東方殺意書   作:sru307

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 幻想郷に噴火が襲いかかる…その前後の物語。
 今回、時間の流れがゆっくりですがどうぞ。



第13話「各地」

第13話「各地」

 

 狂オシキ鬼によって招かれた噴火が起きた際、幻想郷の各地では―――

 

―白玉楼―

 

白玉楼―――長い階段の先にある、冥界の幽霊の管理者と白玉楼にある庭の手入れをする庭師が一緒に住まう所。自慢は豪華な平安時代を思わせる和の様式の屋敷、その前に広がる美しい庭である。基本的に人は寄りつかず、その代わりに幽霊が大量に寄りつくとの噂がある―――

 

 殺意の波動の力を間近で見た八雲紫、八雲藍、橙は紫の友人である西行寺幽々子、白玉楼の庭師、魂魄妖夢の2人に意見を求め訪ねていた。これまでの事を説明するとともに、この混沌と化してしまった幻想郷を、どうするべきかという事を―――

 

「…話は分かったわ。それで紫、あなた1人で決めるには責任が重すぎるから、私と妖夢の意見を仰いだという訳ね」

 幽々子は扇子で口元を隠しながら、真剣なまなざしで言った。紫の言葉が冗談ではないことは、長年のつきあいがあるせいかすぐに分かった。

 

「ええ。私が今出している結論は、私だけの問題にしてはダメなの。幻想郷にいる、全ての生き物に影響を及ぼすから…」

 紫の表情は暗く、苦悩が顔に浮かび上がっているようだった。幽々子はその表情を見て、いっそうまなざしが真剣になった。

 

「確かに、その結論が出てもおかしくはないわ。ただ、それは最後の手段だってこと、忘れていないでしょうね?」

 

 紫はそうなのだけれど、という顔をした。そんな顔をするのは、やはり霊夢が殺意の波動に飲まれたという事実のせいだった。

 

 その紫の顔を見た妖夢が、驚いた。

 

(紫様がこんな顔をするなんて…)

 

 妖夢は自分の考えでは解決がほど遠いほど、紫の心境が苦しいのだと気づいた。そう思う妖夢も、異変の全容、霊夢が殺意の波動に飲まれた事を聞いて驚いていたが、紫の顔は、自分が思うよりも紫にとっては深刻な事なのだと分かった。

 

「妖夢、あなたはどう思っているのかしら?」

 

 紫の心境を考えてぼーっとしていた妖夢は幽々子の声を聞いてはっとした。妖夢は少し顔を下げて答えた。

 

「はい…幽々子様の言うとおり、紫様の提案は最終手段です。できれば、もう少し別の手段を考えて欲しいかと思います」

 

 妖夢はきっぱりと紫に言った。紫は頬杖をつき、何か考える仕草をした。すると紫は突然立ち上がり、幽々子に言った。

 

「…少し隣の部屋を貸してもらえる? ゆっくりと考えたいの」

 

 どうにも落ち着かなかったらしい紫はお願いをしてきた。

 

「いいわ。でも紫、1人の考えだけで貫き通せるほど、この事態は甘くないわよ」

 

 紫はうなずいた。

 

「藍、橙。あなたたちも一緒に来て」

「了解しました」

「は、はいっ」

 

 紫は藍、橙とともに、隣の部屋に行った。妖夢は3人の後ろ姿を、部屋を分ける戸が閉まって遮られるまで見ていた。

 

 戸がぴしゃりと閉まると、妖夢が言った。

 

「…どうしましょうか、幽々子様」

 

 自分たちの知らないところで、ここまでの事態が起こっていたとは予想できなかった。それは幽々子であっても同じだった。

 

「…どうしましょうかね」

 

 幽々子もいい考えがなかった。何せ今回の異変の元凶が、幻想郷の住人にとって『外来人』と呼ばれる者であるのが厄介だった。幻想郷から外の世界、つまりは別世界に干渉できるのは、紫の能力『境界を操る程度の能力』ただ1つしかない。だから幽々子や妖夢が殺意の波動、あるいはリュウの事を調べる手立てはないのだ。

 

 しかも、リュウがどの世界から来たかについては、まったく分かっていない。つまり紫の能力を使っても、無数にある別世界からリュウがいた世界をピンポイントで探さなければならない。フランドール・スカーレットも、博麗霊夢も殺意の波動に飲まれた今、そんな悠長なことをしていたら、その間に幻想郷が滅んでしまうだろう。

 

 そして、その八方ふさがりの事態にさらに追い打ちをかける事態が起きてしまった。突然、屋敷がガタガタと揺れ出したのだ。

 

「!? 地震…?」

 

 妖夢がそう言ったすぐ後に、紫が閉めた戸を開けて飛び出し、外に出た。

 

「紫!?」

 

 幽々子が驚いた声を出すが、紫は見向きもしなかった。

 

「紫様! どうしたんですか!?」

「紫様!?」

 

 藍と橙も紫の慌てたような様子に驚いており、走って外に出た。妖夢と幽々子も外に出る。5人が外に出た瞬間―――

 

ドドォ―――ン!!

