東方殺意書   作:sru307

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異変の前兆なくこの異変は始まった、という物語。
言葉足らずで伝わりにくいかもしれませんが、どうぞ。



第1話「死体」

第1話「死体」

 

 

 

 朝を迎えた幻想郷。天気快晴、雲一つない秋の空。これから起きることを全く知らない平和な空。この空がいかにむなしきものに変わるか誰も知らない。

 

 

―博麗神社―

 

 

 博麗神社。幻想郷を隔離する博麗大結界の管理者の住居。山の中にある辺境の地にあるこの神社には、人はほとんど来ない。しかし管理人の友人は何度も来る、不思議な神社でもある。そこに住む巫女、博麗霊夢は朝の日課である博麗神社境内の掃除をしていた。だがその顔は掃除をする人の顔には程遠いような浮かない顔だった。

 

「はあ…なんだか気分がさえないわね」

 

 朝起きてからというもの、霊夢はなぜか体調がよくないようだ。風邪の類いではなく、何かが頭の中でもやもやしているようだった。

 

 そこへ空から普通の魔法使い、霧雨魔理沙が舞い降りてきた。

 

「よ! どうした? 秋になって寒くなって体調でも崩したか?」

 

 魔理沙は霊夢の顔から何か違和感があることに気付いていた。長らくともに異変解決をしている仲の特権だろう。

 

「そんなんじゃないわよ。…ただ、どうも嫌な予感がしてならないのよ」

 

 霊夢が頭の中のもやもやを感じているのを言うと、魔理沙の目が真剣になった。

 

「…また、お前の勘ってやつか?」

 

 魔理沙は霊夢が隠したさいころの目を当てられるほど勘がいいことを嫌というほど知っているからだ。霊夢の勘は『あてにならない』ではなく、『確実である』に等しいのだ。

 

「まあね。それで? 私としては、あんたがいる森から何か感づいているんだけど?」

 

 霊夢は既にもやもやの元凶が魔法の森にありそうだと勘で察していた。

 

「魔法の森からか? いや別に、特別変わったことは私が見た限りなかったぜ?」

 

 魔理沙の家は魔法の森の中にあり、出かけるときは必ず通らなければならない。今日もいつも通りだ、としか魔理沙には思えなかった。

 

「そう。まあ気のせいかもしれないし、今は何もしなくていいでしょ、今はね…」

 

 霊夢は、魔理沙の言葉を聞いても嫌な予感がぬぐいきれないようだった。

 

 

―魔法の森―

 

 

 一方、その森の中では…

 

 

「気高き血…気高き血はどこだ!」

 

 

 殺意リュウは強者を探し、うっそうとした森の中を堂々と歩いていた。すると―――

 

 

「ちょっと待った―――っ!!」

 

 

 殺意リュウの目の前に、氷の羽根を背中に生やした少女が現れた。

 

「よくも私のお気に入りの場所に無断で入ってくれたわね! 許さないわよ!」

 

 そばの木には『ここはあたいのナワバリ! チルノ』という文字が彫られていた。おそらく最後に書かれているのがこの妖精の名前だろう。しかしそんなことを殺意リュウが気にするはずもない。それよりも殺意リュウはチルノを見定めていた。彼女が、強者であるかどうかを。その答えは『×』だった。彼女の言葉は、ただのうぬぼれだと殺意リュウは判断した。それに殺意リュウの怒りを買ったようなものだった。

 

「弱き者は去れ! 消え失せろ!」

 

 殺意リュウは吐き捨てるように言った。

 

「なにを~!? このサイキョーであるあたいに対して、腹立つわねあんた!」

 その言葉は殺意リュウも腹が立ってこう言い返した。

 

「お前が言う『サイキョー』なぞなんの価値もない!」

 

 このままいけば幼稚な子供の言い争いになるであろうが、ルール『スペルカード戦』がある幻想郷(ここ)では関係ない。戦えばよいのだ。最も、殺意リュウが知っているよしもないが…。

 

「あんたみたいなバカ、これで十分よ!アイシクルフォール!」

 チルノは氷の弾幕を撃ってきた。―――が、殺意リュウは一歩も動かなかった。弾幕は、殺意リュウの体の横を通っただけで、殺意リュウは痛くもかゆくもない。ただ秋の空気で寒いと感じるくらいだ。しかも死んだその殺意リュウの肉体は、温度を感じることもない。よって、全く意味のない攻撃と化していた。

 

「ん!? あ、あたいのアイシクルフォールを受けても平気なの!?」

 

 チルノは目をつぶって撃っていたので、弾幕が当たったか確認が取れていない。これこそ、チルノが⑨と呼ばれるが所以である。

 

「やはり口だけの奴か。お前のような弱者は黙って死を迎えるのが定め!今すぐにかなえてやろう!」

 

 殺意リュウは即座にチルノに襲いかかり、手早く終わらせようとする。

 

「これならどうだ―っ!」

 

 チルノは殺意リュウの顔に蹴りを入れようとした。が、子供の蹴りなので殺意リュウはいともたやすく足をつかんで受け止めた。チルノは宙づりになった。

 

