東方殺意書   作:sru307

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 突然申し込まれた華扇の決闘。
 それを受け入れるリュウ。果たして、この戦いの先に見えるものは―――


第34話「確認」

第34話「確認」

 

 次の日の朝―――空はこの地の脅威がいないせいか、雲一つない快晴となった。まだ一瞬にして雷が落ちそうな天候になる要因を誰もが知る衛星に抱えながら。

 

 その空の下、リュウがあぐらをかいてじっとその時を待っていた。静かに風の音に耳を澄まし、集中力を高める。

 

 土を踏む足音が聞こえてきた。リュウが目を開くと―――華扇が挑戦者のまなざしを向けて、仁王立ちしていた。

 

「…始めるか」

 

 リュウの言葉に華扇はうなずくだけで言葉を返さない。もう戦いの事に集中しているのだろう。それを見ているのは幻想郷の有力者たち、そして華扇が広めたのか、里の人々だ。リュウが今なら正しいかどうか、自らの目で確認したいという気持ちがあるのだろう。辺りが騒がしくなり始める中、リュウは道の真ん中に堂々と移動し、華扇と相対した。2人はじっと互いを見たままだ。

 

「…始まるわ」

 2人は構え、相手の息が合わない時を待つ。そして―――

 

「おおおっ!!」

「はああっ!!」

 

 2人はほぼ同時に真正面から走り出していく。右拳を同時に突き出す。

 

 

ガン!!

 

 

 お互いの拳がぶつかり合い、2人は後ろにのけぞる。先に仕掛けたのはリュウだ。

 

「波動拳!」

 華扇は横に転がって波動拳をかわし、スペルカードを宣言した。

 

「龍符『ドラゴンズグロウル』!!」

 華扇の右腕に巻かれている包帯が暴れ出し始め、リュウに襲いかかる。包帯がリュウの体に突き刺さるように飛んでくるが、リュウは既に見切っているか、素直に横に避ける。次々に包帯が飛んでくるが、リュウは横転も使ってかすりもしないように避けていく。殺意リュウの時にさらされた弾幕地獄が、ここで活きている。

 

「…っ!」

 華扇は包帯の動きを活発にさせるが、リュウは弾幕がさらに激しくなっていく華扇近くまでさらに接近していく。

 

 そしてついに、リュウと華扇の距離が互いの腕ともに届く距離になった。華扇は包帯を素早く巻き戻し、リュウの攻撃に耐えようとする。リュウはいきなり下にしゃがみ込み、下段から細かく攻撃を仕掛ける。華扇も反応良くしゃがんで攻撃を両腕で防ぐ。

 

 リュウの攻撃の反動で華扇は少しずつ後ろに下がる。リュウの腕が届かない距離まで下がると、リュウもそれに気づいて攻撃をやめた。両者の腕の長さはほぼ同じ、この距離ではどちらの体にも腕は届かない。

 2人はその距離で互いの顔を見る。つかず離れずの距離の読み合いは、見ている側も緊張に誘い込む。先に仕掛けるはまたもリュウだが、華扇の守りがよく流れを傾けられない。

 

 

「互角…何でしょうか?」

 美鈴がここまでを振り返るようにレミリアにささやく。レミリアはじっと2人の戦いを見ながら、すぐに言った。

 

「―――違うわよ」

 レミリアは気づいていた。

 

「よく見てみなさい。今有利なのは、リュウの方よ」

 

 リュウが攻撃している時に華扇はカウンターを仕掛けることができていない。それもそのはず、リュウは細かく攻撃を刻むため、大ぶりな動作が見て取れないのだ。これではカウンターしようにもその瞬間を止められてしまう。

 

 さらにリュウは隙なく少しずつ華扇に向けて歩いてくるため、2人の距離がリュウに分のある接近にしかならないのだ。もちろん華扇もまだ宣言できるスペルカードはあるが、この状態での宣言は自殺行為になる。

 

(くっ…まずい…このままではさばききれなくなる…!)

