東方殺意書   作:sru307

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 天子に勝負を挑まれるリュウ。
 その戦いから見える、幻想郷の有力者達の弱点とは―――


第51話「過酷なる修行 ~後編~」

第51話「過酷なる修行 ~後編~」

 

 

 リュウと天子の距離は近づきすぎず離れすぎずの距離、この距離であたる攻撃は波動拳か弾幕だ。拳も、剣も届かない。

 

(さて、どう戦いましょうかね…とりあえず、あいつがどんな攻撃をしてくるか見るためにも待ってみようかしら)

 

 天子はいつでも緋想の剣を抜けるように手を鞘にやる。武器を使う以上リーチの差もあるのでこちらが有利だ。さらに彼は自分の能力も知らない。この2つの有利は確実に活かさなくては。

 

「波動拳!」

 リュウは天子が接近しないと見て、波動拳を撃ってくる。

 

「おっと!」

 天子は緋想の剣を抜き、波動拳を切り払う。

 

(確かに波動拳にはそれで対策される…結構分が悪いわ…さあどうするの、リュウ…)

 

 紫はじっと2人の戦いを見ていた。個人的にはリュウが勝って欲しかったが、2人の実力差がはかれないため勝利はどちらにでも転がり込むと思えてならなかった。

 

 リュウは波動拳が効かなかったのを見て前ステップを踏んでくる。天子は緋想の剣の先をしっかりとリュウに向ける。

 

「ふん!」

 リュウは右フックをかますが、天子は後ろに下がって避ける。

 

「話に聞いていた通りね。あんたはやっぱり、接近しないと本来の取り柄が出ない!」

 

 天子は完全にヒットアンドアウェイ作戦だ。リュウの接近戦での爆発力は見なくても分かる。自分からの接近は最低限にするべきだ。

 

「よっと!」

 天子が剣を横に払うが、リュウも後ろに下がって避ける。天子はその距離を保ち続ける。

 

 

「何よあいつ…! 嫌らしいわね…!」 

 ぬえが片足をぱんぱんと踏む。ぬえにとって、天子の戦い方はかなりいらつく、卑怯な戦い方に見えているようだ。

 

「戦う気がないわけではないです。あれも立派な戦略です」

 

 聖が真剣な目で見ている。いずれ自分も、リュウに追いつくためリュウと似た戦い方をする事になる。今のうちしかリュウの戦いを見る機会には恵まれない。百戦錬磨の戦いをこなしてきたリュウは、相手のいかなる戦法にも対応できるだけの力があるはずだ。ここからのリュウの行動に目が離せない。必然的に集中する。

 

 

 波動拳も接近しての攻撃も通じなかったリュウはじっとしている。表情は変えない。焦りを一切感じない。

 

(待ちに来たわね…ならこっちから攻撃してやるわ! そしてまた離れればいい!)

 天子は思い切ってリュウの懐に飛び込もうとする。

 

 

 ガン!!

 

 

 が、その前にリュウの右拳が天子の顔面を直撃していた。

 

「へぶっ!?」

 

 天子は情けない声を上げ、後ろに下がった。その顔は痛みより驚きの方が勝っており、目を見開いていた。その目で見た前方のリュウはもう次の攻撃に移っていた。

 

「波動拳!」

 2発目の波動拳は剣で振り払う暇すらなく天子の腹を直撃した。

 

「どえぶっ!!」

 天子は大きく吹っ飛ぶ。倒れはしなかったが、確実に体力が削り取られているのが分かる。

 

 天子は思わずリュウの顔を二度見した。

 

(な、何をされたの!? 確かあの時のあいつは、何もしていなかったはず!)

