東方殺意書   作:sru307

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お待たせしました。

里に襲う、殺意フランの物語。
いよいよ異変が幻想郷全土を巻き込んでいきます。



第6話「阻止」

第6話「阻止」

 

 

 

―人里―

 

 

 幻想郷の中で一番多くの人間という種族が住んでいる、いわゆる居住地区がここ人里である。秋になったこの時期には、山の幸が店頭に並んだりする。しかしその光景があっという間になくなりかけるという事は、里に住む者誰であろうが予測しようがなかった。

 

 

―稗田の屋敷―

 

 

「そうだな、それはその表現で書いていいと思うぞ」

「分かりました、ではこの内容はこれで完成にしましょう」

 

 この日、元は寺子屋の教師である上白沢慧音が休日を使って稗田家八代目当主、稗田阿求の元にいた。彼女は阿求とともに、寺子屋で使う教科書の編集作業にあたっていた。時代が変われば言葉の表現も変わる、それをよく知っている2人には適任の仕事だった。

 

 しかし、ある事態でその仕事は中断となった。突然、何の合図もなく稗田の使用人が2人のいる障子を開けて言った。使用人の表情は落ち着きがまったく見られなかった。

 

「た、大変です! 里が、何者かに荒らされています! ここも襲われるかもしれません、阿求様、すぐに避難の準備を…!」

 

 その言葉に、即座に慧音が反応した。

 

「里が荒らされているだって!? 阿求、今すぐ行こう! 念のため、避難する準備もしてくれ!」

 

 阿求も反射的に返事をした。

 

「は、はい…!」

 慧音はあっという間に外へと出て行った。阿求も慌てふためきながら準備をして慧音について行った。

 

 

 

 外に出ると、すぐに悲鳴が遠くで聞こえた。なにやら里が騒がしくなっている。慧音の所に走ってくる者がいた。

 

「あ、慧音先生、やはりここにいましたか!」

 

 それは同じ寺子屋に勤める仲間の教師だった。

 

「一体何があったんだ? 子供たちは大丈夫か?」

 

 慧音が聞くと、仲間の教師はすぐに答えてくれた。

 

「は、はい。子供たち、および寺子屋に被害はまだありません。しかし近所の住宅が突然羽の生えた、変な少女に襲われ、倒壊しました! 現在もその少女はこの里のどこかにいると思われます」

 

 羽の生えた少女。阿求は知っていた。その特徴を持つ少女を。

 

「羽の生えた…まさか、紅魔館にいる吸血鬼姉妹のどちらかでは!?」

 

 慧音はすぐに察した。放置したら、人里が壊滅する。

 

「とにかく私は現場に行ってみる。阿求は避難していてくれ!」

 

 阿求は使用人に案内され避難所へ、慧音は倒壊した住宅へと走って行った。

 

 

 

 稗田の屋敷からそう遠くない距離に、倒壊した住宅はあった。物好きな住人、近所の住人が集まっている。そのせいか、辺りはざわめいていた。

 

 慧音はその人混みをかき分け、倒壊した住宅を眼前で見た。その住宅は屋根から崩れ落ち、竪穴式住居のように屋根が地面についている状態だ。おそらく屋根を支える柱は全て折れてしまったのだろう。

 

「おい、もうここから離れようぜ、まだ里にいるかもしれないんだろ? こんな、無残に建物を壊したやつが…」

 

 臆病そうな里の住人が、おどおどしながら友人と思われる人に話しかけた。しかし友人は強気に答えを返した。

 

「あのなあ、里って一言で言っているけど、この里は結構広いんだぜ? しかもこの建物だけが倒壊したんだ。普通なら、ほかも倒壊させてもおかしくない。なのにそれがないって事は、里にはいないっていう何よりの証拠だよ」

 

 確かに、倒壊したのはこの住宅だけで、ほかの住宅に被害はないのだ。それだけ考えるならば、そこに住む者に恨みを持った何者かの犯行に思えるが、証言がある今はそう簡単にいかない。

 

 彼らの会話を聞いていた慧音は、警戒を強めた。こう言っている時に限って、最悪の事態が起こることを慧音は知っていたからだ。間もなくして、案の定―――

 

「みんな! 逃げろ! 襲いかかってくるぞ! この建物を壊した奴が!!」

 

 里の人々が逃げていく中、慧音だけは逃げなかった。里の平穏を脅かす者はなんとしてでも止めなければという、慧音の強い意志があった。

 

 慧音は戦いに備え集中した。しかし相手を見た途端、その集中は途絶えた。なぜなら―――

 

 

「アアアアアアア!!!」

 

 