 華扇はもちろん気づいていた。このままでは、勝ち目がないと。

 

「はっ!」

 華扇は思い切ってリュウの腹に蹴りを入れる。

 

「うおっ!」

 リュウは後ろに吹き飛ぶだけで、体勢は崩れない。だが距離は離れた。

 

「さっきのスペルカードが駄目なら、これはどうかしら!?」

 

 先ほどのスペルカードは威力を重視したもの。それとは違い華扇の通常弾幕は手数重視の大量、さらに放たれるタイミングはランダムという、予測もしにくい弾幕だ。単純明快だが、厄介なものになることはすぐに分かる。大きくそれようにも、里の道は横幅が狭く、確実に弾幕の何発かは被弾する。

 

「なっ…!」

 だがその状況に置かれたリュウの次の行動に、華扇も声を上げて驚いた。

 

「ハッ! ハッ!」

 何とリュウは弾幕の軌道を横にそらすように腕で弾幕に1つ1つを払いのけている。弾幕を回避する手段として幻想郷の有力者が使っている方法は、『グレイズ』と呼ばれる弾幕の中を前方に進み、体に掠る弾を防ぐというものがあるが、これは全くの新しい技術だ。リュウ独自の、今までの常識を覆す技術。

 

「…あんな避け方をするなんてな」

 魔理沙がにやりと笑いながらリュウの様子を見守る。

 

「…彼は、戦いの中で成長しているわ。殺意の波動に飲まれている頃から、異常に適応力が良かったのもうなずけるわ」

 

 霊夢がそう言う。そう、考えて見れば殺意リュウの波動拳の嵐も、複数の相手に対して、しかも弾幕を主力とする相手に対して即興で出してきた技だ。霊夢に波動拳のとどめを刺す前に出した霊夢への腹の一撃も、霊夢の夢想封印を全て被弾しながらも耐えたあの攻撃の応用だ。彼はその適応力の高さを活かし、相手の攻め手を一つずつ潰していく。相手に全力を出させるように、戦わせる戦法。リュウの無意識の中に生み出された、リュウらしい戦い方だ。

 

 そう思う間に、リュウは再び華扇に接近し、読み合いを強要する。華扇は背を見せるわけにも行かず、その読み合いに付き合うしかなかった。だがそこを彼女は逆手に取った。思い切って己の渾身の力をぶつければ、流れを手に入れる事ができるはずだと考えたのだ。

 

 華扇はリュウに気づかれぬように視線からは見えない所まで足を踏み出し、構えた。リュウは既に華扇にブローを入れようと構えている。攻撃が早いのは、華扇の方だ。

 だが霊夢は直感的に思った。次の攻撃、通じるのはリュウだけだと。

 

(いえ、ここでその攻撃はまずいわ…なぜならリュウが出そうとしているのは…)

 

「喰らえっ!」

 華扇はリュウの腹ど真ん中に右ストレートをたたき込む。が、リュウはひるみすらしなかった。

 

「嘘!?」

 リュウには華扇の力強い右ストレートが通じていなかった。霊夢の直感通りだ。

 

(一度だけ攻撃を受けても平気なあの技!)

 

「おおりゃああ!!」

 華扇の腹に、右のブローが食い込む。華扇は膝を地面につき、必然的に構えを解いてしまう。

 

「おりゃ!」

 

 リュウは右のブローが食い込んだ華扇の腹に再びボディブローを突き刺す。拳が、さらに華扇の横腹に深く入り込む。華扇は無理矢理に膝を地面から浮かせられた。これでは、体勢を立て直すのはさらに困難と化す。不安定な体勢の華扇に決めるフィニッシュはもちろん―――

 

「昇龍拳!!」

 

 華扇は背中から地面に墜落し、その勢いで後転して立ち上がったが、顎の痛みに顔をゆがめた。気を緩めたら、意識が一気に遠のきそうだった。

 顔を前に向けると、リュウは容赦なく追撃をかけてきた。

 

「チェイサー!」

 リュウの上段足刀蹴りが華扇の顔をかすめる。まともにもらっていたら意識を確実に刈り取られていた。しかしそれに気をそらされたか、リュウは素早くしゃがんだ。

 

