殺意の波動の力の恐ろしさを表現できているか不安ですがどうぞ。
空白を作ってみました…が、どうもうまく分けられている気がしないです。
何かアドバイスがあれば大歓迎なのでどうぞ感想欄にお願いします。
第10話「豹変」
早苗と神奈子が叫んだ。
「諏訪子様!!」
「諏訪子!!」
霊夢に吹っ飛ばされた諏訪子は返事をしない。一撃で意識を刈り取られたのだ。意識のない諏訪子に待っていたのは、無慈悲な霊夢の回し蹴りだった。
「竜巻旋風脚!!」
その回し蹴りは、神奈子と諏訪子を一度守矢神社に吹っ飛ばした殺意リュウの竜巻旋風脚そのものだった。諏訪子は殺意リュウの方向に吹っ飛ばされた。霊夢は殺意リュウへの狙いを変えていなかったのだ。
しかし人(この場合は神)1人飛んできた程度では殺意リュウに動揺は生じない。殺意リュウは横っ飛びで飛んできた諏訪子を回避した。諏訪子は地面に顔面から突っ込み、顔を擦って止まった。その体は身動き1つなかった。
だがその殺意リュウの動きより信じられないのは、やはり霊夢が殺意の波動を纏っていたことだった。何よりそれを受け入れることができないのは魔理沙だった。
「お、おい…う…嘘だろ…? 霊夢…」
魔理沙が途切れ途切れに言葉を紡ぐ。言葉の震えから、魔理沙の今の感情がすぐにうかがい知れた。
霊夢が地面に降り立つ。その見た目は殺意リュウと同じ変色した目、体に纏う赤い殺意の波動、髪留めのリボンが外れ、逆立った髪。その姿はまさしく、殺意リュウ、殺意フランならぬ殺意霊夢だった。
「…まず1人…諏訪子…」
殺意霊夢は静かに、何か陰謀があるかのように言った。殺意リュウと同じく、恐ろしい考えをしているのが見え隠れしている。
殺意霊夢は何を思ったか、いきなり神奈子に襲いかかった。神奈子は殺意霊夢の素早い行動に傷ついた体が反応する訳もなく、殺意霊夢のコンビネーションを喰らっていった。
まずは腹に右をめり込ませ体勢を崩す。
「がはっ…!」
神奈子が悶絶し、体を折り曲げる。その状態の神奈子の首元に右を突き立てるかのように打ち上げる。
「ごはっ…!」
首が跳ね上がった神奈子の無防備な顎に喰らわせるのは、もちろんあの技だった。
「昇龍拳!!」
殺意リュウと同じジャンピングアッパー、昇龍拳の一撃だった。神奈子も諏訪子と同じく、意識を刈り取られて地面に仰向けに倒れてしまった。早苗が倒れた神奈子に駆け寄る。
「神奈子様、神奈子様!!」
殺意霊夢は問答無用で早苗に襲いかかろうとする。
その様子を見ているだけでは耐えられなかったのは、紫だった。
「…霊夢っ! 聞きなさい!!」
殺意霊夢は空にいる紫に顔を向けた。それと同事に、早苗を襲おうとする足も止まった。
大声を出した紫は、わずかに荒れた息で言葉を続けた。
「あなたは今、何をしているのか分かっているの!?」
