沢近さんの純愛ロード   作:akasuke

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もうちっとだけ続くんじゃ



というわけで、お久しぶりです。
既に前回の投稿から数ヶ月経って申し訳ありません!

まだ覚えてくださっている方がいるか不安ですが、投稿します。

チュートリアルが終わったので、これから本編に入ります。
旗派と対を成す派閥がスクランにありましたよね?
そのひとが出ないはずないですよね?

というわけで、本編をどうぞ。



はーどもーどっ!
#12.5「彼を知る妹と、板挟みの姉」


 

 

少し、怖そうなひとだな、と。

塚本 八雲が播磨 拳児を初めて見たときに抱いた第一印象である。

 

 

昼休み。

姉の天満がお弁当を持っていくのを忘れた為、八雲は彼女の在席するクラスに届けに来ていた。

 

 

――姉さんは……あ、いた。

 

天満の居る2-Cのクラスに入り、見渡したときに姉が窓際の後ろの席にいるのを発見する。

 

 

「あれ、八雲ー!」

 

天満も八雲の姿を見つけ、目を丸くさせながらも彼女に笑顔で手を振ってきたので、八雲は小さく手を振り返して席へと向かった。

 

ただ、その際に天満の隣に座る、妙なオーラを放つ男性も目に入った。

 

 

「クラスまで来てどーしたのー?」

 

「姉さんが弁当忘れてたから、渡しに来たんだけど……」

 

弁当を天満に渡しながらチラリと隣を見る八雲。

 

サングラスにヒゲという、他の学生とは違う姿。

一般的に不良と呼ばれる格好。

 

その姿を見て、八雲は天満に小声で話し掛ける。

 

 

「姉さん…、この席で大丈夫? 怖くない?」

 

容姿で判断はしない八雲であるが、少し彼の雰囲気を恐く感じ、隣に座る姉を心配する。

 

 

「ん? なんで?」

 

しかし、天満は特に気にした様子は見受けられない。

むしろ。

 

 

「あ、播磨君! ダメだよ! イスでカバンを踏んじゃあ!」

 

カバンが可哀想だよ、と。

注意して彼のカバンを拾い、机の横に引っ掛ける天満。

 

 

「……お、おう」

 

播磨は天満に顔を向けることもせず、一言だけ喋るだけであった。

 

しかし、天満が播磨のカバンを取ろうとした時、彼が少し椅子から身体を浮かしていたのを八雲は見ていた。

 

 

――見た目ほど、怖いひとじゃないのかな……。

 

 

 

 

これが、彼―播磨 拳児と彼女―塚本 八雲の、初めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#12.5「彼を知る妹と、板挟みの姉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ味噌チャーシュー、ふたっつー」

 

「姉さん、わたし、チャーシューはちょっと……」

 

休日の昼時。

久しぶりに外食したいという天満の要望から、八雲と天満は中華飯店に訪れていた。

 

 

「久しぶりの外食はワクワクするよねっ!」

 

「ふふ。 そうだね、姉さん」

 

はやく来ないかなー、と。

楽しそうに笑顔を浮かべる天満に、八雲も彼女と同様に笑みが溢れていた。

 

料理が楽しみで、というよりは、楽しそうにしている天満を見て嬉しくなったのだ。

八雲はそれくらい姉が好きであった。

 

 

――中華はあんまり作ってなかったけど、姉さんが好きなら覚えようかな。

 

 

「あれ、この透明なジュースおいしい!」

 

どれなら作りやすいかと考えていた八雲であったが、天満の声で思考の渦から出る。

すると、天満は置かれている水とは別のグラスの、透明な飲み物をゴクゴクと飲んでいた。

 

 

――あれ、そんなの頼んでたかな……?

 

 

 

 

「さぁ、聞かせてくれたまえよ」

 

「わかったよ教えてやるよ! 彼女との馴れ初めをな……」

 

 

 

天満が飲んでいるモノに疑問を浮かべていると、天満の後ろの席から聞き覚えのある声が聴こえた。

 

 

――あれは、刑部先生? それに男性の声もどこかで……?

