勝機を見いだすのは、果たしてどちらか―――
第41話「勝機」
狂オシキ鬼が轟雷波動拳を放った後、指歩きを始めてから数秒後、再び狂オシキ鬼が電気を帯びる。轟雷波動拳の構えだ。
「またか…!」
先ほどから、狂オシキ鬼はこの轟雷波動拳を撃ち続けている。それもかなりの頻度で連発している。弾幕を撃つ暇を与えないように、ある程度規則的な時間に撃ってくる。
「不意打ちじゃない限りはどうにでもなりますが…!」
轟雷波動拳は再び一同を2つに分け、どこかに飛んでいった。狂オシキ鬼は構えを元に戻し、じっくりと待つ。まだ一度も攻撃を受けていない狂オシキ鬼は、安全策を取り始めたようだ。
だがその安全策に異論を考える者がいた。華扇だ。
(待ちに入ってから、あいつはあの雷の波動しか撃たなくなっている…何か訳があるの?)
華扇はあまりにも違和感を覚えていた。狂オシキ鬼と一同の距離が離れている今、彼の行動は轟雷波動拳を撃ってくることだけだ。指歩きもしなければ、ステップを踏んでこちらから向かってくるような事もしない。何かの回復を待つように、動かないでいる。
その考えにたどり着いた瞬間、リュウの言葉を思い出した。
『肉体疲労が少なからずかかることだ』
セビキャンの疲労だ。その限界は2回ということは、確実に疲労している。ならば―――
その考えに呼応するように、リュウが前に出始めた。轟雷波動拳の数は弾幕と比べて遙かに劣るため、確実に狂オシキ鬼にせまる。
「皆さん、この波動拳に怖じ気づいてはいけません! 彼は今、肉体の疲労を回復しようとしています! 今が攻めどきなんです!!」
華扇の言葉ではっとした魔理沙は、すぐ行動に出た。
「忘れてたぜ…なら、覚悟を決めて直進だ!」
魔理沙が轟雷波動拳の横をすり抜けて狂オシキ鬼に自ら接近する。さらに華扇、霊夢、フランの順に追いかける。
狂オシキ鬼は轟雷波動拳をようやく止め、独特の構えに戻して迎え撃つ。後ろに手をそらし、ぐっと力を溜めて波動拳を放つ。しかしそれは片手のもの、通常の波動拳だ。
「普通の波動拳か! 弾速がないならこの距離でも避けられるぜ!」
魔理沙は素早く箒にまたがり、横に低空飛行をしてかわす。視界には体勢を元に戻す狂オシキ鬼がいる。波動拳の隙を狙うのはやはり無理があるようだ。
リュウ、華扇、魔理沙、霊夢、フランの5人が狂オシキ鬼の中距離まで間合いを詰める。狂オシキ鬼は再び指歩きにシフトする。つかず離れずの読み合いが始まった。
まずリュウが一歩踏み込む。しかしそれはフェイントで狂オシキ鬼の動揺を狙う。狂オシキ鬼は動じない。
「波動拳!」
それならばとすかさず波動拳を放つ。狂オシキ鬼は真上にジャンプして華麗に回避する。
(…行くしかない! ここまでの動きを察すれば、接近しなかったら、癖なんて見破れる訳がない!)
そこに華扇が真正面から接近する。だが狂オシキ鬼は一歩踏み込むひっかき攻撃で華扇の前進を止める。
(くっ…これが厄介すぎる…! しかしこちらのフェイントは通じない…)
遠距離、中距離で決定打のない一同は接近が第一になるが、狂オシキ鬼の間合い管理がうまく、接近させず緊張感を与え続ける。
(そう…前が駄目となると、上から…それも昇龍拳がある…どうしたら…!)
霊夢は既に正面にこだわっていなかった。あらゆる角度からの攻めを考えているが、狂オシキ鬼の対応力はなめて見られるものではなく、どれも効果がない。
(こうなれば飛び回ってやる! これならこっちに視線が向くはず!!)
