東方殺意書   作:sru307

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 お待たせいたしました。

 異変が進む。
 そこに邪魔が入ろうとする。止めるのは―――


第75話「強み」

第75話「強み」

 

 

 

―博麗神社―

 

 

 誰もいない留守の博麗神社。異変が起これば当たり前のようにこの博麗神社は留守になる。その神社に1人の影があった。

 

 影はキョロキョロと辺りを気にしている。誰かに見られてはいけない事をこの神社でするようだ。影は音が立たぬよう静かに剣を抜く。そして地面に向けてその先を向け、境内に突き刺そうとする。

 

(これであの姉妹から金を分けてもらえるわ…)

 

 静かに心の中でそうほくそ笑んだ、その時。

 

 

「残念だけどさせないわよ、天人のお嬢様?」

 

 

 後ろから待ったをかけられた。影の正体は比那名居天子。声をかけたのは八雲紫、傍らに橙と藍。天子は緋想の剣を鞘に収めた。紫の能力を知っているが故の行為だ。今武器がなくなるのは死活問題と化す。

 

「あら、妖怪の賢者様じゃない。博麗の巫女はどうしたの? 言っとくけど縁を戻しに来たわけではないわよ?」

 

 天子はあくまで冷静な表情を保つ。

 

「ならば、どうしてあなたが此処にいるのかしら?」

 

 紫は言葉で天子に揺さぶりをかける。

 

「地上の異変よ。また地上に降りてみたら何だか騒がしかったから、博麗の巫女が動いているのか確かめるためにね」

 

 天子はその揺さぶりには揺るがないと思わせぶりに冷静だ。

 

「紫様、彼女の目…」

 

 藍が上司に意見を言う。天子の目が赤い。これは洗脳された目だ。今までの言葉に本人の意志はどこにもない。

 

「分かっているわ。正気でないのなら、私としてはやりやすいことこの上ないから」

 

 

 

 八雲紫と比那名居天子の因縁―――ある異変で博麗神社が倒壊したとき、比那名天子は修復と同時に博麗との縁を作ろうと模索した。その企みを知った紫が激怒、天子をボコボコにしたという事件がある。以降、2人の仲は険悪なままである―――

 

 

 

 紫は天子に対する嫌悪感ではなく、疑いをかけていた。さっきの行為を見たわけではないので、疑いだ。だが天子ならやりかねない。特に、今現在洗脳されているのだから。

 

「申し訳ないけど、あなたが博麗神社にいる時点で、神社を倒壊させようとする疑惑が私の中で芽生えるのよ」

 

 紫はもう言語上では戦闘態勢だ。

 

「ならその疑いは間違いだって事、教えてあげるわ。そしてあんたが、異変の元凶だって事を人里にばらまいてやるわ。異変に全く関わっていないこの私を冤罪で異変の元凶と仕立て上げた元凶としてね」

 

 天子はでっち上げの理由を言って剣の先を紫に向けた。紫は扇子をスキマにしまい、素手で構えた。こっちもリュウの修行を正真正銘生身で受けてきた身、傘のような小細工の効く道具なんて必要ない。

 

「あら珍しい。素手で剣に挑むとはね」

 紫の武器は弾幕とスキマを開けて色々なものを飛ばしてくる奇策だ。だが素手と言うことは、ある程度ではあるがそれがないという事になる。

 

「あいにくリュウも素手で剣を持つ相手と戦ったと聞いたのよ。ならば修行を受けている身である以上、あなた程度には素手で勝たなくちゃ」

 

 紫は不敵な笑みを浮かべた。余裕しゃくしゃくだ。

 

「あら、なめられたものね。私に扱えるのは剣だけではないことを忘れているんじゃないわよ!!」

 

 天子はリュウの戦いでも主力にした要石を飛ばしてきた。それに対して紫は右拳をグッと握り、天子の飛ばした要石越しに天子を目で捕らえていた。そして飛んできた要石に自ら突っ込んでいった。

