東方殺意書   作:sru307

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 お待たせしました、だいぶ長いですが今まで休んだ分のお詫びとして受け取っていただければと思います。

 場所は変わって、紅魔館。
 修復中の紅魔館に2人の来客が―――



第55話「信念を持った者」

第55話「信念を持った者」

 

 

―紅魔館・門前―

 

 人里がダルシムの登場で騒ぎになる中、紅魔館。修理は鬼の協力もあり、半分まで終わった頃の時だった―――

 

 

「はあ…この季節だとだいぶ涼しいですね、この格好じゃ」

 門番の美鈴が肌寒そうに二の腕をさする。秋の空気は美鈴の着る中華風のドレスには少々酷である。冬になればマフラーをするが、この季節で着けるにはまだ早すぎる。

 

 秋の肌寒さを体で受けながらじっと門番を続けていると、目の前の空間にスキマが開いた。美鈴は思わず構えた。ケンの事例がある以上、中から出てくるのは紫とは限らない。

 

 

「何よこの館…気色悪いわね…」

 

 

 スキマから出てきたのは紫ではなかった。チャイナドレス風の青い服に、お団子ヘアー、腕には鬼がつけていそうな鋭い棘付きの腕輪がついている女性だ。美鈴は彼女の可憐な容姿とは裏腹に、どこかに眠る強い決意に警戒した。この人は、『やるときはやる』という明確な意志が感じられたのだ。

 

 

 しかし、スキマから出てきたのは1人ではない。もう1人いた。

 

 

「ふむ、確かにお洒落とは言い難いな。この館の主が紅を好んでいるというのなら別だが」

 

 

 その男はボクシングのグローブを両手にはめ、ボクシング選手とは縁遠い清楚な服装を着ている。何ともアンバランスな感じの否めないその男は、どこか紳士のように見えた。

 

 

「あら…」

 美鈴を見た女の顔が一気に明るくなる。似た格好の者同士がこの地に足を下ろした瞬間見たからだろう。

 

「あなた達は…何者ですか?」

 

 そうは思いながらも、自分の責務に従う美鈴は名を聞いた。自分を慕ってくれる主のためにも門番に油断はならない。

 

 

「私はICP…って、ここで言っても分からないわね。春麗って言うわ。あなたの名前は?」

 

 

 春麗が言いかけたのは、おそらく彼女の職場だろう。今気にすることではない。

 

「美鈴。紅 美鈴です」

 

 美鈴の目は真剣なままだった。何か、油断を誘っているのではないかと気が気でないのだ。現に、殺意リュウに負けてしまった経験のある今となってはなおさら。

 

 

「私はダッドリーという者だ。八雲紫という者に捜査官共々連れられてここに来た。どうもこの館には吸血鬼のお嬢様がいるとの事らしいが…」

 

 

 ダットリーは髭をいじりながら自己紹介をした。彼、どうも自分の髭にこだわりがあるようだ。

 

「お嬢様に用があるのですか?」

 美鈴は構えをわずかに緩めた。初対面の自分に対する当たり方がソフトだったからだ。しかもこの2人、紫に会ったと言った。そうなると…

 

 美鈴が自分たちを警戒していることに気がついたか、春麗が謝ってきた。

 

「…あ、ごめんね。いきなりの来客は対応したことがないでしょうから」

 

「私からも謝ろう。何も言わずに訪問するのは無礼以外の何ものでもないからね」

 

 2人は素直だ、美鈴の勘がそう告げた。

 

「…八雲紫の案内を受けたということは、あなた達もリュウの住む世界の者ですか」

 

 美鈴は春麗に対する警戒を少しずつ緩めながらも、表情は崩さない。

 

「ええ。私もリュウの世界の者。リュウとは異世界を共に旅した仲でもあるわ。私を連れてきた紫って人からこの世界の事はある程度聞いたけど、まさか妖怪が実在するとはね…」

 

 春麗は考え込むように目をつぶった。まだ見ぬ妖怪の姿を想像しているようだが、予想がついていないらしく表情が曇っていた。

 

「私の国では妖怪という言葉自体が聞かれない。私自身、異国の生物には興味をそそられるのでね。同行させてもらったよ」

 

 一方のダッドリーは表情を崩さない。強者の余裕とでも言いたげに、笑みを浮かべている。だがその笑みの裏には、一瞬にして豹変しそうな不気味さも兼ね備わっていた。

 

「そういう私も妖怪の1人…と言ったらどうしますか?」

 美鈴は2人の度胸を試そうと、事実ではあるが嘘っぽく言ってみた。リュウの世界の者は、どこまで異形の者を受け入れるかという個人的な興味もあったが。

 

