沢近さんの純愛ロード   作:akasuke

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お久しぶりです。
投稿できておらず申し訳ありません!
こちらエタッたと思われたでしょうね。

スクランに対する熱がまた上がったので投稿します。
それでは、どうぞ!


#13「悲しむ彼、苦しむ彼女(前編)」

 

――夏休み。

 

それは、学生にとって一年の中で

とても嬉しく、そして大切な期間である。

 

受験を控える学生以外は勉強から解放され、

己自身でやりたいことを考え、好きに行動することが出来るのだ。

 

片や友達グループで旅行にいく学生たち、

片や身近な場所でデートを楽しむ恋人たち、

または自宅でゲームや読書などの趣味に没頭する人たちなど。

 

各々が自分にとっての夏休みを満喫している。

 

そんな中。

 

 

「おーい、バイトー! 修理は終わったかー?」

 

「ウッス、終わりやした」

 

各々が自分にとっての夏休みを満喫する中、

とある不良学生―播磨 拳児はクーラー修理のバイトに勤しんでいた。

 

 

「じゃあ、その工具しまってこい。 そしたら、次のお宅に向かうぞ」

 

了解しやした、と。

バイトの親方に返事をした後、車の後ろにクーラー修理で使用した工具を戻し、空を見上げる。

 

 

「にしても、アッチぃーな……」

 

首に巻いたタオルで汗を拭いた播磨は、燦々と輝く太陽を睨みながら水で喉を潤した。

そして、現在のこの自分の状況に思わずタメ息を吐く。

 

 

「まったく、天満ちゃんに近づく為に色々と考えねーといけねぇのによ」

 

ケチくせーヤツだぜ、と。

彼は、この場に居ない宿主である従兄弟の存在を思い出しながら愚痴を溢した。

 

 

彼の記憶は朝まで遡る。

 

 

『拳児くん、最初に家に住まわせる条件として言ったはずだぞ』

 

毎月家賃をしっかり支払うように、とな。

今日、刑部 絃子がモデルガンを正座した播磨に向けたまま語った言葉である。

 

播磨は中学生の時に運命の出会いにて塚本 天満に一目惚れをした。

そして心の赴くままに、彼女が通う矢神高校に入学する為、絃子の家に住まわせて貰える様に頼み込んだのだ。

 

お願いをして、断られ、頭を下げて、断られ、土下座をして、モデルガンに撃たれ……etc。

 

 

『――やれやれ、仕方のないやつだな、キミは』

 

そのやり取りを何回も繰り返し、十何回目かにて彼の熱意に諦めるかの様に絃子は認めたのであった。

しかし、住まわせる条件として少ない額ではあるが、家賃を払う様に取り決めが行われたのだ。

 

普段は支払っていた播磨であったが、今回天満たちと泊まりで海水浴に行くことになり、家賃分を使ってしまったのである。

 

 

『な、なぁ絃子……俺ァ、天満ちゃんとのデートの参段を考えなきゃいけねーからよ。 支払いは少し後に――』

 

『無駄なこと考えてないで、とっとと稼いでこい』

 

約束事には中々にシビアである絃子は、播磨の言葉を無視し、モデルガンで彼を撃ちながら家を追い出したのであった。

 

 

そのような経緯もあり、すぐに金を稼ぐ必要があった播磨は、クラスメイトである花井の伝手を頼り、日雇いのクーラー修理のバイトを行っているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#13「悲しむ彼、苦しむ彼女(前編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん、エアコンの修理に来たんですがー!」

 

「あ、はい……その、ご苦労さまです」

 

「いやぁ、夏は外が大変で――」

 

「あの――――」

 

 

――あぁ、補修も終わっちまったし、天満ちゃんと会う理由が作り辛いぜ

 

三軒目の作業が終わり、四軒目の修理を行う為に次のお宅に着いた播磨。

バイトの親方の指示の通り作業はしているものの、やはり意識は天満へのアプローチ方法に向いてしまっていた。

 

