沢近さんの純愛ロード   作:akasuke

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思い付いて筆が止まらない為、また投稿します。
友人に何を携帯にずっと書き込んでるかと聞かれて、プレゼンの内容を思い付いたと答えました。

スクランやダカーポを話せるオタク友達が欲しいですね。
というか、読み専や物書きの方と友達になりたくなります。

それでは、本編をどうぞ。



#03「間違う彼、悟る彼女」

「また、来ることになるとはな」

 

播磨は自分が通っている学校―矢神高校を校門で眺めながらつぶやいた。

 

彼は天満と烏丸が仲良く昼食を食べているのを目撃し、それ以降、意気消沈して学校をサボっていた。

 

しかし、サボるのを止めてここに来たのは、播磨がある決意あってのことだ。

 

 

それは。

 

 

――俺は今日、天満ちゃんに告白をする。

 

最愛の女性に告白する為であった。

前も告白しようと思っていたことは何回かあった。

しかし、今回は今までとは違い、強い覚悟があったのだ。

 

彼の手にあるのは、二つの封筒。

ラブレターと退学届である。

 

 

――断られたら、学校を辞めるぜ。

 

播磨は、背水の陣の構えで臨んでいた。

 

彼からしてみれば、この学校は天満に会う為に入ったようなものである。

だからこそ、きっちりケジメをつけようと、播磨は思ったのだ。

 

 

――甘えるのは、もう止めだ。

 

その為に、昨日まで泊めてもらっていた妙にも別れの挨拶を済ましたのであった。

 

 

「さて、行くか」

 

こうして、播磨は学校へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#03「間違う彼、悟る彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

播磨は矢神高校の屋上でとある人物を待っていた。

 

 

――天満ちゃん。

 

それは、今日告白する相手。

朝にラブレターを彼女の下駄箱に入れてきたのだ。

 

朝ではなく、時間を放課後に指定した。

その為か、この時間が来るまで待ち遠しくもあり、そして来ないで欲しいという気持ちもあった。

 

 

――もう、彼女と出会ってから結構時間が経つんだな……。

 

播磨が天満と出逢ったのは、彼が15歳の冬の時期。

喧嘩三昧であり、ただただ誰でも良いから暴れたかった。

そんな彼の前に現れたのが天満であった。

 

紆余曲折があり、変態扱いされてしまったが、彼女に惚れ、会いたい一心でここまで来た。

 

 

「やるだけやったし、まぁ……こんなもんか」

 

これで終わりかと思うと、何だか寂しい気持ちも出てくる。

しかし、自分がやれるだけのことはやったのだ。

後悔はないと播磨は思った。

 

そう、彼が心の中で考えていた最中。

 

 

ガチャリ、と。

屋上のドアが開かれる音がした。

 

 

「播磨くん……」

 

「……天満、ちゃん」

 

天満が彼の前に姿を現したのだ。

彼女の手には、自分が下駄箱に入れた手紙を持っていた。

 

 

「……読んだよ」

 

彼女の言葉を聞き、播磨は思った。

ついに、この想いを知られてしまったのか、と。

 

 

――俺は……いったい、どうなるんだ。

 

播磨にとって天満は初恋であった。

産まれて初めて、好きになったのだ。

 

不良であった自分。

そんな、喧嘩しかやり甲斐がなかった自分を変えてくれた彼女。

 

そんな彼女に恋した生活も今日で終わりを告げる。

 

 

「は、播磨くん……」

 

大好きな女性。

その彼女は、この俺の本心を知って。

 

 

「……あ、あのね」

 

君は何て応えてくれるのだろうか。

 

 

「あのね――」

 

 

――砕けろ、俺っ!!

 

覚悟を持って、一語一句聞き逃すかと天満をみつめる播磨。

 

彼女は、躊躇いながらも口を開け、彼に向かって告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退学届が、わたしの下駄箱になぜか入ってたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――な、中身まちがえたー!

 

ラブレターと退学届の中身を間違えて入れてしまったことに気付いた播磨。

 

大事な場面でやらかしてしまったことに膝から崩れ落ちる。

 

 

「どっ、どうしたの? 具合悪いの、播磨くんっ!」

 

天満が心配するものの、落ち込み過ぎて放心状態となっている播磨。

 

しかし。

 

 

「播磨くん…わたしは、やだよ」

 

優しい彼女の声を聴き、顔をあげる。

そこには彼が大好きな女性の笑顔があった。

 

 

「また、学校きなよ……ねっ?」

 

「うん」

 

不良、播磨 拳児。

とても単純な男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう、天満ちゃん行ったよな……?

