東方殺意書   作:sru307

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 2人の復活とともに起こった、2人の手による事件後の物語。
 全てが判明する時が、刻一刻と迫ってきている…


第23話「集結」

第23話「集結」

 

―魔法の森・深部―

 

 2人はようやく泣き止んだ。お互い顔を見つめ合う。泣いたせいで顔は汚れてしまっていた。

 

「…ひどい顔ね。魔理沙…」

 霊夢が少しだけ笑顔になって静かに言う。

 

「そう言う霊夢だってそうじゃないか」

 

 魔理沙は歯を見せて笑う。そして2人はまた抱き合った。やっと再会できたという想いからか、もう離れていられなかった。

 

「感動の再会の所申し訳ありませんが、霊夢さん、守矢神社の修復を手伝ってもらいますよ」

 

 早苗が釘をさす。霊夢はムッとして早苗を見たが、早苗はすぐに霊夢をなだめた。

 

「冗談ですよ。それでも今は、の話にはなりますが…」

 

 早苗は無理矢理でも霊夢を動かそうとしているのが分かった。霊夢はそれはそうだけど、という顔をした。

 

「霊夢、後で師匠に謝ってもらうから、永遠亭にも来なさいね」

 うどんげが追い打ちをかける。霊夢はしんみりしたような顔になり、何気なく自分の赤く染まった袖を見た。

 

「げっ、私今、とんでもない格好じゃん…」

 

「今更過ぎないか?」

 

 魔理沙が霊夢の袖を見て言う。この赤色は誤った自らの手で浴びた血だ。笑って見過ごす事はできなかった。

 

「とにかく、ひとまず魔理沙と霊夢の治療が先決ね。その体じゃ、今にもはじけ飛びそうだわ」

 

 アリスが心配そうに言う。霊夢の服は所々穴が空き、そこから見える肌が内出血を起こしている。魔理沙は言わずもがな、爆発に巻き込まれたせいで血だらけだ。

 

「とりあえず簡単な処置は私がするわ。じっとしていてね、2人とも…」

 

 うどんげが包帯をどこからともなく取り出し、2人の傷口に巻く。

 

「っ…! 我ながら、よくこんな体で霊夢に勝てたもんだぜ」

 

 魔理沙が痛がる。包帯にすぐ血がにじみ、わずかに赤く染まる。

 

「それにしても奇跡よ、こんな出血だけなんて…普通あれだけの攻撃、骨まで響いていそうなのに、平気で動いているんだから…」

 

 うどんげが2人の傷を治療しながらそう言う。2人の殴り合いの中で、明らかに嫌な音がしたにも関わらず、2人は痛みにさえ耐えられれば動ける。つまり骨には損傷がないのだ。

 

「確かにそれは不幸中の幸いね」

 

 治療を終えた霊夢は木にもたれかかり、ゆっくりと腰を下ろした。それにつられたか残る4人もその場に腰を下ろす。一同は何も言わずに、ここまでの激動でたまった疲れを癒やそうとする。

 

 だがその癒やしも、数十分後には一気に消え去る事となった。それが一同に分かったのは一瞬の事だった。

 

 一瞬、全ての空間が何かの衝撃にさらされたのを全員が感じ取ったのだ。

 

「!? な、何でしょうか、今のは…」

 

 早苗が後ろを振り向く。誰の気配もしないが、それが逆に怖かった。今さっき、とんでもない事が起きてしまったのを感覚的に知ってしまった今になっては。

 

「何だか、時が止まったような感覚だわ…でもそうじゃない。何か、ものすごい衝撃が…」

 

 アリスが早苗と同じ方向を見ながら言う。その目は見開いており、何かに衝撃を受けたようだ。

 

 そこからすぐに行動に出たのは霊夢だ。霊夢はまだ痛みを抱えている体に鞭を打ち、立ち上がった。

 

「霊夢!」

 アリスが止めようとするが、霊夢は反論した。

 

「こんな大変な時なのに、休んでなんかいられないわよ!!」

 

 霊夢は傷だらけの体をものともせず、走り出した。そこにいつの間にか箒と、地面に転がっていたはずのミニ八卦炉を持った魔理沙が声をかけた。

 

「霊夢、乗れっ!!」

 魔理沙が箒にまたがる。霊夢は魔理沙の後ろ、空いている箒に乗る。

 

「しっかり掴まれよ!」

 

 箒は一気に上昇し、木を越える高さで静止すると、一気に空を駆け抜けた。

 

「!! 速い…!」

 

 そのスピードは、傷ついた体の者が出せるようなものとは到底思えないほど速かった。あっという間に消え去った2人を見てすぐ行動に出たのは早苗だった。

 

「ボーッとしている場合じゃないですよ! 私たちにはまだ、2つの問題があるじゃないですか! 守矢神社を間接的に倒壊させたのも2つあるうちの1つですから、休むわけにはいきません! 私は先に行きます!」

 

 早苗は休む暇もよそに、霊夢・魔理沙を追いかけ始めた。

 

「…そうよね、まだ、霊夢を謝らせるようにさせた元凶が生きているものね!」

 

 うどんげも気合いを入れ直し、3人を追いかけた。

 