 

――こういうバイトで一緒に働けたら最高だが、天満ちゃんがこんな汗臭えバイトする筈ないしな。

 

色々と播磨なりに知識を振り絞るが、これといった案が思い付かず、タメ息が漏れる。

そんな播磨の姿を見た親方は、彼の背中に向かって軽く手で叩いた。

 

 

「ま、こんな暑い中で作業は大変だけどよ、しっかりやりな」

 

「えっ……、あ…ウッス」

 

タメ息の理由は検討違いではあったが、手が止まっていたのは事実であった。

播磨は親方に内心で謝りながら、二階にある室外機を修理する為に脚立の準備を進め始める。

 

そんな播磨を見つつ、親方は先程とは異なり、少し声を潜めて話し掛けた。

 

 

「そいやあ、今回のお宅は凄い別嬪さんが居たな」

 

「はぁ……、何のことスカ?」

 

「何のって、さっき出迎えてくれたお嬢さんだよ」

 

まさかあんな美人に目が行ってなかったってことないだろ、と笑いながら播磨の胸を叩く。

しかし、播磨は玄関での出迎えの際も天満のことを考えていたので、女性が居た程度の認識でしか覚えてなかったのである。

 

そんな播磨を余所に、親方はとある方向に視線を向けながら、別嬪だと呟き一人頷いていた。

彼も親方が視線を向けている場所へと振り返る。

其処には、親方が言っていたであろう黒髪の少女がしゃがんでいた。

 

 

――あぁ、親方が言ってた女の子か。

 

確かに美人だとは思ったが、天満以外の女性は割とどうでも良かった。

興味が薄れた播磨は脚立の準備に戻ろうとした播磨であったが、その女の子の様子が少しおかしいことに気付く。

 

 

 

「私のせいで……、早く怪我を治さないと……」

 

黒髪の女の子は、しゃがみながら猫へと視線を向け、慌てた様相を見せていた。

一瞬慌てる理由が分からなかったが、茂みに隠れる猫を改めて見つめて状況を理解した。

 

 

「親方、ちょっとスイヤセン」

 

「え、おっ、おう……」

 

播磨は女の子のもとに向かい、彼女の肩を叩いて言葉を告げた。

 

 

俺に任せな、と。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「親方っ! それじゃあ早速修理を進めヤスッ!」

 

「お、おう……、急にそんな張り切ってどうしたバイト」

 

――なんつー幸運だっ! こりゃあ猫の恩返しってヤツか!

 

播磨は、自分に早速絶好の機会が訪れていることを理解し、歓喜に満ちていた。

 

 

先程、動物に好かれる播磨は、怪我をしながらも威嚇していた猫を大人しく躾け、飼い主へと預けた。

 

ただ、その際に黒猫にどこかで見覚えがあることに気付く。

 

 

『あ、あの……、どうか、されました?』

 

『いや、この猫、どこかで見た覚えが……なっ! ま、まさか!』

 

慌てて表札を見直すと『塚本』と書かれており、自身の想い人の家であることが発覚したのだ。

 

 

――だが、天満ちゃんの家ではあるが肝心の本人に会えねーとなぁ……。

 

 

『それじゃあ、さっそく室外機の修理を始めますねー』

 

『はい、お願いします。 あ、ちょっと姉さん達が上にいるので少しうるさいかもしれませんが』

 

悩んでた播磨であったが、親方と少女の会話を耳にし、小さくガッツポーズを決める。

 

一階と二階の間にある室外機が故障し、修理を依頼されているため、天満に会えるのではと期待を膨らませながら、脚立で上に登る。

 

 

――これは絶好のチャンスってやつだ! 俺が修理しているのに天満ちゃんが気付けば……。

 

 

『あっ、修理ご苦労さまです! ……って、播磨くんっ!?』

 

