東方殺意書   作:sru307

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 ついに明かされた、異変の裏に隠された真実。
 そこから浮かぶのは、全てをつなげるとんでもない仮説―――

 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


第25話「仮説」

第25話「仮説」

 

 霊夢とフランの両手の炎は収まった。2人はガクッと膝をつく。すぐに魔理沙とレミリアが支えてあげた。しかしそこに言葉の掛け合いはなかった。あの真実を知ってしまった一同は、全員が絶句してしまった。まさか…

 

「…あの映像、本当なんでしょうか…? いくら何でも、つじつまが合いすぎでは…」

 長く沈黙が続き、屠自古が沈黙を破る。確かにあの映像の信憑性を計る手段はない。作った映像なら、つじつま合わせも簡単だろう。

 

「…いえ、つじつまが合いすぎるせいでむしろ私には、本当のように思えるわ」

 青娥が静かに目を細めて言う。作り物の映像でも、ここまでつじつまの合うものは作れるかという疑問からだ。

 

「だとすれば、あの衝突も偶然の産物じゃないって事に…因縁があって、リュウとあのOniは…」

 

 水蜜が結論を出す。あの映像から出せる最大の結論だ。つまり―――

 

「…そうか…あのOniが、本当の異変の元凶って事か…!」

 

 妹紅が怒りをたぎらせるかのように右拳を握りしめた。今まで自分たちは、互いの因縁という理由だけで振り回されていたのだ。それを思うと、怒りが自然とこみ上げてきた。

 

「…リュウも、本意であの行為をしている訳ではないって事に…なるんだな…」

 

 慧音が静かに言う。殺意リュウの元の意識は、狂オシキ鬼によって殺されたのだ。あの映像からは、思い返せばそれがすぐに見て取れた。

 

 一同は認識を改めた。これからは殺意リュウを恨むのではなく、慈悲を持って倒さなければならない。恨みを持つべきは狂オシキ鬼のみだ。

 

「というより、外の世界に人外の生き物がまだいるとは…」

 藍がそう言うのは、紫から外の世界の事をある程度聞かされていたからだ。外の世界は存在しない種族を否定した。幻想郷に妖怪がはびこるのはそのせいだと教えられたのだ。

 

「…いや、もしかしたら…」

 

 藍の言葉が言い終わった瞬間、レミリアがこうつぶやいたのを布都は聞き逃さなかった。

 

「な!? 其方、『もしかしたら』とは…」

 

 布都の声で全員がレミリアに顔を向ける。レミリアはひょっとしたら、という顔をしながら考える仕草をしている。顔を向けられていることに気づいていないようだ。

 

「因縁…でもリュウには言葉が通じている様子はなかった…ただ単に『死合い』とかそんなことを言っていた…」

 

 レミリアは思い出すかのように次々とつぶやく。布都は慌ててレミリアの考えていることを止めようとする。

 

「ま、待つのじゃ。もしや、あのOniは元人間だったとか言うわけではあるまいな?」

 

 因縁ということは何かしらの関係がある事になる。しかしリュウは人間であり、狂オシキ鬼は鬼。種族自体が違うから、そんな種族を越えた交流自体があったかと言われれば分からない上、外の世界なら鬼が存在しているかどうかも疑問が出てくる。これらの問題点全てを解決する1つの仮説は、狂オシキ鬼は元々人間だったという説だ。それならリュウとは人間だった頃に因縁があってもおかしくないし、外の世界に鬼が存在するのかという疑問も解消される。だがこの仮説は突飛もない説だ。

 

 布都の言葉で皆の視線を感じたレミリアは、一同に言った。

 

「言わないけど、どうかしらね。霊夢やフランが飲み込まれた殺意の波動がある以上、結構現実味がある気がするけど。少なくとも、私はそうだと思うわ」

 

 レミリアは冷静だった。このとんでもない仮説、もう曲げる気はないようだ。さらにパチュリーがレミリアの仮説を肯定する。

 

