魔法薬を好きなように   作:烏鷺烏鷺

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第10話 新たなる日常

翌朝、食堂の前でモンモランシーをまっていたが、普段の「おはよう」の挨拶もなく、通りすぎていた。それでも、こちらの方に視線はむけたので、まるっきりの無視というわけでもなさそうだ。

食堂の席が隣なのはいつもと同じだが、モンモランシーと俺が直接話す機会は、教室に入ってもしばらくは無かった。教室では、モンモランシーの周辺に集まる女子生徒から話がふられたとき以外には、声をかけられるということはなかったが、そこまで、普段から積極的に話かけられてもいないので、微妙だなーって感じだなぁ。結局授業が終わるまでは昼食も含めて、普段より会話が少ない程度というところだったが、いつものように授業後に行っているモンモランシーの部屋に入ったところで、

 

「今からしばらくは、食事の時と授業の時以外は、そばにいなくていいわよ」

 

多分、自分の感情と体面のバランスを考えて出した決断なのだろう。

 

「……そうですか。それならば、夕食前は昨日のように迎えにくればよろしいですか?」

 

「それでいいわよ。それと、必要なら、魔法薬のレシピは貸してあげるから、必要な分だけ持って行って、返すのは今日でなくても良いから、夕食の迎えの時にでもしてね」

 

「はい」

 

そうして、俺はモンモランシーがレシピとしてまとめていたノートを3冊ばかり借りて、部屋に戻ることにした。

 

夕食後は、いつものように食堂でわかれたが、昨晩の予感はあたったって感じだな。二股かけられていたのに、身近にいるのが浮気男って、俺が使い魔じゃなかったら、とっととそばからたたきだしていただろう。こんなのが卒業まで続くのも、なんだかなぁ。

 

 

 

翌日は、授業の合間の休み時間に男子生徒へ声をかける。

 

「やあ、マリコルヌ」

 

「おお、使い魔のジャックじゃないか」

 

使い魔といわれると俺は、

 

「あいかわらず、まん丸だな」

 

と答えてやっている。そうすると

 

「それをやめてくれ! ジャック」

 

「そうだよな。そっちが余計なことをいわなきゃ俺も言わないって、何回目だ?」

 

「さあ?」

 

まあ、だいたいは、モンモランシーがトイレ休憩とかのときだと、マリコルヌに話かけることが多い。今回もまずはマリコルヌに声をかけるが、皆も声をかけやすいのか交友関係は広いように見える。ただし男ばかりだが。

そんな時にポールが話かけてきた。

 

「よう、マリコルヌ。ジャックも一緒か。モンモランシーも教室にいるのに、二人で話しているとは珍しいな」

 

「ポールか。モンモランシーも、使い魔のお披露目は飽きたらしい。とはいっても、俺も暇だから皆の授業に参加してるんさ」

 

「けど、実習にでれないだろう?」

 

「ああ。それは残念だけど、命の心配をしない魔法を見るのも楽しくてね」

 

「モンモランシーの使い魔になる前は、魔法衛士隊の騎士見習いだったんだっけ?」

 

「まあね」

 

「ここの実習が命の心配しなくてすむほど、楽だとでもいうのか、君は」

 

俺は、少しばかりまわりをみまわしてから、声をひそめて

 

「いや、飛んでいれば落下する危険はあったりするけれど、お互いに魔法をむけあったり、軍杖で戦いの訓練みたいなのはしないだろ?」

 

「たしかにな」

 

肩をすくめるポールだが、余計なことにマリコルヌが、

 

「けど、ルイズの魔法はいつも失敗してばかりで、危険だぜ!」

 

ルイズが教室にいたのを見たから、その話題はさけたのだがなぁ。マリコルヌも自信が持てるのはルイズに対してだけなのか、よくつっかかるみたいだ。俺とポールはその場から離れて、ルイズとマリコルヌの口論、もとい口げんかを避けるが

 

「なぁ、ポール。マリコルヌも、よくルイズにつっかかるような発言をするよな」

 

「性分なんだろう」

 

「そんなもんかねぇ」

 

「自分から『風上』なんて言っているが、どちらかというと他人の『風下』にいるようなもんだからな」

 

なるほどね。ほとんどの相手に風上へたてないから、風上にたてそうなルイズへちょっかいをかけているわけだ。

 

「って、そろそろ次の授業の時間だよな」

 

「ああ」

 

とりあえずは、モンモランシーの隣の席へと移動していくが、モンモランシーのそばにいる時間を減らして、男子生徒との会話も増えている。それまではモンモランシーのまわりに集まる女子生徒との話す時間ばかりが、多かったからな。

