東方殺意書   作:sru307

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第69話「身近」

第69話「身近」

 

―迷いの竹林―

 迷いの竹林。永遠亭とコーディーは人里を目指し出発していた。ガイは皆が寝ている朝の内に不穏な空気を感じ取ったか『拙者は先に行っている』という置き手紙を残して姿を消していた。永琳の提案で、念のため迷いの竹林を歩き竹林の異常がないかを探る事を決め、迷いの竹林の中を歩いて里を目指すこととした。

「あいつ、勝手に行きやがったな…まあいいか、俺に取っちゃ楽だしよ」

 コーディーは永遠亭を出発してからずっと念仏のようにこれを言い続けている。『一人が楽だ』と言いながらこの言葉、やはり仲間に対する意識は奥底に持っているようだ。

「姫様、八意様。ここまで変わったことは特にありません」

 うどんげが目をとがらせて辺りの変わった様子を探っている。まだ近辺の異変の報はない。だが豪鬼が言ったことを考慮すれば、数日、最悪次の日に起こることは明白だ。

「落ち着かないわね。早く異変を解決したいものだわ」

 輝夜が足をトントンとしたくなるほどじれったくなる。今まで異変を担当してきた霊夢もこんな気分で戦っていたのだろうか。

 永遠亭を出発して十数分、順調に人里に続く道を進んでいたとき、異変は起こった。

「…? 姫様、八意様。あの空間だけ、波長が違います」

 うどんげは何もない、強いて言えば竹がなく少し広がった空間を指さした。その瞬間、謎の扉が突然現れ、中から何者かが現れた。

「ポイズン、ここか?」

 まず出てきたのは巨体の男、おそらく身長2メートル近くはあるだろう。体重も巨体に相応しく100キロはあるほど大きい。まさしく人間摩天楼だ。

「なんだい此処は? 金目のものなんてどこにもないじゃないか」

 さらに出てきたのはどこか女王様風の女、だが目の鋭さは男勝りだ。

 その女性は永琳達に目を向けた。永琳達をじっと見て、何かを見定める。

「いや…いいもん持っていそうだね」

 ポイズンと呼ばれた女はニヤリと笑みを浮かべる。その笑みに皆が警戒した。この流れはもしや―――

「ヒューゴー、こいつらの身ぐるみをはいでやるよ!」

 ポイズンが鞭を取り出し、ぴゅんと振って先を一同に向けた。あの鞭、何か仕掛けが施されているわけではないようだが、フルスイングで振られたら骨までダメージが響くかもしれない。

「おう、ポイズン!」

 巨体の男、ヒューゴーが同意し、一同に鋭い目線を向けた。その目を見た瞬間、うどんげが気づいた。

(この2人、目が正気じゃないような…)

 2人の目が、なぜか黒目になっていない。まるで能力を発動した自分の目と同じような…

「構えなさい、うどんげ。彼ら、こちらを確実に敵視しているわ」

 永琳が弓を構えた。輝夜も目を鋭くさせ、2人を見始めた。うどんげも慌てて能力で目を赤くさせ、2人を見据える。コーディーは言われずとも腕を前に出した。

 2人はコーディーに襲いかかる。永琳達には見向きもしない。

「ちっ、狙いは俺だけか? まあいいけどな!」

 コーディーはヒューゴーの大きな拳を拳一つで受け止めて見せた。体格差はものともしない。

「おら!」

 コーディーが返しでヒューゴーを殴ろうとするが、ポイズンが鞭から衝撃波を出してきた。

「おっと!」

 コーディーは攻撃の手にブレーキをかけ、後ろに下がった。再びヒューゴーが襲いかかるが、力比べは互角、お互いに拳がぶつかり合う。だがポイズンが鞭から衝撃波を出すせいでコーディーは攻めきれない。攻撃は危なげなく回避できているが、このままでは時間がかかるだけだ。

「援護しましょう! コーディーさんに攻め手を与えてあげなくては―――」

 うどんげがそう言うが、永琳と輝夜は視点を上に向けていた。なぜなら、背後からポイズンに襲いかかる男がいたのだから。ポイズンはそれに気づき、身を守ろうと反射的に鞭を振っていた。

 

 

 バチン!!

