東方殺意書   作:sru307

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 狂オシキ鬼の体に起きた異変。
 この死合い、堂々決着。


第45話「最後を賭けて」

第45話「最後を賭けて」

 

「あのヒビは…! 藍、橙、あそこを集中放火するわよ!!」

 狂オシキ鬼の腹にできたひび割れに反応し攻撃に移ったのは紫達からだ。

 

「まずは動きを止めるわ! 紫奥義『弾幕結界』!!」

 

 結界のごとき大量の弾幕が狂オシキ鬼に襲いかかる。狂オシキ鬼は両腕で弾をはじくが、このスペルカードは全方位からの大量の弾幕がやってくるもの、阿修羅閃空のない狂オシキ鬼は避けるしかない。反撃の余裕がないのだ。

 

「合わせろ橙!! 式弾『アルティメットブディスト』!!」

「は、はいっ!! 鬼符『鬼門金神』!!」

 

 藍と橙、2人の式神のスペルカードが合わさり狂オシキ鬼に襲い来る。藍のレーザーが狂オシキ鬼の脇腹をかすめる。

 

「妖夢、続くわよ! 幽曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ ―神霊―』!!」

「はい!! 獄神剣『業風神閃斬』!!」

 

 白玉楼の2人がさらに弾幕を追加し、狂オシキ鬼の被弾が多くなる。弾幕を避け切れていない。

 

 

「弾幕に当たり始めたか! それならこのまま押し切るよ!!」

 遠目で確認した神奈子が即座に行動に出た。

 

「間接的にだけど、守矢神社の再興にはこいつを倒さなくちゃならないからね!」

 諏訪子が立ち上がり、両手で弾幕を放つ準備をする。

 

「はい! はたてさんもお願いします!!」

 早苗がお祓い棒に霊力を込め始める。

 

「もちろん! ここにいない文の分まで、きっちり礼を返してやるわよ!!」

 はたては素早く携帯電話をポケットにしまい、弾幕の準備をする。

 

 神奈子が御柱を地面に突き刺し、回転させる。回転し続ける御柱めがけ4人は弾幕を一斉に放つ。

 

 

「「「「風神『破滅の竜巻』!!」」」」

 

 

 4人の弾幕は回転する御柱に次々と当たり、不規則に跳ね返って飛んでいく。飛んでくる場所も角度も全て違う弾幕に動きを制限されたままで受けきれる訳もなく、狂オシキ鬼が次々と被弾する。

 しかし一同は攻撃の手を緩めない。

 

 

「こいし! 合わせられる!?」

 さとりが第三の目で狂オシキ鬼の心を読み取りながらこいしに言う。狂オシキ鬼の心理はだいぶ読みやすいものになっていた。心理的にも追い詰められている証拠だ。

 

「お姉ちゃんとならいつでも合わせられるよ!!」

 こいしは笑みを浮かべている。もう合わせる気満々のようだ。

 

 

「「心符『意識と無意識の境目』!!」」

 

 

 こいしとさとりは即興のように息を合わせて弾幕を放つ。一定の方向のみに放たれる弾幕と、どこに現れるかも方向も分からない弾幕のコンビネーション。移動制限がかかった狂オシキ鬼にこの弾幕は地獄だ。

 

 

「お空、私の死体と合わせなさい!」

 お燐が決意の目を空に向ける。

 

「えっ!? でもどうやって…」

 空は最初訳が分からなかったが、お燐が妖精の死体を呼び出し、それを指さすとすぐに分かった。

 

「分かったよ!!」

 空の弾幕が妖精の死体を燃え上がらせる。

 

「お空の核を燃料にして…できた! 名付けて…焼死体『ファイヤゾンビフェアリー』!! 行きなさい!!」

 

 お燐は燃え上がる妖精の死体をハンマースローの要領で狂オシキ鬼めがけ投げた。狂オシキ鬼は波動拳を撃って意図もたやすく死体を倒す。が、波動拳が当たった瞬間、火の粉がまき散らされ狂オシキ鬼の皮膚に降りかかった。

 

「流石にお空の核までは防ぎきれないようね! ならもう1人!」

 

 お燐は再び燃え上がる妖精の死体を投げ飛ばす。狂オシキ鬼は横に避けるが、妖精の死体はお燐が操ったもの、その程度は簡単に追尾できる。狂オシキ鬼は大きく移動せざるを得ない。だがそれは他の弾幕に気をつけなければ自ら弾に当たりに行くという危険な行為だ。狂オシキ鬼は移動を始めたが、弾幕の中に大きな体を入れるせいで次々と被弾した。

 

 このまま幻想郷の有力者達の勝利か、そう思われた次の瞬間、狂オシキ鬼の周りにあった弾幕の一部が消えた。紫のスペルの時間が切れたのだ。移動制限が大きくかかっていた紫の弾幕が消えた今、狂オシキ鬼が攻めるのはここしかない。狂オシキ鬼が足を前に踏み出す。

 

 だが慌てずにいた者が2人いた。

 

 