魔理沙は箒で狂オシキ鬼の四方八方を飛び回り始めた。が、魔理沙の思いとは裏腹に狂オシキ鬼は魔理沙を見ない。うっとおしく辺りを飛ぶハエとしか思っていないようだ。その証拠に、魔理沙に目を向けることなく片手で波動を魔理沙の移動する所を予測して撃ってきた。
「うおあっ!」
魔理沙は何とか腕で波動拳をガードするが、狂オシキ鬼はこっちを見ていない。作戦は失敗だ。
しかし、霊夢がその波動拳を見た時、何かを発見した。
(!? まさか、あいつの波動拳…)
霊夢の頭の中で、とんでもなく手がかりのない憶測が頭に浮かんでいた。それが合っていたら、さっき考えたあれが通せるかもしれない。まずは、この憶測の真実を求めなければ。
霊夢は真正面から狂オシキ鬼に接近した。しかしひっかき攻撃をくらわぬようゆっくりと歩みを進めて行く。狂オシキ鬼も少しずつ指歩きで間合いを詰めていく。
そして次の瞬間、狂オシキ鬼がおもむろに波動拳を撃ってきた。普通なら霊夢がとる行動は、同じ波動拳を撃って相殺するか、真上にジャンプして回避の2択だ。しかし霊夢の選択は考えられない3択目だった。真後ろに下がったのだ。その回避では、これでは波動拳が普通に霊夢を追ってくるだけで、回避にはならない。それを分かっていたはずだが、霊夢は構わず後ろに下がったのだ。そのまま、波動拳が霊夢を追ってくる。
が、結果はその逆だった。霊夢に被弾する前に、狂オシキ鬼の波動拳は途中で消えてしまったのだ。
(…!! やっぱり…)
霊夢は波動拳が消えた後の狂オシキ鬼の顔を見た。狂オシキ鬼の表情が、わずかに焦りの色を見せた。見抜いた。これが、狂オシキ鬼の弱点だ。
(…! 霊夢、何かに気づいたか―――おっと!)
魔理沙はスピードを上げた。それは狂オシキ鬼が昇龍拳の頂点で魔理沙を狙い始めたからだ。魔理沙は着地を狙われないよう、素早く霊夢のそばに降り立った。
「何か分かったのか、霊夢?」
狂オシキ鬼に聞き取られないようにささやく。
「ええ。あいつの波動拳、遠くまで飛んでいかないわ! あの雷の波動拳じゃないと、遠距離からの攻撃手段はない!」
遠距離になったあの状況では、狂オシキ鬼の切り裂き攻撃は遠すぎて届かない。ならば飛び道具の波動拳が頼りだが、その肝心の波動拳は遠くまで届かない。唯一攻撃できるのは雷の波動、轟雷波動拳ただ1つに絞られる。だから狂オシキ鬼は轟雷波動拳を撃ち続けていたのだ。肉体疲労の回復だけでなく、そもそも攻撃手段がそれしかなかったのだ。
「なるほどな…! それなら、遠距離じゃ回復させられるだけか! この距離から接近できないか伺うしかないな…」
霊夢は小さくうなずき、狂オシキ鬼を見た。
「おうりゃ!」
狂オシキ鬼は小さく昇龍拳を連発している。空中で飛び続けた魔理沙に対するけん制だろう。下手に上から近づけさせない、という狂オシキ鬼の意志が見て取れた。
「もう同じ手は通じないか…だけど次波動拳を撃ってきた時が、チャンスになるぜ…!」
魔理沙は横目で霊夢を見た。霊夢も横目を合わせる。波動拳の消えた瞬間に同時接近すれば攻めるチャンスになる。
しかしその前に、狂オシキ鬼の昇龍拳連発にフランが目を見開いた。何か閃いたように顔を上げ、じっと狂オシキ鬼を見る。その視線に気づかずに、狂オシキ鬼は魔理沙を警戒している。
フランは誰かの気配がそばにいることに気がついた。今まで狂オシキ鬼の癖を見抜こうと必死だったので、周りに気を配る余裕がなかったのである。
「フラン、抜け駆けはなしよ!」
レミリアが息を切らしながらフランのそばに近寄った。まだ轟雷波動拳の警戒をしていたようだ。そばには頼れる家族がいる。反射的にそう思えるようになっていたフランはすぐ口に出した。
「お姉様、見つけたよ…あのOniの癖を!」
フランの言葉に紅魔館一同が耳を寄せる。
「昇龍拳だよ。あいつの昇龍拳、あまり横には飛んでこない…!」
それは自分が昇龍拳を出したからこそ気づいたものだった。
「そ、それだけですか? それじゃ、何も攻撃の糸口には…」
美鈴がそう言うが、レミリアは違った。
「いえ、ナイスよ、フラン!」
そう言ってレミリアは狂オシキ鬼に自ら接近する。その距離はレミリアの槍の先端が届き、狂オシキ鬼の踏み込みが届かないレミリアにとって有利な距離だ。この距離になると、狂オシキ鬼は前進して自分の得意な間合いにするか、波動拳を撃って相手の次の行動を見るかの2択になる。しかし槍使いのレミリア相手に前進は、自ら槍に刺してくださいと言っているようなもの。必然的に行動は1つに決まる。