 

 

 天子はリュウが何もしていないと思い込んでいる。しかし第3者はしっかりと見ていた。リュウが攻撃していたことに。

 

 

「先に攻撃を置いていたわ…! あいつが、前に出ると読んで…!」

 

 

 リュウの右拳は霊夢の言うとおり、前もって既に出していたものだった。当然彼女は望んで食らいにいくことはしない。しかし、それはリュウが拳を出していることが分かっている前提が必要だ。そう、天子は気づかぬうちにリュウの右拳に自ら突っ込んでいってしまったのだ。ヒットアンドアウェイ作戦を続行することに集中するあまり、攻撃の場所に気を配る余裕を失ってしまったのだ。さらに露骨にその戦法に走っていたので、リュウにとって読みやすい環境を与えてしまったのだ。

 

 

(まさか、あいつの能力!? そうだとしたら見くびっていたわ…こちらも能力で対抗しなくちゃ!)

 

 天子は慌てて緋想の剣を地面に刺した。その瞬間、地響きが起こる。

 

「むっ…!」

 リュウは体を丸めてバランスを保つ。

 

(動きが止まった…! でも接近したらまたあいつの能力の餌食になるだけ! ならこれがある!)

 

 天子は即座にどこからか出てきた要石をリュウめがけ発射した。

 

「くらえっ!」

 要石は一直線に突き進む、先がとがっており、腕で受け止められるものではない。

 

「おっと!」

 リュウは真上にジャンプして要石を避ける。やはりガードを固める事はしない。

 

(思った以上に身のこなしも軽いわね…)

 

 天子は息を整え直しながら、リュウの様子を伺う。さっきまでの見ている余裕は一気に消え失せ、汗が頬を伝う。ここまで、まともに攻撃があたったことも、チャンスが巡ってきたこともない。

 

(でも弾の撃ち合いならこちらに分があるのは間違いないわ! もう一発よ!)

 

 天子は再び要石を撃つ。が、天子の正面にリュウの姿は要石を撃つ前からなかった。

 

(!?)

 

 一瞬で視界から消えたリュウの姿を、天子は要石を撃った後に慌てて追った。しかし、既に手遅れだった。

 

 

「とりゃ!」

 

 

 リュウの右拳が上空から降ってきた。それは天子の頭に直撃し、一瞬天子の頭がハンマーで潰したように平べったくなった。リュウは着地し、天子の顎めがけ突き上げアッパーをぶつける。

 

「竜巻旋風脚!」

 

 さらに竜巻旋風脚を天子の体に当て、大きく吹き飛ばす。天子は追撃を受けまいと素早く立ち上がった。

 

「うぐっ…!!」

 だが、天子は吐き気に襲われたらしく、体を縮こまらせた。

 

 

 その一連の流れを、弟子達がしっかり見ていた。

 

「立ち止まっている所から腕のみで強烈な一撃…! 流石だね…」

 

 勇儀が感心するが、それ以上にすごい事を霊夢が見抜いていた。

 

 

「いえ、それよりすごいのはあいつが要石を出す前から前方に飛び込もうとしていたこと…! 完全に読んでいたわ。あいつが、要石を飛ばしてくる事を…!」

 

 

 ただのジャンプでは弾幕を放たれてしまうと避ける術がない。それを知っていながら懐に飛び込むには相手の隙を突くしかない。そこでリュウが考えたのは天子の要石撃ち、一度見た瞬間に隙を把握し、2度目の予備動作中からジャンプすることで不意打ち気味に攻撃を浴びせた。普通なら要石が撃たれた瞬間に前に飛ぶことを考えるが、それではリュウの中では遅すぎる。彼は、ここで天子が要石を使うと読み切っていたのだ。

 

 

(ぐっ…これ以上ダメージを受けるのはまずいわ!! 弾幕を撃って、体勢を立て直さなくちゃ!!)

 

 思考が自らの身の危険を判断した今、余裕などぶっこいていられない。

 

 

「この弾幕に苦しみなさい!! 『全人類の緋想天』!!」

 

 

 天子がスペルカードを使ってくる。弾幕は上にも弾が広がるため、要石を避けるように真上へのジャンプのみでは避けられない。だがそこは華扇の弾幕を経験したリュウ、地上でなら受けることもなく弾と弾の間をすいすいと駆け抜ける。

 

 

(なっ…あいつ、弾幕慣れしている!?)