 

少し気になって天満の後ろの席へと視線を向けると、見覚えのある先生―刑部 絃子が其処にはいた。

 

 

「ま、ここから先はもっと酒が入らねーと語れねぇ。まだまだジャンジャン飲むぜ!」

 

既にこれ以外にも紹興酒も頼んだしな、と。

語る男性の言葉に、八雲は天満が飲んでいるモノの正体を理解した。

 

 

「姉さん、それ違……、たぶん後ろの人の――」

 

「んー……うしろー……?」

 

慌てて天満に飲むのを八雲は止めようとしたが、その時には既に彼女は見て分かるほどに頬を赤くさせ、酔っている状態であった。

 

そして、酔いながらも八雲の言葉を聞いた天満はひとつ頷き、席を立ち上がった。

 

 

「謝ってくる!」

 

「え、ちょっと待って。 ね、姉さん!」

 

突撃しに行く天満を慌てて追う八雲であった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「それでよう、俺は――」

 

「うんうん、それで――」

 

 

――何でこうなったんだろう……。

 

八雲は自身の現在置かれている状況に混乱していた。

 

酔いながら別のテーブルへ突撃する天満を慌てて追った八雲。

 

向かうと、謝りに行くと言った天満は彼らのテーブルにある席に座り、何か話している男性の話を頷きながら聞いていたのである。

その男性も姉と同じ様に既に酔っているらしく、人がいない場所に視線を向けながら話していた。

 

そんな姉に戸惑いながらも、語る男性と同じテーブルに座る教師の絃子に姉に代わって謝ろうとしたとき、彼女は口に人差し指を当て、席に座るように促してきた。

 

 

――え……えっと…………。

 

更に混乱する八雲であったが、言われるがままに座ると、そのまま一緒にいた男性の話を聞くことになったのだった。

 

 

 

 

話は途中からであったが、昔の話らしい。

喧嘩に明け暮れていた彼が、路地裏で女性が襲われそうになっていた場面に遭遇したこと。

人助けとかするつもりはなかったが、ただ喧嘩がしたかった為に割り込んだこと。

ナイフで背中を切られ、その血をみた女性が気絶してしまったこと。

仕方なく彼女を背負い、自宅で介抱したこと。

彼女に近付いた際、寝ながら抱き着かれ、離れようとしたときにその女の子が目を覚ましたこと。

無言で出ようとする彼女に誤解を解こうとしたが、肩を掴もうとして背負い投げをされ、更に変態さんと言われてしまったこと。

そんな彼女に惚れてしまったこと。

惚れたが誤解が解けなかった為、バレないようにヒゲをはやしてサングラスをし、彼女の通う高校に進学したこと。

 

 

 

 

そう語る男性の話を聴きながら、八雲は目の前の男性が誰であるかを思い出した。

 

 

――姉さんと一緒のクラスの……、隣にいたひとだ。

 

初対面のときはサングラスを掛けていたので気付くのが遅れたが、声に加え、サングラス以外の容姿は同じであったので気付いたのだ。

 

 

――たしか名前は……播磨さん、だったよね。

 

姉が呼んでいた彼の名前を思い出す八雲。

そして、思い出したのはそれだけではなかった。

 

 

――あれ、姉さんから昔、聞いた話と似てる……?

 

 

『や、やくもー!』

 

『ね、姉さん……、どうしたの?』

 

数年前のこと。

姉が路地裏で男性に襲われそうになった、という話を聞いた覚えがあった。

 

その時、八雲は顔を青くさせながら姉を心配していたのだが、話には続きがあった。

襲われそうになった時に男の子が助けてくれたこと。

 

しかし。

 

 

『助けてくれたけど、自宅に連れ込む変態さんだったの!』

 

気絶した自分を部屋に連れ込み、寝込みを襲う変態さんだった。

背負い投げして逃げてきたと天満は言っていたのを思い出した。

 

 

路地裏。

襲われる。

自宅。

背負い投げ。

 

いま目の前で播磨が話した内容と、昔に天満が話した内容に幾つも共通点があったのだ。

 

だからこそ、八雲は気付いてしまった。

目の前の男性が誰を好きになったのかを。

 

 

――このひと、姉さんのこと、好きなんだ。

 

姉もこの話を聞いて気付いたのでは、と。

慌てて八雲は姉の天満に視線を向ける。

 

視線の先に居る当の本人である天満は、また紹興酒を当然のように飲んでいた。

そしてグラスを置くと、男性へと視線を向けて言葉を告げる。

 