 

「紫様!?」

 藍が待ったをかけようとするが、もう遅い。

 

「血迷ったわね!」

 

 

 天子がニヤリとする。紫の勢いはもう前にしか向いていない。ということはここでブレーキをかけても要石の直撃が確定する。たとえ腕力で要石が砕けたとしてもそれはいつまで持つかの持久戦。なら要石を出せるこちらの方が圧倒的に有利だ。紫がこの行動に出た以上、それは火を見るより明らか、のはずだった。

 

 

 はずだった、となったのは紫の突進が変化したからだった。紫の目の前の地面にいきなりスキマが開き、紫の足が吸い込まれるように入っていった。そのまま紫は下半身をスキマに入れたまま突進の勢いを殺さず、要石の下を通過して地面のスキマから急上昇、右腕を目一杯伸ばした。

 

 

 ドッゴォン!!

 

 

 紫の右拳が、天子の腹にめり込んでいた。

「がっほぁ!?」

「ふんっ!!」

 紫が右腕に力を入れて天子の体をくの字に曲がらせた。足が耐えきれず、そのままの体勢で吹っ飛んでいった。背後にあるのは博麗神社、このままでは直撃してしまうところだがそこは紫、スキマで天子を移して地面にたたきつけた。

 

「うぶ…うぐ…」

 

 天子は腹を押さえている。悶絶しているようで、足をバタバタさせている。ここまで互角だと思われていた戦況が、一瞬にして紫に傾いた。

 

「どうしたの? 天人は、まさかその程度ではないわよね?」

 

 紫は振り向き、天子を挑発する。天子はこの手の挑発には乗りやすい方、それを知っているからこその言葉だ。

 

「…なめるんじゃないわよっ!!」

 

 天子が痛みに耐えながら無理矢理体を起き上がらせ、その勢いで剣を振った。だが紫はバックステップ、既に剣の届く間合いの外だ。

 

「炸裂波動!!」

 紫は片手を前に突き出し、波動拳の丸にしては不規則な波動拳を撃った。

 

「そんなもの!」

 天子は剣を抜いて波動拳をズバッと斬った。だがその瞬間、波動拳が爆発し、四方八方に弾をはじき出した。

 

「うっ!?」

 天子はそれに反応できる訳もなく、弾を食らうがままだ。

 

「その波動拳は弾幕を凝縮させて練り上げたもの。ちょっとでも衝撃があれば、中の弾が炸裂して飛んでいくわ。近距離で受けるのは自殺行為よ」

 

 天子は波動拳本体こそ当たらなかったが、弾は全て被弾してしまい体勢が膝から崩れた。紫は流れるように接近し、両者の距離は互いの手が届く位置までになる。体勢から分かる通り、圧倒的な紫有利だ。

 

「ちょ、ちょっとやめ―――」

 天子が待ったをかけるが、紫は待たない。天子の肩を右手で掴み、左手で強烈なアッパーカットを顎に突き立てた。

 

「吹っ飛びなさい!」

「ごへうっ!!?」

 

 紫に容赦はない。そこには天子に対する態度以上に、この戦いには負けられないという闘志が目覚めていた。

 

 

「ら、藍しゃま…」

 橙が思わず紫の戦いに怖じ気を感じていた。あれだけ鬼気迫る戦い方は、自分が相手したら戦う以前に逃げ出してしまうだろう。

 

「ああ…初めて見た…戦いの中で、あれだけ大胆に動く紫様は…」

 藍も驚いていた。修行でも積極的だった紫だが、戦いの中でもこれを見ることになるとは思わなかった。

 

 そんな目で見られているとは気づきもせず、紫は天子を見ていた。今の紫の目には、天子が異変の時の幻想郷を放棄することばかり考えていた自分に見えていた。

 

 

 

 それはリュウと一緒に修行を受けていた、ある日の夜の事。紫は剛拳と話をしていた。

 

