なお、メインがこのハーメルンかpixivのどちらになるかは、まだ決めていません。
(しばらくはできる限り同じ日時に投稿しますが)
ついに始まる咲夜vs殺意リュウの物語です。
最後はかなりの(?)急展開になっていますがどうぞ。
第3話「己を高めしもの」
―紅魔館・図書室―
紅魔館の自慢の種である、蔵書数は数千に及ぶとされる図書室。そこで忙しく歩き回る者が2人―――
「えーっと、アンデットに効くのは水とか日光…だからこの本に載っている中では…」
忙しく天井まで届きそうな本棚をあっちこっち移動する小悪魔と
「とりあえず今使えそうな魔法はだいたいこのあたり…あとは…けほっ、けほっ…」
小悪魔より蔵書のまとめを早めに済ましたのはパチュリー・ノーレッジ。彼女は喘息持ち、無理な身体の負荷は喘息を悪化させてしまう。だが今は緊急事態、それを気にしている場合ではない。
「パチュリー様! 大丈夫ですか? 確かに今は急な事態ですが、無理だけはなさらずに…!」
小悪魔が本を探す手を止めてパチュリーに寄り添う。
「大丈夫…作業を続けましょう」
パチュリーはすぐ体調を元に戻して作業の手を休めず進める。小悪魔はそんなパチュリーを気にしつつ作業の続きに着手する。
今ここにあるありったけの魔法をかき集めなければ、この2人が殺意リュウに勝つすべはない。。喘息持ちのパチュリーは、なおさら殺意リュウの腕力を食らうことはできない。彼女たちは紅魔館のため、ここにいる友人でもある主のために必死だった。
「波動拳!!」
「そんなものじゃ!」
一方紅魔館防衛の最前線では、波動拳とナイフによる相殺合戦が繰り広げられていた。殺意リュウが波動拳を撃てば咲夜がそれに合わせナイフを投げる。お互い最初の一撃を食らわぬように戦うけん制合戦が繰り広げられていた。
「突っ込まないのか。続けるのならば、お前が不利になるだけだぞ…!」
殺意リュウ右手を前に出し、指をクイクイとして挑発した。
「あいにくだけどこう見えてナイフは隠し持っているのよ。弾切れになることはないわ」
言葉においてもけん制合戦が始まっている。しかし彼らが戦っているのはほかにもあった。
(ちっ、こっちは遠距離攻撃手段が乏しくてあいつが近づいてこない、どうにかあいつから近づかせるには…?)
(あいつの近くに飛び込むのは即負けにつながる…でもそうしなければ勝ちも見えない…どうするべきか…)
勝ちのビジョンへの道が作られるのはどちらが先かという競争だった。
(こうなれば…こちらから…!)
咲夜は自信の能力『時を操る程度の能力』で時を止めた。ここからやることは簡単だ。咲夜は殺意リュウの眼前にナイフを投げた。その数は何十、何百と増え、華麗なるナイフの弾幕層を作り上げた。
「あなたは何も理解できないまま死ぬ」
そう咲夜は言い放ち、時止めを解除した。
(―――!!)
ナイフが動き出し、殺意リュウに襲いかかる。素早く避けようにも、もう間に合わない。
「真空竜巻!!」
「!!?」
とっさの判断だった。殺意リュウはその場で駒のように体を回転させ、飛んでくるナイフを次々にたたき落とした。
全てのナイフが床にたたき落とされた時、ようやく殺意リュウの回転は止まった。だが頬にナイフで切ったような切り傷ができ、わずかながら血が流れ出ていた。
殺意リュウはみ自らその傷に触れ、手についた自分の血を見た。
「驚いたわ。私のナイフをまともに体で受けるとはね」
殺意リュウは答えず、自分の血を見続けている。その顔からは何か避けなければならない雰囲気がにじみ出ている。
「ふ…」
殺意リュウが初めて敵の前で笑みを見せた。
「! なぜ笑う?」
咲夜はその笑顔の理由が分からなかった。何を考えたのだろうか。
「…これが死合いというものか。ようやく知ったぞ…今までのお前との戦いのやりとりは不要だったということをな!」
殺意リュウはなぜか開き直った態度を見せる。咲夜はその態度の変貌ぶりに困惑するしかない。
「何を言っている? 今不利なのはあなたの方よ。先制したのは私なのだから」
咲夜はその困惑を表に出さぬように言葉で殺意リュウに問い詰める。殺意リュウはそれにも動じない。
「そんなことではない。俺は死合いの場では挑戦者に過ぎぬということだ!!」
殺意リュウはそう言い放つと、咲夜の目の前へと飛び出してきた。能力の連発は不可能であるため、咲夜は小細工なしのナイフ投擲で応戦するしかない。
「勝ちを急ぎすぎたわね!!」
咲夜はナイフを確実に殺意リュウの息の根を止められる場所へと投げた。そのまま、咲夜の勝ちと思われた瞬間。
殺意リュウと咲夜の距離は殺意リュウの腕が届かないギリギリの距離だった。なので、ナイフを投げたこのままの状態ならどう考えてもナイフが当たり、咲夜の勝利が確定する距離である。
しかし殺意リュウはそれを利用した。咲夜のナイフが当たるギリギリの瞬間、素早く大ぶりに腕を構えた。ナイフが当たった瞬間、その構えを解き咲夜の前へとさらに飛び出した。なんと、当たったはずのナイフをはじき飛ばしながら。
(!!!? ナイフが、効いていない!!?)