 

昼食などもモンモランシーとは会話も互いに主体的なものはなく、自由という名のつく時間は、モンモランシーから離れて一日をすごした。

 

 

 

そして翌日も似たような日をおくり、夕食時間帯よりしばらくたってから、俺の部屋には二人のメイドがいた。クララとフラヴィだが、今晩は、先週渡した黒いスカート生地を自分で縫ったのか、スカートとしてはいてきている。

 

テーブルの席には俺も含めて3人で座るわけだが、

 

「クララはジュースで良いだろうけれど、フラヴィには先週二日酔いとさせてしまったようで、すまなかった」

 

「いえ、大丈夫だと思って飲んだ、私がちょっとばかり飲みすぎてしまったので」

 

「っというか、フラヴィって、ワインが飲める量をわかっていたんだろ?」

 

「そのつもりだったんですが……」

 

俺はテーブルに用意してある瓶から1本を選んで、

 

「このワインが、ここで働いている平民がだいたい飲んでいる代表的なワインだと聞いてもってきてもらっているのだけど、これなら何本まで二日酔いもせずに飲めるのかな?」

 

「えーと、2本と半分くらいです」

 

「そうか。先週頼んだ貴族用のワインってのは1本で、だいたいそのワインの3~4本ぐらい飲んだぐらい酔いやすいって知らなかったのか?」

 

「そうだったんですか……って、すみません。知りませんでした」

 

「普段、かたづけとかで残った貴族用ワインを飲む機会があるかもしれないが、味見する程度だろうからな」

 

「えーと、私たちメイドがそういうことをするのを、知っているのですか?」

 

「まあねぇ。家にいるメイドたちはお客様が帰れば、厨房で味見をしているのは見かけたからねぇ」

 

「貴族様って、そんなところまで見るのですか?」

 

「いや、そういうのは少ないほうじゃないかな。だいたい親が自領の城にもどってきた時に、自領にいる貴族なら下級貴族とか、場合によっては町長や村長あたりもあつめているくらいだから、街中でおこなっている貴族の晩餐会やパーティよりは、砕けていると思うね。それに教育係には厨房にはいるんじゃないといわれていたけれど、よくやぶっていたからさぁ」

 

「くすくす。そんな風な一面もあるんですね」

 

「貴族の中でも爵位や、宮廷や軍人の階級などにもよるし、家の中にお客様を招いた時と普段の時とでは、それぞれ雰囲気が異なるみたいだからねぇ……それは良いとして、二日酔いしないのが平民用ワイン2本半っていうのなら、ちょっとブレンドしてみようか」

 

「ブレンド?」

 

「ああ。ふつうは、ワインを瓶詰する前にブレンドして、店頭にだすのだけど、今、即席でつくってみせるから」

 

「そういえば、シエスタが言ってたような気がするわねぇ」

 

「シエスタって?」

 

「メイドなんですけど、出身がワインで有名なタルブ村なんだそうです」

 

「タルブ産の高級ワインはたしかにいいねぇ。俺の小遣いじゃ、なかなかしょっちゅうは飲めないぐらいだ……って話はずれたけど、今、ブレンドしてみせるから」

 

そう言ってから、ガラス張りである研究部屋にある目盛をつけたビーカーを3つばかり棚からとりだしてきて、テーブルの上に並んでいる平民用ワインと貴族用ワインと青りんごジュースに、トリスタニアで買ってきた蒸留酒を、量を計って平民用ワインの瓶に戻した。そこで、俺が軍杖を出すと、メイドたちがギョッとした感じをしていたので、

 

「ああ、ブレンドするのは遅くても瓶詰めする前が普通なんだ。そこから味をなじませるんだけど、料理をつくるときもそういうことがあるだろう? だから魔法で同じことをこれからするんだよ」

 

「へぇ。たしかに料理だとありますね」

 

「蒸留酒をベースにするなら、魔法をかけなくても良い組み合わせもあるけれど、酔いやすいから飲める量は少なすぎるからね。だから魔法でも水系統の魔法は、料理に通じるものがあるんだよ」

 

「だから、勉強のために厨房に入っていってたのですか?」

 

「そうだね。ちょっと変則的だけど」

 

単純に暇だったから、邪魔にならない範囲で見ていたかっただけなんだけどねぇ。

そこからは『熟成』の魔法をかけるが、多分1週間ほど寝かせたのと同じ程度だろう。多少味にまろやかさがでる程度だが、そのまま飲むよりはよくなっているのは経験済みだ。自然におくよりも発酵とかがすすまないから、魔法薬の一種とでもいえるかな。