「…という感じに、幻想郷は今までの時を刻んできたの」

 

 紫は剛拳に長い長い幻想郷の歴史を伝えていた。これは剛拳が自ら幻想郷の歴史を知りたいと紫に志願してきた事が発端だった。

 

「なるほどのう。確かに儂らは夜を恐れなくなり、夜に活動すると言われる妖怪の存在は科学の存在も相まって否定した…結果、幻想となりこの地に集まったという事か」

 

 剛拳は感心していた。いくら年を重ねても、初めての体験は新鮮に感じるらしい。

 

「ところで話は変わるが、お主はどこまで儂らの暗殺拳を?」

 剛拳は髭をいじりながら、紫に聞いてきた。

 

「とりあえず3つの技全部はね。体術に関してはずっと身を離していたから、苦労が絶えなかったわ」

 

 紫ははあ、と一息ついた。何か思う節があるところをその行動から見抜いた剛拳が素早く聞いた。

 

「辛いか? いや、そうではないか。リュウに対して何か考えておるようじゃが」

 

 紫は隠す意味はないだろうと考えて正直に話した。

 

「正直、彼がうらやましいわ。彼、能力でも何でもなく、己の力量だけで戦い抜いてきた。私達のように、能力を頼りにする戦いとは大違い。そのせいも相まって、当初の私達はリュウの修行について行けないと思ってしまったわ。もちろん、今になってみればそう思えなくなっているけど。体力面を能力で補っていたから今まではよかった。でもここからは能力に頼れない」

 

 紫はスペルカード戦で知らぬ間についていた癖にして今の枷を吐露した。これがかなり辛いのだ。体力面はこれからどうとでもなるが、能力とは切っても切れぬ縁、一生付き合うためには頼らぬ事も必要だ、そう紫は感じていた。それを感じてみると分かる、リュウの強さは己の強みを全て活かしたが故に得たものだ。対する紫達は、能力の強みなぞ全く効果なしだった。だから殺意異変は幻想郷崩壊まで示唆された、と。

 

「ふむ。確かにそれはそうじゃな。能力に頼らないのは重要なこと。じゃがそればかり考えていては、強みがない状態、いわゆる『器用貧乏』になりかねんぞ。強みのことは常に頭に入れておく事じゃ。時には強引に強みを相手にぶつけていかねばならぬ時もあるからのう」

 

 それは分かっているわ、という顔を紫は向けた。強みなしに戦える相手は完璧に近いか、そもそも戦う気がないかの2つだけ。

 

「…剛拳、もし誰かがこの暗殺拳を勝手に自己流に変えたものを扱っていたのなら、どうするの?」

 

 紫は何気なく聞いてみた。彼の人柄を知った以上、聞くのは気が引けるのもあると同時に聞いてみたかった。

 

 

「簡単じゃ。戦ってその拳の重みを計る。それが正しく、重く受け止められているのなら儂からは何も言わぬよ。むしろ逆、形を変えた暗殺拳を見てみたい」

 

 

 剛拳は表情を崩さなかった。この目、剛拳は本気だ。

 

 

「儂は信じておる。この暗殺拳が、新しい時代を経て、あるいは幻想郷に来て誰かの道しるべになることを。そのためには形を変えることも、最悪我流となって原型がなくなっても致し方なかろう。『形を変える』…それも人の営みであり、強みなのだからな」

 

 

 剛拳の言葉に、紫は活路を見いだした。リュウやケン、そして剛拳が持っている強みとはこれなんだ。それに負けぬ強みは、何も能力だけで全て決まるわけではないと―――

 

 

 

(あのような逃げる行為に走る私は今までの強みに固執して、変化しなかった…これからの私は人間の強みを得た者として、変化に答えられるような強みを持つ!!)