 

 リュウはあっという間に天子を捕らえる位置まで接近した。

 

「うっ、しまった!」

 

 天子は慌てて剣を横に振った。が、リュウはその間合いの外だった。よく見るとリュウがわずかに上体を後ろに反らして剣の先ギリギリを避けていた。もう彼は、緋想の剣のリーチすらも完全に把握している。

 

「せいやっ!」

 剣を振り切った瞬間にきっちり足払いをかけ転ばせる。

 

 

「剣を振り切った瞬間に足払い…相手に流れを与えていません。見事すぎますね…」

 

 藍が怖じ気づくように言う。これをされたら、「不用意に剣を振る=攻撃を食らう」の方程式が成立するため、攻撃手段が自分を傷つけるだけという恐怖の現象が起こる。

これではまともな攻撃手段が一気に減ってしまう。

 

 

「これが、リュウの強み…あらゆる場面にも対応する適応力で、相手のいかなる攻め手を一つ一つ潰す…!」

 

 

 紫の言葉は言われれば皆が納得できる言葉だった。彼の強さは、相手に全力を出させる力、リュウの求める『真の格闘家』に近づくようにする強さ。

 

 天子は起き上がるが、弾幕を使っても剣を振ってもお釣りが来る以上、その後が何もできない。そのせいで、ガードすることすら忘れてしまった。下段にリュウの足を差し込まれる。

 

「灼熱!」

 リュウの灼熱波動拳が天子に襲い来る。下段に足を差し込まれバランスを崩した天子に、防御するいとまはなかった。灼熱波動拳が当たり、火が服に燃え移る。

 

「熱っ、熱っつ!!」

 

 灼熱波動拳に体を燃やされた天子は、火を振り払おうと腕をブンブンと振る。だが戦いの最中にその行為は、相手から見れば攻撃してくださいと言っているのと同じ事だ。現に、リュウはここで勝負のカードを切っていた。

 

 

「昇龍拳!!」

 

 

 とどめに出した昇龍拳は、今までのより高く飛び上がっていた。勝負を決めに来たのだ。

 

「ぎゃああああ!!!」

 情けない声を上げた天子は背中から体を地面に打ち付け、動けなくなった。

 

 

「勝負あり…ね」

 霊夢が静かに言った。

 

 

 

「…まさか、総領娘様に糸もたやすく勝てる者がいるとは…恐れ入りました」

 衣玖が頭を下げる。完全にリュウに感服したようだ。

 

 

「いえ、むしろ最初からリュウが有利だったかもしれないわ。あの適応力持ちに加えて、技なしでも戦えていたのだから」

 

 

 永琳が鋭い指摘を投げかける。

 

 

「こっちの戦いはスペルカードが全てですからね…確かにただ拳を出すだけでも戦えるなんて考え自体が私達には浮かばないのもある…」

 

 

 早苗は永琳の指摘に納得した。

 

 

「ただ弾幕を撃つだけの戦闘には読み合いの概念はない。それが君たちの接近戦をする上での最大の弱点だ。それが分かってくれたなら何よりだ。一つ一つの攻撃の出し方、出す場所に工夫を凝らすだけでここまで戦える。技よりも実戦で物を言うのはこれなんだ」

 

 

 あの時の戦いで、右拳を出したのは天子の前ステップを止めるため、緋想の剣のリーチを把握したのはその後の隙に入る攻撃は何かを探るため。それぞれの状況において、自分が持つ武器をどう使うか、この意識だけで、戦いは変わる。

 

 

「読み合いで勝てば、どんな相手だろうと互角以上に戦える。だから単なる力の差では勝負は決まらない。それが戦いの面白さだ」

 