「って、あなたも妖怪なの? 意外ね、妖怪ってもっと、異形の形をしているかと…」

「確かにそうだな。人間の姿に羽が生えたようなものかと私は想像したが」

 

 この反応ということは、この春麗とダッドリーの2人はまともなのだろうか、美鈴はそう考えた。ここまで会ってきたリュウもケンも、確実にどこかかしこおかしいところがあった。中でも妖怪や妖精、神にも動じない所が大きく違う所だ。それに対して春麗の反応は自然だ。それでも、妖怪と聞いて怖じ気づかない所を見る限りは流石リュウの世界の者と言ったところか。何より、敵意はない。そう感じた美鈴は態度を完全に緩める選択をした。

 

「あなたたち2人が怪しい者ではないことは分かりました。すいません、何せ異変が起きてまだ半月も経っていないので」

 美鈴は堂々と頭を下げて謝った。

 

「ダッドリー、私は美鈴と話をしていたいわ。あなたは先に中に入ってもらえる?」

 春麗は両手を合わせ、ダッドリーにお願いした。

 

「了解した。では、私は先にこの館の主に会うとしよう」

 ダッドリーは紅魔館の扉を開け、音ができる限り立たないよう静かに閉めた。扉が閉まったのを確認した春麗と美鈴は顔を向き合った。

 

「さて…」

 春麗は静かにそう言うと、美鈴の体全体を見始めた。美鈴は「?」という顔をして春麗の顔を見る。何か私に気になる事でもあるのだろうか。

 

「あの…私に何か心当たりでも?」

 気になって仕方がなかった美鈴は聞いてみた。春麗はみすずの質問に半分無視、半分答えるようにつぶやいた。

 

「う~ん、やっぱりどこからどう見ても妖怪じゃないわね…」

 美鈴はなるほど、と思った。そして答えるように言葉を続けた。

 

 

「…まあすぐに妖怪だという証拠を出すことはできませんからね、あるとしたら傷の治りが早いとかぐらいですから」

 

 

「!」

 

 

 春麗は美鈴の言葉を聞いて、突然何かを閃いたように目を見開いた。

 

「…なら早いじゃない。良い方法があるわ。あなたが妖怪かどうか、確認する方法がね」

 

 春麗は笑みを浮かべる。まさか、この流れは…

 

 

「戦うのよ。あなたと私、一対一でね」

 

 

 ですよねー、という言葉が出そうだった。だがこらえた。

 

 

「あなたも戦い好きですか…」

 

 美鈴はトホホ、と思わせぶりに言った。だが春麗はその意図を持って言っていなかった。

 

 

「ちょっと、私はリュウみたいに戦いを求めているわけじゃないわよ。私にはある目的があるの。そのために、戦いに身を投じざるを得ないのよ」

 

 

 リュウと春麗の違う点、それは戦いが目標に近づく事であるか、だった。リュウは雲を掴む如き高く誰も歩んだことのない道、確定した要素もない。だから何度やっても同じようにはならない戦いが、その道の歩みを進める適任だ。

 

 一方の春麗は、目的のためには他の手段があるが、時には戦いに身を投じなくてはならないという、強制力がある。本当は戦いをしたくないが、致し方ないという印象だ。

 

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

 さらに春麗はこんな言葉を続けた。

 

「それに…あなたの実力が見たいわ。異世界の中国拳法、是非とも見てみたいのよ」

 

 

 春麗は構えていた。顔は笑みを浮かべているが、目が真剣だ。一歩も引かない、鋭い目。

 

 

「わ、分かりました…」

 美鈴は少し怖じ気づいた。彼女の真剣な目の鋭さを体に突き刺したら凶器になりそうだったからだ。まるで悪を許さないとでも言いたげに…

 

「なら、まずはこの幻想郷の名物を! 飛翔『飛花落葉』!!」

 

 挨拶もなしに美鈴は花びら型の弾をどんどん繰り出す。だが春麗は弾と弾の間をすいすいと抜けていく。

 

(流石に身軽ですね…薄い弾幕程度ではすいすいと避けてくる…)

 

 美鈴は思った。殺意リュウの阿修羅閃空のようなあり得ない避け方はしてこない。単に回避能力が高い。そうなると、頼れるのは接近戦しかない。そう考えたその時―――

 

「っ!?」

 

 美鈴は顔を後ろにそらした。その理由は、春麗がハイキックで美鈴の顔面を狙ってきたからだ。もし顔をそらしていなければ、いきなり意識を刈り取られていた。

 

(彼女の足は思った以上に遠くから飛んでくる…! あのOniと同じように踏み込みも鋭い! まともに接近しようとすれば攻撃を食らい続けるだけ!!)

