そしてついに、殺意リュウと狂オシキ鬼の関係が明かされる―――
第24話「発覚」
―人里・とある空き家―
「…さま、ゆ…様」
紫は自分の体が誰かに揺さぶられているのに気づいた。ゆっくりと重い瞼に力を入れ、上げていく。
「う…く…」
紫は体に痛みを覚えながら目覚めた。そばで体を揺すっていたのは藍だった。
「紫様! お目覚めになられましたか…」
藍が安堵の表情を見せる。
「…ここは…?」
紫は暗がりの中で目をこらす。辺りには乱れた布団が大量に敷かれており、誰かがついさっきまで眠っていたようだ。
「私も今さっき起きたばかりで分かりませんが、どこかに運ばれたようです。敵の気配はしませんので、安全です」
藍の言葉は落ち着いていた。よく見ると、藍の頬に絆創膏がついている。紫の腕にも包帯が巻かれており、誰かに手当を受けたようだ。
戸の隙間から明かりが漏れている。紫は起き上がろうとするが―――
「…!!」
起き上がろうとした途端、体中に痛みが走り、顔をしかめた。体を前に倒す。
「紫様!」
藍がすぐに体を支えてやる。紫は藍の体に腕を回した。
「ありがとう、藍…」
紫は藍に支えられながらゆっくりと立ち上がり、戸に向けて手を伸ばす。取っ手をがっちりと掴むと、そのまま戸を開けた。
そこに広がっていたのは、これまで共に行動した皆が畳に座り、石像のようにじっとしている光景だった。全員目がうつろで、疲れているのが分かった。
だが紫は、先にその奥にいる一同に目を向けていた。すると―――
「…!!」
紫は目を見開いた。そこには畳にじっと座る、本物の博麗霊夢の姿があったからだ。
「あら…賢者様がお目覚めのようよ、霊夢」
レミリアの言葉で、霊夢は紫の方を向いた。その目はあの時に見た目ではなく、博麗霊夢本物の目だった。それを見抜いた瞬間、紫は霊夢の体に飛びついていた。
「霊夢っ!!!」
「わぶっ!!?」
紫は霊夢に抱きついた。そのまま、霊夢を押し倒す。
「ちょ、重いわよ、紫!!」
霊夢はじたばたして紫を離そうとするが、紫が重しのように霊夢の体を押さえつけるせいで離れない。
「霊夢!! 良かった…!!」
紫は霊夢の胸の中で泣いていた。そして霊夢を抱いた腕に力を入れる。もう離したくなかった。ずっとこのまま、抱きしめていたかった。
「ははっ、ここに文がいたら、すぐにシャッターを切っているな」
それを横で見ていた魔理沙が笑いながら言う。出血は止まったようだが、動作にわずかなためらいがあるのを見ると、まだ体の痛みは抜けていないようだ。
「霊夢! 元に戻って…!」
藍も駆け寄り、倒れている霊夢に言う。霊夢は紫を離そうとしながら、魔理沙を指さした。魔理沙のおかげよ、と言いたかったが、紫が離れないせいで言えなかったのだろう。
「魔理沙、ありがとうございます。霊夢を救ってくれて…」
藍はお礼を言ったが、魔理沙は手を横に振った。
「なに、私個人の問題もあったから、お礼なんていいさ。それに…」
魔理沙はレミリアを見た。そのレミリアの背から、フランがひょこっと顔を出した。
「えへへ…」
フランは頭をかきながら照れくさそうだった。
「! フランも元に戻ったのですか!」
フランの元にこいしとぬえが駆け寄ってきた。どうやらこの3人、起きてからいつの間にか仲を深めたらしい。
「感謝してくれよ? 患者が患者を運ぶって事、普通じゃあり得ないからな」
魔理沙はこう言った。患者が患者を運ぶ、ということは…
その思惑が予想通りだと教えてくれたのは聖だった。
「どうやらあの後、魔理沙さん達とレミリアさん達、さらに慧音さんと妹紅さんがあの場所に来て、私たちを運んでくれたみたいです。鈴仙さんが永琳さんを呼んでくれて治療もしてくれました」
この空き家には、殺意リュウに殴り飛ばされた神奈子と諏訪子もおり、早苗と話をしていた。どうやらこれまでの経緯を話しているらしい。
「ちょっと永遠亭を大移動させちゃいました。あのクレーターから永遠亭まで、距離がありましたから…」