「さあ、大人しく受け入れるがいい」

 

 殺意リュウはぎらりと光るような歯を口から覗かせながら、ゆっくりとチルノの体に手を伸ばしていった。

 

「ちょっ!放せ!!」

 

 宙づりになったチルノが次に聴覚を使ったのは、自分の骨がボキリと折れる音だった。そこからチルノの意識は遠ざかっていった。

 

 

 チルノを地面にさかさまにめり込ませ、処分した殺意リュウはこうつぶやいた。

 

「準備運動にもならないな、弱き者と闘うことは…。だから弱き者は嫌いだ…。そうだというのに、なぜ弱き者は生きるのだ…」

 

 愚痴を念仏のようにぶつぶつと言っていると、別の声が聞こえた。

 

「チルノちゃーん、どこ行ったの~?」

 

 明るい声を出してやってきたのはチルノの友達、大妖精だった。大妖精はチルノがさかさまになって地面にめり込むチルノを見て表情をこわばらせた。

 

「え!? チルノちゃん!?」

 

 その様子を見て殺意リュウは大妖精がチルノと関係があることを察した。そして今度は大妖精を見定めた。答えは『×』、こいつも弱者だ、と思考が判断した。

 

 

「お前の友達はたった今死んだ。すぐにお前も同じ死後の世界に送ってやろう」

 

 

「え…」

 

 

 次の瞬間、大妖精は驚いた。殺意リュウが言った言葉ではない。殺意リュウがその言葉を言いながら足音もなくあっという間に目の前に近づき、肩をつかまれたのだ。大妖精は、もう攻撃することもできなかった。

 

 

「いや―――!!!」

「―――滅殺!!」

 

 

 チルノの隣に並べてさかさまに大妖精を地面に突き刺し、大妖精の処分を終えた殺意リュウは感情の半分が怒りに満ちていた。

 

「こんな者ではない!真の死合いができるのは強者のみ…。だがここには弱者しかおらぬとは!」

 

 弱者に対する怒りで感情が満たされかけた時、殺意リュウは思いついたように言った。

 

「そうか…真の死合いに達するならば、それに値せぬ死合いを行い、滅すればいい!そうすれば、いずれは真の死合いに達することができるはず!決めたぞ…ならば、こいつらと同じように…」

 

 殺意リュウは地面に埋め込んだチルノと大妖精を見た。その表情は読み取ることができないが、誰でもわかるような恐ろしい悪巧みをしているのは言うまでもなかった。

 殺意リュウは森の中へと姿を消した。日は、既に落ちかけていた―――

 

 

―博麗神社―

 

 

 夜、霊夢は寝付けなかった。朝から続いていた気分のせいだ、と霊夢は思わざるを得なかった。魔理沙は昼のうちに博麗神社から帰ってしまっており、霊夢の気分を最後まで見ることはなかった。

 

 早寝早起きが習慣と化している霊夢はそれでもあくびをしてしまい、そのまま布団の中へと潜り込んでしまった。だがいざ布団に入ってみると、気分が布団に入るときの睡眠本能と合致しない。結局起き、またあくびをして…という時間だけが過ぎる繰り返しの状態だった。あくびをしすぎたせいで、霊夢の目は涙目になってしまった。

 

「…明日調査したほうがよさそうね」

 

 そう言って霊夢は布団の中に潜り込んだ。今度ばかりはきっぱりと決意したせいか、ようやく眠りにつくことができた。

 

 

 森の中ではすでに悲劇が起きているとはつゆ知らずに―――

 

 

―魔法の森―

 

 

 その魔法の森―――

 

 その光景はまさに地獄の鬼が通ったかのようなものだった。鬼の役である殺意リュウの後ろには、殺した妖怪・妖精の体がチルノや大妖精と同じように大量に埋まっていた。あたり一面すべて死体の墓と化し、埋め切れずに死体の山ができていた。

 

 

「ここまで弱者が多いというのか、この世は! …仕方あるまい、しばらくは我慢して、弱者を滅してやる!今の事でも、真の死合いに迫れているはず! 続ければ、真の死合いは…」

 

 

 そう言っていると、草むらから音がした。誰かいる。

 殺意リュウは顔をそちらに向けた。彼の見定める目はいまだに衰えを知らない。

 

 

 

次の日―――

 

 

―博麗神社―

 

 

「行くんだな?魔法の森に」

 博麗神社に着いた魔理沙が準備をしている霊夢に言った。

 

「そういうあんたの方はどうなの? そこに住んでいるんでしょ?」

「あの後ざっとだけどな。何も変わったところはなかったぜ。それでこそ気になるっていうのがあるけどな」

 

 魔理沙はくくく、と笑いながら答えを返してきた。

 

「あんた、私の勘を真似しようとしてるんじゃないでしょうね」

 

 霊夢の鋭い目に魔理沙は落ち着けよと両手を前に出した。

 