「!?」

 慧音自身が知っている、フランドール・スカーレットがその原因だったからだ。

 

(な…フラン!? いや、何だか見た目が…)

 

 あれこれ考えているうちに、殺意フランは辺りを破壊し始めた。見境なぞどこにもない。ただただ、破壊することだけを考えているようだ。近くに慧音がいることには目もくれずに、破壊の限りを尽くす。その姿はまさしく、破壊神であった。

 

「アア…」

 殺意フランが発する言葉はもう意味のある言葉ではなかった。完全に支離滅裂状態だ。

 

「くっ…フラン、聞こえるか!!」

 

 慧音がフランに呼びかける。その声が聞こえたのか、殺意フランは動きを止め、慧音の方に顔を向けた。

 

「…ケイネ…?」

 

 殺意フランはこうつぶやき、慧音をじっと見つめる。その目は、見た瞬間に分かる殺意の目であった。

 

「目を覚ませフラン!! お前はお前自身の手で、今何をしているのか、分かっているのか!?」

 

 慧音は拳を握りしめ、子供をしかるように大声を上げる。しかし―――

 

「…ヤッパリ慧音モ…許サナイ!!」

 

 殺意フランは話を聞く様子が全くない。殺意フランは慧音に敵意を向けているようだ。それを見た慧音も構えて戦闘の意思を見せた。

 

「やはり話を聞いてはくれなさそうか…仕方ない、フラン! 少々手荒になるが、おとなしくしてもらうぞ!!」

 

 慧音は構えた。もうやるしかない。

 

「ドウセソウダト思ッタヨ…壊レチャエ!!」

 

 戦いは様子見からではなく、慧音の先制攻撃で幕を開けた。

 

「これでも喰らえ!!」

 

 慧音は左手からクナイ型の弾幕を展開した。殺意フランは横に転がって回避する。

 

「禁忌『クランベリートラップ』!!」

 

 殺意フランのスペルカードが、慧音が放ったクナイ型の弾幕を消して襲いかかる。

 

(! 相殺できない!? まずい…力でも負けているとなると、こっちが不利だ!)

 

 慧音は殺意フランの弾幕を丁寧に避けるが、内心は焦っていた。今のフランに、様子見なんてことはしてはいけない、そう思い立った慧音はすぐに次の攻撃に移る。

 

「国符『三種の神器』!!」

 

 三種の神器をイメージした弾幕が、慧音の手から次々と放たれる。慧音が持つスペルカードの中でも威力、弾幕密度ともに高いスペルカードだ。

 

 だがしかし、殺意フランの前ではその2つは無意味と化した。殺意フランは阿修羅閃空を使い、悠々と弾幕の中を通り抜けていく。

 

(!? 弾幕が、効いていない!?)

 

 驚いているうちに、慧音は殺意フランの接近を許していた。

 

「うっ、しまった!」

 

 殺意フランの接近スピードは速く、慧音の足では逃げ切れそうにない。

 

(後には引けないか…ならば渾身の一撃を、フランにぶつけるしかない!!)

 

 慧音は身を少し縮こまらせた。お得意の頭突きをかます気だ。

 

 殺意フランは防御の姿勢を見せようとしない。慧音に殴りかかろうとしている。

 

「目を覚ませ、フラン!!」

 

 慧音は叫び、頭を大きく後ろにふった。そして歯を食いしばって目をつぶり、弾丸のように頭を前へと振り抜いた。

 

 強烈な頭突きは空を切ることなく、手応えを感じた。慧音は目をつぶっているので、殺意フランの様子を見ることはできていない。素早く慧音は頭を上げ、目を開けて殺意フランの様子を確認した。その結果は―――

 

 

「!! な、効いていないだと!?」

 

 

 殺意フランは慧音の頭突きを喰らってもひるんでいなかったのだ。

 

「ガアッ!!」

「がっ……」

 

 強烈な左の一撃が、慧音の腹にめり込んだ。慧音に痛みと吐き気が襲ってきた。体がくの字に折れ曲がり、膝が地面につく。

 

 そこに殺意フランが追撃しようとした、その時だった。

 

「はあっ!」

「グブゥ!?」

 

 何者かの足蹴りが、殺意フランの顔面をとらえていた。殺意フランは吹っ飛び、自らが破壊した家の廃材に突っ込んでいった。

 

「! 妹紅!!」

 殺意フランを蹴り飛ばしたのは慧音の親友、藤原妹紅だった。妹紅は殺意フランが突っ込んでいった廃材に注意を向けつつ、慧音に近寄った。

 

「慧音!! 大丈夫か!?」

 妹紅が心配そうに慧音の様子を見る。傷はないようだが慧音の息が荒れている。

 