その必然通りに、狂オシキ鬼が波動拳を撃ってきた。レミリアは波動拳を前方へのジャンプで飛び越え、そのまま狂オシキ鬼の前まで行く。狂オシキ鬼は当然昇龍拳を繰り出す。
「おうりゃ!!」
―――が、狂オシキ鬼の体が高く上がっただけだった。右拳の感触がない。外れたのだ。見るとレミリアが羽を羽ばたかせてわずかに後ろに下がっていた。昇龍拳の構えが解かれ地面に足を下ろした瞬間―――
「捕らえたわよ!!」
レミリアは渾身の力を込めて槍でなぎ払った。槍の刃の部分が狂オシキ鬼の脇腹にクリーンヒットする。
「ぐおっ!」
狂オシキ鬼がこれまで上げたことのない声を上げて後ろに下がる。しかしレミリアの槍は逃がさない。連続で突きを繰り出し、狂オシキ鬼を追撃する。狂オシキ鬼は手で槍を受け止めるが、刃の部分を掴むため血が手から流れ出た。
狂オシキ鬼は何とかレミリアを退けようとする。だがそこに波動拳が横から飛んできた。波動拳の接近に気づかなかった狂オシキ鬼は無抵抗にくらう。そこには霊夢の姿があった。一度狂オシキ鬼がひるめば、人数差で立て直す暇を与えないようにするのは容易だ。
「表象『弾幕パラノイア』!!」
そこに無意識で近づいていたこいしがスペルカードを宣言する。本来このスペルカードは辺りに針状の弾幕を展開して動きを制限した上で非常に速度の遅い大弾を撃つのだが、今は相手が相手、動きの制限をかける針状の弾幕だけを展開する。狂オシキ鬼の体は大きく、移動制限をかけられると阿修羅閃空もないためどうしても動きが止まる。
「お空、お願い!!」
こいしは背後にいた空に呼びかける。空は言うまでもなく制御棒の先を狂オシキ鬼に向けている。
「任せて! 焔星『プラネタリーレボリューション』!!」
制御棒から核融合によって生成された灼熱の弾幕が襲いかかる。狂オシキ鬼は爪で振り払うが、そこにフランが上から迫る。
「せりゃああ!!」
羽で空中の姿勢を保ち、フランは波動拳を2発放つ。狂オシキ鬼は空の弾幕に手一杯だったか、2発とももろに体に受けた。狂オシキ鬼がのけぞる。
「行けえ!!」
さらに魔理沙が霊夢を乗せた箒で突撃する。魔理沙と霊夢は箒を踏み台にして狂オシキ鬼を飛び越えたため、勢いのついた箒だけが狂オシキ鬼の腹に直撃した。
「おぐおっ…!」
狂オシキ鬼の体がくの字に曲がった。魔理沙と霊夢は追撃の手を緩めない。
「神霊『夢想封印 瞬』!!」
「星符『メテオニックシャワー』!!」
宙に浮かんだまま、狂オシキ鬼の背後からスペルカードを宣言する。弾幕は次々と狂オシキ鬼に当たる。だがそこは流石の狂オシキ鬼、途中から弾幕を腕ではじき返す。体勢の立て直しも見事なものだ。しかしそれは動きを止め続けることにもなる。
「行って、リュウ!!」
霊夢が叫ぶ。狂オシキ鬼が弾幕の止んだ瞬間に後ろを向くが、既にリュウは狂オシキ鬼の懐にいた。
「うおりゃああ!!」
リュウの歯を食いしばって放たれた一撃が、狂オシキ鬼の横腹に食い込んだ。その勢いを殺さず、リュウは駒のように体を回転させた。
「真空竜巻!!」
リュウの真空竜巻旋風脚が狂オシキ鬼を洗濯機に入った洗濯物のように回されて蹴りを食らい続ける。最後の蹴りが狂オシキ鬼を大きく吹っ飛ばした。狂オシキ鬼は受け身を取る事もできず、地面を滑っていった。
狂オシキ鬼が四つん這いになって立ち上がった先には、いつの間にか全員の姿があった。
「やっと通じたぞ…我らの攻撃が!」
布都が自慢げに狂オシキ鬼に言う。頭に手をやっているところを見ると、まだ痛みがあるのだろう。攻め手が出てきた以上、強気にならないわけにはいかなかったのだ。
「あなたがどんなに強大な力を持とうと、その力が間違った力である以上、正しい力には永遠に勝てない! 身をもって知ったでしょう!?」
華扇が説教めいた言葉で狂オシキ鬼に迫る。
「豪鬼!! 俺はお前のようにはならない! 他にも拳を極める道はある!!」
リュウは殺意の波動と完全なる決別を誓う言葉を投げかける。
「今度こそ…決着をつけさせてもらうわよ!!」
霊夢の言葉が響く。しかし、狂オシキ鬼はまだあきらめていなかった―――