 

「――その女の子が悪い!」

 

「ほう、なるほどね」

 

堂々と自身の感じた気持ちを話す天満。

そして彼女の話をニヤニヤと笑みを浮かべながら頷く絃子。

 

 

――ね、姉さん、気付いてない……。

 

その姿をみて姉が全く自身のことと気付いていないことを理解した。

 

それだけでなく。

 

 

「店員さん、俺の好きな女の子に似てるなー!」

 

「あっはっはっ! アナタもどこかで見たことあるよー!」

 

播磨と天満の両方とも酔いすぎて互いに誰かすら分かっていなかったのだ。

 

その状況に戸惑いを隠せない八雲であったが、同じように天満と播磨を見る絃子に話し掛けた。

 

 

「あ、あの、もしかして今の話って―――」

 

言葉を続けようとしたが、絃子の人差し指が八雲の口に当てられた。

そして、秘密にしてあげてくれ、と笑顔で言う絃子に八雲は頷くのであった。

 

 

 

 

 

その後、酔いすぎてフラフラと歩く天満を支えながら自宅へと帰っていた。

思い出すのは、先ほどの中華飯店での出来事。

 

いや、播磨のこと、と言うべきだろうか。

 

 

――姉さんのこと、好きなんだ。

 

姉のことが好きになり、一緒に居たいからサングラスを掛け、ヒゲを生やして正体を隠し、同じ高校に通う。

 

 

――そこまで、一生懸命になれるんだ。

 

凄いな、と思った。

 

八雲は、恋をしたことがなかった。

嫌いではないけど、男の子を好きになったことはなかった。

 

それは、「自分のことが好きな異性の心が視える」という不思議な力が原因かもしれない。

 

異性とどう接すれば良いのか分からず、苦手意識が少しだけあった。

 

そんな八雲からしてみれば、そこまで誰かを好きになるのは凄いと感じたのだ。

 

そして、この自身の抱いた感想に、どこか既視感があった。

少し考えようとして、すぐに理解した。

 

 

――そっか……、そうなんだ。

 

 

『やったー! 烏丸君と同じクラスになれたー!』

 

『明日は席替えなんだよ、八雲! 烏丸君と近くになるように祈らないと!』

 

『情熱溢れる恋文の出し方……、それは矢文よ!』

 

好きに対しての一生懸命さ。

見た覚えがあるのは当然であった。

 

 

「姉さんと播磨さんは、似てるんだ」

 

恋に対して。

真っ直ぐで、一生懸命で。

 

自分が側で大切な姉の姿を見てきたからこそ、姉と彼が似てるのだと感じたのだ。

 

でも、と。

八雲の表情が曇り始める。 

 

そこまで姉を想ってくれる人が居るのは、何だか嬉しく感じた。

だけど。

 

 

「姉さんは……、烏丸さんのことが好き」

 

姉は、天満は、別の男性のことが好きなのだ。

好きな人に対する一生懸命さも、真っ直ぐさも側で見てきたからこそ、姉が他の人を好きになるとは思えなかった。

 

 

――わたし、どうすれば良いんだろう。

 

ふとした拍子で知ってしまった想い。

恋の経験がない八雲には、どうすれば良いのか全くわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「だ、誰か…誰かいませんか? 助けてください!」

 

 

――いまの声……、姉さんっ!

 

とある平日の放課後。

自宅へと帰る途中で、姉の悲痛な叫び声が聴こえた八雲。

 

声がした方に急いで向かうと、そこには橋の上で助けを求める天満の姿が其処にはあった。

 

 

「姉さんっ、どうしたの!」

 

「や、八雲っ! い、伊織が川にながされてっ!」

 

天満の指す方向を慌てて振り返ると、

川で板の上に乗って流されている飼い猫――伊織が居たのだ。

 

 

「い、伊織っ! はやく助けないとっ――」

 

大切な飼い猫である伊織。

天満は泳ぐことが出来ないため、周りに助けを求めていたのだと即座に理解した。

 

制服姿であったが、自分なら助けられると感じ、躊躇なく川に飛び込もうとした。

 

そのとき。

 

 

「……っくしょーっ―――」

 

「えっ……」

 

