東方殺意書   作:sru307

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 突如乱入した豪鬼。
 だがその様子がおかしい。その原因は何かを伝えようとするために―――


第66話「最後の客と招かれざる客(後編)」

第66話「最後の客と招かれざる客(後編)」

 

「うっ!」

 フランの昇龍拳と豪鬼の足がぶつかり合う。お互いの距離が離れ、豪鬼が着地する。皆が一気に戦闘態勢に入る。だが豪鬼は、構わずフランに攻撃を仕掛けた。

 

「ていっ!」

 豪鬼は大ジャンプ、くるりと一回転してフランに襲いかかる。

 

「昇龍け…」

 フランが対空の昇龍拳で迎撃しようと腕を上げる。が、豪鬼はそれを狙っていた。伸びた腕をがっちりと両手で掴み、もう一度一回転してフランを投げ飛ばした。

 

「うおりゃあ!」

 豪鬼のかけ声と共にフランが投げ飛ばされる。フランは受け身を取って最悪のダメージを免れる。だが表情が面食らってしまった。対空として信頼できる昇龍拳が、糸も容易くリスクのある技に変わってしまった。

 

「フラン様!」

 美鈴がフランを守ろうと豪鬼に突っ込む。

 

「百烈脚!」

 美鈴が春麗直伝の百烈脚を繰り出す。だが!

 

「甘いわ!」

「うっ!?」

 

 豪鬼は美鈴の百烈脚を完璧に見切り、両腕で見事に裁く。片足立ちの美鈴が百烈脚を払われた事でバランスを崩した。普通なら、ここに攻撃を入れて黙らせる所だが、豪鬼はまたフランに顔を向けた。

 

 

(!? 何じゃ? 豪鬼の様子がおかしい…)

 

 

 剛拳は疑問を持った。今の豪鬼、完全にフランに見入っているような―――

 

 

 豪鬼はフランのそばにいる者、家族には全く見向きもせずフランに迫る。

 

「もうフラン様には簡単に触れさせはしません…!」

 

 咲夜がそう言ってフランの前に立ちはだかる。ダッドリーもそばに立ちふさがり、横から通るのも妨害する。

 

「むうん!」

 豪鬼は阿修羅閃空で皆との距離を離す。あの時より人数が多い中、攻め続けるのは愚策と判断したか。

 

「あの移動…! 遠距離から何をしてくる気だ…」

 

 神奈子が警戒を強める。もう波動拳の撃ちまくりも慣れているところではある。だが相手の姿がまるで違う。技には違いが確実に出てくるはず。その違いに引っかかる事があってはならない。

 

「滅殺…!」

 

 豪鬼は両手に波動をため込み始める。これはリュウの真空波動拳に似た技か、そう思われた、が。

 

「ぬおりゃあ!!」

 何と豪鬼の両手の波動が破裂し、マシンガンの如く連射され正面一杯に広がった。

 

「んなっ!? そんなのありかよ!?」

 まさかの弾幕に魔理沙は箒にまたがって空へ逃れた。他の者はガードで波動拳をしのぐが、連射された波動拳に足を止めてしまう。

 

「おりゃ!」

 豪鬼が再び飛び上がり、空中からフランに襲いかかる。

 

「っ…!」

 フランは足で踏ん張りながら空中の豪鬼からの攻撃を裁く。一瞬でも見切りを間違えば、待つのは死。そのプレッシャーとの戦いだ。

 

 フランの腕と豪鬼の足、拳がガンガンと当たる音がする。音がはっきりと耳に飛び込んでくるほどの衝撃。下手すれば、元の姿の方が強いのではないかという疑惑まで想像させる。

 

「この角度ならフランには当たらないはず…! 木符『グリーンストーム』!!」

 

 パチュリーが角度を素早く見切り、スペルカードで豪鬼の後ろをつく。だが豪鬼は自分の身の危険をしっかり感じ取っていた。

 

「竜巻斬空脚!」

 

 豪鬼は力強く竜巻斬空脚、フランの攻撃の手を休めることなく弾幕を蹴飛ばし、ものともしない。

 

(くっ…彼に死角はないって言うの!?)

