東方殺意書   作:sru307

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 異世界の者を次々と受け入れる幻想郷。
 しかしその平和に、わずかな揺らぎを感じる者が2人―――


第63話「予知」

第63話「予知」

 

 

―神霊廟―

 

 

 神霊廟。狂オシキ鬼の噴火の副産物、地震の被害以外は何もなかったこの場所には、平和な時が流れていた。修行を続けて疲れた肉体を癒す唯一の場所、思い思いの過ごし方をしていた。

 

 そんな朝の事―――

 

「くあああ…」

 

 布都が涙目になりながら大きなあくびをする。リュウの修行が早起きなのもあって、朝が苦手な布都はややキツイ日々が続いていた。この日は少し遅く起き、少しでも寝不足気味を解決しようとしたが、まだまだ眠い。

 

「相変わらず朝は慣れてないのね、布都」

 

 そこに屠自古がやってくる。

 

「お主だってそうじゃろう。目が真っ赤じゃぞ」

 

 屠自古の目は布都に言われた通り真っ赤、寝不足なのが見てすぐに分かる。

 

「眠いのは生きている者として当然の本能。現に私も…うむ」

 

 神子も眠気に襲われがちの様子、その中で―――

 

「む、青娥はまた外に出ているのか?」

 

 布都が辺りを見渡すが、この場にいるのは3人だけ、霍 青娥の姿がない。ちなみに青娥が使役する芳香はずっと門番だ。

 

「…そういえば見ていないな。今日は皆お休みを取るはずなのだが…」

 

 神子が探そうとすると、どこからともなく声がした。

 

 

「ここにいるわよ」

 

 

 青娥はゆったりとした足取りで戻ってきた。その顔は今にもスキップしそうなほど笑顔に満ちあふれていた。元々早起きが習慣だった青娥は、リュウの修行も朝は平気に動けていた。といっても、それに伴う筋力はなく辛かったが。

 

「む? ご機嫌そうだな、青娥」

 

 屠自古が青娥の、いつになく鼻歌を歌いそうな笑顔をする青娥を見て気づいた。

 

 

「ええ。ちょっと面白い人に会ってね」

 

 

 青娥がご機嫌そうに笑顔を向ける。その笑顔の裏に棘があるのを一同は知っている。そして警戒を強めるのがお決まりである。彼女が笑みを浮かべた後は、よろしいことが起こらないのが定例だ。しかも今回の場合、余計に悪いことである予感がする。

 

「ほら。ここが神霊廟。この洞窟の中に屋敷があるというのは本当だったでしょ?」

 

 青娥は突然振り向いた。どうやら誰かを案内していたらしい。

 

 

「へえ、本当に屋敷があるのね。『住めば都』という言葉も、あながち間違いではないのかもしれないわね…」

 

 

 そう言いながらやってきたのは女性、美しい容姿に首に巻かれた目立つ黄色いマフラー。それ以上にこの大人の女性から感じる不思議な感覚は何だろうか。

 

「青娥よ、その者は?」

 青娥が紹介する前に、女性が口にしていた。

 

 

「私はローズ。しがない占い師よ」

 

 

 ローズは静かな笑みを浮かべながら自己紹介した。しがない、という割には身なりが良さそうだが。

 

「占い師、じゃと?」

 

 布都が疑う。自分の能力を把握しているが故の言葉だ。

 

「ええ。何せ、不思議な力を使って占いを見せてくれたわ。その占いの結果も良くてね」

 

 青娥が笑顔の理由は、これが原因だ。どうやら予感は外れたらしい。屠自古と布都が一安心する中、神子だけは真剣な顔をしていた。

 

(…この者、もしや…)

 

 ある事を頭に思い浮かべた神子は、思い切ってローズに提案した。

 

「そなた…ローズと言ったな? 少し、話をしないか?」

 

 神子は能力をフル活用するため、時間をかけてゆっくりと相手を伺うのが妥当な手段。だが今回は自分から行った。何か訳があるのだろうか。

 

「いいわよ。行く当てもないからちょうどいいわ」

 ローズはその訳を考えることもなく受け入れた。

 

 

 

 神霊廟内の畳の間で、ローズは神子の質問攻めを受けることになった。ローズは嫌な顔一つせず全て答えてくれた。

 

「やはりそうか。そなたも、リュウの世界の者なのだな」

 

 神子はローズから聞き出した事をまとめた。自分の直感は、やはり間違いではなかった。この人もリュウと同じ、強い意志を持って動いている者。

 

「ええ。リュウを占ったことはないけどね」

 

 ローズの言い方には、リュウを占うこと自体が無駄だという含みを持たせていた。事実、あの姿を見ている一同は同感した。

 

「占いか…今できるか?」

 

 神子が聞くと、ローズはどこからかカードの山を取り出した。

 