「残念だけどレミィの言う通りよ。殺意の波動は、私のような魔法使いが使う魔力でもなければ、霊夢のような霊力でも、妖怪が持つ妖力でもない。美鈴が能力で使う『気』なのよ。気に関して詳しいことは知らないけれど、本当に過度の量で人間を化け物に変えてしまう力かもしれないっていうのは、十分あり得るわ」

 

 パチュリーの説明には、自身はレミリアの仮説を信じるという意志が流れていた。

 

「殺意の波動は異常なほど邪悪な『気』でした。悪しき気の事は私にも詳しくは分かりません。だからこそあり得るんです」

 

 こう説明する美鈴も、レミリアの仮説を信じていた。そこからは、誰も考えるのをやめた。ここから考察したらキリがない。

 

「そういえば、今って何時だ?」

 ナズーリンが時間を聞いてくる。この部屋には時計がかけられていない。だから、すぐに時間を確認できないのだ。

 

「午後の11時ですね」

 咲夜がどこかに持っていた懐中時計を取り出して見る。

 

「げっ!? 私たち、こんな遅くまで戦っていたんですか!」

 小悪魔が驚く。日の光は狂オシキ鬼が起こした噴煙で隠れ、もう体内時計が役立たなくなっており、時間がどれだけ過ぎたかも分からなかった一同は、夜遅くまで戦っていたのだ。

 

「…医者として私からの提案だわ。今日はここで休みましょう」

 永琳は右の人差し指を立てて言った。

 

「名案だけど…いつまた襲ってくるか分からないよ、あのOniとリュウは」

 ぬえがちらっと窓を見る。今にもこの窓を突き破って殺意リュウか狂オシキ鬼が飛び出してきそうだ。

 

「交代で見張りましょう。もちろん怪我のひどい人はやらせないようにしますが…」

 聖が提案し、皆は同意した。

 

 

 

 その夜のこと。交代の見張り番以外皆がぐっすりと眠りにつき、怪我と疲労を癒す中、布団の中で眠れない者がいた。霧雨魔理沙だ。

 

 魔理沙は仰向けになって手を頭の後ろに置きながら、何も考えずに真っ暗な屋根を見続けていた。今まで言ってきた言葉が、すぐに思い起こされる。

 

 

『霊夢――――――!!!!!』

『違うっ! お前は…お前は、博麗霊夢だっ!!』

『…霊夢を、救いたいぜ』

『…見苦しいぜ、霊夢! お前がそんな、誰でも間違っているって分かる事を言っているのはな!!』

『ここからは私の勝手だ! みんながどうしようと、私はこのまま戦い続けるからな!』

『おおおおおおっ!!!』

『昇龍拳!!!』

『今のお前と私じゃ、戦いにかける思いが違うんだよ!!』

『分からないのか? 博麗霊夢!』

『…戻ってくれよ、霊夢…』

『あの時、私がお前の嫌な予感を思いやって、魔法の森を独自に調査していればよかった。そうしていたら、今とは…違う…結果に…』

『…ごめんな、霊夢…!!』

 

『まりさ…魔理沙ぁ…っ!!』

 

 

 霊夢の声を思い出したとき、横から魔理沙は、誰かの視線を感じた。魔理沙の隣、皆の計らいでその場所に寝かせてくれた霊夢が魔理沙を見ていた。

 

「眠れないのか?」

 

 横に寝転がった霊夢はうなずいた。その顔は何だかさえないようだった。

 

「まあ無理もないか。今さっきまで霊夢、お前が敵だなんて、考えられないからな…」

 魔理沙は横に寝転がって霊夢と顔を合わせながら言う。

 

「そんな事じゃないわ。ある事を考えていたの」

 

 魔理沙は不思議な顔をした。まだ、殺意の波動が何かあるのだろうか、と魔理沙は考えたが、続く霊夢の言葉でそれは間違いだと分かった。

 

