「あなたたちには、サーヴァントを新たに召喚してもらいます」
所長は俺たちに説明を始めてくれる。
「サーヴァントとは、簡単に言うと使い魔のことなの。でも、ただの使い魔とは違う点があるの」
「違う点、ですか?」
「ええ。それは、英霊の力を借りることよ。って、そもそも、英霊って知ってるかしら?」
「いいえ、なんとなくしか」
「私もです」
「英霊というのはいわば英雄のことで、日本の人で分かりやすいく言うと宮本武蔵みたいに、有名というか…なにかをなした人たちのことよ」
「なるほど、分かりやすいです」
ようは伝記やなんらかの記録に残っている有名な人ってところか。
「でも、なんの英雄かは分からない時もあるわ。その場合はあまり無理に聞かず、信頼関係を築いてから聞いた方がいいわ」
「そうなんですか?」
「サーヴァントだって感情を持ってるの。使い魔だからと言って感情もなにもないロボットとは違うわ」
それもそうだ。いざという時は気を付けよう。
「そうそう、最後に一つ。そのサーヴァントを縛ることが出来るのがその手の甲にある令呪よ」
俺たちは自分の手の甲にある模様を見る。
これが令呪…ん?
「縛るって、どうしてですか?」
俺は所長に尋ねる。
「それはね、万が一サーヴァントが裏切って自分を殺さないようにする為よ」
「殺さないようにって、そんなことがあるんですか?」
「ええ。この英霊召喚システムの厄介な点は、英霊だけでなく、反英霊という逆の存在も召喚されることがあるの」
「はん英霊?」
「英霊の反対と書いて反英霊。文字通り英霊とは反対の存在で…メドゥーサはさすがに知ってるかしら?知ってること前提で話すけど、メドゥーサのような悪者みたいな奴が召喚されたら、自由を得るために召喚主を殺しに来ることがあるの」
「それは恐ろしいですね」
「そうならないためにその令呪があるの。令呪は基本的に三画あって、三回の絶対命令権だと思っていいわ。他にも使い方はあるけど、それはまたでいいわ」
「ちなみに三回とも使ったらどうなるんですか?」
「縛りがなくなってサーヴァントが自由になるわ。だから使う時はよく考えて使ってね」
なんか、色々と不安になってきた…大丈夫かな。
「ちなみに、うちの令呪はちょっと特殊なモノだから、普通と違ってだいたい24時間で一画回復するわ」
あ、それなら安心かな?
「じゃあ、私から召喚してもいい?」
立香が手を上げて言う。
「二人とも、サーヴァントの召喚にはこれを使ってちょうだい」
所長から金色のお札のような物を渡された。
「所長、これはなんですか?」
「それは呼符と言って、必要な呪文とかその辺の面倒なのを全部肩代わりしてくれるアイテムよ。それを召喚サークルに投げ入れれば召喚が始まるわ」
「へぇー。じゃ、早速…えいっ」
立香はもらった呼符をさっそく召喚サークルへと投げ入れた。するとサークルから三本の光るリングのようなものが出現し中心へと収束、そして目を開けられないような強い光が出る。
少しして目を開くとそこには、青をベースにした和服のようなものを着、動物の耳と尻尾を携えた女の人が立っていた。
「ご用とあらば即参上!貴方の頼れる巫女狐、キャスター降臨っ!です!」
なぜかこちらを向いて自己紹介する巫女狐。
「あの…一ついいですか?」
「はいはい、何でしょう、マスター?」
「マスターはこっちなんだけど」
「ど、どうも…」
俺は立香の方を指さし、立香も気まずそうに挨拶をする。
少しの間、誰も動こうとせず、しゃべりもしなかったが、巫女狐が急に頭を抱えだした。
「タイミング間違えたぁ!」
セリフから察するに俺のサーヴァントになるつもりだったのだろうか。
「うう…この機会を生かして結婚まで持ち込むつもりでしたのに…」
ありがとう立香、先に召喚してくれて。このままでは色々と危なかった。
「そこのあなた、今からでも私のマスターになっていただけませ」
「令呪を以って命ずる。星河を口説こうとしないで」
「ああ、そんな殺生な!」
巫女狐に言い寄られるも、立香のおかげで助かった。
「ところで、キャスターってなんなんですか?」
「サーヴァントにはクラスと呼ばれるものが七つあるの。剣を使うセイバー、弓などの遠距離攻撃を得意とするアーチャー、槍を主に使うランサー、暗殺を生業にするアサシン、魔術に特化したキャスター、騎乗スキルが抜き出ているライダー、そして理性を代償にステータスを上げているバーサーカー。これらのことよ」
なるほど。じゃあ、巫女が行う神楽や祈祷が西洋で言う魔術に含まれるのだろうか。
「ところでキャスター、あなたの名前はなんて言うの?」
「あー…それは…今はちょっと置いておくということで…」
立香の質問に気まずそうに答える狐巫女、もといキャスター。
「まぁ、名前を知らない方がいい点もあるから、いいんじゃないかしら」
「いい点ですか?」
「そう。サーヴァントは言わば過去の存在をそのまま引っ張ってきてるから、弱点とかもそのままなのよ。だから普通は相手に何の英霊か悟られないようにするの」
なんか、色々と面倒なんだな。
「さ、次はあなたの番よ」
「あ、はい。…えい」
先程の立香のように呼符を投げる。そして同じように三本のリングが展開、収束、そして強い光。
眼を開けるとそこにはフードを深くかぶり、鎧を着た人が立っていた。
「僕はセイバー。君を守り、世界を守るサーヴァントだ」
どうやら声から察するに、この人は男性のようだ。
「へぇ、男性の英霊って珍しいわね」
言われれば確かにそうだ。男女の常識が入れ替わったこの世界では、歴史の教科書をめくれば大概の偉人は女性だったからな。少しは男性もいるがむしろ少ない。
「君がマスターだね。よろしく」
「あ、ああ。よろしく」
セイバーが俺に右手を差し出してきた。俺は反英霊じゃないかとビクビクしながらも、その手を握り返す。
よかった。別に握りつぶそうとかそんなんじゃないらしい。
「それじゃ、サーヴァントを召喚したことだし、これからの方針を考えるわよ」
所長にそう言われ、意識を切り替える。
初めてサーヴァントを召喚したことで、少し気が緩んでいたようだ。
いけない、いけない。まだこの地獄の風景から抜け出せてすらいないのだから。
俺たちは改めて気を引き締め、これからの方針を考えていく。