「大丈夫だ…動くことはできないが、死ぬほどじゃない…」

 

 慧音は生ぬるい吐息を吐きながら言った。体が震えている。痛みと吐き気に必死に耐えているのが分かった。

 

「ここからは私に任せて、慧音はどこかに隠れて!」

 

 妹紅が慧音に話し終わるとほぼ同時に、廃材の一部が吹っ飛び、そこから殺意フランが姿を現した。

 

「…マタ邪魔者? …許サナイ!」

 

 殺意フランは妹紅にも敵意を向けているようだ。妹紅はすぐに殺意フランに顔を向けた。

 

「…妹紅…」

 慧音はなんとか自分も戦おうとした。しかし再び吐き気が襲ってきて、立つことができなかった。

 

 再び戦いの火ぶたが切って落とされようとした時、空から魔理沙の声がした。永遠亭から一同が到着したのだ。

 

「! いた!! あれが、殺意の波動に飲まれたフランか!」

 

「この声…魔理沙か!」

 慧音が目線を飛んできた一同に向けた。

 

「マタ邪魔者――ウッ!?」

 

 殺意フランは一同にも敵意を向ける。しかし突然、殺意フランの体に纏う殺意の波動が揺らいだ。

 

「!?」

 

 

「ウグッ…ダメ…マダ…私ハ完全デハ…」

 

 

 謎の声を漏らした殺意フランは、なぜか慧音、妹紅、一同には目もくれず、一気に飛び去っていった。

 

「! 逃げられた…」

 

「深追いしない方がいいわ。今は慧音の治療、里の状況把握に人手を使いましょう」

 

 

 

「慧音さん! 大丈夫でしたか!?」

 うどんげが慧音の応急処置をしている間、阿求がこちらに向かって走ってきた。

 

「阿求! 避難しろと言ったはずだが…」

 阿求は申し訳なさそうな顔をしながら言った。

 

「あの後、胸騒ぎが止まらなくてたまらず避難所から飛び出してしまいました。慧音さんも無事で何よりです」

 

「里のみんなは無事だろうか…」

 

 慧音が避難所の方に顔を向けた。だが紫が、今の状況がそれどころではないと教える。

 

「それを確認する時間は残念ながらないわ。何せ、まだ1人いる今はね…」

「まだ1人いる? それは一体どういうことだ?」

 

 魔理沙が現状を簡単に説明した。

 

「そうか…フランは、自分の意思とは関係なく殺意の波動とフラン自身の狂気で操り人形のように動いている訳だな。それを引き起こしたのが、リュウって奴だと」

 

 妹紅は殺意リュウをすぐにでも殴りたい衝動に駆られそうになる。

 

「リュウ…どんな見た目か、分からないのか?」

 

 妹紅が情報を求めると、紫ははたてに念写してもらった写真を見せてくれた。

 

「これが、異変の元凶…確かに、まがまがしさと言いますか、不気味な印象を受けます」

 

 阿求は冷静に殺意リュウの写真を見ていた。

 

「…慧音、私はこいつらと行動を共にする。慧音は里のみんなを頼む」

 

 妹紅は異変に立ち向かう決意の目を慧音に向けた。しかし慧音は、それを受け止めながらも強気な言葉を返してきた。

 

「妹紅…そう言われても、私は行くぞ、この異変を止めに! 里がここまで荒らされたんだ、黙って見ていられない!」

 

「慧音…」

 慧音の強い意志を見た妹紅はどうするべきか迷ってしまった。だが紫が助け船を出す。

 

「妹紅、止めるのはそこまでにしておきなさい。慧音のその目、いくら言ってもやる気満々よ、慧音は」

 

 妹紅はあきらめがついたのか、息を1つ吐いて言った。

 

「分かったよ、慧音。ただし、絶対無理はするなよ!」

「もちろんだ!」

「それじゃあ、私は戻りますね。一刻も早くこの異変が、解決されることを願っています…!」

 

 阿求は避難所へと戻っていった。

 

「さあ、どうしたものか、フランを見失っちゃったわねえ…」

 

 殺意フランはあっという間に飛び去ったため、どこへ飛んでいったか一同は見ていなかった。今の一同の行き先は失われているのだ。

 

 

「その心配はないわ。私が、その姿を見ているから」

 

 

 一同に声をかけたのは―――

 

「! アリス!? 何でここに?」

 魔理沙の親友(?)である都会派の魔法使い、アリス・マーガトロイドの声だった。さっきまでの話を聞いていたらしい。

 