 

 

 ポイズンの鞭にぶつかったのは軍服を着た男が持っていたロッドだった。

 

「てめえ…」

 コーディーの目の前にいつの間にか降り立っていた軍服の男は、コーディー達に見向きもせず、2人を厳しい目でにらんでいた。

 

「これより戦闘を開始する!」

 謎の軍人はそう言い、ポイズンとヒューゴーに相対した。

 

「あいつ…まだやっていやがるのか。いい加減飽きねえのか」

 

 コーディーはあきれていた。この言い方、彼を知っている。そう考えた永琳が即座に聞いた。

 

「あの人をっているのね?」

 コーディーは永琳と目線も合わせずに答えた。

 

「ああ。あいつはロレント。国民全員が軍人とかいう究極理想国家の建国をずっと言ってやがる奴だ」

 

 コーディーは表情を変えずに言ったが、言っていることはとんでもなく危ない(?)事だ。

 

「ぐ、軍人国家…そんな国についてくる人なんているのかしら」

 

 ロレントの理想に流石の輝夜が引いた。こんなことを自分が元々住んでいた月の都でやられていたら、自分が月から逃げるのは不可能だったかもしれない。

 

 ポイズンはロレントを見ると、ヒューゴーに命令を飛ばした。

 

「ヒューゴー! 私はこいつの相手をするから、あいつを頼んだよ」

 

 ポイズンは鞭をロレントに向けた。戦いの意志だ。ヒューゴーはコーディーに体を向けその巨体についた巨腕をブンブンと振って見せた。あの腕のラリアットなんて想像したくなかった。

 

(でも状況は良くなったわね。2対2、人数的な面はこれで五分)

 

 永琳が状況を分析する。技術的な面は計り知れないが、悪い状況ではない。

 

「うりゃ!」

 

 コーディーの足元にロレントが投げたナイフが突き刺さる。コーディーはロレントを横目で見た。これで信用しろとでも言いたいのか、そんな目つきだった。

 

「貴様なら使えるだろう! 持っておけい!」

 

 ロレントがロッドを杖のように立てコーディーに言う。コーディーはその言葉に笑みを浮かべた。ロレントはコーディーのやり方に干渉しないという意志を態度で表していたのに気づいたからだ。

 

「…へっ!」

 

 コーディーは地面に刺さったナイフを抜いて手元に持った。久しぶりに持つこの感覚、昔を思い出せると機嫌がいい。

 

「よそ見するんじゃねえぞ!」

 ヒューゴーがのしのしと歩いてコーディーを追い詰めようとする。

 

「おっと!」

 コーディーはナイフを振り上げ、ヒューゴーを切りつけた。

 

「ふがっ!?」

 ヒューゴーが痛がる顔をした瞬間に、コーディーは次の行動に出た。

 

「クリミナルアッパー!!」

 

 コーディーは一歩踏み込んでアッパー、竜巻を作り出してヒューゴーを巻き込む。ヒューゴーの巨体が横に回転しながら吹き飛んでいった。

 

「うおわぁ!」

 ヒューゴーの巨体がドスンと地面に落ちる。巨体なので起き上がりにも時間がかかってしまう。

 

「昔からでかぶつのやり方は一緒だな。大ぶりな技ばかりで見えやすいからな」

 

 コーディーはナイフをポンポンと手の上で踊らせながら、笑みを浮かべる。ロレントの補助で、余裕が出てきたようだ。

 

 それに逆上したか、ヒューゴーが起き上がってドスドスとコーディー向けてまっしぐらに向かってきた。

 

「掴んでやる!」

 

 ヒューゴーはコーディーを巨大な腕の中に入れ込もうとする。が、コーディーは真上にジャンプ、掴もうとしたヒューゴーの目の前の宙にいた。ヒューゴーのつかみは失敗、上半身を前に倒して一瞬バランスを崩した。元に戻そうとするその姿は隙だらけだ。

 

「おら!」

 

 コーディーのハンマーナックルをヒューゴーは後頭部に食らい、頭をふらつかせた。目を押さえ頭をグラグラと揺らしている。まだ倒れねえのか、そう思ったコーディーは言った。

 

 

「そろそろ本気を出そうか?」

 

 

 コーディーは指の関節をポキポキと鳴らしながらヒューゴーに歩み寄った。そしていきなり大きく振りかぶって右のパンチをヒューゴーの腹にめり込ませた。

 

 

「ジャックポット!」

 

 

 コーディーは捕らえたヒューゴーに左、右と交互に強打を与えていく。ヒューゴーはその強打に苦しむばかり、何かを割り込む余裕はなかった。

 