 

 パチュリーは時間いっぱいまで弾幕を撃ち続けたが、竜巻斬空脚が全てを裁ききってしまう。豪鬼は竜巻斬空脚の回転を止め、フランの目の前に着地する。

 

「離れい、豪鬼!!」

 

 豪鬼はバックジャンプ、剛拳の正拳を華麗にかわし、また一同と距離を置いた。

 

「フラン様、大丈夫ですか!?」

 

 フランは小悪魔の手を借りながら、体を起こす。その顔は苦痛に満ちてはいなかった。

 

「大丈夫…おじさん、本気で私を殺しに来た訳じゃないみたい…」

 

 フランはゆっくりと立ち上がる。豪鬼の攻撃を連続で受け続けなかったのが救いだ。

 

 

「ふん。我の拳には、まだほど遠いか…」

 

 

 豪鬼はそうつぶやき、後ろを向いて立ち去ろうとする。

 

 

「何をしに来た、鬼の身になった者。まさかフランを傷つけるためだけとは言うまいな」

 

 

 レミリアが下郎を見下すような目つきで豪鬼に吠える。豪鬼は足を止め、一同に体を向け直した。

 

 

「…我もまだ愚か者か。小娘の波動を見ると、血がうずいてしまう」

 

 

 豪鬼はレミリアの言い分を理解している。やはりフランに対して豪鬼は、何らかの感情を抱いている。故にフランにしか目が行かなかったのだろう。

 

「まさかあなた…もう手出ししている訳ではないでしょうね」

 

 紫は鋭い目つきを変えなかった。人里の人間に手を出しているようなら、容赦はできない。この場で殺すことも視野に入るところだ。

 

「ふん…戦う気のない者に手を出すほど我も愚かではない…。見境なく人を襲う輩と、我を一緒にするでない」

 

 豪鬼は表情を変えようとしない。適当にあしらっているように思えるが、これが豪鬼なりの会話のやり方だ。

 

「この少女を襲うためでもなく、無差別に人を襲うためでもないと言うか。ならなぜ、我々の前に姿を現わしたのだね?」

 

 ダッドリーが強気に聞くと、豪鬼はすぐに答えた。

 

 

「伝えるべき事があってのこと。いずれ、死合う者のためにな」

 

 

 豪鬼の言葉には、どこか説得力があった。

 

 

「今この地に、現世(うつしよ)からの者が異変を引き起こそうとしている。そしてその輩は、この地の者と手を組み、世界を支配しようとしている」

 

 

 豪鬼は全く表情を変えず、淡々と、単純明快に言った。

 

「現世…儂らの世界の事じゃ」

 剛拳がそう言う。豪鬼の言葉で一層目を真剣にさせたのは、春麗とキャミィ、ガイルだ。

 

「外の世界の者? …まさか!?」

 

 藍が詳しく豪鬼の口から聞き出そうとするが、豪鬼はそれを見越してか静止の合図の手を出していた。

 

「…後で話を聞いておくが良い」

 

 豪鬼はそう言って春麗、キャミィ、ガイルの3人にチラッと目を向けた。目線を感じた3人は息をのんだ。説明責任は、私達にかかっている。

 

「豪鬼、なぜこの少女を気にしておる? 確かに殺意の波動は有しておるが、少女の意志は飲まれることを拒んでおるぞ?」

 

 剛拳が鋭い目を豪鬼に向ける。殺意の波動を身につけた豪鬼に対しひるむことなく話すところは流石だ。だがその強気な態度が裏目に出た。なぜなら―――

 

 

「甘いのは相変わらずか、我が兄よ(・・・・)

 

 

 豪鬼がとんでもない事実を口から発したからだった。その相手は―――剛拳。

 

 

「…!!」

 

 

 流石の剛拳も、頬から汗がにじみ出た。

 

 

「し、師匠!? 本当なんですか!?」

 

 

 ケンが取り乱し、剛拳の服をわしづかみにする。この事実、リュウもケンも知らなかった。

 