 

 美鈴の脳の中の危険信号が黄色に灯った。距離を誤れば、たちまち自分の敗北が決まる。立ち回りを慎重にしなければ。

 

 美鈴はじりじりと前後に動いて相手の様子をうかがう。春麗は焦ることなくじっと美鈴を見ている。互いに前後の動きのみ、攻撃の間合いに入るか入らないかの絶妙な距離。リュウとケンがやっていたときと同じだ。

 

 が、一瞬の油断を見つけたか、春麗が一気に前に出てきた。

 

「百裂脚!!」

 

 春麗は片足で立ち、目にもとまらぬスピードで蹴りを連発してきた。

 

「痛だだだだ!!」

 

 美鈴は見切れる訳もなく次々と蹴りを食らう。手数が多いのもあるが、予想以上に威力もあるので受けるダメージも大きい。幸い食らうと同時にのけぞるのもあったおかげで、食らい続ける事態は避けられた。だが春麗は容赦なく攻撃を続ける。

 

「覇山蹴!!」

 

 空中に回転しながら飛び上がり、落下してきた勢いそのままにかかと落としが降ってきた。

 

「危なっ!?」

 

 美鈴は横にすっ飛んでかわしたが、かかと落としの衝撃がすごく、地面に小さなヒビができた。女性でここまでの威力だとなると、かなりのものだ。まともに食らったら危険極まりない。

 

「はっ!!」

 あれこれ考えていると、春麗が踏み込んで拳を当てに来た。美鈴の体がくの字におり曲がる。

 

「せいっ!!」

 今度は下段の足蹴りを足に食らい膝をついてしまう。

 

「えいやっ!」

 さらに一度ギリギリとはいえ避けられた顔面へのハイキックも食らう。

 

(ま、まずい! アウトレンジから一方的に攻められている! 何とか、なんとかして距離を詰めなくては!)

 

 春麗の踏み込みは鋭く、見てからでは避けきれない。ガードしても百烈脚がある以上、ガードを外すことができず反撃できない。なら、接近する手段はただ1つ。

 

 美鈴は空高くジャンプした。空中なら、百烈脚も使えないはず。自分が思いつく限り、これが懐へ飛び込む最後の手段。落下速度が上がっていく。春麗の姿が大きくなっていく。ここから跳び蹴りを―――

 

 

「はああああーっ!!」

 

 

 次の瞬間、春麗は突然逆立ちになり、恐るべき柔軟性で両足を広げ、ヘリコプターの羽のように回転した。しかも立ち止まった状態からここまでできるかと思うほど回転速度が速かった。

 

 

「どべべぶ!!?」

 

 美鈴は春麗の回転に巻き込まれ大きく吹き飛ばされた。ビダンと体を地面にたたきつけられる。何とか立ち上がるが、春麗はガン攻め、前に突っ込んできた。

 

 

 この時、美鈴に余裕はあるわけもなかった。が、この時ばかりは持っていた方が良かった。

 

 

「彩符『彩光乱舞』!!」

 

 

 美鈴が選択したのは『弾幕』。それは―――

 

 

 外れた。春麗は斜め前、それも美鈴をギリギリ飛び越せる高さにして飛び上がっていた。相手の攻撃を避けつつ、確実に隙につけいるのに十分な時間を確保できる高さ。

 

 

「!! しまっ…」

 

 

 美鈴はアウトレンジから一方的に攻められていたため、自分の拳や脚が春麗に届かないことを頭に入れていた。そうなると攻撃手段はただ1つ、弾幕に絞られる。春麗はここまで遠距離に対応する飛び道具は使っていないので、なおさら有利を取るチャンスが出てくる。

 

 しかし、この時は違った。自分の拳か脚が届く範囲に春麗がいるのに、届かない攻撃の存在を忘れ、無意識に弾幕を撃ってしまったのだ。弾幕を出している間は動きが確実に制限される。つまり、接近を許せば格好の的でしかないのだ。

 

「隙を見せたわね!!」

 

 春麗は待っていた。美鈴が焦りから、早計して隙の大きな弾幕を撃つ瞬間を。美鈴が、ただの的になる瞬間を。

 

 

「気功掌!!」

 

 

 両手に気を纏い、合わせて発頚の形を作る。その瞬間に両手の気が炸裂し、美鈴を一気に巻き込んだ。

 

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

 

 美鈴はなすすべなく巻き込まれていった。

 

 

 

「はあ…危なかったわ。やっぱり弾の間をくぐり抜けるのはひやひやする事この上ないわね」

 

 春麗は服についたほこりを払うようにポンポンと服を叩いた。

 

「いたたた…まさか、ここまで何もできないとは…いや、恐れ入りました」

妖怪の回復力を見せ、すぐに復帰した美鈴は頭をかきながら言った。

 