「そうら、フィニッシュ!!」

 

 最後は地面すれすれまで拳を下で振りかぶり、一気に振り上げてクリミナルアッパー、巨大な竜巻を作り上げてヒューゴーを大きく吹き飛ばした。

 

 ヒューゴーが頭から落下し、ドスンと大きな音がした後でコーディーはつぶやいた。

 

 

「何だよ、これ出させるんなら立ってくれねえとつまらねえんだよ」

 

 

 全力を出したらどいつもこいつもこうなるのかよ、コーディーは残念で仕方がなかった。

 

 

 

「おら!」

「ふん!」

 

 ロレントのロッドとポイズンの鞭がぶつかり合う。力比べは互角、武器がバチンと当たる音がするがどちらの武器も振り切られる。

 

「おら!」

「とう!」

 

 ポイズンがもう一度鞭を力強く振るが、ロレントはバック宙返り、鞭を避けて―――

 

「うらああ!」

 高速の前転攻撃でポイズンの足を攻撃する。ポイズンはすっころんで尻餅をついた。

 

「痛っ!?」

 ポイズンはすぐ立ち上がるが、ロレントは表情を変えない。軍人を率いる者として、一切の油断はならないと決めつけている顔だ。

 

 今度は上からのアプローチとばかりにロレントがポイズンに飛びかかる。ポイズンは鞭を振り上げて落とそうとするが、ロレントは突然ロッドを下に向けて落ち、ジャンプの軌道を変えて鞭を回避した。ロッドが地面に突き立てられ、ロレントがバウンドする。そこから足を伸ばし跳び蹴りしてきた。

 

「っ!?」

 鞭を回避され半分虚をつかれたポイズンは思わず鞭でガードした。しかし細い鞭で蹴りを受けきれるはずもなく、また尻餅をついた。

 

「ファイヤー!」

 地上に着地した瞬間ロレントが投げたのは―――手榴弾。

 

「ちょっ!?」

 ポイズンは慌ててバックステップ、手榴弾の爆破は回避したが、ロレントは攻撃の手を緩めない。再び上からロッドをクルクル回し、ポイズンのガードの上からでもお構いなしに攻めていく。

 

「なんてトリッキーな…」

 

 うどんげが目でロレントの動きを追えない。飛び込んでくるかと思ったらフェイクである択を使う。それを警戒すると素直に飛び込んでくる。読みで勝たなければペースをこのまま固定にしてしまうような行動だ。

 

「彼、相当の実力者ね。何度も相手にならないと、惑わされるばかりだわ」

 

 永琳は目で追えていた。だがこの手の相手を自分の弓矢で捕らえるのは至難の業だ。

 

「スティンガー!!」

 

 ロレントはわずかに飛び上がり、宙返りから扇状にナイフを3本投げつけた。

 

「うっ!?」

 扇状に放たれた3本のナイフに、流石のポイズンも全て打ち落とせず、1本だけ打ち落として残りの2本が足と左腕を掠った。掠ったところから血がにじみ出る。それを気にしたか、ポイズンが腕を気にして視線をロレントからそらした。

 

「うおりゃあ!」

 

 そこを見逃さず突然飛び上がって攻撃してきたロレントにポイズンは反応できず、振り下ろされたロッドを頭からバチンと食らってしまった。そこから飛んでくるロレントの蹴りを顔面から食らう。流れるようにロレントがロッドをクルクル回転させながら前進する。ロッドの回転に体を巻き込まれ、次々とダメージを受ける。

 

「うぐっ…!」

 

 しかもロッドがスティンガーの傷に当たるので、体全体に痛みが広がる。ロレントが狙ってロッドを当てようとしているのがよく分かる。

 

「くう…離れなさい!」

 

 ポイズンが鞭を振り、衝撃波を飛ばす。ロレントはそれに応じるように素直に離れた。ポイズンはこの隙に息を整えようとする。

 

 その時、ロレントはなぜかしゃがみ、何かを手で持っていた。地面にいつの間にか仕込んでいた何かを。

 

 ポイズンが何を持っていたのかに気づいたときには、もう手遅れだった。ロレントが持っていたのはワイヤー、それを引っ張った瞬間、ポイズンの首にワイヤーが絡まった。

 

「捕まえたぞ!」

 