うどんげがそう言うが、横から差してくる永琳の鋭い目線を感じたか、冷や汗をかいていた。
「今回限りよ、うどんげ? 確かにこれだけの人数は永遠亭に収まりきらないけど、今私がしているのはただ働き同然の事なのだから」
永琳の表情は静かだったが、その裏では怒りの表情が今にも目覚めようとしていた。
「うどんげ、後で永琳の実験台を覚悟しておきなさいよ」
輝夜がさらに追い打ちをかける。うどんげはぎくっとして、体をわずかに震え上がらせた。
この緊急の治療室にいる皆の顔はどことなく疲弊し、あちこちに包帯、絆創膏、ガーゼが巻かれていた。これまでの、あるいはさっきの攻撃で受けた身体的影響はとんでもないものだとうかがい知ることができた。その中で唯一安心できるのは、霊夢とフランの無事であった。
「さて…これで全員、目が覚めたということでよいんじゃな?」
布都が霊夢を押し倒したままの紫のそばでそう言う。その言葉で霊夢が力を入れ、紫を引きはがす。紫は真横に体を転がす―――はずが、床にスキマが開き、その中に入って体勢を立て直した後、空中から立ち姿でスキマから出てきた。顔が涙の線で汚れている。
「それで? どうやらあなたたち、こてんぱんにやられたみたいだけど?」
紫をふりほどいた霊夢は立ち上がりながら紫達の身に何があったか探ろうとする。それに答えたのは神子だった。
「こてんぱんではない…最悪の事態に巻き込まれたのだ…」
神子が全てを話してくれた。あのクレーターの場所で、何が起きていたのか…
「リュウとあのOniの接触…予想していましたが、やっぱりそうでしたか…」
早苗が目を細めて言う。
「でも良かったわ。あの状態のフラン、霊夢がそこにいたら、それこそ幻想郷が滅んでいたわ…」
紫は自分が想像した最悪の事態を思い浮かべていた。
「突然過ぎないか? あのOniとリュウの衝突は」
妹紅は考え事をしているかのように腕を組みながら言ってきた。
「確かに、少し疑問に思うところはありました…」
星が思い当たる場面を思い出したかのように言う。
「その疑問に思うところって?」
輝夜が興味津々に聞いてくる。
「私たちがあのOniと戦っていた最中に、Oniは何か感じ取ったかのように空の方向を向きました。すると何を思ったか、Oniはその向いた方向にジャンプしていったのです。慌てて追いかけて見ると―――」
星の続けようとする言葉を霊夢が言った。
「あの衝撃が待っていた、というわけね」
星はうなずいた。情けないことだが、認めるしかなかった。紫も同じだった。
「私たちも一緒よ。リュウが私たちと戦っている最中にもかかわらず、突然何か感じたように私たちの横を抜けて白玉楼の階段を降りていったわ。階段を降りきると、リュウは大きくジャンプし、どこかへと飛ぶように行ってしまったわ。私たちはもちろん追いかけた。後のことは一緒よ」
話すにつれ、全員の顔はどことなく疲弊から真剣に変わっているようだった。
「リュウもOniも、何か感じたものがあるように突然戦場から離脱した…そして衝突が起こった…」
小悪魔がメモを取っている。何かあの2人を止める術はないかと模索するための記録だ。情報が少ない今、数少ない2人の行動記録は何気ないところで役立つ情報だったりする。戦闘に自信のない自分ができる最大限の貢献だ。
「その後、私たちが来たわけですが…あの2人は、どこかへ行ってしまったようです。私たちがあのクレーターに行き着くまで、気配はどこにも感じられませんでした」
咲夜はさらに続きを付け足す。
「おそらく両者とも傷ついたのでしょうね…あの衝撃を起こした中心にいるのだもの、さすがに傷一つないなんて事があるわけがないはず…」
聖が推測する。だが一同には分かっていた。あの2人の事だ、すぐに傷を癒やして、また死合いを求めようとするはず。これ以上の犠牲を払うわけにはいかない。一同は決意を新たにした。
「しかし、どうしてあのOniも、リュウも互いに場所を感じ取ってぶつかり合ったんだ…? 場所が察知できるのはまだ分かるが、ぶつかり合う理由は…」