「魔理沙、何で私はリュウに襲われたんだと思う?」

 

 霊夢は目を鋭くして、魔理沙に返答を迫った。それだけ回答を求めているのだ。

 

「えっ? そりゃあ…いや待てよ。リュウは霊夢の役割について知る由なんてなかったよな?」

 

 霊夢に質問されて魔理沙が真っ先に考えたのは、霊夢の博麗の巫女としての役目だ。博麗の巫女は異変が起きた際、すぐに行動して異変を解決する役目を持つ。その過程で、少なからず博麗の巫女は妖怪から恐れられたり、復讐の念を持ったりする。今回の異変は後者、殺意リュウの復讐か、そう考えたが、殺意リュウは外来人。博麗の巫女の役目も知らなければ、そもそも幻想郷という世界の事すら知らないはずである。それなら、なぜ霊夢はリュウに襲われたのか理由がないことになる。

 

「ええ。私もあの時『異変解決を仕事する』とか言っていないから、リュウは幻想郷における私の役割を知らないはず。それなのにこう言っていたのよ。『俺の脳裏に妙ないらだちを感じさせる奴というのは、貴様のことか!!』って」

 

 殺意リュウの言葉に、魔理沙は眉をひそめた。

 

「いらだたせる? つまり霊夢の存在自体が、リュウにとっては目障り、いや気がかりってことか。でもなんでそんな霊夢とあった瞬間に急に言ってきたんだ?」

 

 魔理沙は考え込んだ。いきなり会っただけでいらだちを感じ、襲ってくるなんて八つ当たりのように思えるが、霊夢が気にかかっていることであるとすれば何か裏があると思ったからだ。

 

「そう、それが引っかかっているのよ。そしてこれは推測なのだけれど、もしそのいらだちというのがリュウの本当の意識なら―――」

 

 魔理沙は慌てて霊夢の言いたいことを止めた。

 

「ま、待ってくれ。まさか霊夢、私が霊夢を元に戻したように今のリュウを元に戻そうって考えているのか?」

 

 もし本当だったら無茶苦茶な話だが、霊夢の考えは違った。

 

「そこまで考えていないわ。ただ、あの映像をみんなに見せてくれたのはリュウの本当の意識としか私には思えないのよ。リュウは今も迷っているのよ、殺意の波動に身をゆだねていいのか、って…」

 

 霊夢は、元の姿に戻った、リュウの苦しむ姿を思い浮かべているようだった。今さっきまで同じ境遇に立たされていた自分と同じなら、救えるのは―――私たちだけだ。それに応えてくれる者が、すぐ目の前にいた。

 

「…霊夢、レミリアの言ったこと…信じているのか?」

 

 魔理沙が静かに聞いてくる。霊夢は表情を変えずに返した。

 

「逆に聞くわ、魔理沙はどうなの?」

 

 霊夢は、いや、もうレミリアの仮説を信じているようだった。もう魔理沙は、霊夢がレミリアの仮説を信じるわけを聞く権利はなかった。唯一の権利は、霊夢を仲間として信じることただ1つだけだった。

 

「…霊夢、お前を信じているぜ。だから、私の力も使ってくれ。あの時、お前を元に戻せたのは、アリス、早苗、鈴仙、3人の力があったからだ」

 

 魔理沙の目は霊夢を救い出そうとしていた想いを持ったときから変わっていなかった。

 

「…ええ。やってやるわよ、魔理沙。絶対にこの異変を解決してやるわよ」

 

 霊夢と魔理沙は、布団の中で片手を出し合い、ぐっと約束の握りをするのだった。

 

 

 

 別室では、紅魔館の面々がぐっすりと眠りについていた。しかしふとフランが目を覚ました。何か用を足したり、寝付けなかったりしたわけではない。なぜか急に、目が覚めてしまったのだ。

 