「もちろんできるわよ。誰の、何の運勢を占いたいか言ってもらえれば」

 

 ローズは魅惑の目で皆を見つめる。この占い師、ペテン師か本物か気になる所、実際に受けてみるのが一番早い確認方法だ。

 

「ふむ…ならば、儂の金運でも占ってもらおうかのう」

 

 布都は自分から名乗り出た。屠自古は乗り気ではないらしく反論しない。青娥は占ってもらっているので意味がない。神子はローズを観察しているので占いどころではなさそうだ。腰下ろして座布団に正座し、ローズと向かい合った。

 

「じゃあ、このカードから2枚、引いてもらいましょう」

 

 ローズはそう言いながらカードの山を切り始める。しかもトランプの切り方とは似て非なる切り方をしている。

 

「そのカードは?」

 

 布都はそのカードの山をじっと見る。トランプや花札ではないのはすぐ分かった。だがそれ以外だとしたら何だろうか?

 

 

「『タロットカード』と言われる、占い専用のカードよ。描かれている『アルカナ』の意味と位置で運勢を占うもの。この土地にはないものだとは始め思わなかったわ」

 

 

 ローズはタロットカードの説明を続けながら、カードを切り続ける。

 

「さあ、どうぞ…」

 ローズがタロットカードを切り終わり、並べていくかと思われた次の瞬間。

 

 

 フワッ…

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 一同は目を疑った。何とカードが、畳から数センチ浮かび上がったではないか。ローズが糸で引っ張って浮かせているのではない。まるで意志があるかのように浮かび上がったのだ。

 

「ま、まさかそなたの仕業か?」

 

 布都がローズを指さす。この程度は、下手したら誰でもできる事ではある。だがここまでカードに触れたのはローズただ1人。何かの細工ができるのは彼女だけだ。

 

「ええ。一種の超能力よ」

 

 ローズはあっさりと認めた。隠す意味なんてないと思っているのだろう。これを見る限り、彼女は紫からある程度話を聞いていたのかもしれない。

 

「で、では引いてもいいのじゃな?」

 布都は念を押す。ローズの超能力で、何か見られているような気がしてならなくなってきた。心を読まれているような、そんな感覚だ。

 

「もちろん。怖じ気づいたのなら、止めてもいいわよ」

 

 ローズの不敵な笑みに布都はむっとしながらも、真ん中のカードと右下のカードを引いた。手触りから、何か細工が施されている様子はなかった。やはりこのカードが浮いたのは、超能力と結論づける以外ない。もちろん根拠は口答だけなので、ないに等しいが。

 

「じゃあ、それをそのまま表にしてちょうだい」

 

 布都はタロットカードをめくり、表面にした。そこにはどちらも見たことのないものが描かれた絵が一方は正位置、もう一方が逆位置に置かれていた。

 

「なるほど…では、あなたの金運、お教えしましょう」

 

 ローズはそれを見てすぐに言う。占い師として、何を意味するのかはすぐ分かるようになっているようだ。布都はゴクリとつばを飲む。何が言われるのだろうか。

 

 

「まずプラス面の金運に関して…あなたが引いたのは『恋人』の正位置」

 

 

 ローズは冷静にさらりと言ってのけたが、布都は慌てふためいた。

 

「こ、恋人じゃと!?」

 

 布都は顔を赤くして腕をブンブンと振る。自分が占いたいと望んだのは金運。なのに『恋人』なんてみじんも関係がないではないか。

 

 そう思えた布都だが、ローズはその顔を見て笑みを浮かべ、チッチッと人差し指を振った。

 

 

「ふふ…金運には関係ないように思えるけど、違うのよ。恋人というのは、会えるかも分からない存在…会える人はほんの一握り。だから『幸運』を意味するのよ」

 

 

 『幸運』。ということは、もしかして―――

 

 

「あなたには今、運が向いてきているわ。いきなりお金をもらえる可能性があるという事よ。どういう経緯になるかは分からないけど、近いうちにやってくる。じっくり待つといいわ」

 

 

 それを聞いた布都は反射的にグッと拳を握った。

 

 

「次にマイナス面の金運…あなたが引いたのは『戦車』の逆位置」

 

 

 戦車という言葉を聞いたことのない布都は首をかしげる。

 

「戦車…外の世界の重厚な兵器であると聞いているが、その意味は?」

 神子が割り込んでくる。

 

 

「これは『暴走』を意味するわ。つまり、あなたが幸運で得たお金を、暴飲暴食か何かであっという間に使い切ってしまう可能性があるという事よ」

 

 

 布都は愕然とした。このままでは富を得られるのはほんの一瞬という事になる。だがローズはそれを変えられるという意味も含めて『可能性』と言っていた。なら―――

 

「…それは、幸運にも儂がお金に恵まれたときには、焦らずに使い道を考えるべき、という解釈でいいのじゃな?」

 