 

フラヴィ用にブレンドしたワインをグラスにつぐと、彼女らはあわてたように

 

「貴族様についでいただくなんて……あとは私たちがおこないます」

 

「じゃあ、それは頼むよ。あと、味見をしてみて、感想をきかせてほしいなぁ」

 

あとは3人で簡単に乾杯をしてからフラヴィからの感想はというと

 

「先週飲んだ貴族様用のワインと変わらないぐらい美味しいです」

 

「それは、よかった」

 

変わらないぐらい美味しいというのは、お世辞だろうが、少し甘めにブレンドしてあるから彼女の味覚にはあっているのかもしれないかもな。

 

そのあとは、二人に簡単な問診したところ、やはり便秘薬を飲み始めてから10日過ぎから、便もほぼ2日に1回はだせるまでは改善できているようだ。一応、これでも効果は確かなのだが、フラヴィとクララの順番で触診による水の感覚を確認していく。2人とも2度目となったからなのか、触診している最中の緊張感は先週より減っているが、まだ、警戒をしているってところだろう。

 

それで、カルテ代わりにしているノートをみて、触診した結果を伝えることにする。

 

「順番からいうと、まずはフラヴィからだけど、便秘気味から通常の範囲との境ぐらい。気にかかるのは、おなかの周辺からその下ぐらいしかわからないから、確実とはいえないけれど、身体の水分が先週より少ない感じだね。先週から、今日までで少し働きすぎということは無いかな?」

 

「いえ、普段とかわらないはずですけど」

 

「今日と先週の日ではどうだろうか?」

 

「今日は先週と同じ内容の仕事ですから、かわりはないはずです」

 

「そうすると、あとはワインを飲む量っていうのはどうかな?」

 

「……えーと、先週の話を聞いて、ワインを少し多く飲んだほうが便秘にいいのかなと。ちょっと増やしています」

 

「うーん。説明をもっとくわしくしないといけなかったかな。酔いやすいっていうのは、便秘薬と一緒に飲むと、下剤の効果に近づくんだ。けれど、今回の便秘薬の場合には、水分も飲んだワインの量より多く身体の外にだしてしまうから、増やしたワインの量より多く水分を含んだ物をとる必要があるんだ。だからワインは以前の量にもどすことをお勧めするけど、どうかな?」

 

「ワインの量をもとにもどします」

 

「それが良いと思うよ。それじゃクララだけど、今日は先週と比べてみると、完全に便秘気味を脱している。だから、便秘薬はこのままで来週また身体の状態をみて、改善しているのなら、そのままでいくし、安定していたら、さらにもう1回みて、便秘薬を減らせる方向にしてみたいのだけど」

 

「えっ? 便秘薬って減らせるんですか?」

 

「いつまでも、俺も魔法学院にいるわけじゃないし、たとえ、俺がここに残って教師か専属の医師になったとしても、君たちもいつかはここから去るだろう? だから、魔法薬にたよらなくても、便秘にならないことが目標だよ」

 

「そんなこと、できるんですか?」

 

「だって、メイドの中でも全員が便秘ってわけでもないだろう?」

 

「言われてみれば」

 

「体質もあるけれど、便秘薬にたよらずに、便秘になりにくくする方法はあるから、まずは便秘からの解消に重点をおこうと思っているんだけど」

 

「はい」

 

「あと、今回の診察で聞いておきたいこととかあるかな?」

 

「いえ、特に」

 

「そうしたら、先週の診断の後の話の続きになるけれど」

 

そう話は、続いて先週話すことのできなかった話ことはできた。まあ、翼竜人と共存しているところで驚いていたり、彼らにも魔法薬を渡すこともあるというところでは

 

「彼らに、魔法薬が必要になるんですか?」

 

「ああ。元々、身体の治癒力が高いのと、先住の魔法がつかえるから、薬草を補助に使うことはあっても、薬草を複数あわせたり、たとえ知っていても、それらをさらに先住の魔法でどうにかして使おうとはしないんだ。だから、医師が見にいくこともあるよ。それで、ついていってその診察の様子を観させてもらったこともあるよ」

 

逆に二人のメイドの出身地で、生活の習慣が細かいところでは違ったりとか、けっこう教えてもらえるところは楽しめたが、楽しめる時間は長くはないものだ。

 

帰りには、便秘薬を渡すのと、念のためとしてフラヴィには二日酔い止めの魔法薬も渡しておいた。使う必要がなかったら、戻してくれるようにということで。

 

週末にあうティファンヌとはどうするか、まだ自分の中では解決していなくて、悩みどころだ。

 

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