第17話「無謀の裏」
―魔法の森―
「波動拳!」
殺意霊夢が波動拳を飛ばしてくる。直線的に飛んでくるのは1発だけ。殺意リュウのように嵐を起こせるほどではないようだ。
「はっ!」
殺意霊夢が一気に前に出る。そこに仕掛けたのは早苗だった。
(あの移動が出せなくなるのはよほど体勢が崩れた時だけのはず…体勢を崩すのは、私の弾幕では無理がある…だからあの移動を誘って、止まったところに本命を当てる!! でも相手は霊夢さん、おそらく…)
この考えでは霊夢に弾は当たらないだろう、そう考えながらも早苗はおとりとも言えるスペルカードを宣言した。
「秘術『グレイソーマタージ』!」
殺意霊夢は阿修羅閃空を使い、その弾幕を正面から抜けていく。
(来た!)
早苗は続けざまに本命のスペルカードを宣言する。
「秘法『九字刺し』!!」
早苗は格子状に放たれる針のような細長い弾幕を展開する。
(このスペルならあの移動で回避するのは無理があるはず!)
早苗の予想は当たりだった。殺意霊夢は阿修羅閃空の動きを止め、結界を張って弾幕を防いだ。それを見た早苗はやはりという顔をした。
「やっぱり、元の霊夢さんの力も持っていますか…!」
続いて魔理沙が仕掛ける。
「結界なら、私がいくらでも破壊してやる!」
魔理沙がミニ八卦炉を構えてスペルカードを宣言する。
「恋符『マスタースパーク』!!」
ミニ八卦炉から放たれたのは、極太の虹色レーザーだった。レーザーは結界を張った殺意霊夢を森ごと巻き込んでいった。
「どうだ!?」
魔理沙はレーザーの軌道が通った先を確認する。そこには―――
「んなっ!?」
殺意霊夢が、無傷でマスタースパークを受けきっていた。結界は既にないが、それが全て防いでくれたらしい。
「流石、その威力には恐れ入るわね…でもこの殺意の波動を混ぜた結界が、私に変わって守ってくれたわ」
殺意霊夢はにやりと笑って見せた。
「さあ、結界を壊した代償を死で償ってもらうわ、そこの魔法使い!」
殺意霊夢が猛然と魔理沙にめがけ迫る。
「蒼符『博愛のオルレアン人形』!!」
そこにアリスの弾幕が割って入ってきた。殺意霊夢は足を止め、アリスの弾幕を両手でさばく。
「動きが止まったわね、後ろよ!」
うどんげが後ろから襲いかかる。
「幻爆『近眼花火(マインドスターマイン)』!!」
殺意霊夢は真上に大きく飛び上がる。
「あのジャンピングアッパーも、波動拳も、回避手段になる変な移動も地上でしか使えないはず! 今がチャンスよ!!」
それを見たアリスが大声で言う。結界は連続展開できない事を知っていたので、殺意霊夢の弾幕回避手段はもう通常の空中移動しかない。
「よし、ならもう一発マスタースパークだぜ!」
魔理沙が再びミニ八卦炉を構えるが、空中に逃れた殺意霊夢の行動の方が素早かった。そして殺意霊夢が起こした行動は、スペルカードでも打撃でもなかった。
殺意霊夢は右手を引っ込めた。そしてその勢いで右手を前に出し、放たれたのは―――
「せいっ!!」
何と殺意霊夢は、空中で体勢を見事に保ち、両手から流れ星のように波動拳を出してきたのだ。その狙いはアリスだった。
(!? 空中でも波動拳を!?)
アリスは横に移動する。そこを着地後の殺意霊夢は見逃さなかった。
「アリス、危ねえ!!」
魔理沙は叫んだ。マスタースパークではアリスごと吹き飛ばしてしまう。うかつに弾幕を放つことができなかった。
アリスは人形に盾を魔力の盾を持たせて守りを固める。殺意霊夢が盾の前に出てくる。その後ろには蹴りを入れようとするうどんげがいる。
(ここで弾幕は使えない! 蹴りを入れて、アリスを救う!)
うどんげは殺意霊夢の足めがけ、思いっきり鋭い蹴りを入れる。
ドゴッ!!