 

 

 紫は過去との決別だと腹に決めていた。天子のように『変わっていない』と決めつけるのはもうやめだ。

 

 

「『八雲流連乱撃』!」

 

 

 紫は静かにスペルカードを宣言し、倒れている天子に突進した。天子は反応できず、紫の蹴り上げを顔面で受け、上空に吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされた天子を空中にあった結界が捕らえ、天子を閉じ込める。そして結界の内部にいくつものスキマを開けた。

 

 その瞬間、スキマから弾幕が飛び出してきた。天子は結界の効用も相まってガードを固めることすらできない。しかもおまけに

 

「はあっ!」

 時折結界の外から紫自身が飛び出して蹴りやら殴打やら入れてくるので、どこに気を配ればいいかも分からない。天子の意識は半分消え失せ、攻撃を食らうがままだ。

 

「トドメ! 昇龍拳!!」

 

 紫は再び天子の顎めがけて拳を伸ばした。狙い通り紫の拳は天子の顎にクリーンヒットだ。紫は結界を解放し、スキマも全部閉じて天子と2人だけ上空に放り出されたようになった。

 

「落ちなさい!!」

 紫は左腕を振りかぶって下降、左を天子の腰付近に当て2人共々地面に落下した。

 

 ズドン!!

 

 地面に大の字になって重力と紫の拳の振り下ろしの二重の痛みが天子の体全体にのしかかった。紫は素早く天子から身を引いた。

 

「これがスペルカードとリュウの体術を私なりに変えた技よ。まだ続けるのかしら?」

 

 紫は額の汗を袖で拭き、大の字の天子に問いかけた。しかし天子は聞くどころかピクリとも動かない。情けない格好のまま、気絶している。

 

「…聞こえてすらいないみたいね」

 紫が天子の後処分をどうしようかと考え始めたその時。聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「総領娘様、総領娘様~?」

 空を見ると、衣玖が舞い降りてきた。天子を探していたらしい。

 

「総領娘様ならそこでのびていますよ、紫様の怒りに触れたせいですが」

 藍が倒れている天子を指さす。衣玖はそれを見て、すぐに謝ってきた。

 

「すいません。ちょっと目を離した隙に天人の仕事を抜け出していたものでして」

 

 衣玖がもう少し自分が目を光らせておけば、という申し訳ない顔になった。

 

「それだけど、少し気になったところがあるわ。聞いてくれる?」

 

 紫がそう言いだし、天子の目の異様さと自分の推察を話した。

 

 

「洗脳を? なるほど、確かにそれなら仕事を抜け出す理由にも合点がいきます。今日の仕事は、簡単なものでしたから。それに…」

 

 衣玖は思わせぶりな口調になった。何か重要なことを知っていそうだ。3人は顔を合わせた。

 

 

「おそらくですが、総領娘様の仕事に関わっていたその人物が洗脳の原因ではないかと」

 

 

 衣玖は重要なことを語り出した。この話、聞き逃すわけにはいかない。藍が前に出て衣玖に説明を求める。

 

「その仕事の内容というのは?」

 

 衣玖はすぐに答えてくれた。

 

「この日、天界に珍しく来客がありまして。その応対に応じられたのが総領娘様しかいなかったもので、総領娘様自らが対応に当たったのです。ちなみに私は、他の公務があって総領娘様に寄り添うことができませんでした」

 

 衣玖は腕を組み、その時の事を思い返していた。大まかでは、この3人を納得させることはできないだろうと読んだらしい。

 

 

「私が知っているのは総領娘様と話していた2人だけ。しかし総領娘様とその2人の話から、もう2人いるのだと推測できました」

 

 

 衣玖は先ほどまでの余裕のある表情は一気に消え失せた。

 

「その相手…2人の名前は?」

 紫は直接聞いた。衣玖に隠す気がないだろうと踏んでの事だ。衣玖は予想通り隠さなかった。

 

 

「総領娘様と話していたのは依神女苑と依神紫苑。疫病神と貧乏神という、最凶最悪の姉妹です」

 

 

 異変の元凶の身元が発覚した。後の謎は動機ともう2人の身元だ―――

 

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