 

「ケン、落ち着け!」

 

 

 リュウが喝を入れるようにケンの腕を叩く。ケンは師匠の剛拳をこれまでにないほどにらみながらも、剛拳の服から手を離した。

 

 

「聞かされておらぬのか。我が小童どもの師、剛拳の弟である事を。やはり甘いな」

 

 

 豪鬼は鼻で笑うように剛拳を見た。豪鬼がこの場で始めてニヤリと表情を変えた。

 

 

「その甘さが命取りだということ、現世で嫌というほど思い知らせてやろうぞ。帰ったならば覚悟するが良い」

 

 

 豪鬼はそう吐き捨て、後ろを向いて立ち去った。その後ろ姿が見えなくなるまで全員が警戒を解かなかった。豪鬼は皆の警戒とは裏腹に、そのまま姿を消した。

 

 皆が戦闘態勢をようやく緩める。朝からいきなりこの展開は勘弁して欲しかったが、相手が相手、気を抜くことは死に直結する。

 

 

「この暗殺拳、どんだけ複雑な関係の絡み合いをしているのよ…」

 

 

 アリスが頭を抱える。リュウをつけ狙う豪鬼と、その兄にあたるのが師である剛拳。しかも運命の悪戯か、逆の波動を持つ2人の兄弟。

 

「師匠から『儂の師を殺した男だ』とは聞いていた…だが、血縁関係だったというのは聞かされていなかった」

 

 リュウが悲しげな目をしていた。そこには師匠を思う気持ちが蘇ってきているのが見て取れた。全て1から教えてくれた師が、そんな事を隠していたとは。

 

 

「ひどいですよ、師匠! そこまでずっと黙っていなくたっていいじゃないですか! もうあいつとは、俺たちも無関係じゃないんですから!」

 

 

 ケンが困った顔をした。ケン自身も、剛拳の頑なな所は見たくないのだろう。

 

「すまぬ。確かに豪鬼と関わり合っておる以上、早く話をするべきじゃった」

 

 剛拳は謝った。その実直なところが、今のリュウとケンを成長させたのだろう。

 

「となると、豪鬼って何歳なんだ…? あの見た目、相当若々しいぜ」

 

 魔理沙は疑問を持った。てっきりリュウと同じか少し年を取ったくらいだと思っていた。それ相応の年齢をしているはずの剛拳もバリバリ動けるのは異常だが。

 

「それより、あの男が嘘を言っていないかい? 疑うのも悪いのは重々承知なんだけど、何だかねえ…」

 

 勇儀が頭を傾けた。いくら説得力があろうと、言っている相手が敵側となると、疑念は晴れるはずがなかった。

 

「それはどうかしら? あの男、とてもじゃないけど嘘をつけなさそうだったわよ」

 

 幽香が豪鬼の去った道を遠目で見る。豪鬼の殺気を真に受けてこの態度、狂オシキ鬼の殺気を受け続けているからもう慣れているのか。

 

「豪鬼は嘘を言う奴じゃない。それだけは保証する」

 

 リュウが豪鬼の去った道を見ている。あの言い方、おそらく自分はこれ以上干渉しない、後の事は全て任せるという感じだろう。…豪鬼の殺意の波動の性質上、もしかしたらどこかで関わるかもしれないが。

 

 

「さて、リュウの世界の者が異変を起こすと言っていましたが…皆さんは、何かそのような事を起こしそうな心当たりのある人物はいないのですか?」

 

 

 聖がそう言い、皆の反応を確認しようとしたところ、ある女性に目が止まった。春麗だ。堂々と右手を挙げている。

 

 

「…私、いえ私達には、心当たりがあるわ」

 

 

 春麗がそう言うとそばにいたガイルとキャミィが反応した。

 

「! もしかして、春麗師匠が追っている…」

 

 美鈴が師となる前に春麗が話していた、ある目的を思い出す。

 

 

「ええ。話してあげる。ある組織…シャドルーの事をね」

 

 

 春麗は今持っている情報を全て話した。これまで追ってきた、シャドルーの情報全てを。

 