ナズーリンが疑問を言い出す。
「お互いに殺意の波動を持っているのでしょう? なら簡単よ。相手の殺意の波動を自分の力にしたいだけ。まさに自己中心的ね」
輝夜があっさりとナズーリンの疑問に答える。
「それしかないじゃん、ナズ。どっちも殺すか殺されるかの戦いを望んでいるなら、相対できるのは本望だもの。…あんまり言うもんじゃないけど」
ぬえがきっぱりと輝夜の推理を肯定する。一同のもほとんどが納得するが、霊夢だけは違っていた。
(違うわ…リュウとOniには…)
霊夢がそう思った時、突然謎の頭痛が霊夢を襲った。
「うぐっ!!?」
霊夢は思わず頭を抱え、うずくまる。
「霊夢!?」
すぐ魔理沙が霊夢の元に駆け寄る。頭を抱えた霊夢の額に汗が見える。かなりの頭痛のようだ。
「うどんげ、頭痛薬が箱にあるから取ってきて」
永琳は冷静にうどんげに命令する。うどんげはすぐ走って行った。ようやく取り戻した霊夢が苦しんでいるのを、もう見てはいられなかった。永琳がすぐに霊夢の顔をのぞき込む。
「…これは…まさか、偏頭痛ではないと思うけど…」
永琳は少し困った表情を見せる。体調不良というわけではどうもないようだ。それに気づいたのは、殺意リュウ、狂オシキ鬼と同じ気の使い手、美鈴だ。
「…! 霊夢さんの頭から、殺意の波動と同じ邪悪な気を感じます…!」
美鈴自身も信じられなかったが、間違いなく霊夢の頭痛を抱える頭からはそれを感じ取ったのだ。
「なっ!? あの時、完全に抜け切れていなかったのかよ!?」
魔理沙は驚き、汗をかく。ここまでしてやっと取り戻した友を、また同じようにするわけにはいかなかった。
「…殺意の波動が、また暴れだそうとしているのね…」
紫が殺意リュウを恨むかのように目を細める。霊夢をまだ苦しめる殺意の波動を恨む節がひしひしと伝わってくる。
そこに緊急を促す事態が、フランにも襲いかかった。しかもそれは、頭痛という霊夢と同じ症状によって。
「!? うっ…!!」
フランが頭痛に襲われ、床に倒れる。目をつぶり、熱に苦しめられているように汗が額をつたる。美鈴がすぐに見てみると―――
「…!! これも、殺意の波動…!!」
美鈴の言葉を聞いた途端、レミリアが必死にフランに呼びかけた。
「フラン! フラン! しっかりして!!」
レミリアの目は今にも泣きそうだった。まさか、ここでまた離れてしまうのかと思うと、嫌で仕方がなかった。
「ぬう…ここで目覚めてしまうと、人里まで被りかねんぞ!」
マミゾウが警告する。ここで2人が元の状態に戻ったら、人里に飛び出して暴れてしまう。それを阻止するには何としても殺意の波動の抑制か、ここで2人を殺すしかない。
だがその心配は突然の事態から自然に消えていった。霊夢・フランの両手が謎の淡い炎のようなものに包まれた。偶然にも霊夢の手を握っていた魔理沙は、反射で手を離す。
「熱っ!?」
魔理沙は手を振って手を冷まそうとする。だが次の瞬間、魔理沙には一瞬何か今見ているものとは違うものが見えていた。
「…!?」
魔理沙は己の目を疑った。だがその次に見えたのは、頭痛に苦しむ霊夢の姿だった。
「美鈴、フランの手が…! これも…」
咲夜がフランの手を見て美鈴に見てもらう。だが美鈴の判断は違った。
「!? 何でしょう、これは気ですが…殺意の波動ではありません!」
うどんげが頭痛薬を持ってくる。永琳は粉薬を霊夢の口に、うどんげがフランの口に薬を流し込もうとする。
だが霊夢は頭痛を感じながらも、体が動いていた。目指す先は、フランだった。そのフランも、霊夢を目指そうとレミリアのそばから離れる。
「れ、霊夢!?」
「フラン!?」
魔理沙とレミリアは2人を止めようとするが、2人は止まらない。そして淡い炎に包まれた両手を互いに握った。その瞬間、淡い炎が一気に燃え上がった。炎から光があふれ出す。
「うっ!?」
その場にいた一同が光で目をつぶる。次に目を開けた時に見えたのは―――
「あ、あれ? 藍しゃま、これって…」