先ほどの殺意リュウに向けていた態度に似た、攻撃的な態度を殺意霊夢に向けた。殺意霊夢の体に、殺意リュウの腹のような致命傷が見当たらないなら、殺意の波動さえ取り除けば霊夢を救えるかもしれない。紫はそう考えた故の態度であった。
だが殺意霊夢は、紫の態度を踏みにじる言葉を言ったのだ。
「…霊夢…? 霊夢って、誰よ?」
殺意霊夢はとぼけたかのように言った。鈴仙が声を上げて驚く。
「なっ…!?」
殺意霊夢は思い出したかのような顔つきになり、続けてこう言った。
「…そう、あいつね…誰でも平等に見ているって豪語する、博麗の巫女ね…」
殺意霊夢は完全に自分が霊夢だとは思っていないらしい。それどころか、霊夢に対して敵意を向けているようだ。そしてとんでもないことを言ったのだ。
「死んだわ。博麗の巫女は、私が殺した。もうこの世にはいないわ!」
その言葉に魔理沙が即座に反論した。
「違うっ! お前は…お前は、博麗霊夢だっ!!」
言葉に詰まりながらも、大きな声で殺意霊夢に呼びかけた。殺意霊夢は魔理沙に顔を向ける。再び思い出したかのような顔つきになった。
「あんたは…そうか、博麗の巫女と一緒にいることが多い魔法使いね」
殺意霊夢はため息をつき、言葉を続けた。
「悲しいわね…あのとき、あんたがいたなら、私が負けて、博麗の巫女を救えたかもしれないのに…」
殺意霊夢は嘘っぱちなことを言っている。博麗霊夢は殺意リュウによって殺意霊夢にされたのが真実。だが殺意霊夢は、博麗霊夢を自らの手で殺したと言ってはばからない。殺意霊夢の記憶は、完全に赤の他人のものとなっているのだ。
「そんなに博麗の巫女を気にしているのならいいわ、証明してあげる! 博麗霊夢は、死んでいるって事を!!」
殺意霊夢は素早くスペルカードを宣言した。
「霊符『夢想封印・滅』!!」
本来、夢想封印は六色の弾を相手にぶつけるものだが、殺意霊夢が出したのは違った。弾は殺意の波動で赤いオーラを纏い、色は赤以外に判別できなくなっていた。今にも爆発しそうな六つの弾を、地上にいる殺意リュウと早苗、空中にいる紫たちに撃ってきた。
「のひゃあああ!!?」
早苗は神奈子と諏訪子2人分の重い体を背負いながら必死のダッシュで弾から逃げた。弾にそこまでの追尾能力はないらしく、あっという間に地面に着弾した。すると―――
ドオォォン!!
着弾した赤い弾が大きな爆発を引き起こした。その爆発は、守矢神社を跡形もなく消滅させた。
(くっ…今は安全を確保しなくては!)
早苗は自分の家である守矢神社の事を考えたが、神奈子と諏訪子の身の事を考えれば退却せざるを得なかった。
それに対して、殺意リュウは一歩も引かない。飛んできた赤い弾を、竜巻旋風脚で別の方向へ吹っ飛ばした。
「ぬりゃぁぁぁ!!」
赤い弾は勢いよく妖怪の山の森に突っ込み、爆破して消えた。
空中にいた紫たちは、流石に慣れているのか、簡単にかわして見せた。しかし紫と魔理沙は心の中で葛藤していた。
(っ…! 霊夢、本当に…)
(霊夢…まじで、私たちの事を殺すって言っているのかよ…!)
