしない。
だが、今は――
「あっ」
唐突に気が付いた。
屋上に向かった敵の印象が強すぎて今まで見落としていたが、下の階にもう一体、サーヴァントの気配がある。
「……前門の虎、後門の狼というワケですか」
下にいるサーヴァントは、階段を上ってこちらに向かって来ている。
屋上にいるサーヴァントの仲間かもしれない。
『来るなら来やがれ、です』
腹を決めた。
屋上にいるサーヴァントより、下から来るサーヴァントの方がやりやすいだろう。
己の武器たる鏡を取り出す。
気配はすでに、すぐそこまでやって来ている。
教室の扉が開いた瞬間、キツイのを一発くれてやろうと身構えて――
「って、アレ?」
――気配は彼女達が隠れている教室の前を通り過ぎ、屋上へと向かって行った。
■
「で、今に至ると」
少女はごちる。
結果として少女は、二体のサーヴァントの戦力を測る事ができた。
「結局、セイバーも青いのも、私達に気付かず行っちゃったんですよね。
……まぁ、助かりましたけど」
赤いセイバーの弱体化を見て初めて、少女は自身の能力の低下に気付いた。
あのまま戦っていれば、おそらく彼女もセイバーの二の舞になっていただろう。
「乙女がか弱いのは、それはそれでプラスです。
こう、『守ってあげたい!』って気分になれる、と言いますか……」
言いながら再び教室に入る。
教室の中央にはいくつかの机がくっついて並んでおり、その上で誰かが横になっていた。
「もちろん、決戦では他のサーヴァントになんか負けませんよ。
愛の力を思い知らせてあげちゃいます」
少女は机に近づいて行く。
横になっている少年の目は固く閉じられ、一向に目覚める気配がない。
「セイバーにもあの青いのにも、私達なら負けません。
今日の所は退いてあげましたが、戦う時が来たら、痛い目に会わせてやりましょう!」
少女の声のトーンが変わる。
陽気に毒を交ぜながら話していた声に、優しさの色が混ざった。
「……だから、早く起きてくださいね、
また、ふたり一緒にお出掛けしましょう」
慈しむように、眠っている少年に声をかけた。
穂群原の夜明けは、まだ遠い――
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【クラス】キャスター
【マスター】
【性別】女性
【真名】
【筋力】E 【耐久】E 【敏捷】E 【魔力】E 【幸運】E 【宝具】B
【スキル】陣地作成:C 呪術:EX 変化:A
【宝具】