東方殺意書   作:sru307

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 始まった最終決戦。
 全てがかかる戦いは、当然簡単にすむはずがなく―――


第39話「高度」

第39話「高度」

 

「波動拳!」

「ぬん!」

 

 リュウと狂オシキ鬼がほぼ同時に波動拳を発射する。もちろん相殺されるが、狂オシキ鬼には当然といったところか、片手で波動拳を打ち出してきた。

 

 互いの次の行動は、リュウが様子見、狂オシキ鬼は再び波動拳の構えだ。だが狂オシキ鬼は手を後ろに反らし、波動をしっかりと溜めてから―――

 

「ぬん!!」

 波動拳が片手で飛んでくる。一同は2つに別れるように横に避ける。波動拳は誰もいない空間に飛んでいった。それを追いかけるように狂オシキ鬼が前に出始める。狂オシキ鬼の気迫は近くに迫れば迫るほど、強大なもののように思えてくる。だがこの程度でひるんでは勝機がない。一同は怖じけずに迎え撃つ。

 

 狂オシキ鬼は自分の腕を目一杯伸ばしてもギリギリ届かない位置で立ち止まり、左足を踏み込んでひっかいてきた。太陽の畑でも繰り出してきた、一歩踏み込んで不意打ち気味に狙う技法だ。しかし狙った相手はその攻撃を一度見た水蜜、既に見切っており後ろにかわす。

 

「転覆『沈没アンカー』!!」

 即座に水蜜はスペルカードを宣言するが、狂オシキ鬼も弾幕を見切る力を身につけており、次々と腕で払いのける。

 

(この近距離でも弾幕をものともしないって…! なんて動体視力なのよ…)

 

「まだまだ! 神秘『葛井の清水』!!」

 神奈子がスペルカードのおかわりを狂オシキ鬼に与えるが、狂オシキ鬼は平気でそのおかわりを腕で受けてみせる。冷静そうな顔が焦りを呼び込むが、神奈子はそれを抑える。

 

 狂オシキ鬼はスペルカードの時間が切れるのを待ち、弾幕が止んだ瞬間、いきなり前傾姿勢になって一同に突進してきた。右腕を後ろに回すその体勢は、勇儀に見覚えがあった。

 

「その爪攻撃は気をつけろ! フェイントで背中を切り裂いてくる!!」

 

 狂オシキ鬼の爪はそこまで長くはないが、鋭さならかなりのものだ。深々と切り裂かれたら命に関わる。それをフェイントによって2択にするのだから、恐ろしいことこの上ない。

 しかし狂オシキ鬼の攻撃は正面。後ろに下がっていた神奈子には届かず、切り裂いた勢いを殺さず一回転して体勢を元に戻した。

 

(…! 警告されたから止めたのか…?)

 

 狂オシキ鬼はその場からすぐ動かない。じっと一同を見ながら独特の構えをとり続けている。波動拳も撃たずに待っている。カウンターを狙っているのか。

 

 硬直が続く中、一同も仕掛けずににらみ合う。その中で、狂オシキ鬼の企みを見抜こうと思考を巡らす。だがピンとくるものがなく、分からない。

 が、その次の行動が、それを教えてくれた。

 

「下がれ!」

 

 リュウがそう叫び、後ろに下がる。一同は訳も分からず後ろに下がる。その瞬間、いつの間にか接近していた狂オシキ鬼が一歩踏み込むひっかき攻撃を飛ばしてきた。もしリュウの声がなければ、確実に誰かの顔をズバッとされていただろう。だがおかしい。いくら何でも、さっきの攻撃が終わってから距離は離れていたはずだ。普通正面から近づけば脚の動きで接近しているのがばれるはず。だが一同の誰もがギリギリまで気づかなかった。

 

「あいつ…いつの間に移動してたのよ!? あの変な移動は見えなかったのに…」

 

 アリスが慌ててそう言う。狂オシキ鬼は体勢を戻し、また構えるだけ。再び何もしない―――その時、紫が気づいた。狂オシキ鬼は、足の指だけで歩いていることに。

 

「本当に微妙だけど近づいているわ! ほとんど足指だけで歩いて…!」

 

 狂オシキ鬼のプレッシャーは言うまでもなく相手にとんでもない威圧感を与える。そうすると相手が警戒するのは腕、脚の動きになる。それを狙い、脚が動いていないように思わせておき、気づかれないように足指だけで歩く。こうすれば『正面にいるから動きは分かる』という相手の思惑をくじき、不意打ちを与えられる。狂オシキ鬼はこれを狙っていたのだ。狂オシキ鬼のプレッシャーで足元まで気が回せないのもミソだ。足元ばかり見ていれば、視線が下に下がるのだから、強襲にとっさの対応ができなくなる。

一同は既に狂オシキ鬼の思惑に乗せられていた。ゆっくりと考える暇を与えない戦い。焦りを生み、判断ミスを招かせて仕留める。相手に対して確実に後悔を与えるという精神までも殺す戦い方だ。

 

「はあっ!」

 狂オシキ鬼は一同に指歩きがばれた事を考慮したか、突然右手に波動を宿し、地面にたたきつけた。地面を這う衝撃波が、真っ直ぐ飛んでくる。横に避けるが、一同が2つの集団に別れてしまう。

 

 狂オシキ鬼が飛び出し、右手に分かれた集団の霊夢の前に立つ。

 

(応えるしかないわね!)