「偶然よ。今日が人形劇を見せに来る日じゃなかったら、私は今ここにいないわよ」

 

 

人形を操る程度の能力―――アリスの能力で、人形を操り糸で動かすかのように魔法の力で人形を操る能力。人形はアリスの家事の手伝い以外に、スペルカード戦では弾幕を撃ってくれるアリスの攻撃の要でもある。この能力を使い、アリスは時折自宅のある魔法の森から人里に出向き、人形劇を人々に見せる。なお、人形はアリスが細かいところまで手で縫って作っているらしい―――

 

 

「そうか…そういえば、今日は人形劇がある日でもあったな…」

 

 慧音が思い出したように言った。藍がすぐに聞く。

 

「それで、あの吸血鬼はどちらの方向に?」

 

 アリスは一同が飛んできた方向とちょうど真逆の方向を指さして言った。しかし、アリスの口からは意味深な言葉も出た。

 

「あっちに飛んでいったわ。でも飛んでいるとき、少しだけ変に感じたわ」

 

「変に感じた?」

 橙が聞くと、アリスはさらに詳しく言ってくれた。

 

「ええ。はっきり分かるってほどじゃないけど、蛇行して飛んでいたのよ。まるで何か、病気で苦しんでいるまま飛んでいるかのように」

 

 妹紅が疑問の目をアリスに向けた。

 

「蛇行して? 確かに、こいつらが来た際にあの吸血鬼は苦しんで、そのまま飛び去っていったから納得がいくが…」

 

 あの時の殺意フランは、霊夢達が現れるやいなや苦しんでいた。苦しみの原因は不明なのも気にかかる。

 

「そういえばフランが苦しんでいる時、体に纏っていた殺意の波動が揺らいでいたような気がするな。私と戦っている最中は何も起こらなかったが、その時に突然そうなったのはなぜだろう? 疑問が残るな」

 

 慧音の言葉から、霊夢は永遠亭で殺意リュウの写真を見た時の疑問が再び頭に浮かんできた。

 

 

(フランのあの反応…なぜ、私たちが駆けつけたとき、戦いを続けようとしなかったの?そして何より、あの時に感じたリュウへの違和感。あれは何なの?)

 

 

 霊夢はいつの間にか考え事をする顔を見せていた。それを気にした魔理沙が言う。

 

「霊夢? どうした?」

 

 霊夢は魔理沙の言葉には答えない。ずっと疑問の事を考えている。しかし突然―――

 

 

「はっ!?」

 

 

 霊夢は先ほどまでの考え事をしている顔から、何かを感じ取ったかのような顔に変わった。そしてこの場にいる全員に聞こえるよう、大声で言った。

 

「みんな、この場から離れて!!」

 

「えっ!?」

 橙が思わず疑問の声を上げるが、ほかの一同は察した。今自分たちに、危機が迫っていることに。

 

 ヒュー……

 

 何かが空から落っこちてくる音がした。

 

「橙、急いで!!」

「は、はいっ!!」

 

 理解が追いつかないまま橙は、紫の元へ走った。そのわずか数秒後―――

 

 ドサドサドサドサッ!

 

 何者かが数名、空から落ちてきた。それは―――

 

 

「!? こいつらって、妖怪の山にいる天狗たちじゃないか!?」

 

 

天狗―――日本の民間信仰における伝説上の生き物。天狗といわれると、赤い顔、鼻が長いというイメージがあるが、幻想郷の天狗は人間の容姿に黒い羽が背中に生えたものであり、世間一般のイメージとは少々離れている。基本的に妖怪の山に集団で住み、縄張り意識の強さからよそ者を嫌う習性がある―――

 

 

 人里から妖怪の山までは結構な距離がある。そこから天狗を吹っ飛ばして運ぶなど、普通では不可能に等しい。

 

「ま、まさかこれをここまで飛ばしてきたのって―――」

 

 即座に行動に出たのは霊夢ただ1人だった。霊夢は妖怪の山へと紫たちに何も言わずに飛び出したのだ。

 

「! お、おい霊夢、どうしたんだぜ!?」

「霊夢!?」

 

 紫たちも後に続くが、霊夢の飛ぶスピードは異様なほど速く、一同は取り残されてしまった。

 

 霊夢は頭の中でぐるぐると考えを回していた。

 

 

 リュウが異変の元凶であることは間違いない。だけど私の中で、それではすっきりしないように思えるのはなぜ?

 

 

 どうして、リュウを異変の元凶だと思えないの?

 




ようやく周りが落ち着いてきたので、これからは最低週1のペースで投稿します。
それに伴い、注意書きの部分も変えましたので今一度確認をよろしくお願いします。
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