紫も魔理沙も、心から霊夢が殺意の波動に飲まれた事を信用できていなかった。だが今、殺意の波動に目覚めた霊夢は自分たちを襲ってきている。
夢想封印が全て不発に終わったのを確認した殺意霊夢は、ため息をつきながら言った。
「誰も殺せなかったか…」
殺意霊夢は誰かを殺すことに執着している。殺意リュウとは違い、明確に『誰か』というのはなく、見境なく殺す。そんなことを考えているのだ。それを察したアリスは、勇気を持って聞いた。
「あなた…それほどまで殺すことにこだわる理由は、何かしら?」
殺意霊夢は当然とも言いそうな顔をして答えた。
「…残念だけど、それに答える義務は、私にはない。大人しく殺されなさい」
そう答えて少しの沈黙があると、殺意霊夢は気が変わったのか、さらに言葉を続けた。
「…まあ答えてあげてもいいかしらね。どうせみんな私に殺されるのだし。簡単な答えよ。『平等』よ、『平等』」
その殺意霊夢の言い方には、命を軽視しているかのような態度が見て取れた。その態度を許せなかったのは、医者として生きている師匠を持つ鈴仙だった。
「…っ!!」
言葉にできない悔しさが、鈴仙の頭を埋め尽くした。その様子を見ていた慧音が、鈴仙を心配するとともに、殺意霊夢をにらみつけた。
殺意霊夢は慧音の視線を気にせず話を続けた。
「人類皆が平等じゃないっていうのはよく言われていること。その理由は何か? それは格差とかって答えが出るでしょう。でもその前に、みんなが考えてもいない平等があるじゃない、私はそう思った。そして決めたのよ、私は人類の全てに、命があるからこその平等『死』を与えることを!!」
殺意霊夢は大統領の演説でもするかのように、高らかに言った。
「人の命は平等であるためにある! さあ、大人しく『死』に身をゆだねなさい!!」
殺意霊夢の呼びかけに、その場にいた者は黙って拒絶した。そんな身勝手な思想なぞ受け入れる気なんてない。当然の答えだった。
その中で、余計に黙っていられない者がいた。殺意リュウだ。
「…貴様、なんと言った? もう一度言ってみろ」
殺意リュウは静かに言った。その裏には、怒りの感情が渦巻いているのが読み取れた。殺意霊夢はバカにしているのかというような感じに答えた。
「人の命は平等であるためにある、と言ったのよ。あんたの耳は遠いのかしら?」
殺意霊夢の余計な言葉が、さっきまで殺意リュウの裏にあった怒りを表に出すこととなった。殺意リュウは怒りにまかせ、声を荒げた。
「違うな!!」
その言葉と同事に体に纏う殺意の波動が、いっそう激しく揺らいだ。
「命は平等であるためにあると言ったな、貴様。それは違う! 命は、死合うためにあるもの!!」
殺意リュウは殺意霊夢に真っ向から反抗する気だ。元の霊夢であろうと殺意の波動に飲まれていようと、霊夢を殺そうとする信念が顔からにじみ出ている。
「私に反抗するのね、いいわ! あんたから先に殺してやる! 全ての生き物に平等を与えるために、邪魔者は消す!!」
2人だけにしかできない、戦いと言う名の殺しあいが始まった。両者一気に前へ走り、互いに右の一撃を浴びせようとしたその時。
「アッハハハハハ!!!」
どこからか、女の子の声が聞こえた。その声には、紫たちには聞き覚えがあった。アリスが言った。
「この声…まさか、あの吸血鬼!」
その言葉が終わった時、殺意フランは既に殺意リュウと殺意霊夢のすぐ近くに降り立っていた。そのまま、2人が合わせようとする一撃に自らも一撃を入れたのだ。
「むうっ!?」
「んなっ!?」
突然の乱入者、殺意フランの一撃に対して2人の攻撃が途中でストップできる訳もなく、3人の拳がぶつかり合った。その途端、猛烈な衝撃波が、空中にいる一同を襲った。空中では足に力を入れたところで踏ん張ることができるわけもなく、慧音と鈴仙、さらには小柄な橙が大きく吹っ飛ばされた。
「うわあああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
「うひゃあああああ!!!」
それを見た妹紅と藍が衝撃波の中、自らの危険を顧みず3人を助けに行った。
「慧音! 鈴仙!!」
「橙!!」
衝撃波が、妖怪の山の大地を脆くもひび割れを起こした。そして―――
ガラガラ!!
一気に妖怪の山が、山頂から崩れ落ちた。戦っていた殺意霊夢は自らの身の危険を感じ、紫の真上を飛んでどこかへと飛び去っていった。殺意リュウは崩れてゆく地面を見極め、次々と足場を確保して飛び移り、山を下りていった。殺意フランは飛んできた方向へと飛び去った。
紫、魔理沙、アリスは崩れた妖怪の山をただ呆然と見ていた。殺意の波動の力の恐ろしさを、間近で見た者としては、当然のことかもしれない。
だが彼女らにはそのことをゆっくりと飲み込んでいる時間はなかった。
もう1つの危機が、今にも起ころうとしているのだから―――