 

霊夢が細かく刻もうと左拳を出そうとした瞬間、狂オシキ鬼の辺りの空気が黒く変色した。狂オシキ鬼は両腕で弧を描いている。それを見た瞬間、霊夢の勘が告げた。自分の身が危険だと。

 

 霊夢は左腕を止め、バックステップした。すると狂オシキ鬼もバックステップして、2人の距離が離れた。霊夢は狂オシキ鬼の動作に見覚えを感じた。あのステップはもしや―――

 

(…あれがあのOniのセービングアタック…)

 

 

~回想~

 

 

「セービングアタック?」

 霊夢がリュウの口からその名を聞いたのは、昨日の夜に行われていた最終作戦会議の事だった。

 

「ああ。この攻撃は一度だけ相手の攻撃を受けてもひるまずに攻撃ができる。そこからこの名がついた」

 

 リュウの言い方は霊夢が考えていた『一度だけ攻撃を受けても平気な技』とまったく一緒だった。

 

「あの時の攻撃にはその原理が働いていたのですね。普通ならひるみ程度はするはずなのに…」

 華扇は自身の戦いで繰り出した右ストレートを思い返した。

 

「しかもただ攻撃するだけに使うものじゃない。時には防御しながら前線に上がる、またはその逆で安全に退避するために使う事もできるんだ。これは俺たちの世界ではセービングアタックキャンセル、略して『セビキャン』と呼ばれている」

 

 『防御しながら前線に上がる』という言葉に、咲夜がいち早く反応した。

 

「! まさかあの時私のナイフを体で受けたのに前に出られたのは、そのせいで!」

 

 リュウはうなずいた。どうやらキャンセルは前へのステップ、あるいは後ろのステップで可能のようだ。

 

「ただ、万能というわけじゃない。俺の竜巻旋風脚など、顔面への強打などは受けきることができずそのままくらう。しかもその時は普通以上にダメージを負ってしまう。さらに受けることができるものも、セービングアタックで受け続けていると知らぬ間に体力が削られていき、その時に少しでも打撃を受けると、セービングアタックで受けたダメージが一気に体に響く。だから連発は危険なんだ」

 

 一同は殺意リュウの戦い方を思い浮かべた。確かにセービングアタックはここぞというような場面でしか使わない。弾幕を一度だけ受けるとき、あるいは動けない相手に対する強烈な始動技として。

 

「でも私の夢想封印は複数被弾したはずよね。なら、どうしてひるまずに反撃ができたの?」

 

 霊夢は未完全ながらセービングアタックを身につけた身、それでも夢想封印の連続被弾に耐えたあの技は使えない。だからなおさら気になっていた。

 

「それはレッドセービングアタック、通称『赤セビ』と呼ばれている、セービングアタックの上位の技だ。これは使用者の体力が維持できる限り、何度でも攻撃を受けられる。また、セービングアタック以上の威力も出る。ただし、それ以外の点は全てセービングアタックと同じだ。全ての攻撃をレッドセービングアタックで受けた後に打撃を受ければ、受けた攻撃全てのダメージが響くのは一緒だし、やはり一部の攻撃は受けきれない。だから使いどころを間違えればセービングアタック以上に窮地に追い込まれやすくなる」

 

 霊夢はその諸刃の剣をモロに受けてしまったのだ。夢想封印の直撃で起きた煙が、殺意流のレッドセービングアタックの最大溜めを援助する形になったのだ。

 

「そしてこのセービングアタックだが、一つ言っておかなくてはならない。俺の世界のストリートファイトではこのセービングアタックはよく使われている。つまり―――」

 

 その続きは容易に想像できた。

 

「あのOniも使う、ということね」

 紫が鋭い目つきをリュウに向けた。つまりは殺意リュウと戦い方は確実にどこか似るようになるということだ。

 

「そしてここからが、セービングアタックのもっと恐ろしい所だ。波動拳を撃った後など、一部に限られるがその技の硬直をなくしていきなりセービングアタックに移行するという技がある。これが俺の世界のストリートファイトの醍醐味でもあるがな…どういうことか分かるだろうか?」

 

 リュウは一同を指さした。

 

「えーと…波動拳の硬直をなくすということは…」

 ナズーリンが頭の中で動きを想像する。波動拳の硬直なしに攻撃するといっても、どうしても距離が離れてセービングアタック自体は届かないはず。それなら、他にできることは…

 

 一つの考えが浮かんだとき、ナズーリンはまさかという顔をした。

 

「…まさか、その隙なくしのセービングアタックをキャンセルして?」

 