 フランは何気なく横に寝転がった。そこで見たのは、隣に寝ているはずのレミリアの布団だけだった。レミリアがいない。

 

 フランは誰にも気づかれぬよう静かに起き上がり、寝巻きのままそっと外に出た。人里はしんと静まりかえり、もうだれも見張りはしていないようだ。

 

 屋根を見ると、その上で、レミリアが星の瞬きすらも失った夜空を見ていた。フランは無言で迷うことなくレミリアの元へ向かった。

 

「…お姉様、眠れないの?」

 フランは屋根の上に乗りながら聞いた。

 

「…ええ。やっぱり、色々とあると落ち着かないわ。今フランがここにいるなんて、まるで夢のように思えちゃうし」

 

 レミリアの言うことは最もであった。殺意リュウが幻想郷に降り立ち、殺意フラン・殺意霊夢が誕生し、狂オシキ鬼が地上に出て、殺意霊夢・殺意フランが元に戻ったのも、全て1日で起きた事なのだ。

 

 フランはレミリアの横に座り、レミリアと一緒に空を見た。

 

「…お星様が見えない夜って、寂しいね」

 

 噴煙に隠れた空は、時が経つのを忘れてしまうこともあるきれいな星の光も見渡せない。

 

「…ええ」

 レミリアは返事をするだけでフランの顔を見ようともしない。自分が立てた仮説のことを考えているのだろうか。

 

「…お姉様」

 フランはレミリアに言いにくそうに話しかけた。

 

「…私、どうしても気になる事があって…言っていい?」

 レミリアは黙ってフランに顔を向けた。フランがその目を見ると、レミリアが『話しなさい』と訴えているのが分かった。

 

「…リュウに襲われたとき、なんで私は殺意の波動に飲まれるだけで済んだんだろうって…」

 

 レミリアは何も言わなかった。ただフランの言ったことを飲み込むだけだった。

 

「だって、紅魔館を崩壊させたのも、リュウがしたことなんでしょ? あんなに大きかった紅魔館を一瞬で壊すなんて、私の能力でもない限り無理な事なのに、リュウはやってのけたんでしょ? だったら、あの時に私は死んでいたんじゃないかって…」

 

 確かに殺意リュウは紅魔館をいともたやすく崩壊させたものすごい力がある。ならフランの体はあの時の攻撃には耐えきることができなかったはずだ。それなのに今フランは背中に咲夜のナイフが刺さった傷だけでちゃんと生きている。謎の移動、阿修羅閃空から出された謎の攻撃、瞬獄殺がどれだけ破壊力があるか分からないとはいえ、体が無事で済んだことがフランには不思議に思えてならなかったのだ。さらにフランはこう続けた。

 

「今になって考えたら、私はリュウに手加減されたんじゃないかって思ったの。リュウは、ほんの数時間前の私と同じように、本当の意識が殺意の波動と戦っているんじゃないかって…」

 

 フランの考えていたことは、まさに霊夢とほぼ同じことだった。それを聞いてもレミリアは表情を崩さない上、何か動作もしない。興味がないわけではない。ただフランの考えを、真に受けているという現れだった。

 

 レミリアはそのまま、次の言葉をフランにかけた。

 

「フラン…あなたの言うことが合っていようが間違っていようが、私はもうあなたのそばから離れないわ。安心して、自分の思うことを信じなさい。そして私に協力してもらいたいなら、今のように私に言いなさい」

 

 レミリアの言葉にフランは思わず泣きそうになった。

 

「お姉様…」

 

 フランはレミリアの胸に飛びついた。レミリアは静かにフランを腕の中に迎え入れ、そっと抱きしめた。

 

「さあ、今日はもう眠りましょう。休まないと、簡単なことも難しく思えてしまうわ」

 

 レミリアはやさしくフランにそう語りかけた。

 

 

 この時、噴煙に隠れて皆が知る由もなかったが、蒼い炎が月めがけ飛んでいったのだった―――

 

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