『お、おう……ここが塚本の家だなんて、全く気付かなかったぜ』

 

『ふふっ、凄い偶然だね! ねぇ、せっかくなら部屋に入ってきてお話しようよ』

 

『いや、俺は仕事中だから今は無理だ。 スマネェな』

 

『そっかぁ、残念だけど仕事熱心な播磨くん格好良い! 素敵っ!』

 

『お、おい、照れるからやめてくれよっ』

 

『ははっ、照れる播磨くん可愛いっ! じゃあ別の日に遊びに行こうよ、それなら良いでしょ?』

 

『まぁ、それなら良いけどよ』

 

『じゃあ―――』

 

 

――か、カンペキだ。 アピールしつつ約束も出来るじゃねえか!

 

自分の思い付いたシナリオに顔をだらしなくなりながらも播磨は室外機まで辿り着く。

 

そして、室外機に隠れながら二階へと意識を集中させると、中から声がするのに気付いた。

 

 

――これは、天満ちゃんの声っ! 気付かれるタイミングをみはからねーと。

 

播磨は、タイミングを見計らうため、耳をダンボにして会話を聞き取ろうとする。

 

そして。

 

中から聞こえたのは自身が想像していなかった会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

「天満…、あんた、男の裸みたことある?」

 

「うん、あるよー!」

 

 

 

 

 

 

――…………はっ、一瞬意識が飛んでた。

 

あり得ない言葉が聞こえた播磨は、一瞬意識が飛ぶも、何かの聞き間違いだと内心で否定する。

 

しかし、愛理と天満の会話は続いていた。

 

 

「それって、つまり烏丸くんと……?」

 

「やだ、なんで分かるの? そーなの!」

 

――い、いや、まだだ! 何かの間違いに決まってる!

 

以前に烏丸と天満ちゃんが一緒にご飯を食べてるのを見て、付き合ってると誤解した。

その時と同じなのだ、と。

 

既に顔が青くなっている播磨であったが、そう自分に言い聞かせる。

 

しかし、彼の願い虚しく、残酷な会話が繰り広げられた。

 

 

「口を塞がれたりは?」

 

「序の口だよー」

 

 

「羽交い締めにされたりは?」

 

「あれは大技だよねー!」

 

 

―………………。

 

彼女から知りたくなかった事実が嫌でも耳に入った。

現実逃避すら出来ない状態であったのだ。

 

 

「―――ちゃん―――と―だよね」

 

「――――――――――――わよ」

 

播磨はただただ呆然としてしまい、それ以降の会話は耳に入らなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ど、どうしたバイトっ!」

 

播磨はハシゴを降り、ふらふらとした状態で親方のところまで歩き出し、告げる。

 

 

「すみません、俺ァもうショックで何も出来ねぇ……」

 

「おいっ、バイトっ!」

 

「は、播磨さんっ!」

 

金はいらねぇんで、辞めさせてくれ。

そう一方的に告げ、播磨は塚本宅を後にした。

 

何も考えたくない。

播磨はその後ただ走り続けた

 

 

「――って、待って播磨くんっ!」

 

誰か後ろから呼ぶ声が聴こえたが、それを気にする余裕もなかった。

 




読んで頂きありがとうございました。

また、投稿が空きすぎてごめんなさい!
感想や評価は必ず見て凄く喜んでますが、話を書くモチベーションが落ちてました。
しかし、スクランの中古ゲームを熱が蘇ったので少しずつ書きます。

さて、あらためて思いますが、スクランの勘違いは原作からしてぶっ飛びますよね。
原作の感じを似せてるだけなのに、この勘違いは無理がないかと悩みます。

今回が勘違いもの作品で言う表なら、次は裏の別視点の話となります。
また次回も読んで頂けたら幸いです。

p.s.
前回の感想を返せておらずスミマセン、、、
皆さんの感想や評価は全部嬉しく見ています!

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