「でもその攻めの姿勢は良かったわよ。戦いは、一瞬でもためらえば負けよ? あなたの攻めには、ためらいがなかったもの」

 

 美鈴はそんな、という顔をした。それでいて何もできなかった方がまずいだろうと言いたげだ。春麗はすぐそれを察してくれた。

 

「でもまあ、何もできなかったのは事実よね…」

 

 春麗はそう言って考え込み始めた。何を考えているのだろう、美鈴は気になった。

 

 

「決めたわ! ここに私がいる間、あなたと私、お互い師弟関係になりましょう!」

 

 

 春麗の突然の提案に、美鈴は慌てた。

 

「ええっ!? そ、そんな! 私じゃ、とてもあなたに教えることなんて…」

 

 現に、今さっき春麗に負けたのもある。そんな自分が教えてやる事何て―――

 

 

「…あるのよ。あなたが私に教えられることが」

 

 

 春麗がつぶやいた一言に美鈴は驚いた顔を向けた。心を読まれた…? まさか…

 

「…残念だけど読心術とかはやってないわよ? 長年この仕事をやっていると、仕草で考えていることが簡単な事くらいなら分かるのよ」

 

 さらに驚いた。彼女は、幾度の修羅場を越えているようだ。それも自分とは比べものにもならない数の。

 

「あれだけの弾を避けるのは私にとっては銃弾の雨を進むのと同じなのよ。心臓に当たれば、一発で命に関わるせいで、危ないことこの上ないわ」

 

 どうも春麗の目には、物騒なことだが弾が銃弾の雨に見えていたらしい。そう見えているのは緊張してしまうのは誰でもかもしれない。しかし春麗の言い方には、余裕がなかった。それだけ切羽詰まっていたらしい。

 

「そ、そんなに命に関わることに?」

 

 美鈴が冷や汗を感じながら春麗に聞くと、春麗はうなずいてから話を続けた。

 

 

「ええ。私の目的を話してあげる。私はある組織を追っているの。それを追っている途中で、何度も危ない目にあったわ」

 

 

 美鈴の考えた『幾度の修羅場』は、これを表していた。

 

「さらに言えば、あなたが弾幕を恐れない事も、私にとってはうらやましいのよ」

 

 そう言うと春麗はまた構え直した。しかし美鈴を見ずに、霧の湖の方に体を向けている。もう美鈴に敵意がないことの現れだ。

 

「気功拳!」

 

 突然春麗が片手から放ったのは小さな気の弾、それはスピードも遅く、しかもひょろひょろと飛んでいくだけ。これでは美鈴の弾幕勝負には付き合えない。

 

「気功拳!」

 

 春麗が両手をそろえて気功拳を放つ。今度は大きく、弾速も速く真っ直ぐ飛んでいく。が、あっという間に弾自体が消えてしまった。これが表すのは、今の春麗では遠距離でコンスタントにダメージを与える手段もないということ。2つの意味で、遠距離戦にされたらかなわないのだ。

 

「私には気を使った遠距離への攻撃手段がこれしかないの…だからうらやましかったのよ、あなたの気を使った弾幕が…。そしてそれに見慣れている、あなたの目が…」

 

 春麗は困った顔になった。そしてそれを見た美鈴は、初めてその顔を見たにも関わらず『らしくない』と思った。

 

「だから、お互いに教え合う関係になるのよ。私はあなたに拳法を、あなたは私に気の使い方を」

 

 

 春麗の目は戦いの時と同じように真剣になった。美鈴は悟った。春麗が目指すものは、誰にも言えない自分だけに分かる信念を持ってある組織を追うこと。そのために戦いに身を投じ、たとえ危ない目に遭おうと、怪我を負ってもひたすらに進み続ける。彼女の精神には、リュウと同じものが混じっているように見えた。この人も、リュウの影響を受けた者。自分の目標は、リュウに近づくこと。ならば―――

 

 

「…分かりました。できる限りの事は教えるようにします」

 

 

 根比べをしても負けるだけと判断したか、美鈴は了承した。

 

 

「決まりね。じゃあ…これからよろしくね、美鈴」

 

 

 春麗は右手を出してきた。呼び捨てで呼ぶところを見ると、もう知り合いでは済まさないわよと言ってきそうだった。美鈴はもう一つ悟った。彼女と根比べするのは、負けが決まっていそうだと。

 

 

「は、はいっ! 春麗!」

 

 

 美鈴はがっちりと契りを交わすのだった。

 

 

 

 妖怪と人間、種族を越えた、互いに中国4000年の歴史を知る者同士の師弟関係、ここに誕生―――

 

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