手応えはあった、が。
「う、動かない!?」
殺意霊夢の足は動くどころか微動だにしない。うどんげの蹴り、それは殺意霊夢にとって気にするものですらなかったのだ。
「竜巻旋風脚!」
殺意霊夢はその場で回し蹴りをする。アリスの盾を一撃で壊し、うどんげの腹に蹴りが直撃した。
「うっ…!」
「ごふっ!」
アリスは盾を壊された反動で体勢を崩し、うどんげは真後ろに吹き飛ばされた。
「逃がさないわよ!」
殺意霊夢がアリスに近づこうとしたその時。
「とりゃあ!!」
魔理沙がミニ八卦炉の勢いを利用して殺意霊夢の顔に蹴りを浴びせた。殺意霊夢の顔が後ろに吹っ飛ぶ。その隙にアリスは殺意霊夢から離れる。
(く…しまった…!)
殺意霊夢は下半身に力を入れ、どうにか倒れることなく体を起こして体勢を立て直した。その先の目線にはアリスが魔理沙のそばに逃げ込む姿があった。横をチラッと見ると、早苗がうどんげを気遣いながらもこちらを見ている。うどんげの様子は手が震えていたが、立っている上、目が生きている。まだまだやれるようだ。
「ふん…少しはやるようになったわね、敵ながら褒めてあげるわ」
殺意霊夢は少し魔理沙達に関心があるかのように言ってきた。もちろんそんな気は一切ないのだろうが…
「うれしくなんかないぜ、霊夢。お前が殺意の波動に飲まれている今、そんな事を言われてもな!」
殺意霊夢は腹が立って言い返した。
「何よ!? あの時も言ったはず、博麗の巫女は死んだと! 私があの博麗の巫女だって言うの!?」
魔理沙はひるむことなく真っ直ぐな目で殺意霊夢を見る。それを見た殺意霊夢はあきれたようだ。
「…そうなのね、意地でも私を博麗の巫女だと思うのね…いいわ、その腐りに腐った脳みそをぶっつぶして教えてあげる! 私は平等なる死を訪れさせる、世界中どの人間の生まれ変わりでも、洗脳されたのでもない案内人であるってことを!!」
殺意霊夢は片足をずんと強く地面に下ろした。その力強さは、殺意リュウを思い起こさせた。彼女は、すでに弾幕勝負とは縁遠い格闘技も完璧に身につけている状態なのだ。そう悟った魔理沙は、とんでもない行動に出た。何と魔理沙はミニ八卦路を懐にしまい、腕を上げて構えたのだ。そう、殺意霊夢の接近戦に自ら乗ろうというのだ。
「魔理沙!! いくら何でもそれは無謀よ!!」
そばにいたアリスが魔理沙の腕をつかんで腕を下ろそうとする。しかし魔理沙の腕には力が入っていて下がらない。
「魔理沙、今さっき私の蹴りで霊夢がピクリともしなかったのを思いだして! 今ここにいる私たちが腕力や脚力で戦うのは、降参を言っているようなものだわ!」
うどんげが接近戦で勝てる可能性はゼロだと主張する。だがその声を受けても、魔理沙は腕を下ろそうとしない。
「魔理沙さん、やめてください! いくらそれで霊夢さんを取り戻せたとしても、相打ちになる可能性だってあるんですよ!?」
早苗が念を押すように警告する。それでも魔理沙は腕を下げない。殺意霊夢はその様子を見て不敵な笑みを顔に浮かべた。
「どうやら脳みそが腐りに腐って自殺行為に走ったみたいね。いいわ、望み通りこの拳で殺してあげる!」
殺意霊夢は体に纏う殺意の波動を揺らげ、より一層鋭い目で魔理沙を見た。標的は完全に魔理沙ただ1人に絞ったようだ。それを見た魔理沙は腕に力を入れ、アリスの手から無理矢理に離れた。
「魔理沙!!」
アリスが懇願する目で見つめてくるが、それには見向きもしなかった。
「弾幕を撃ったらあの移動でかわされるし、接近したらあのジャンピングアッパーに回し蹴り、何もせず遠くで様子見したら波動拳…こいつに隙があるのはもうこれしかないぜ!いくらみんなが反対しても、私はこの腕と足で戦う!!」
魔理沙は堂々と宣言した。その瞬間、殺意霊夢が一直線に魔理沙に迫ってきた。アリスは身の危険を感じ魔理沙から離れる。殺意霊夢はその勢いのまま、魔理沙に殴りかかってくる。魔理沙はしゃがんでかわす。
(飛んでくる拳を弾だと思うんだ! そう考えれば、近距離で弾幕を撃たれているのと一緒だ!!)