「ここからの動きは私とご主人様が! 宝塔『グレイテストトレジャー』!!」

「光符『浄化の魔』!!」

 

 ナズーリンと星がフォローに入る。この弾幕は元々直撃を狙うものだが、それを狙えば狂オシキ鬼が避けるだけ。紫の弾幕の密度には劣るが、それでも狂オシキ鬼が焦りの色を見せている以上、ないよりずっといい。

 

「逃がしはしない! 虚史『幻想郷伝』!!」

「燃えろおお! 『パゼストバイフェニックス』!!」

 

 そのないよりずっといい弾幕包囲網に慧音と妹紅の弾幕が加わり、包囲網はさらに強固になった。それを眼前にした狂オシキ鬼がギリギリの所で前に出した足を止めて下がる。再び移動制限をかけられた狂オシキ鬼は、上から気配を感じた。上にいたのは一輪だ。 一輪は雲山の右拳を呼び出し、上から強襲する。狂オシキ鬼は豪昇龍拳で迎え撃つ。

 

「ふっ!!」

「豪昇龍!!」

 

 ガン!!

 

 狂オシキ鬼と雲山の拳は空中で静止し、そのまま一輪が狂オシキ鬼の前に着地した。パワー比べはここに来て互角だ。狂オシキ鬼が一輪を攻撃しようとしたその時。

 

「くおりゃああ!!」

 村紗がどこからか取りだした身の丈よりも大きな錨をハンマー投げのように振り回してきた。

 

 ゴン!!

 

 鐘をつくような音とともに狂オシキ鬼の体が横に吹き飛ぶ。吹っ飛んだ場所にあった一部の弾幕にも当たり、さらに傷を負う。

 

(ここまで接近できれば…!)

 そこに聖が懐まで潜り込んだ。弾幕の痛みに気を取られ、狂オシキ鬼はそれどころではなくなっていた。

 

「はあっ!」

 聖が放つ正拳突きが、狂オシキ鬼の腹にあるひび割れのど真ん中に突き刺さった。狂オシキ鬼が腕を振って聖を追い払うが、痛みは顔に隠し切れておらず、汗がにじみ出た。

 

 

「どうじゃ屠自古。ここは協力するのは」

 普段は仲が悪く、いつも神子に抑えられる2人は、この時だけ利害の一致があったせいか口喧嘩すらしていなかった。

 

「…仕方ないわね!!」

 屠自古はあまり乗り気ではなかったようだが、致し方なしと考えたようだ。

 

 

「「乱符『丁未の乱』!!」」

 

 

 皿と雷が狂オシキ鬼めがけ飛んでくる。この合体スペルに、狂オシキ鬼は初めて弾幕で苦戦を強いられた。皿の弾速が遅く、待って処理するにはどうしても時間差が生じる。その瞬間に速い雷が飛んでくるのだからなおさら動きを止めていては雷の餌食だ。しかし雷ばかり見ていれば、遅い皿が時間差の利を活かして被弾を狙ってくる。

 

 合体スペル4つ、通常スペル2つに接近要員3人。これをいっぺんに相手にするのは狂オシキ鬼でも厳しく、確実にダメージを与えていく。心なしか、狂オシキ鬼の腹のひび割れがさらに広がったようだ。

 

 

「一気に仕上げてやるぜ! アリス!!」

 魔理沙がミニ八卦路を狂オシキ鬼に向ける。

 

「ったく、勝手なんだから…!」

 アリスは持っているありったけの魔力を人形に注ぎ込み、人形を仲介役として魔力をミニ八卦路に注入していく。

 

「よし、できたぜ!」

 

 ミニ八卦路が魔力に満ちあふれ、発射口から魔力が漏れ出す。

 

 

「「魔砲『スーパーマスタースパーク』!!」」

 

 

 極太の七色レーザーが、狂オシキ鬼に襲いかかる。狂オシキ鬼は横に転がって避ける。これを受けようとするなら、他の弾幕がないときでないと危険だ。

 

「曲がれっ!!」

 

 アリスが人形を操り、マスタースパークの外側に触れた。するとマスタースパークが少しずつワイパーのように軌道を変えていった。魔理沙はミニ八卦路を必死に安定させている。

 

 狂オシキ鬼は弾幕を避けつつ、マスタースパークに一切触らないように移動する。流石に被弾されっぱなしにいかない意地で、弾幕を見抜いていく。残りの体力もあまりない中、必死に弾幕を避ける。

 

 ところが、その弾幕地獄に気を取られたのが運の尽きだった。突然狂オシキ鬼は何者かに横腹を蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされた方向を見ると―――

 

 勇儀と萃香の姿があった。その目は、『あの時の借りだ』と語りたげな真剣な目だった。その姿を見ながら、狂オシキ鬼はマスタースパークの中に体を入れていった。

 

「今よ、魔理沙!!」

「おう!!」

 

 魔理沙は残りの魔力を一気に放出してマスタースパークの威力を高める。七色の光一筋が消えるまで力を込め続けた。

 

 その光もなくなると、後には月の砂煙と大きくえぐれた地面が残っていた。

 

 

「どうだ…」

 