 

 

「世界征服を企む組織?」

 

 春麗から聞いた組織『シャドルー』の全容を聞いた屠自古が首をかしげた。世界征服なんて、この幻想郷じゃ考える事自体が愚かな事だ。故に考えた事がなかった。

 

「ええ。あらゆる悪に手を染める秘密結社。麻薬取引、誘拐や殺人などの残虐非道な行為を平然と行う組織よ。政府にまで関与しているとされるわ」

 

 春麗は続きを付け足した。確かに、その言葉を聞いただけで闇が深いというのが見え見えだ。

 

「せ、政府にまで!?」

 

 早苗が思わず耳を疑う。秘密結社というだけあって、裏の世界にいそうなイメージを考えたが、それ以上に表舞台にも手を染めている。

 

「政府といっても、もちろん秘密裏にだ。ただ、私達のような裏の世界を知っている者達なら、すぐに名前を聞けば知らない者がいないほどだ」

 

 キャミィがそう言うと一瞬、何か思い詰めた顔になった。幽々子は見逃さなかった。彼女、何かシャドルーに対して深い過去がありそうだ。

 

 

「そして、その裏で最近になって力をつけている組織が『S.I.N』。シャドルーの兵器開発を担当する軍事企業だ。どこまで手を組んでいるかは分からんがな」

 

 

 ガイルが頭を抱えていたのを止める。その顔は真剣そのものだ。彼もシャドルーを追う者として、必ず決着をつける意志の強さが見える。

 

「ガイ、あなた言っていたわね。この地から、不穏な空気を感じると…」

 

 永琳が指摘すると、ガイはうなずいた。

 

「うむ。不穏な空気の正体は間違いなくこの2つの組織でござる」

 

 ガイも納得の表情で永琳の質問に答えた。そして真剣な眼差しになった。武神流の教えを果たすときがここに来た。

 

豪鬼(あいつ)は私達の世界の者と手を組むとも言っていたわ。おそらくこの場にいる者ではない誰かとね」

 

 豪鬼の言葉が嘘じゃないとなれば、幻想郷自身が新たな能力者を受け入れようとしているのだ。つまり、未知の相手と対峙しなければならない可能性もある。

 

「…また永遠亭の大移動を起こす事態はなしよ。たとえうどんげがそうしても」

 

 輝夜が目をつぶる。その目には窮屈だった仮治療室の光景が浮かんでいるのだろうか。うどんげは『同じ手は通用しない』と腹に決めた。あの時の永琳の目、お世辞にも狂オシキ鬼より鋭かった気がするのだ。

 

「世界征服を企む…その足がかりとでもするつもりでしょうか、この幻想郷を支配するとなると…」

 

 藍が幻想郷の支配を前提とする仮説を出す。確かに妖精や妖怪のはびこるこの世界を征服できれば、他の世界の掌握も容易だろう。もちろんそんなことは願い下げだが。

 

「いずれにせよ何かが起ころうとしているのは間違いない、という事ね」

 

 紫は扇子を広げて口元を隠す。鋭く細かった目が少し開く。だがその表情は変わっていない。これから起こることに、神経を注いでいる。

 

「まさか、またこの世界の危機と相まみえることになるとはのう…」

 マミゾウがはあ…とため息をつく。

 

「しかも今度はもう一つの世界の危機にも影ながら関わっている…私達は何度世界を救えばいいんだか…」

 

 ぬえがもう勘弁してよ、と悟りたそうな困った表情になる。世界を救うのは気持ちがいいけど、何度も危機にあうのは御免被りたい。だが現実はそう言っていられない。

 

「念のため、月にも連絡を送るわ。復興の最中、綿月姉妹には申し訳ないけど」

 永琳が持っていた通信機を掲げる。この地が堕とされたら、月の掌握まで手は確実に伸びてくる。

 

「お互いの準備を進めよう。異変は今から起きてもおかしくない」

 

 

 

 幻想郷に、不穏な影が迫る。それを伝えたのは意外にも豪鬼。これは、明らかに大きな影を意味していた―――

 

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