 

 遠くの山が、あの噴火を起こしたのだ。

 

「!! ふ、噴火!?」

 

 妖夢が驚く。

 

「この噴火…まさか、地底から!?」

 

 藍がそう言う。実は地底で起きたある異変の解決に、紫が関係していたことがあり、その話を紫から聞いたことがあったのだ。

 

(っ…! 何で、何でこんな時に…!)

 

 自然災害を思わず嘆こうとした紫だったが、幽々子が何かに気づいた。

 

「! 待って、火口付近に、誰かいる!!」

 

 幽々子が指さした先には―――

 

「オオオオオ!!」

 

 噴火を起こした元凶、狂オシキ鬼が、はっきりと5人の目に映った。

 

「!!! ら、藍しゃま……!!」

 

 橙が殺意リュウの姿を写した紙と見た時と同じように藍の九尾に隠れた。だが体の震えが、殺意リュウの時と比べて異常なほど大きかった。

 

「な…何ですか、あのOniは!?」

 

 藍もそう言いながら、腕が震えていた。狂オシキ鬼の姿に、藍も恐怖を覚えてしまったのだ。

 

 そして紫も、自身の体が震えていることに気がついた。さらに狂オシキ鬼を見た瞬間、狂オシキ鬼が殺意の波動を身に纏っていることにも気づいた。

 

「!! た、大変です! 火山岩が…!」

 

 妖夢が指さした所を見ると、火山岩が流星群のように人里に降り注いでいくのが見えた。

 

「人里が…危ない!!」

 

 紫は慌てて人里にスキマが開けるか確かめた。開ける。今、殺意の波動は近くには感じられないということだ。

 

「急ぐわよ、みんな!」

 

 5人は人里へ直通のスキマに次々と飛び込んで行った。

 

―人里―

 

「はいはいー、押さないで順番に取っていってください!」

 人里では、号外を作り終えたはたてが号外配りに奔走していた。人里に被害をもたらした殺意フランは、殺意リュウによって生み出された、という号外の内容を信じる者は多く、あっという間に人里に広がった。

 

 幻想郷を襲った『殺意』! 紅魔館倒壊、その真実は!?

 今日午前、霧の湖にある紅魔館が、何者かの手によって倒壊するという事件がありました。

 倒壊させたのは外から来たとみられているリュウという名の男。彼の恐ろしい所は、その身を殺意の波動にゆだねていること! 殺意の波動に関する詳しいことはまだ不明ですが、とにかく恐ろしい力であることは間違いないとのことです。現に、写真を見てもらえば分かる通り、リュウは体に穴が開いているにもかかわらず、その体を動かしています。死者となってもその体を動かす、殺意の波動の恐ろしき力の一端がよく分かるかと思います。

 彼の行為は、紅魔館倒壊だけにとどまりません。殺意の波動に身をゆだねたリュウは、紅魔館の地下に住んでいたフランドール・スカーレットを襲い、彼女を殺意の波動に目覚めさせたのです。殺意の波動に飲まれたフランさんは、本人の意思とは関係なく殺意の波動によって気が狂ったかのように暴れ出し、紅魔館からどこかへ飛び出した模様です。

 また、リュウは紅魔館を倒壊させる前に、魔法の森にいる妖精、妖怪を見境なしに大量虐殺したとの情報も得ることができました。

 現在、八雲紫とその式神、博麗霊夢、霧雨魔理沙らがこの異変の元凶であるリュウを追っています。

(姫海棠 はたて)

 

「何ということだ…そんな生き物が、存在し得ようとは」

「あの子は自分の意思ではなく暴れているなんてかわいそう…」

「俺は絶対にこのリュウって奴を許しはしねえ! 絶対に!」

 

 この号外を見て人々はフランを擁護する声や、リュウに対する怒りの声が次々と上がった。

 

 その号外は、避難所にいる稗田阿求の元にも届いていた。

 

(この人が、フランさんをおとしめた元凶…外から来た者だったとは…)

 

 阿求はリュウの写真を見ながら、考えた。なぜリュウは、腹に穴が開いているのだろう、ということだった。いくら殺意の波動にリュウが飲まれ、殺意の波動が体を動かすエネルギーになったとしても、自らの手で腹に穴を開ける意味などないはず。一体、リュウが別の世界にいたときに何があったのだろうか?