 

 魔理沙は目で狂オシキ鬼の姿を追う。この程度ではおそらく―――いた。まだ立っている。

 

「ぬお…」

 狂オシキ鬼の吐息が口から漏れ出る。一瞬意識を失いかけたようだ。足もヨタヨタしており、満身創痍まで追い込まれているようだ。腹のひび割れもさらに進行し、今にも崩れ落ちそうだ。必死に歯を食いしばっている。

 

 

「霊夢!!」

 

 

 そこに魔理沙の声を待ってましたとばかりに霊夢が走って突っ込んできた。

 

「おりゃあ!」

 霊夢の右フックが狂オシキ鬼の顔をピンボールのように左に飛ばす。そして流れるように放つは―――

 

「波動拳!」

 もちろん電気を纏った、弾速が上がった波動拳だ。次の行動は―――

 

 クンッ!

 

 リュウの言葉を思い浮かべながら、霊夢は足を動かす。波動拳を撃った瞬間の足に力を入れ、体を前に倒して無理矢理重心を前に移す。波動拳によって狂オシキ鬼の体が『く』の字に曲がった所に、さらに霊夢が接近する。お手本のようなセビキャンだ。当然足に大きく負担がかかるがそんなことはお構いなしだ。

 

 狂オシキ鬼の腹が近くなる。霊夢はもう一度右拳を前に出してその腹にぶつける。そして左のアッパーが狂オシキ鬼の顎をもぎ取る。とどめは―――

 

 

「電刃…!」

 

 

 何重にも練られた電気の波動が両手の中ではじける。一気に溜め終え、発射した。

 

 

「波動拳!!!」

 

 

 電刃波動拳は狂オシキ鬼の骨が見えそうなほど激しく当たり、狂オシキ鬼を吹き飛ばした。狂オシキ鬼はとうとう受け身も取れず、大の字になってダウンした。

 

 

「うああっ!!」

 

 そこにフランが地面を殴り、衝撃で倒れている狂オシキ鬼を吹っ飛ばした。狂オシキ鬼の体はヨーヨーのように縦に回転しながら宙に上がった。

 フランは狂オシキ鬼の落下スピードを見極め、両手に波動を溜め始めた。その波動は、体に纏う殺意の波動を取り込み、赤黒い波動が球体となった。

 

 

「…滅!!」

 

 

 自らも制御できないような波動を必死に両手の中で押さえ込みながら溜め続ける。そして狂オシキ鬼が地面すれすれに落ちてくる瞬間―――

 

 

「波動拳!!!」

 

 

 滅・波動拳は縦回転をしながら落ちていった狂オシキ鬼の腹に直撃した。タイミングを間違えれば外れたり、背中に当たったりする中、寸分の狂いなく腹に当てたのだ。

 狂オシキ鬼は横に回転しながら吹き飛んでいった。その先にいるのは―――リュウだ。

 

 

「行け、リュウ!!」

 魔理沙がアリスに支えられながら言う。

 

 

「リュウ! あなたの想いを全て、あのOniに!!」

 紫が願うように声を上げる。

 

 

「最後の一撃を、リュウ!!」

 霊夢も懇願する声を上げる。皆は全ての想いを、リュウに預けていた。彼だけが、最後を決められる権利を持った者だと分かっているから。

 

 

 リュウはこちらに吹き飛んでくる狂オシキ鬼をじっと見ていた。彼の時間は、この時だけゆっくりと流れていた。

 

 

(俺のこの拳…今まで培ったこと、全てを賭ける!!)

 

 

 その思いで、拳を腹に打ち込んだ。その拳は、狂オシキ鬼の心に届くように深く突き刺さり、狂オシキ鬼の活動を完全に停止させた。リュウの体に纏っていた波動が拳に集約し、狂オシキ鬼のひび割れに浸透した。

 

 

「真!!」

 

 

 左拳をショートアッパーで放ち、顎に当てる。そして一気に足に力を入れ、大きく真上に飛び上がった。

 

 

「昇龍拳!!!」

 

 

 天に矢が突き刺さるが如くリュウの拳が高く上がり、狂オシキ鬼の体全身にヒビが入った。ひび割れから一気にリュウの波動が吹き出る。リュウがそのまま真下に着地し、狂オシキ鬼が背中から落下する様を見ていた。狂オシキ鬼はそのまま背中から地面に落ち、辺りはしんと静まりかえった。リュウの体にはもう波動は纏っていない。これで立たれたら、もう本当に撃つ手なしだ。幻想郷一同は立たないでくれ、と願っていたが、リュウ、霊夢、フランの3人は違った。

 

「ぬううう…おおおお…」

 

 今まで動かなかった狂オシキ鬼がうめき声を上げ、体を起き上がらせて立ったのだ。が、その瞬間、体にできたひび割れが、殻が破られるように崩れていく。粉々に砕けたその中から出てきたのは―――

 

 

「!!!」

 

 

 間違いなく、人間の姿―――

 

 

「!!? あ、あいつが…!!」

 

 

 元の肉体―――豪鬼だった。

 

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