こうなれば、形勢逆転だ。殺意リュウが得意とするこの間合いは、死の、つまりは勝利の間合いだからだ。素早くしゃがみ、足に下段下蹴りを当てる。素早く立ち上がり、回し蹴り。そして―――
「昇龍拳!!」
あごに手応えありの昇龍拳が決まる。咲夜は美鈴の二の舞にはならず血を吐かず、受け身もとって立ち上がったが、すぐ床に膝をついた。
「ぐっ…」
口から何かを吐きそうになる感覚が咲夜を襲う。だめだ、ここで跪いたら―――
殺意リュウが追撃を入れようとしたその時。
「咲夜っ!! 思いっきり後ろに飛んで!!」
パチュリーの声が聞こえた。瀕死に追い込まれた体だったが、咲夜はなんとか体が反応し、後ろに飛び退いた。後ろから、殺意リュウめがけ次々に魔法の弾が飛んでいく。足元、体に次々と直撃し、殺意リュウの姿を隠した。
「咲夜さん!! 大丈夫ですか!!?」
小悪魔が咲夜の元に急行する。すぐに咲夜の体を支えてやった。
「ありがとう…それにしても、何よ、あいつ…」
咲夜は小悪魔に支えられながらも立ち上がった。
「あの異形の生き物…私にも初めて見るわ。こんな、人間のような容貌の妖怪は…」
パチュリーが自身の頭の中の知識の泉を湧かせるが、引っかかるものが浮かんでこない。
「…それだけではありません…彼は、私との戦いで成長している…」
咲夜は殺意リュウをじっと見ている。あの適応力は恐ろしい。強大な腕力を持つ彼にはそれを兼ね備えているだけで脅威だ。そこに声を差す者が―――
「それに、運命が全く見えない。いや、歪んでいるというのが正しいのかしら」
「!! お嬢様!?」
「レミィ!?」
今の時間は起きていないはずの紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットが起きていた。
「門で爆音が聞こえてきたら起きるに決まってるでしょ。さっさとあいつを止めるわよ」
レミリアがそう言い終えた時だった。煙の中から、波動拳が一同めがけ飛んできた。
「!! 危ないっ!!」
一同は素早く波動拳を避けたため、弾は何もない空間へと飛んでいった。
「おっと! 何人来ても気が変わることはないようね」
レミリアは煙の中の仁王立ちの殺意リュウを見た。
「その通りだ。むしろうれしいぞ。これだけ、死合える者が集まったのだからな!」
煙をかき分けて、殺意リュウが姿を現した。体に外傷は見当たらない。
「!? 私の魔法が効いていない!? あいつはアンデットではないの…?」
パチュリーはすぐに次の魔法の準備に取りかかる。効かないのならすぐ次を試す、それ以外に何を挟もうというのか。
「この体に魔法などという小細工なものは効かん!」
殺意リュウはパチュリーのやりたいことが無駄だと言いたげに声を荒げた。
「なら、直接叩いてやればいいだけね。咲夜、パチェ、こあ、行くわよ」
レミリアは威嚇するように羽根を広げた。この程度では殺意リュウがびびりもしないのは百も承知だが。
「ええ。お嬢様の安眠を妨げるわ美鈴を倒すわ彼がしたことは死相応の償いをさせなくては!」
4人になり、殺意リュウが再び不利な状況になった。しかし死合いを歓迎する殺意の波動にとっては、そんなものなどなんともない。
「来い! いくら来ようとも、この波動の前では全て塵となる!」
むしろ殺意リュウは挑発している。つまらなくなってきた咲夜との死合いに、また活気が戻ってきたという所だ。
ここまで急展開の連続だったせいか、場はいきなりしんと静まりかえった。
「………」
「………」
お互いの心の読み合いが始まる。ひとつでも間違った選択肢を選べば、たちまち死に直結する。さっきまで激しかった戦場が、静かになる。
その静寂を壊したのは、戦場には無縁なかわいらしい声だった。