 

 根拠もない答えを阿求が考えていると、避難所が揺れ始めた。

 

(! 地震!? こんな時に…)

 

 阿求は思わず外に出た。何か、地震にしては違和感をどことなく思わせたのだ。その思いは無情にも正解だった。

 

 ドドォ―――――ン!!

 

 噴火は、人里からでもよく見えた。人々がそれを見て慌て出す。

 

「た、大変だぁ――!! 噴火だ、噴火が起きたぞぉ―――!!」

 

 その中の1人が大声で叫ぶ。普通なら大勢の、顔も知らない他人がいる中で大声なんて迷惑行為以外の何者でもないが、今の状況なら大声が出ない方がおかしい。

 

「な…何で、こんな大変なときにぃ!?」

 

 号外を配り終えようとしていたはたてが驚く。

 

 阿求も噴火の瞬間を目の前で見て驚いた。初めて見る自然の悪戯を、まじまじと見た瞬間でもあった。

 しかしその驚きは、あの声が聞こえたことで一気に恐怖に変わった。

 

「オオオオオ!!」

 

 狂オシキ鬼の鳴き声が、人里にいる人々の耳に届く。そしてその姿も、人々の目に映る。

 

「な! 何だあれはー!!」

 

 狂オシキ鬼の姿を見た人々は噴火の驚きが冷めぬうちに、恐怖に襲われた。人里から見ると、狂オシキ鬼の顔がしっかりと見えたため、子供達は親の足に顔をうずくませていた。

 

(な…まさか、あのOniが噴火を起こしたっていうの!?)

 

 そう考えながら、はたては携帯電話のカメラ機能で狂オシキ鬼を遠くから撮影する。携帯電話越しに見えた狂オシキ鬼の全体像を見た瞬間、はたては目を見開いた。

 

(こ、これって…まさか! このタイミングで、そんな…!)

 

 思いたくなかった。だがその全体像は、そう思わざるを得なかった。あの狂オシキ鬼は、殺意の波動に目覚めていると。

 

 阿求は何も言えず、ただ狂オシキ鬼の姿を見て立ちすくんでいた。見たことのない異形の姿に、体が鉄の塊のように固まってしまったのだ。固まったのは体だけではない。脳の思考も、何も考えられなくなっていた。

 

 その動かなくなった体が次に動いたのは、使用人に腕を引っ張られてからだった。

 

「阿求様! ここにいてはいけません! 火山岩が、こちらに降ってきます! 早く避難所へ!!」

 

 阿求は使用人に引っ張られ、避難所へと入っていった。

 その直後、大量の火山岩が降ってきた。人里の道に次々と降り注ぐ。

「なんて量だ! とにかく建物の中に!!」

 

 人々の中の1人がそう言うが、火山岩は容赦なく建物の屋根に降り注ぎ、穴を開けてゆく。その建物にいた人たちが慌てて外に再び出てくる。もはや里全体がパニックと化しているのは火を見るより明らかだった。

 

(くっ…号外とか、作ってる余裕自体が、もうないっていうの…!?)

 

 火山岩を避けながら、はたてがそう思う。避けるだけで精一杯というほどの量ではないが、全て降ってきたら間違いなく人里の人間達は全滅してしまう。そうなれば全て打ち落とすしかないが、はたて1人で全てをさばくのはどう考えても無理だった。

 

 そう思われた次の瞬間、落ちてくる火山岩の場所に次々とスキマが開き、火山岩を飲み込んだ。そしてはたての隣にもスキマが開き、そこから白玉楼にいた5人が出てきた。

 

「っ…! 少し間に合わなかったみたいね…」

 

 紫の姿が見えたはたてがすぐ紫に問いかける。

 

「紫さん! この噴火を起こしたのって―――」

 

 紫ははたての言葉が終わる前に答えていた。

 

「ええ。あのOni―――殺意の波動だわ!!」

 

 ついに4つの殺意が幻想郷の地に降り立った。果たして、対抗策、そして異変の真実を知る術はあるのか…?

 

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