「…はあ、やっぱり乗りかかった船には、最後まで付き合わなきゃいけないのね」

 

 ただ1人決断が遅れたアリスも、後を追いかける―――前に、黒焦げの人形をそっと拾ってから、出発した。

 

―紅魔館跡地―

 

 一方、フランを元に戻したレミリア達は、フランの応急処置をしていた。

 

「うっ…!」

 

 フランの羽の根元に包帯が巻かれる。巻いているのはその傷口を作った咲夜だ。

 

「申し訳ありませんフランお嬢様。私が、あの時…」

 

 咲夜が自らの行為を後悔する。しかしフランは気にしていなかった。

 

「いいんだって、咲夜。あの状態の私は、殺意の波動と戦うだけで精一杯だったから…」

 

 その言葉には咲夜をかばうのではなく、事実を言っているような説得力があった。フランの応急処置が終わると、美鈴がどかっとその場に腰を下ろす。

 

「はあーっ、やっと一息つけますね…」

 

 美鈴は大きく息を吐き、ゆっくりと目をつぶった。

 

「美鈴、まさかそのまま眠る訳じゃないでしょうね?」

 

 咲夜が鋭く釘を刺す。美鈴はびくっとした。どうやら図星らしい。咲夜は殺人鬼のような顔をしてナイフを持ち、美鈴に刃を向けた。美鈴は目を開き、腰を下ろしたまま、後ろに下がった。目をつぶっていればナイフは見えないはずだが、美鈴には咲夜の殺気が痛いほど伝わってきた。そのせいでナイフを向けているのが分かってしまったのだ。

 

「相変わらずね美鈴も、って言えるのもこの状況だから…かしらね」

 

 パチュリーの足元がふらつく。すぐに小悪魔が支えてやった。

 

「パチュリー様、やっぱり無理していたじゃないですか~」

 

 小悪魔はそう言いながら、ゆっくりとパチュリーと共に腰を下ろす。自身もかなり疲弊している以上、無理に移動はできなかった。

 

「…やっと元通りね。まだ、肝心の部分がないけど」

 

 レミリアが静かにつぶやく。肝心の部分というのは、もちろんこの一家が住む場所だ。そのつぶやき以後、誰も口を開かずじっと体を休めていた。

 

 だがその時間もやはり数十分後には終わりを迎えることとなった。きっかけは突然フランが振り向いた事からだった。

 

「…フラン?」

 

 レミリアはフランの様子を心配する。するとフランがレミリアの耳元まで顔を近づけ、レミリアにしか聞こえない声で何かをささやいた。それを聞いたレミリアも答えをフランの耳元でささやく。それを聞いたフランは、今度は皆に聞こえる声で言った。

 

「…行こう、お姉様!」

 

 フランはレミリアと手を取って立ち上がった。

 

「ええ! リュウとあのOni、さらには霊夢を止めて、また紅魔館を立て直すわよ!」

 

 残りの一同は2人の即決ぶりに慌てた。

 

「な、もう…というか、どこに行くんですかお嬢様!?」

 咲夜が聞くが、レミリアは顔も見ずに答える。

 

「やっぱりみんなも気づいていなかったのね。フランが教えてくれたのよ! 説明は移動中にするからさっさと準備しなさい、置いていくわよ!」

 

 レミリアとフランは空へ飛び立った。残された者は訳も分からず、慌ててその後を追うしかなかった。

 

 

 

「へへっ、まさかこんな形で一緒の箒に相乗りなんてな」

 空を飛びながら、魔理沙が笑顔を見せる。異変解決では共に行動することの多い2人も、魔理沙の箒に2人乗りする事は今までなかった。

 

「…改めてありがとう、魔理沙」

 霊夢は小さく言った。しかし魔理沙はその声をしっかりと聞いていた。

 

「…素直だな、珍しく」

 魔理沙がそう言って霊夢の顔を見ると、霊夢の顔が赤く染まっていた。顔は魔理沙を見ていない。魔理沙はふっ、と歯を見せて前を見た。2人の仲はもう友達ではなく、互いを大切に思う仲間と化していた。その様子を見ていた早苗、うどんげ、アリスは何も言わなかった。今この状況に何か言葉をかけるのは2人の邪魔をしているようでならなかったのだ。

 

「…もうすぐよ、魔理沙。もうすぐ、問題の場所に着くはずだわ…」

 

 霊夢は静かに魔理沙に言う。魔理沙は気を引き締めた。そしてすぐに異変に気づいた。

 

「…!! あれか!!」

 

 魔理沙はスピードを速め、一気に地面に箒を近づける。そこに広がっているのは―――

 

「…!! な…あれは一体!?」

 

 巨大なクレーターのごとくへこんだ地面だった。何か隕石でも落ちてこなければこんな地面はできない。だが隕石が落ちてこれば幻想郷にいる誰もが気づくはず、それがないということは…

 魔理沙達はへこんだ地面に降り立った。地面に降りて見てみると、かなり広大に感じる。さらにへこんだ地面の中心まで近づいてみる。何か落ちたような跡がない。やはり隕石のせいではない。

 