「せいやっ!」

 足払いをかけられ、華扇は受け身も取れずに背中を地面にたたきつけた。リュウは追い打ちをかけず、華扇が立ち上がるまでじっと顔を見て様子をうかがう。

 

 華扇は足がガクガクしながらも構えている。まだ降参の印を出す気はないようだ。その時、リュウは一瞬、手が燃えるような感覚を味わった。手を見てみると―――

 

「…これは!」

 リュウの両手が、波動に満ちあふれていた。この波動は―――殺意の波動だ。

 

「…殺意の波動が!」

 華扇がリュウの両手を見た時、リュウに向けて叫んだ。

 

「見せてみなさいリュウ!! その殺意の波動が、いかなるものか!」

 そう言って華扇は小細工なしの光弾を両手に溜め始めた。

 

「…!!」

 華扇の眉間にしわが寄る。かなり力を溜めているようだ。

 

 リュウはとっさに思った。この光弾が、華扇の最後の攻撃だと。ならば、答えるのはもちろん全身全霊―――

 

「行くぞ!!」

 リュウは波動拳の構えを取る。両手の中では、今にもはじけ飛びそうな不完全ながら丸い形をした弾があった。

 

「…滅!!」

 

 華扇は勢いよく光弾を発射した。リュウは両手にある波動が安定した瞬間、両手を前に突き出した。そのタイミングはほぼ同時だった。

 

「波動拳!!」

 

 

 ドォン!!

 

 

 華扇の光弾とリュウの滅・波動拳はちょうど互いの中間距離で激突した。2つの弾は互いを押していくことなく、その場にとどまり続け、やがて勢いが弱くなっていき、そして消滅した。威力は互角、相殺されたのだ。

 

 リュウは動揺せずに華扇の様子をうかがう。華扇はリュウを見続けながらこんな事を言ってきた。

 

「殺意の波動…新聞で読んだものとは印象が違いましたね」

 華扇は額に汗を浮かべながら、笑顔を見せた。すると、自然と華扇の構えが緩くなっていき、最後には構えなくなった。

 

「まだ抑えることはできていない。だが、覚悟はもう決めた」

 リュウが波動拳の構えを解きながら言う。

 

「…ふむ。偽りのないいい目です。よろしい、これ以上戦闘の継続は無用です」

 華扇はまだ痛むであろう体の力を抜いた。

 

「…え? でも2人とも、まだ立ってますよ?」

 小悪魔が聞いてくるが、華扇の顔は崩れない。

 

「何を言っているのですか。元々の目的はリュウに己の非を認め、しっかりと元の者としていられるかを示させること。それに…」

 華扇はリュウの手を見た。もう殺意の波動はなく、敵意も見当たらない。

 

「確かめたかったのです。殺意の波動に抗うのではなく、受けいれて新たなる力に昇華できるのかということ、そしてリュウ自身は、殺意の波動とどう向き合っているのかを…」

 

 華扇の言葉に、フランは己の手を見つめた。

 

「受け入れる…」

 フランはグッと手を握った。私も、この殺意の波動と共に生き抜かなくてはならないんだ、と密かに覚悟した。

 

「リュウ、あなたの心、確かに本物と分かりました」

 華扇はもう体の痛みを感じていないように笑顔を見せている。

 

「…そうか。それなら何よりだ」

 リュウの言葉を確認した華扇は民衆に向けて言った。

 

「どうです、皆さん。もうリュウは、あなたたちの考えるような、非道な者ではないですよ?」

 民衆は何も言わずにすごすごと去って行った。反論の余地がなかったのだろう。

 

 

 民衆が全員去ると、一同はこぞって2人の決闘者の周りに集まった。

 

「いや~、見ているこっちがドキドキしたのう」

 マミゾウが笑いながら言ってくる。

 

「そりゃ殺意の波動に飲まれたら強い訳だわ…あんたの素の強さがそれなら」

 ぬえがたじろぐようにリュウに言う。

 