 波動拳の後にすぐ打撃ができるが、それがセービングアタックなのがポイントだ。それに合わせられるものは、セビキャンただ一つだけだ。

 

「その通りだ。波動拳が当たれば、当然相手は体勢を元に戻そうとする隙ができる。だがこちらはセビキャンのステップしか隙がない。つまり、追撃が可能となる」

 

 追撃ができるとなると、納得できる殺意リュウの行動がある。それを覚えていたのはさとりだ。

「まさか、お空に当てたあの連続攻撃はそれで!」

 殺意リュウが出した波動拳の後の目を見張る行動は、この原理が働いていたのだとようやく理解した。

 

「普通ならあり得ない所から追いかけて追撃できる、か…それは確かに恐ろしいな」

 神奈子は頬杖をつきながら言った。それは、狂オシキ鬼と殺意リュウの特徴には1つだけ共通点がある事を神奈子は気づいていたからだ。

 

「考えて見ろ。もしそれがあのOniにできるのなら、さらに分かりやすいはずだ」

 

 あのOniにあるのは幻想郷の鬼すらも退ける強大な腕力と脚力。その連撃は―――破壊力を計り知れないものとする。殺意リュウも同じ。鍛えられた筋肉は、並大抵の格闘家とは比べものにならない破壊力を作り出す。その連撃は何で表そうが危険以外の何ものでもない。

 

「ワンチャンスで形勢逆転があり得る、という事ね。あの姉妹を全身骨折させたのだもの、それ相応の腕力があるのは間違いないし」

 

 諏訪子も納得する。殺意リュウの力は全て承知済み、狂オシキ鬼も同じ事ができると考えれば、簡単な事だった。

 

「しかしこの方法にも弱点はある。それは肉体疲労が少なからずかかることだ。だからよくても、可能なのは2連続が限度になる」

 

 リュウの言葉に一同は耳を傾けた。『肉体疲労』という事は体力に影響がない。つまり時間が経つにつれ、その疲労は回復するということだ。できる限り短期決戦を仕掛けなくてはならない。

 

「2連続…それを出し切った後はあのOniの回復をさせる前に集中打を浴びせなくてはいけませんね」

 

 藍が考え込む。そうなると作戦は―――

 

「―――まずは相手の勢いをしのぐ、そこから攻めに転じる。これですね。それもできる限り早く―――」

 

 

回想終わり

 

 

 人数的な有利はあるが、ワンチャンスは狂オシキ鬼の方が多く持っている。ならまずはそのチャンスを不発に終わらすこと。慌てては狂オシキ鬼の思うつぼだ。それでおいて2度の同じチャンスを与えないこと。この2つを抑えた上で、短期決戦にする。狂オシキ鬼にこれを通すのは並大抵のことではない。だがこれしかないのだ。

 短期決戦にするには狂オシキ鬼を消耗させている今、できる限りの癖を見抜くことだ。そう考え、誰も攻撃を仕掛けない。その時、狂オシキ鬼が斜め前にジャンプしてきた。狙いは前線に立つフランだ。

 

(フラン、頼むわよ…!)

 レミリアは対空で信頼できる昇龍拳をフランが反応良く出す事を願う。

 

 しかしフランは昇龍拳を出さなかった。いや、狂オシキ鬼の動作を見て、出せなかった。狂オシキ鬼が、自らの体の影に隠すように右手を前に向けているのを見て。

 

 その瞬間、狂オシキ鬼の右手から波動が吹き出た。その勢いが狂オシキ鬼の体を宙で後ろに後退させた。はじめからフランを空中から襲う気はなかったのだ。フランは昇龍拳を出す振りをして地に踏みとどまった。そのまま昇龍拳を繰り出していたら、着地の隙を狙われていただろう。

 

(! な…逆に狙われていた…ですって!?)

 

 自分の願いが儚く散ったレミリアは愕然とした。もし自分なら、迷わず昇龍拳を出していたところだった。フランの考えが、自分とは明らかに高度になっている。

 

「まじかよ…初っぱなからこんな高度な読み合いをしなくちゃならねえのかよ…!」

 

 魔理沙が悔しそうに言う。考えて見ればそうだ。幻想郷の有力者の間で使われていたルール『スペルカード戦』はただ単に弾幕を張るだけ。そこには相手に当たりさえすればいいから、読み合いの概念はない。だが肉弾戦はそういかない。時には弾幕戦よりも近い距離で、弾一発一発よりも早い拳、蹴りを避けなければならない。反射神経だけでは到底反応は不可能に近いし、反撃の隙をうかがえなくなる。そこから形勢を変えるのは読み合いの概念が必須だ。

 

 それでもこの4人の読み合いはとんでもなく高度なものだ。当たらない距離でのセービングアタック、大ぶりな技をかわす手段を持った相手との技の出し合い。そこに甘えた考えがあれば、即座に負けが決まる。しかし焦れば短期決戦は夢のまた夢。

 彼女たちの頭に、知らぬうちに不安がよぎり始めていた。

 

 この戦いに、果たして私たちはついていけるのか、と―――

 

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