東方殺意書   作:sru307

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意見をいただいて今回から台本書きをやめてみました。
ミスなどがあればまた感想欄にお願いします。

霊夢が敗北した後のお話。
事態は最悪へと一直線に進んでいきます。



第9話「信じたくない事態」

第9話「信じたくない事態」

 

 

 

 時を少し戻して、妖怪の山の麓―――

 

「……厄い、厄いわ……」

 

 厄神、鍵山雛がそう言う。雛は自身の能力『厄をため込む程度の能力』で厄を感じ取り、妖怪の山の危機をいち早く察して麓まで降りてきたのだ。案の定、大量の天狗の負傷者の集団を見つけ、椛と合流したのである。

 

 その後、彼女は天狗の負傷者が集まる治療室の窓から、ずっと妖怪の山の頂上を見ながらずっとこの言葉を言い続けているのだ。まるで故障を起こしたロボットのように…

 

 その様子には治療を受けていた天狗たちも気にかけているようで、中にはこんなことを言う天狗もいた。

 

「ねえ、大丈夫なの? あの人」

 

「厄神と言っていたから厄を感じ取っているのかもしれないけど…さすがに何もせず、あのままでいるのは異常よ」

 

「十中八九私たちを襲ったあの人間だろう。あの人間から出ているオーラが、厄だと感じ取られてもおかしくはあるまい」

 

 雛があれまでの状態になる原因は、間違いなく話をする天狗たちに襲いかかった殺意リュウ以外の何者でもない、と天狗たちは推測していた。

 

 その時、外の天狗たちを救助しに行っていた椛が治療室へと入ってきた。その背にカッパの妖怪、河城にとりを背負ったまま…

 

 椛は腰を下ろしてにとりを床に仰向けに寝かせた。見るとにとりの頬が内出血を起こしている。

 

「にとりさん、ここでなら大丈夫です。ゆっくり休んでいてください」

 

 椛がそうにとりに言うが、にとりは答えない。気を失っているようだ。

 

(あの姉妹も無事でしたし、最悪の事態は回避できましたか…)

 

 椛がそう思っていると、外の方で何かが落ちてくるドスンという音がした。その音に一番早く反応したのは先ほどまでぶつぶつと言い続けていた雛であった。

 

 雛は走って治療室から出て行った。椛も後に続く。

 

 

 

 外に出てみると、何者かが倒れているのがすぐ目に入った。その姿に見覚えがあるのは椛だった。

 

「!! 文じゃないですか!? その怪我は…!」

 

 椛が驚いた声を出す。雛の顔も青ざめる。

 

「……あ……う……」

 文が打ち付けた体を揺すりながら、わずかに声を漏らす。

 

「! 文、無理に動かそうとしないでください、その血は…」

 

 文は口から血を吐いていた。おそらく歯が折れて血が吹き出たのだろう。最も、椛と雛が頂上で何があったなんて知る由もないが。

 

 文の様子に反応したのは雛だった。

 

「! この厄、頂上から感じ取れる厄と一緒だわ!」

 

 椛は雛の言葉からすぐに分かった。殺意リュウだ、と。

 

「…とにかく急いで運びましょう、このまま寝かせておくのは危険ですから」

 

 椛は倒れている文をにとりの時と同じように背負おうとした。すると文が、わずかに声を漏らした。

 

「…霊夢…さん…」

 椛はその言葉から、文は先ほどまで霊夢とともに戦っていたのだと分かった。分かったところで椛、雛ができることなぞない。この2人にできることは、霊夢の無事を祈るだけだ。

 椛は文に声をかけた。

 

「霊夢さんを信じましょう。霊夢さんならきっと、この異変を解決してくれるはずです」

 

 文から返事はない。ただ、文の表情から椛の言葉を信じているのは読み取ることができた。自分ではどうしようもなかった殺意リュウを、止めてくれると信じて。

 

 だがその想いが、あっという間に散ってしまうことは誰も考えていなかった。聞こえてしまったのだ。紫と、魔理沙の叫び声が。

 

 

「霊夢っ!!!」

「霊夢――――――!!!!!」

 