一番に目を開けたのは橙だった。そこには謎の空間に浮かぶ自分を含めた一同と、空間に広がる青空が見えていた。さっきまでの空き家はどこにも見当たらない。
「これは…私たちは何を見ている…?」
一同は、空間に広がる謎の映像を見ていた。まるで最初から録画されていたビデオを見るかのように。
空間に広がる青空は今の幻想郷の空とは縁遠い青空だ。青空の元には森が広がっている。その森の中に、寺があった。
「あの寺は?」
村紗が疑問を持つ。この寺は、どうも自分たちが住む命蓮寺には見えない。
「この森…昔の命蓮寺の周りにはなかったはず…」
聖が寺の周りを見ながらそう言う。映像は突然、寺の中を写し出した。
「かなり朽ち果てているわね…とても人が住めるところじゃないわ」
永琳の言葉からも分かる通り、寺の中は屋根、壁、床までも朽ち果てており、人が住める場所ではなかった。そこにあるのは、瓦礫とひび割れが入って不気味に見える金剛力士像だけだった。やはりこの寺は、命蓮寺ではない。
「私たちは、今…外の世界の映像を見ているってこと…?」
ボロボロの寺の中で、対峙する者が2人いた。姿が黒い靄に隠れていて外見はよく分からない。
「!? 誰でしょうか…?」
美鈴がどうにか見破ろうとするが、見破れなかった。2人は戦いを始めた。その戦い方は明らかに彼女たちが知る幻想郷のルール、スペルカード戦ではなかった。完全なる殴り合いだったのだ。
2つの黒い靄は時折合わさるように重なり合う。しかしある時だった。突然1つになった靄からいきなり1つが吹き飛んで2つになり、吹き飛んだ靄は金剛力士像に当たって金剛力士像の瓦礫ごと姿を埋めていった。
「な、何だ…? 何をしているんだ…?」
一同は黒い靄を払おうとするが、空間に広がった映像には誰も干渉できるわけがなく、映像が暗くなっていく―――が、再び霊夢とフランの炎が映像を照らす。
映像は、再び最初から始まった。
「な、なんか本当に録画されたビデオを見ているみたいですね…」
早苗がそう言う。映像は寺の中を写す所まで進んでいた。2人が対峙する場面まで映像が進む。そこにあったのは黒い靄ではなく、1人は黒いシルエットに、もう1人は―――
「!!! こ、これは!! あのOniじゃないですか!!?」
戦っていた者の1人目は、地霊殿、命蓮寺組、はたて、幽香が戦っていた狂オシキ鬼に間違いなかった。
「間違いない…私たちがついさっきまで戦っていた、あのOniだよ!」
狂オシキ鬼の服装は幻想郷にいるときと変わっていない。これはまさしく同一人物の証拠だ。狂オシキ鬼はもう1人、シルエットのみが判明した者の腹に拳をめり込ませた。体勢を崩した者に狂オシキ鬼は力を溜め、巨大な波動拳を作り出す。巨大な波動拳を放出し、シルエットの人物に当てる。シルエットの人物は吹っ飛び、金剛力士像に当たって瓦礫ごと姿を消す。
「! あの時の靄はこれを表していたんですね…」
狂オシキ鬼は埋まった者が動かないと判断したか、寺を去って行った。
「見たことのない古びた寺、そこにいたOni…待ってください、ということは…!」
さとりが一つの結論を出した。それは神奈子も気づいていた。
「あのOniはこの幻想郷の鬼が殺意の波動に飲まれたものじゃなくて、元から別の世界にいた奴だってことか…!!」
そう、見たこともない寺と狂オシキ鬼のつじつまを合わせるには、別世界だと判断すればいい。
「でもそうだとして、どうしてこの映像が…」
小傘が映像の理由を問おうとすると、崩れた金剛力士像の瓦礫が、不気味に動いた。
「! あのシルエットの奴が、まだ生きていたのか?」
慧音がそう言い終えると、瓦礫からその人物が飛び出してきた。その姿はもうシルエットではなかった。それは―――
「!!! そ、そんな!!?」
「こ、こんなことが…本当に…!!」
殺意リュウ―――この異変の元凶と思われていた者は、狂オシキ鬼の被害者に過ぎなかったのだ―――
これで年内の投稿は終了です。読者の皆様、よいお年を。
そして来年もよろしくお願いします。