「これは…やっぱりあの2人の…?」

 

 早苗が口にするのは、やはり殺意の波動に目覚めた異変の元凶2人の事だ。さらに議論を進めようとするところに―――

 

「お姉様、ここだよ! ここで何かあったんだ!!」

 

 この日聞いたことのない声が聞こえてきた。空を見ると―――

 

「フラン…!! 戻っていたのか!!」

 

 魔理沙が思わず歓喜に震える。フランはレミリアと手をつなぎ、片手を振っている。

 

「あら…霊夢も完全復活を遂げたのね。これで紅魔館再建に一歩近づいたわ」

 

 レミリアも笑ってみせる。霊夢が復活したと分かれば、この先の雲行きも怪しい部分がだいぶなくなってくる。

 

「お嬢様…速いですよ…」

 

 後に続いていた中で一番速かったのは美鈴だった。かなり息が荒れていることを見ると、レミリアとフランはかなり飛ばしてここに来たようだ。道中で説明する、という公言もほったらかしのようだ。

 

「って、霊夢!? 元に戻ったんですか!」

 霊夢は美鈴向けてふっ、と笑みを漏らした。

 

 

 

 紅魔館組と霊夢組が合流後、互いの状況、ここまでの経緯を話し合った。

 

「なるほど…とりあえず最悪の結果はこれで消えたわね」

 パチュリーが頭を抱える。無理をしていた体に飛ばしを合わせるのは苦痛でしかないが、どうにかしたようだ。小悪魔が体を支えている。

 

「そういえば、あの妖怪の賢者達はどうしたのかしら」

 

 レミリアが紫のことを思い出す。永遠亭で寝て以降、顔を見なかったが、何もしていないはずはない。この衝撃も感知できているはずだが…その時、フランがあるものを見つける。

 

「…! あれって、まさか…!!」

 フランは見つけたものにすぐ直行する。全員がフランについていった先に見つけたのは、地面に突っ伏して倒れている八雲紫だった。

 

「! 紫…!」

 

 霊夢が驚く。紫の服はぼろぼろで、擦り傷があちこちに見えた。髪も乱れており、何か強烈な攻撃を受けたようだ。場所がクレーターの近くだったことを考えると―――

 

「なるほど…十中八九この攻撃に巻き込まれたのね」

 

 咲夜が分析する。だがその原因に当てはまるのは紫だけではなかった。

 

「あそこにも何か…ってあれは、あの寺の住職じゃないですか!?」

 

 早苗が見つけたのは聖白蓮、その次に豊聡耳神子、村紗水蜜…と芋づる方式で命蓮寺組、神霊廟組、地霊殿組、妖夢、幽々子、はたて、幽香が発見されたのだった。

 

「全員息があります…まだ助かります!」

 

 うどんげが全員の診察を終える。

 

「しかし参ったな。これだけの人数、いっぺんには運べないし、この体じゃなあ…いてて…」

 

 魔理沙が頭をかく。その動作に痛がる所を見ると、万全な状態ではない。残る皆も、怪我や疲労で誰かを抱えて運べる状態ではない。

 

「あら、その心配はなさそうよ、魔理沙」

 

 アリスが空を指さす。そこにはこちらに向かって大きくなっていく慧音と妹紅の姿があった。

 

「霊夢! フラン! 元に戻ったんだな!」

 慧音は地面に降り立つやいなや、すぐに言う。

 

「魔理沙のおかげでね」

 霊夢はそう言い、魔理沙を横目でチラッと見た。

 

「お姉様が助けてくれたの。ごめんね、慧音先生。里の家を壊しちゃって…」

 

 フランは殺意の波動に飲まれていた時のことを覚えていたようだ。

 

「気にするな。悪いのはフランにこんなことをさせたリュウだからな」

 慧音はフランの心配を払拭してくれた。そこに小悪魔が聞きたい事を聞く。

 

「というか、慧音さんはこの場にいなかったんですか?」

 小悪魔の質問に慧音はうなずいた。

 

「ああ。紫に言っておいたんだ。『里に残っていいか? 生徒が心配なんだ』と…」

 

 妹紅も慧音の理由から続けて話してくれた。

 

「私も慧音の手伝いと里の様子が不安で残っていたんだが…嫌な予感がして、慧音と一緒に来てみたら、この有様だ…」

 

 妹紅はクレーターに目をやった。クレーターは変わらず、むなしさをそのままに伝えている。

 

「大体これを作った犯人の予想はついたけどね」

 アリスの言葉に慧音も妹紅も察しがついた。殺意リュウと狂オシキ鬼に違いない。

 

「…しかしどうしましょうか。いくらここで2人人手が増えても、まだ足りません」

 咲夜が心配するが、慧音が提案する。

 

「私が人を呼んでくる。なに、心配ないさ。この状況でも動いてくれる人がいるからな。後みんなの治療なんだが、里に広い空き家があるから、そこを使わないか?」

 

 慧音の提案に、うどんげは了承した。

「私が師匠を呼んでくるわ。申し訳ないけど、そこを緊急の治療室にしましょう」

 

 今ここに、異変解決の包囲網は完全な形で再び集結したのだった。

 




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