 

 その声は流石に遠くであったため小さかったが、はっきりと言葉が認識できるほどには聞き取ることができてしまった。

 

 その声が聞こえた瞬間、文の意識が戻った。

 

「はっ!!」

 目を見開いた文は、山頂を見ながら、にわかにガタガタと震えだした。そして震える声で言った。

 

「そ…そんな…霊夢さん…」

 文が想像していたことを、椛は聞くまでもなかった。霊夢は負けたのだ、ということを。

 

「…っ!!」

 椛は黙って文を診療室へと連れて行った。今の椛には文にかける言葉が思いつかなかった。自分のふがいなさに唇をかみしめながら。

 

 しかし、その事実よりもさらに最悪の事実を、雛が感じ取っていた。

 

 

(!? 厄が強くなった…? いや、厄が増えた、と言った方が正しいのかしら)

 

 

 雛は椛に思ったことを説明しようと思ったが、椛はすでに見える所にはいなかった。雛は走って診療室へと向かった。

 

 

 

 その頃、守矢神社では、殺意リュウが霊夢を殺した喜びにうちひしがれていた。

 

「ふ…ふはははは!! やったぞ、これで俺は完全だ、完璧だ! もう俺を惑わすものなど何もない!!」

 

 殺意リュウは高らかに宣言するかのように大声を出した。

 

「…っ!」

 アリスが目をそらす。その行動から、霊夢が負けたことを信じたくないのが見て取れた。

 

 殺意リュウは笑い続けている。まるで自分の悪巧みが成功し、一瞬で億万長者になったかのように…

 

 その殺意リュウの様子に、紫の手はプルプルと震えていた。その震えは、怒り以外の何者でもなかった。それを知らずに殺意リュウは笑い続ける。

 

 

 とうとう耐えきれなくなった紫は、紫らしからぬ大声を上げた。

 

 

「この妖怪が!! あなたを私は絶対に許しはしないっ!!!」

 

 

 紫は怒りにまかせ、スペルカードを宣言しようとする。藍が紫を静止しようとする。

 

「紫様っ!!」

 だが藍の声は紫の耳に届いていなかった。

 

 

「紫奥義『弾幕結界』っ!!!」

 

 

 殺意リュウの周りに結界の形の弾幕が発生する。

 

「ふん!」

 普通、周りを弾幕で囲まれてしまうと誰もが冷静さを失うものだが、殺意リュウは違う。弾幕をギリギリまで引きつけて、阿修羅閃空で弾幕結界の外へと逃れた。

 

「! あれが美鈴さんが言っていた『変な体勢での移動』ですか!」

 

 橙がそう言っている間にも、紫は一切スペルを変えずに、再び弾幕結界を繰り出す。その様子はまるで飢えた猛獣のようだ。

 

 藍が紫を制止させようと再び試みる。

 

「紫様!! あの移動がある限り、弾幕結界は当たりません! ここは冷静になって――」

 

 紫は聞く耳を持たなかった。霊夢を殺したことを許すことはできないという気持ちが、彼女の心を支配していた。

 

 

「まだまだっ!!」

 

 

 紫は2つ目の弾幕結界を作り出すが、殺意リュウは先ほどと同じ手で糸もたやすくかわす。そこからはお得意のあれがある。

 

「波動拳!」

 

 波動拳を上に出して空中にとどめ、相手に飛ばす技だ。その標的はもちろん紫、波動拳は紫めがけ飛んでいった。

 

「! 仕方ない…!」

 

 妹紅が紫の前に出て波動拳を炎の翼で防いだ。こうすれば紫の弾幕結界の標的は妹紅に向けられるため、使うことができない。その狙いにいち早く気づいたのは慧音だった。

 

「妹紅…!」

 妹紅の不老不死をよく知っている慧音は妹紅を心配した。

 

「大丈夫だ、慧音。その証拠にほら…」

 

 慧音が紫を見てみると、藍、さらには魔理沙が紫の腕をつかんで止めていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 紫の息が荒れている。ようやく落ち着きを取り戻したようだ。藍が必死に力を入れて紫を止めている。