「心も強く、技も強く…剣士の理想像に近いですね」

 妖夢がリュウに感心する。それを見た華扇は、リュウが完全に幻想郷の者達に分け隔てなくなじめている事を確認した。

 

「さて、これで私の役目は終わり…次は幻想郷のために動きましょう」

 

 華扇の言葉に反応したのは霊夢だ。

「…私たちと同行するという事ね?」

 

「ええ。あのOniがなぜあそこまで殺意の波動にこだわる理由がまだ分かってないですから」

 華扇は狂オシキ鬼の目的が気になっているようだった。人間である事を捨ててまで殺意の波動を浴びたい理由があるのは間違いないが、会ってみなければ分からない。

 

「よし…いよいよ月だな!」

 魔理沙が帽子を目深にかぶる。

 

「やってやろうじゃないの、鬼退治!」

 諏訪子が気合いを入れる。

 

「しかしどうするんだ? 今からロケットを作る訳にもいかないだろう?」

 神奈子がそう言うのは、月までの直行便がないことだ。

 

「そういえば、満月っていつかしら? 紫」

 

 幽々子が紫に尋ねる。答えたのは藍だ。

「満月は1週間後です。ですから、紫様の能力で行くとなるとまた待たなくてはなりません」

 

 紫が能力で地上と月の境界をゆがめられるのは満月の時のみ。だから、今すぐに月に向かう方法はただ1つ―――

「…『海と山をつなぐ程度の能力』ね」

 

 

海と山をつなぐ程度の能力―――綿月豊姫の能力。ほとんど名の通りの能力だが、紫の『境界を操る程度の能力』以上に発動が早く、物量、人材運搬に優れる、事においては右に出るものがない能力―――

 

 

「その能力が使えるほど豊姫様の体力が回復していれば良いですけどね」

 うどんげが心配した、その時。

 

 

ドタン!!

 

 

 突然皆が寝ていた家の玄関の戸が、引かれることなく倒れた。

 

「!?」

 

 そこから、依姫が飛び出してきた。額に汗を浮かべ、明らかにその目はいつもの目ではなかった。

 

「あああああアアアアア!!!」

 依姫は悲鳴を上げながら、長刀を振り回す。

 

「危ないっ!」

 星が飛び退いて長刀をかわす。

 

「な…!」

 永琳が驚く。依姫の様子が、明らかにおかしい。いつもは冷静沈着なはずの依姫が、暴れるほど落ち着きがない。

 

「依姫様、落ち着いてください!!」

 うどんげが大声を出すが、依姫の耳には届いていないらしく、依姫は刀を振り回すのをやめようとしない。

 

「い、嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ!!!」

 さらに叫び声が響いたかと思うと、豊姫が飛び出し、壁を蹴っ飛ばし始めた。

 

「!! まずい! このままじゃ、人里にも被害が…!」

 大きな叫び声は、一度去った民衆をまた寄せ集める事となった。依姫はその民衆を見た瞬間、さらに暴れ出した。

 

「殺す…殺すぅぅぅ!!」

 依姫は民衆めがけ一直線に突き進む。当然何が起こっているか分からない民衆は反応できるわけがなく、このまま切られる―――

 

 

ガキィン!!

 

 

 そこに妖夢が割り込み、依姫の長刀を二刀流で受け止める。

 

「皆さん、ここは離れてください!」

 妖夢の叫び声に、民衆が後ろを振り向いて走り去っていった。

 

「というか、依姫様よりも豊姫様の扇子の方が…!」

 うどんげが素粒子レベル分解を引き起こす扇子の行方を気にする。

 

「扇子は私が持っているわ! だから素粒子に分解されることはない!」

 そこに、いつの間にか外に出ていたサグメが痛みにあえぎながら叫んだ。

 

「今すぐ精神安定剤を調合するわ! それまで、どうにかして持ちこたえて!」

 永琳は走って治療室に戻っていった。

 

 

 突如起きた綿月姉妹の暴走。その真意はいかに―――

 




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