 布都がずいっとローズに顔を寄せる。その態度に、ここまで冷静を崩さなかったローズも少したじろいだ。

 

「そこまでは分からないけど、普通ならそうでしょうね」

 

 ローズは両手を前に出して落ち着いてという仕草をした。布都は寄せた顔を戻して正座の体勢を整え直した。

 

 

「私はあくまで運勢を占うだけ。それを聞いてあなたがどうするかは自分次第。私が関わる事ではないわ」

 

 

 ローズはあくまで道を示すことをするだけ。そこから歩を進めるのは自分自身なのだ。それはローズも同じ事。道を示すことがローズの歩を進めるべき道。彼女の精神には、リュウの精神の一端が混じっているように布都は感じた。

 

「どうかしら? 彼女の占いの腕前は見事なものよ」

 青娥が口を挟んでくる。

 

 

「だって布都、思い込みが激しいところがあるじゃないの。その占い、結構信頼できるわよ。私も占ってもらったけど『あなたはバラには棘がつきもの、という言葉がぴったりね』って事を言い当てられちゃったし」

 

 

 青娥がそう言う。性格を見抜かれるのはあまりいい思いはしない。だが面白い話だと思うのが青娥、怪しげな笑みを浮かべていた。それが邪仙という種族らしいといえばまあ納得できる点がある、気がする。そして自覚があるのなら、迷惑がっている者がここに数名いるので直して欲しい、と言いたい。

 

「むう…言い返せぬのが悔しい…」

 

 布都もそう思いながら言い返せなかった。それだけローズの占いが的確過ぎるのだ。

 

「私も占ったら、私の性格通りの結果が出るのでしょうか。太子様…」

 

 屠自古がローズを見ながら神子に聞く。

 

「………」

 

 神子は屠自古の言葉に反応せず、じっとカードを片付けるローズを見ている。

 

 

「太子様?」

 

 

 布都も無視する神子が気になり始める。すると神子の目が元に戻った。

 

 

「…ローズ殿」

 神子は静かに言った。一気にこの場の空気が緊張感に包まれる。

 

「あの質問の中で、聞き忘れていた事がある。私は人の欲を読み取る事ができる能力を持っている。失礼して、そなたの欲を読み取らせていただいた」

 

 神子は堂々とした態度でローズに話しかけた。あの堂々とする態度は、側近の2人でもなかなか見ることはない、珍しい態度だ。

 

 

「私は欲を読み取る能力の延長線上の能力として、ある程度の予知ができる。そなたから読み取れたのは『死欲』。まさかそなたは、これから死にに行こうとしているのではないか?」

 

 

 神子の言葉に神霊廟の皆が耳を疑う。能力だけ、というローズからしてみれば根拠でも証拠でもない結果から出た質問だ。普通なら『何を言っているんだ』で済む話だろうが、相手が違いすぎる。

 

「………その証拠はあるのかしら?」

 

 予想よりかは黙った後に言った。ローズはタロットカードで口元を隠す。目を見る限り表情は冷静だ。

 

 

「そう言われたら『ない』と答えるしかない。欲を読み取れるのは少なくともこの幻想郷には私しかいない。それに、先ほども言ったとおり欲とは未来を現わすもの。未来は変えられる」

 

 

 神子は強気に言葉を発した。今言わなければ、一生後悔が残るような言い方だ。それだけ伝えなくてはならない。その意志がこもっていた。

 

 

「だから、警告として受け止めていただいて構わない。もし自分の命の身近に危険があったときに、思い出す程度でいい。それを思い出したとき、自ら危険に身を投じないで欲しい」

 

 

 神子は懇願するような目になった。太子様がこんな目をするのは初めてだ、と布都は思った。

 

 

「…肝に銘じておくわ」

 

 

 ローズは静かに言って後ろを向いた。青娥が神子の言った意味を考えているのか表情を曇らせる。それでもそれを悟られまいと笑顔でローズの元へ向かった。

 

「ごめんなさいね、あの人、時折陰気くさい話をするのよ…」

 そして気をそらすように会話をしてローズを神子の元から離した。

 

 

「…布都、屠自古。あの人を監視しておいてくれ」

 

 

 神子は2人に誰にも聞こえぬ声で命令した。このような形で命令されるのは初めてだ。

 

 

「あの人は命を賭すつもりだ。これから幻想郷で起こるであろう何かに」

 

 

 ローズは確実に嘘をついている、神子はそう見抜いた。

 

「そして、これから起こることは彼女が命を賭すことではない。賭けなくても、事は解決するはず…」

 

 有無を言わさず、強制感を与える言葉に、2人は黙ってうなずくだけだった。

 

 神子は、この予知だけは外さないという確信を持っていた。今目の前にいる女性が、回避できるはずの死を受け入れようとしているのだから―――

 

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