魔理沙は必死に殺意霊夢の打撃をかわし、素手での攻撃を所々に混ぜる。しかし殺意霊夢はその攻撃をいともたやすくかわす、あるいは腕でブロックする。
「竜巻旋風脚!」
殺意霊夢の回し蹴りが、魔理沙の腹を直撃する。
「ごふっ…!」
魔理沙の体勢が崩れる。
「魔理沙!」
アリスが叫ぶ。殺意霊夢は容赦なく追撃を入れようとする。しかし―――
「ううりゃあ!」
魔理沙が崩した体勢のまま、殺意霊夢の顔面にパンチを繰り出す。不意を突かれた殺意霊夢は、ガードできずそのまま喰らった。
「うくっ!?」
殺意霊夢の足が後ろに下がる。効いたというより、驚いて下がったようだ。その間に魔理沙は体勢を立て直す。
「ここからは私の勝手だ! みんながどうしようと、私はこのまま戦い続けるからな!」
魔理沙は意地でも殺意霊夢との殴り合いをやめる気はないようだ。
「うるさい奴ね!」
殺意霊夢は魔理沙の言葉に苛立ちを覚えているようで、荒げた声を出した。お互いの殴り合いが始まってしまったのだ。
「…もう! 勝手なんだから! 巻き込まれても知らないわよ!」
アリスはそう言ってスペルカードを宣言した。
「戦符『リトルレギオン』!!」
弾幕は横に広く展開して飛んでいく。このまま行けば魔理沙にも弾幕が当たる。
そう思われたその時、魔理沙が弾幕を全く見ないで後ろに飛び退いた。
(!!)
アリスが驚く。魔理沙は、アリスが弾幕を展開することが阿吽の呼吸のごとく分かっていたように後ろに飛び退いたのだ。
殺意霊夢めがけ展開された弾幕は、殺意霊夢だけに襲いかかった。殺意霊夢は両腕を使い、弾をはじいていく。それを見たアリスが何か閃いたようにつぶやいた。
「…魔理沙は、私たちの事を信じていない訳じゃないわ」
それを聞いた早苗が疑問をぶつける。
「えっ? でも魔理沙さんは私たちの意見を無視して…」
早苗が言葉を続けようとするが、アリスがそれを遮った。
「さっき私が撃った弾幕の行方を考えてみなさい。もし私たちを信用していないのなら、あの弾幕は魔理沙ごと、あるいは魔理沙にだけ当たっているはずよ。魔理沙の性格を考えれば、避ける事なんてしないはずだわ」
魔理沙がアリスの弾幕を避けたことを思い出した早苗は声を上げた。
「あ! ということは…?」
早苗は首をかしげる。魔理沙は3人のことを信用していない訳ではないことは確かなら、あの時の腕を上げて接近戦を仕掛けたのは…
「…何か感じているんだわ、魔理沙は。あの状態の霊夢から、私たちじゃ決して分からない何かを…」
うどんげが結論を出す。そして、魔理沙が感じていること、それこそが、殺意霊夢を救い出す鍵になるかもしれない―――
3人の考えていることは一致していた。今できるのは、この戦いの行く末を良い方向にして見届けること―――
「…今は魔理沙を信じてみましょう。幸い、今の霊夢は私たちには目もくれず魔理沙に釘付けになっているわ。援護を惜しまないで!!」
アリスがそう言い、うどんげと早苗もうなずく。援護をかましたのはうどんげからだった。
「懶惰『生神停止(マインドストッパー)』!!」
魔理沙が殺意霊夢から感じたものとは、一体―――
しばらく話は場面を分けて戦闘シーンを書いていきます。
次回は紅魔館vs殺意フランを書きますのでお楽しみに。