 

 リュウは笑顔だ。何度やっても戦いの面白さは底が知れないほど出てくる。それを考えるたび、自然に気持ちが高揚していくのが目に見て取れる。

 

 

「読み…それができるようにするには…」

 

 うどんげのその後の言葉は、誰もが何も言わなくても分かった。

 

 

「ああ。これができるようにするには、反射神経もそうだが精神的優位がいる。そして何より、体がついていくようにするが第一だ。『強靱な精神は、強靱な肉体を持つ者だけに生ず』。師匠の言葉だ」

 

 

 師の言葉を使ったリュウは目をつぶっていた。彼は目をつぶれば思い返せるようだ。

 

「こればかりは実戦で覚えていくしかない。訓練で分かりやすいようにやっても相手がそんな動作をするわけがないからな」

 

 訓練なら読みやすいように動くことは可能、だが実力者がこんな動きをするかと言えば、即座に『NO』が返ってくるだろう。

 

 

「という訳で、早速実戦に移るぞ」

 

 

 

 その夜。ようやくリュウの修行から解放された一同は、皆で集まって会議をしていた。

 

「はあ~~……ここまで時間が早く流れてくれって思ったのは初めてだぜ」

 

 魔理沙が畳にごろんと寝転がる。楽にできる姿勢をずっとしていないせいで、このまま起き上がらなくなりそうなほど疲れていた。

 

 

「というより、半分リュウの修行になっていたわね…彼、未熟だからというより、そもそも師となるような人間じゃないわ。あの探究心を持っているようじゃ周りが振り回されるだけだもの」

 

 

 永琳が指摘する。リュウの場合、師としての技量ではなく、彼の飽くなき探究心が師としては向いていなさすぎるのだ。それゆえに弟子をほったらかした行為に走りやすい。それも、彼自身が未熟だから、という理由で片付けられてしまう訳だが…

 

 

「ただ…彼自身はとんでもなく楽しかったようです。彼の心を見ていましたが、楽しそうでしたから」

 

 さとりがあきれるように言う。彼の飽くなき探究心はどんなにつらい修行だろうと健在のようだ。

 

 

「あれを注意してもいいけど…リュウの良いところが全部丸つぶれだろうしね。あのままがいいよ」

 

 

 諏訪子がこればかりはどうしようもないというように手をお手上げの形にして上げた。それには満場一致で全員が同意した。

 

 

「でも良かったよ、この体験ができて」

 萃香がほう、と酒を飲む手を止めて息を吐いた。その言葉に皆に注目が集まる。

 

 

「リュウは私達に全く知らない驚きを与えてきたじゃないか。なら、修行も普通じゃ考えられない事かと思ったけど、違った。厳しいのは確かだけど、非現実的なものじゃなかったもの。特別なことは一切なかった」

 

 

 彼の肉体は、普通のものではない。なら、普通ではない修行をしてきたと言われればそうではない。修行は誰でもできることだ。彼を成長させたのは、おそらく探究心によって蓄積された『経験』だろう。

 

 

「特別なことね…確かに、そんなものは一切なかったわ。内容はあれだけど、1つ1つは不可能な事じゃないわ」

 

 

 霊夢は向こうにあるふすまを見た。隣ではリュウがふすま1枚を通して向こうで寝ているのだろう。その向こうの存在がやっていることはただ単なる事の繰り返し。そこに高等な技術や技法はない。一人の人間として、誰でもできること。その積み重ねが、今の自分たちとの大きな差を作り上げている。なら、追いすがるに近道はない。その道をだけしか追いすがる術がないのだから。

 

 

 一同は、改めてリュウを追うことを決意するのだった。

 

 

 

 その後の話になるが、毎日来るようになったのは霊夢とフランだけになった。だが定期的に残りのメンバーが来る体制になり、結局の所、リュウの弟子を辞めた者は1人もいなかったのだった―――

 

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