自分より前に橋から飛び込む姿を八雲は目撃した。

それと同時に、誰か飛び込んだぞー、と。

周りの野次馬から遅れて声が聴こえたのであった。

 

呆然とその姿を見てる内に、川に飛び込んだ男性が伊織のもとに向かい、抱き抱えて川の端まで戻っていった。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

天満が男性と伊織のもとへ行き、感謝を述べるのを見て、八雲も彼らのもとへ慌てて向かった。

 

 

「あ……あなたは、もしかして…………」

 

――あれ、あの人って…………。

 

天満が伊織を助けた男性を見て何か気付いた表情を浮かべる。

そして、遅れてきた八雲もその男性が誰かに気付いた。

 

 

「か……かっぱ、さん?」

 

――播磨さん…………え?

 

播磨だと気付いた八雲は、天満の言葉に驚いた。

姉さんは播磨さんだと気付いてないの、と。

 

ただ、中華飯店で姉が酔っていたのを思い出し、播磨の素顔を知らないのだとわかった。

 

何故に天満がカッパと思ったかというと、助けた男性の頭が――見事に円形に禿げていたからである。

 

このとき、播磨は天満が烏丸のことを好きだと思い、ショックで不登校になり、且つストレスで円形脱毛症となっていたのだ。

 

 

「………………三平です」

 

カッパと言われた当の本人は、一言だけ告げると泳いで去っていったのであった。

 

 

「三平さーん、ありがとー!」

 

――播磨さんだって、言わないほうが良いのかな……。

 

過去の出来事は八雲は知っている。

だからこそ、播磨が天満に自身の素顔を見られたくないのは何となしに理解した。

 

だけど。

 

 

――播磨さんに、ちゃんとお礼言いたいな。

 

大切な家族を助けてもらった。

だからこそ、ちゃんと感謝を述べたいと思った。

 

姉のことが好きだから。

彼女の助けを求める声に駆け付けずにはいられなかったのだろうか。

 

わからなかったけど。

 

 

――播磨さん、優しいひとなんだ。

 

少し嬉しくなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、旅行は楽しかった?」

 

「うん、もう海は最高だったよ!」

 

八雲も誘えば良かった、と。

天満は満面の笑みを浮かべながら八雲に言葉を返した。

 

 

夏休み。

天満はクラスメイト達と海に一泊二日で旅行に行き、本日帰ってきたのであった。

 

姉が嬉しそうに喋っているのを見て、八雲も当然のように嬉しく感じた。

 

彼女の話を聴きながら、そういえば、と。

八雲は、天満が一緒に行くと話していたクラスメイトの中のとある人物を思い出し、何となく口に出していた。

 

 

「姉さん、たしか播磨さんも居たんだよね?」

 

「ん? いたよー!」

 

あれ、八雲って播磨くんと会ったことあったっけ、と。

疑問を投げかける天満に、少しね、と言葉を濁して返事をする八雲。

 

中華飯店や川で伊織を助けてもらったこと。

どちらも播磨は天満に知られたくないだろうから、曖昧に答えるしか出来なかったのだ。

 

そんな八雲の回答に気にした様子もなく、そっかぁ、と頷きながらご飯を食べる。

 

そして、何故か急にニヤニヤし始めた天満。

 

 

「そうだ、ふふ、播磨くんで思い出した!」

 

「どうしたの、姉さん?」

 

疑問を投げかけると、天満はどうしようかな、と悩んだ――フリをしていた。

明らかに何か言いたそうにしていたのだ。

改めて八雲が天満に聞くと、彼女は楽しそうに話し始めた。

 

 

「播磨くんのね、告白の練習をお手伝いしたんだ!」

 

「…………え?」

 

天満の言葉に一拍置いてから反応する八雲。

何を言ってるのか理解すると、更に疑問が増え始めた。

そして、自身でも分からないが、少し慌てて問い掛ける。

 

 

「ね、姉さんが手伝いをしたの?」

 

「うん、そーだよ!」

 

「告白の、練習を?」

 

「播磨君が好きな女の子に告白できるようにね!」

 

私は恋のキューピットなのさ、と。

ドヤ顔で話す天満にますます混乱する八雲。

 

 

――播磨さんが、姉さんに告白の練習? どういうこと?

