東方(咲夜中心)短編集   作:鬼灯@東方愛!

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初出:2014/02/05
ラブコメ。


咲夜「ティアドロップブーケの作成を美鈴に依頼しております」

 蝙蝠一匹分の肉片さえ残れば復活する私の、脳や心臓といった部品《パーツ》に、価値はあるのか。

 ぼんやりと、考える。

 最後に鼓動の高鳴りを感じたのは、いつのことだったか。

 ただただ、退屈だった。

 ――だから。

 

「れ、レミリアお嬢様っ?」

 

 頬を染める妖精メイドの腰に回した腕を、強く引き寄せた。

 

 ――昨日の女より、肉付きが良いな。

 

 そんなことを思考しながら、牙を覗かせて微笑みかける。

 満更でもなさそうに俯く様子は、それなりに愛らしいと感じられたので。

 暇潰しには、ちょうど良いと思いつつ、太腿に手を滑らせた。

 

 

 

 

「――……いつか刺されるわよ、レミィ」

 

 眉を顰めて非難の目を向けてきた親友にも、鼻で嗤って返す。

 

「刺されたくらいじゃ、死にもしないよ」

 

 親友は、疲れたように溜息を吐いた。

 

 

 

 

 ――薄く積もった雪に、月光が反射して、足元を仄かに輝かせる夜。

 その輝きに惹かれ、下を向いて飛んでいたから、みつけられたのだと思う。

 凍えて縮こまる、子犬のような銀髪の少女と、視線が交わった。

 

「捨てられたの?」

 

 問い掛けに、返答はなく。

 牙の代わりに向けられた銀のナイフの切っ先は、震えていた。

 

「……可愛いなあ」

 

 その様子に、自然と笑みがこぼれたので。

 これも、ひとつの運命か、と。

 向けられたナイフの切っ先を、自ら喉に食い込ませつつ、囁いた。

 

「おいで。愛人候補にしてやろう」

 

 十年も待てば、かなりの上玉になりそうだ。

 

 

 

 

 ――……そう、思っていたのだけど。

 

「時間と場所を、考えていただけませんか、お嬢様」

 

 十年前の私は、想定していなかったのだ。

 

「……ごめんなさい、咲夜」

 

 あの銀髪の少女が、ただの珠玉にとどまらず、銀の弾丸にまで成長を遂げる、などとは。

 

「きゃあっ!」

 

 腕の中で甲高い悲鳴を上げる、半裸の妖精メイド。

 空き部屋にて。

 適当に連れ込んだ彼女と、遊ぼうとしていたところ。

 はたきを手に持った咲夜が入ってきて、咎めるような視線と共に先程の台詞を放ってきた。

 場所を変えて仕切り直してもいいけれど、なんだかヤル気が萎えてしまったので。

 目の前に曝け出されたままの乳房をひとつ揉んでから、自室へと戻ることにして。

 不貞寝でもしようと考えつつ、溜息を吐き出した。

 

 

 

 

 ――……夢を視た。過去の夢だ。

 

「お嬢様」

 

 幼さの残る声を、微笑ましく感じながら、折れそうな喉に指を這わせた。

 

「なあに?」

 

 こそばゆさからか、小さく体を震わせながらも、されるがままのその姿は、非常に愛らしくて。

 すぐにでも『食べて』しまいたくなったほどだ。

 ――しかし。

 

「前に仰せになった、愛人とは、どういったものでしょうか?」

 

 私は、その問い掛けに対して。

 深く考えることもせず、答えを返した。

 

「そうね、愛人とは、一時の愉悦を与えてくれる存在かしら」

 

 その返答を聞いて。

 数瞬、黙り込んだ咲夜は。

 

「そうですか」

 

 ハッキリとした口調で、断言した。

 

「ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです」

 

 

 

 

 ――……目を覚ます。

 寝床から身を起こしながら、呟いた。

 

「……可愛くない」

 

 

 

 

 ふらりと館内を散策していると。

 窓越しに、咲夜の姿をみつけた。

 

「……」

 

 その隣には。

 古参の従者である、門番の姿があって。

 花壇の花を見ながら、何事かを語り合っている二人は、とても親しそうだった。

 私は、咲夜から、あんなに朗らかな笑顔を向けられたことなんて――……。

 

「……やっぱり、可愛くない」

 

 そう溢した後。

 小さな痛みを感じたので、己の手に視線をやると。

 

「……」

 