 ロレントがしめたと言わんばかりにニヤリと笑い、ジャンプした。そこにはいつの間にか竹につかまっていたアシスタントがいた。ロレントはワイヤーをアシスタントの持っていた道具に引っかけ、ポイズンを宙づりにした。

 

「捕獲成功!」

 

 ロレントはロッドを外し、曲げていたワイヤーをピンと張った。もちろんポイズンの首は一気にワイヤーに絞められた。

 

「はっ…かっ…く、苦しい! 助けて…!」

 

 ポイズンが首のワイヤーを緩めようともがくが、首に絡まったワイヤーはそう簡単にほどけない。だんだんと酸素が薄くなり、意識が朦朧としてきた。抵抗のためばたついていた足も少しずつ動かなくなり、視界がぼやけてきた。そして、動かなくなった。

 

「解放せよ!」

 ロレントがアシスタントに命令すると、アシスタントが持っていた道具を離し、ポイズンごと地面に落とした。ポイズンは受け身も取らずドサッと地面に落ちた。

 

 

 

「で、なんでお前がここにいるんだ?」

 

 戦いを終えたコーディーが聞くと、ロレントはすぐにこう答えた。

 

 

「我が優秀な部下が突然金欲に溺れる事案が発生したっ! 我が輩はそんなことは教えておらぬのにいきなりだっ! その原因を探す内、この2人が先ほどの空間に入るのを目撃、最少人数の部下とともに乗り込んだのだっ!」

 

 

 ロレントはロッドを力強く地面に突き立て、堂々と宣言するように高らかに言った。

 

「金欲…ですか?」

 うどんげがロレントの言い方に怖じ気を感じながらも言葉を返した。

 

 

「その通り! その部下は今まで金欲なぞにまみれておらぬ誠実な者だ! その目が正気でないと感じ取り、我が輩自身が責任者として捜査を始めたのだ!」

 

 

 ロレントは力強くロッドを立て、腹が立っていると言わんばかりに強く言った。この異変の首謀者に対して、かなり怒りの様子だ。

 

「金欲…か。金目当ての行為なら、くだらねえな」

 

 それを聞いたコーディーも静かに怒りを燃え上がらせていた。その立ち姿に永琳はまた、コーディーにわずかに残った正義の心を感じ取ることができた。

 

 ロレントは指をパチンと鳴らした。するとどこからか6人の部隊が出てきて横一列に並んだ。全員背筋を伸ばし、ロレントに向けて敬礼している。この人達がロレントの部隊だろう。

 

 

「首謀者の居場所は情報がなく不明っ! しらみつぶしに全ての場所を当たり、見つけ次第報告せよっ!」

 

 

 ロレントは部下達に命令した。これだけしかいない部下の人数で総当たりを命令する辺り、かなり信用できる部下達のようだ。

 

「サー、イエッサー!!」

 

 部下達は承諾し、それぞれ別の方向に走って散らばっていった。ロレントもコーディー達に見向きもせず、走って迷いの竹林の中に消えていった。

 それをぽかんとしながら見ていたうどんげが、はっと気づいた。ここって…

 

「大丈夫でしょうか? ここは迷いの竹林、見知らぬ人はあっという間に迷子になるんですけど…」

 

 そう、ここは迷いの竹林、地の利がある者でも迷わせるとされる危険な場所だ。それを手当たり次第に行くなんて、時間がいくらあっても足りなくなるのではないだろうか。

 

 しかしコーディーはそれを気にしていなかった。

 

「大丈夫だろ」

 

 頭をポリポリとかきつつ、コーディーの目は静かに燃える目から元のダルそうな目に戻っていた。

 

「あいつはああいう奴だ。しかも今回は俺たちにとっては味方だし、邪魔しねえ方が良いだろ。大まじめに、いい情報を持ってくるかもしれねえぜ?」

 

 コーディーはここに来てプラス思考、というべきか、かなり前向きだ。ロレントに邪魔されることなんぞこれっぽっちも考えていない。

 

「それもそうね。私達は、私達にできることをした方が断然いいに決まっているし」

 

 輝夜はコーディーの態度を受けて、すっぱりと気持ちを変えた。うどんげが何か言おうとするが―――

 

「探しに行きましょう。この異変の元凶が、いそうな場所をね」

 

 永琳もそう言い、うどんげに発言権はもうなかった。

 

 

 ロレントの言葉、それが意味するのは異変の真実を明かす鍵である事は誰も知らずに―――

 

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