「…? 誰、おじさん?」
それはレミリアの妹で普段は地下の部屋にいる、フランドール・スカーレットの声だった。その声を聞いたレミリアは慌ててしまった。フランの能力があまりにも危険なことは、全員が知っていることだが、今この状況では発動しかねない。なんとかしてフランをこの場から離さなくては。
「フラン!! こっちに来ちゃだめ!!」
レミリアが声を張り上げた。フランはレミリアの方を見て、なぜ戦闘態勢に入っているのか疑問を持った。
「え? お姉様?」
殺意リュウはすぐにフランを見た。その瞬間、殺意リュウの体に纏う殺意の波動が、また揺らいだ。
「…っ!!」
殺意リュウは即座に行動に出た。足音もなくフランの目の前に行き、フランの肩をつかんだ。
その時、フランはわずかながらに殺意リュウが何かに躊躇したかのように感じながら、意識が遠のいていった。
次の瞬間、フランは床に倒れていた。
瞬獄殺―――原理不明とされる、殺意の波動に目覚めた者が使える技。阿修羅閃空で近づき、相手をつかみ、一瞬にして相手の体内に殺意の波動を送り込み、炸裂させる技と言われているが、真相は定かではない―――
「―――滅殺!!」
「!!!」
一瞬の出来事だった。レミリアはフランに何をされたのか分からなかった。時を止められる咲夜も、パチュリーも、小悪魔も分からない。
「フランっ!!!」
悲鳴のような高い声がレミリアの喉から出る。
「こいつっ!! フランから離れなさい!! 紅符『スカーレットマイスタ』!!」
動揺したレミリアはスペルカードを発動し、殺意リュウに弾幕をぶつけようとする。しかし冷静さを失ったその弾幕は、殺意リュウにとっては受けるものですらない。
「レミィ、落ち着いて!」
友の声が聞こえ、レミリアは弾幕を撃つのをやめた。殺意リュウは攻撃がやむやいなや、すぐに攻撃する。
「波動拳!!」
「防御結界!」
一同の周りに円形の防御結界が展開され、波動拳をかき消した。
「お嬢様、フラン様は私がなんとかします。今は、あいつを倒すことだけを考えてください…!」
咲夜は思わずレミリアの肩を掴んでいた。今掴まえておかないと、制止を振り切られてしまいそうだったから。
「フランを襲ったあいつを許せないのは分かるけど、落ち着かないとできることもできなくなるわ」
レミリアは一同になだめられて、どうにか落ち着いた。
「…分かったわ。咲夜、フランを頼むわよ」
「! 来ましたよ!!」
殺意リュウは防御結界に接近し、破壊を試みていた。気が結界にそれているのを確認した咲夜は殺意リュウの脇を抜け、フランの元へ急いだ。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
槍を構え、大きくなぎ払う。殺意リュウは素早くバック宙帰りをして避ける。その間に、咲夜は時を止めた。目的はもちろんフランの救出だ。
時が動き出した時には、咲夜はすでにフランの元にたどり着いていた。
「フラン様!! しっかりしてください!!」
大きな声で呼びかける。すると、フランの腕がピクリと動いた。咲夜は殺意リュウに気を配りながらも、安堵の息をついた。が、その安堵がある事態を咲夜に気づかせない原因となった。フランがすぐさま、明らかにいつもとは違う目を見開いた事態に―――
ドゴォン!!
殺意リュウを含める全員が突然の音を聞いた。殺意リュウは背後を、咲夜を覗く紅魔館一同は殺意リュウの後ろに顔を向けた。
そこには、咲夜をジャンピングアッパーで吹っ飛ばす、殺意リュウと同じオーラを纏うフランの姿があった―――
「昇龍拳!!!」
幻想郷の危機が始まる。異変が、大きな口を開けて幻想郷を飲み込んでいく―――