 知らない間に、強く握りしめていたようで。

 爪が食い込み、血が滲んでいた。

 

 

 

 

「お嬢様、何回も申し上げておりますが、慎みを持った行動を――……」

 

 廊下の片隅で、妖精メイドの尻を撫でていたら、いつも通り咲夜から咎められた。

 ――それは、本当に、いつも通りのことだったのに。

 

「うるさい」

 

 妙に、苛立ちが込み上げてきて。

 

「私のやることに、余計な口を出すな」

 

 気付くと、強い口調でそう返していた。

 驚いたのか、目を見開いている咲夜に。

 

「ホント、おまえは」

 

 そのまま、負の感情をぶちまける。

 

「可愛くないよ」

 

 ――すると。

 

「……っ」

 

 咲夜の、大きな瞳から。

 輝く雫が、零れ落ちた。

 

「えっ?」

 

 予想外の反応に、間抜けな声を漏らす。

 

「咲夜……?」

 

 名前を呼んでも、返答はなく。

 俯いてしまった咲夜は、決して顔を上げようとしなかった。

 

 

 

 

 ――……結局。

 妖精メイドと咲夜を放置して、自室へと舞い戻った私は。

 年甲斐のない行動をとった自分自身への苛立ちと、理解出来ない咲夜の反応に対する困惑を抱えたまま。

 いつも通り、不貞寝を決め込んだのだった。

 

 

 

 

 ――……空腹を感じ、覚醒する。

 

「……はあ」

 

 大きな溜息を吐き出しつつ、体を起こして。

 

「うわあっ!?」

 

 寝台の隣で、正座して三つ指をついている咲夜に気付き、悲鳴を上げた。

 

「な、なにをしてるのよ、おまえはっ!」

 

 動揺しながらも問いかけると。

 咲夜は、顔を上げないまま、問い返してきた。

 

「……楽しいですか」

「はあっ?」

「不特定多数の女に手を出すのは、そんなに楽しいかと、お聞きしているのです」

 

 ――……わけが、わからない。

 しかし、その声があまりにも真剣な様子だったので。

 数瞬悩んだ後、素直に返答した。

 

「……暇は潰せるよ。それなりに、楽しいと感じる」

 

 五百年、生きてきた。

 物事は、日々新鮮さを失っていく。

 ただただ、退屈だったのだ。

 だから、何か気を紛らわせる物はないかと、周りを見回して。

 視界を飛び回る可憐な乙女達に、目を留めることになった。

 

「その程度、ですか」

 

 返答を聞いた咲夜が、吐き捨てるようにそう溢して。

 その上から、言葉を重ねていく。

 

「暇潰し――……やはり、貴女にとっては、一時の愉悦でしかないのですね」

 

 一方的な台詞に。

 再び、苛立ちが込み上げてきた。

 

「さっきから、何が言いたいんだ。食い殺されたいのか!」

 

 軽く殺気を込めながら、声を荒げた私にも、構わずに。

 

「私は、そんなのいやです」

 

 咲夜は、自分自身の心情を、吐露し続けた。

 

「貴女にとって、たった一時の娯楽で終わる……そんな女には、なりたくありません。そう言ったはずです」

 

「……え?」

 

 ――……数日前にも夢に視た、過去の記憶が、よみがえる。

 

『愛人候補にしてやろう』

『愛人とは、どういったものでしょうか?』

『一時の愉悦を与えてくれる存在かしら』

『ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです』

 

 ――……ああ。

 

「私は、貴女より先に、逝くけれど」

 

 まさか、そういう意味、だったの?

 

「貴女にとっての、一生の存在でいたいのです」

 

 ――……そこまで語り、咲夜はやっと、顔を上げた。

 潤みきった瞳から溢れる涙が、頬を伝う。

 もしかして、私が眠っている間も、泣き続けていたのだろうか。

 顔が、鼻まで真っ赤だ。

 

「だから!」

 

 一際大きな声を発した後。

 

 

「貴女の――……お嫁さんにしてください」

 

 

 とても小さな声で、そう言った。

 語尾も、掠れていた。

 

「……可愛い」

 

 強く、大きく。

 鼓動が高鳴るのを、感じた。

 

 

 

 

「では、これにサインを」

「婚姻届け!?」

 

 

 




 遊び人なお嬢様を書こうとしたらこんなことになった。
 きっと、さっきゅんが可愛すぎるせいです。

 ご読了、ありがとうございました。
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