 

「紫様!」

 魔理沙も力を入れて紫を止める。

 

「紫、気持ちは分かるぜ、分かるけど…起きたことばかり目を向けても、起きたことが白紙にはならないぜ!」

 

「…!!」

 

 紫はようやく力を入れるのをやめた。藍と魔理沙はほっと息を吐き出した。だが安堵はできない。ここに殺意リュウがいる限りは。

 

「喰らえっ!」

 

 殺意リュウは波動拳の嵐を三度起こそうとしているようだ。両手で波動拳を1つずつ作り、紫一同にめがけて放つ。

 

「光符『アマテラス』!!」

「闇符『霧の倫敦人形』!!」

 

 しかし慧音とアリスがスペルカードで波動拳を打ち消していく。殺意リュウにも弾幕を向けるが、目的は波動拳の打ち消し、殺意リュウには阿修羅閃空をするまでもなくかわされていく。

 

「こうなりゃ攻めてやる! 不死『火の鳥・鳳翼天翔』!!」

 

 妹紅がスペルカードを宣言したことで、殺意リュウは阿修羅閃空をして回避せざるを得ない状況になっていった。

 

(ちぃ…! さすがに3人の攻撃をかわしながら波動拳を出すのは無理だ! なんとか、一瞬の隙ができればいいが…)

 

 殺意リュウはそう思い、自然と攻撃の手を止めた。それに気づいた藍が紫に伝える。

 

「攻撃が止まりました! 今なら霊夢を助ける好機ですよ!」

 

 殺意リュウに対する恨みがまだ残っているのか、殺意リュウをにらみながら紫は言った。

 

「…でもどうするの? あいつがいる以上、正面から向かうのは無謀すぎるわ。私の能力も使えないし…スペルカードの時間はそう長く持たないわ、可能だとしてもチャンスは1回きりよ」

 

 殺意リュウは倒壊した守矢神社を背にして戦っている。霊夢を助けるには必然的に横か後ろから守矢神社に近づくしかない。だが魔理沙はそのことは分かっていた。

 

「…その点、大丈夫そうだぜ? リュウに気づかれたら、おしまいだが」

 

 見ると、守矢神社の3人が殺意リュウの様子をうかがいながら守矢神社に向かおうとしている。

 

「…神奈子様、諏訪子様、気づいていません」

 

 早苗が注意深く殺意リュウの様子を見る。こちらを向いていないとはいえ、気配を感じ取っている可能性は否定できない。今にもこちらに振り向くかもしれない。

 

「…よし、走るぞ! 走っている音はこの戦いの中なら聞き取れやしない。急げ!」

 

 神奈子がゴーサインを出し、3人は守矢神社までの短距離を駆け抜けた。幸いにも殺意リュウがこちらに振り向くことはなく、3人は簡単に守矢神社にたどり着いた。

 

 守矢神社本殿は小さく、霊夢の姿を探すのは容易だった。崩れた梁の間から、霊夢の手が見えたのだ。

 

「いました! 霊夢さん!」

 

 早苗の言葉に反応したのか、霊夢の手がわずかに動いた。まだ息がある。

 

「よし、後は時間との勝負だ。そこの梁をどけて―――」

 

 諏訪子が霊夢の手のそばに行き、霊夢を救出しようとした―――が。

 

 

 ドゴォン!!

 

 

 その音に、この場にいた一同が音のした方向を向いた。そして驚いた。早苗、神奈子はもちろん、魔理沙も、紫も、殺意リュウも、驚いた意味は違えども、驚いた。

 

 その音の正体は、霊夢が守矢神社の瓦礫を、諏訪子もろとも吹っ飛ばす音だった。殺意リュウが驚いたのは、息の根を止めたはずの霊夢が生きていたことだった。

 

 残りの者の驚いた意味は同じだった。そして、驚いた後はこの事実を信じたくない感情が芽生えるものだった。

 

 

 霊夢が、殺意リュウや殺意フランと同じ、殺意の波動を体に纏っていたのだ―――

 

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