 

好きな相手に告白の練習。

恋を知らない八雲でも、それは何だか可笑しいと思った。

 

そして、もっとも大事なことがある。

 

 

「姉さんは――姉さんは、播磨さんが好きな人、知ってるの?」

 

姉は、彼が好きな人を知ってるのだろうか。

 

八雲の問い掛けに、天満は勿論とニヤニヤしながら答える。

そして、言うのであった。

 

 

播磨くんはねー、愛理ちゃんのことが好きなんだよ、と。

 

 

「あ、愛理ちゃんはね、私のクラスメイトの女友達で――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だろうか。

目の前に、驚きの表情で此方を見つめる姉の姿がある。

 

何故、だろうか。

姉が驚くのと同じように、八雲自身が驚いていた。

 

考えるよりも前に、口から言葉が出ていたのだ。

 

 

「や、八雲……?」

 

「違うよ、姉さん」

 

戸惑いの表情を向ける姉に、更に言葉を告げる。

自分の声が力強くなってるのが分かった。

 

否定しなければと思ったのだ。

 

姉が誤解しちゃ駄目だと、思ったのだ。

 

 

「だって…」

 

――好きって気持ちは、わからないけど。

 

恋も知らない。

家族以外に好きって気持ちを感じたことがない。

 

そんな、私だけど。

 

 

「だってっ……」

 

――もし、好きな人に、別の人が好きだって思われたら。

 

それは、哀しいことだと、思う。

八雲はそう思ったのだ。

そう、感じたのだ。

 

姉と同じようなひとだって思った。

姉みたいに、恋に真っ直ぐで、一生懸命なんだって思った。

 

だからこそ、そんな姉が彼の気持ちを誤解するのが、悲しかったのかもしれない。

 

 

「だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――」

 

――姉さん、なのに。

 

その後の言葉を話して良いのか、分からなくて。

本人以外が告げて良いのか、わからなくて。

 

 

「――なんでも、ない」

 

ごちそうさま、と。

逃げるように、自分のお皿を台所に持っていくのであった。

 

 

 

 

姉の誤解を解けないことが、悲しかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――え、どどどどどどどどどういうこと!?

 

塚本 天満は台所へ去っていく妹の姿を呆然と見送った後、今の出来事に物凄く慌てていた。

 

そもそもクラスメイトの播磨と知り合いだったこと自体、初めて知ったのだ。

 

それだけでなく、あんなに力強い否定をされたのも驚きだった。

 

 

――え、なんで、何が、どういうこと?

 

何故、あんなに否定したのだろうか。

播磨君が愛理ちゃんを好きだと言ったことに。

 

大きく深呼吸をし、落ち着くように心掛ける天満。

そして考え始める。

 

 

「播磨君の好きな人が愛理ちゃんじゃないって、八雲は思ったんだよね」

 

あそこまで強い否定をした八雲。

もしかしたら、八雲は彼の好きな人を知ってるのかもしれない。

 

もしくは――

 

 

「あ……八雲、そういうこと……?」

 

天満は、先ほどの八雲の言葉を思い出した。

 

 

 

『だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――』

 

 

その後の言葉は、言おうとして、止めていた。

ただ、八雲は悲しい表情を浮かべていた。

 

それを思い出し、天満は気付いた。

いや、気付いてしまった、と言った方が良いだろうか。

 

ずっと長い間、八雲を側で見てきたのだ。

大切な家族である、妹の八雲を。

 

だからこそ。

だからこそ、八雲が言わなかった声なき声を分かってしまったのだ。

 

そう。

きっと、八雲が言いたかったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

『だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――わたし、なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、ど、ど、どうしようっ!!!」

 

天満の混乱は頂点に達するのであった。




読んでいただきありがとうございます。

基本的にこの作品は、IF的な物語です。
同じ場面でキャラクターが違う行動したら、どうなるかなっていうのを妄想して描きました。

原作とは違う関係性を楽しんで頂けたら幸いです。

お嬢「播磨君の想い、しっかり受け止めるから」
妹「誤解とかなきゃ(使命感)」
姉「はわわわわ、八雲と愛理ちゃんががががが」


それにしても、スクールランブル増えてくれないかな、と心待ちにしてるのですが一作も増えないですね、、、

【急募】旗派もおにぎり、お子様ランチ、超姉とか全部待ってます

……勘違い、描きやすいと思うんだけどなぁ。

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