「おいおい、そりゃ私がいくらどんな魔法作ったところで無理だよ。『勘』なんて流石にそれは天性のものだぜ」

「言ってみただけよ。さっさと出発するわよ」

 

 誰もを平等にみる博麗の巫女はこんな受け答えをあまりしない。それは、魔理沙に対するわずかな心の許しがあるからだろう。2人は魔法の森へ向かった。

 

 

―魔法の森―

 

 

 2人はまず空を飛び、上空から森を見て回った。だがいくら手分けして回ってみても、何も特別変わったことは見当たらない。

 

「どう? こっちは何も見当たらなかったけど」

 

 霊夢が聞いてみるが、魔理沙は成果なしと首を横に振るだけだ。

 

「こっちもだぜ。空からじゃ完璧に調べたとは言えないし…」

 

 空からでは魔法の森は緑ばかり、地上の様子までは全て把握できるわけではない。

 

「…面倒くさいけど、歩いて探すしかなさそうね」

 

 霊夢はため息をつきながら森の中の地へと足を降ろしていった。魔理沙もそれに続き、森の中へと調査の目を向けた。

 

 少し歩いていると、五感の視覚ではなく聴覚が先に異変を感じ取った。

 

「おかしいな…」

 その言葉が出るのは霊夢にも分かっていたようでこう答えた。

 

「確かに…この森のこの静けさは異常ね…湖にも近いから、チルノとかが騒いでいたりするはずなのに…」

 

 しばらく歩き回り続けてみるが、聴覚が何も音を捕らえない。『誰かに見られている』というような感覚も何も捕らえない。だが、嗅覚が何かを捕らえた。

 

「? ねえ、何か臭わない?」

 

 霊夢は鼻をスンスンとして何かを嗅いだ。魔理沙もそれにつられて嗅いでみると

 

「…ほんとだ。なんの臭いだ? あからさまにいい臭いじゃないが…」

 

 この鼻に残る臭い、かなり気に障る。何か、嫌な予感もするような…

 

「臭いが強くなってきたわ。近くに…何かある!」

 

 2人の足が重く、ゆっくり動くようになった。そして、今まで働かなかった魔理沙の視覚が見つけた。

 

「おい、誰か倒れているぜ!?」

 

 見つけたのは地面に倒れている妖精だった。近くにはその妖精の頭がすっぽり収まるような大きさの穴ぼこがあり、妖精は右肩から血が流れ出ていた。霊夢が近くに寄り、倒れている妖精に触れる―――と同時に、目が見開いた。

 

 

「…!! 冷たい…死んでいるわ…」

 

 

 残酷な事態。だが言わなくては話にならない。この妖精は―――死体だ。

 

 

「ま、マジかよ!? てことは、この穴ももしや…? よく見るとアザがすげえ数あるけど、こんな出血するくらい…?」

 

 

 魔理沙はゆっくりと妖精の死体に触れた。冷たい。間違いなく死んでいる。

 

 

「人為的なものか、あるいは人に近い妖怪の仕業か…いずれにせよ―――っ!!?」

 

 

 妖精の死体を見て視線を下に落としていた霊夢は、顔を上げた先のものを見てしまった。

 魔理沙はそれを見て言葉が出ない霊夢の顔を覗き込んだ。その顔は、驚きと恐怖が入り混じったかのような顔だった。

 

 

「…あ…あれ…って…!!」

 

 

 霊夢は見たものを指差しした。その手は、霊夢らしくなく、震えていた。魔理沙が見ると

 

 

「…!!? な、何だありゃあ!!」

 

 

 そこにあったのは、殺意リュウが作り上げた死体の墓と死体の山、言うなれば『死体の墓場』だった―――

 

 

 

「ひでえ…いったい誰がこんなことを…」

 

 魔理沙死体の墓場の死体を一つ一つ見ていった。ほとんどの死体が殴打され、滅多打ちにされた跡が残っていた。この場を作り出した者の心は残酷だ。

 

「ざっと見ただけでも400体…かなりの数ね。しかしこのキツイ臭いは…」

 

 『死体の墓場』には誰もが耐え難い臭いが漂っていた。それに辺りには血の水たまりがあり、まともに足を降ろせない。まさに地獄絵図である。

 

「しかし切り傷が一つもなかったことを考えると…」

 

 魔理沙が腕を組んだ。そう、死体には殴打の跡が大量に残っていても、切り傷や切断された跡は一切残っていなかった。

 

「主犯は鬼…萃香や勇儀、華扇辺りだけど…そうする理由はないはず…」

 

 2人は臭いニオイを我慢しながら、異変の主犯を考えた。しばらくして

 

 

「…だめね。これは新手の妖怪か何かと考えるしかないわ」

 

 

 霊夢は結論づけた。今の情報量では、新手の妖怪しか視野に出てこない。

 

「それしかないな。こうなったら、意地でもこの異変の主犯、探してやるぜ!」

 

 そう結論づけても2人にはまだ悩ませるものがあった。これほどの地獄をどうやって処理するかということを。

 

 

 そして、2人も知らない真実と幻想郷の危機の接近の始まりは、ここからである―――

 

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