 

じゃあ、また明日ねー、と。

手を振りながら屋上を後にした天満に同じく手を振り返していた播磨。

 

そして。

 

 

「やっ、やっちまったぁぁぁぁ!」

 

彼女が出て行って少し経ってから、彼は自分の中にこみ上げる後悔を叫ぶ。

 

 

「せっかくの大事な告白だったのに、慌てて間違っちまったっ!」

 

不退転の覚悟で臨んだはずだった。

しかし、そんな大事な場面で渡す手紙を間違えてしまった播磨。

 

学校やめたら嫌だと言ってくれたのは凄い嬉しく感じている。

実際、天満に言われたから既に学校を辞める気も失せていた。

 

 

「くそぉぉぉぉ…………」

 

だが、ある程度覚悟してた分、間違えてしまったショックは大きかった。

 

暫くフェンスにもたれながら落ち込み続ける播磨であった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

そんな一方。

とある女生徒も一つの決意を抱き、学校に来ていた。

 

 

――ね、ねむい……

 

昨日、播磨に(間違えて)告白された女性――沢近 愛理だ。

 

想いを告げられた彼女は、昨日からずっと返事をどうするか考えていた。

しかし、考えても考えても結論に至らず、気付けば一睡も出来ずに朝を迎えていた。

 

そんな彼女の視線の先には播磨の姿があった。

 

 

――播磨くん……

 

最近休んでいた彼であったが、今日は学校に来ていた。

その姿を確認して、愛理はやはり自分の返事を聞きに来たのだと思った。

 

しかし、播磨が返事を望んでいても、まだ彼女は何と返答すれば良いか悩んでいた。

 

それでも何かしら話さなければと思っていたが、周りに美琴や晶、天満の誰かしらが居た為に中々タイミングがなかった。

 

 

「あの、播磨くんってどこ行ったか分かる?」

 

「あぁ……たしか、屋上に行ったよ」

 

そして、気付けば放課後になってしまった。

このままでは話さずに終わってしまうと焦った愛理は、同じクラスメイトから播磨の居場所を教えてもらい、向かっていた。

 

 

――この先に、居るのよね……。

 

屋上の前まで着き、半開きになっている扉の前で一度立ち止まる。

 

扉の向こうに居るだろう播磨に緊張を隠せない愛理。

何を言うかも思い付いていない状態だ。

だが、とりあえず話したいと思ってここまで来たのだ。

 

まずは覗いてみようかな、と。

半開きの扉から屋上にいるだろう存在を探す為、愛理は覗いた。

 

 

 

 

 

「えっ…………」

 

 

 

 

頭が真っ白になった。

彼女の視線の先には――

 

 

「て、天満……?」

 

播磨だけではなく、天満の姿もあったのだ。

そして、二人が何を話しているか分からないが、真面目な雰囲気だった。

 

それだけでなく。

彼女が目にしたのは、天満が持つ、可愛らしい封筒。

 

放課後の屋上。

播磨と天満。

天満が持つ、可愛らしい封筒。

 

そこから連想されるものは――

 

 

「こ、こくはく……?」

 

自分が経験あるからこそ。

それが告白のシチュエーションなのだと気付いた。

 

見てしまった場面に戸惑いが隠せない愛理であったが、天満がこちらに向かう姿を見た彼女は慌てて扉の裏に隠れた。

 

 

「わたしだけじゃ、なかったんだ……」

 

階段を降りていく天満の姿を呆然と眺めながら、ひとりつぶやく愛理。

 

昨日播磨が告白してきたが、それは自分だけではなく、他の人にもしていたのを目撃してしまった。

 

 

――わたしだけじゃ、ないんだ。

 

それを知り、怒りがこみ上げるかと思われたが、まず感じたのは、喪失感であった。

 

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

 

 

昨日の、播磨からの告白。

自分のことをこんなに想ってくれるのかと驚くくらいに、熱い想いを感じさせた言葉。

 

あれが嘘であったという事実を知り、胸が苦しくなる愛理。

 

何回も言葉が脳裏に過り、必死に何て返事するかを悩んでいたからこそ、哀しかった。

 

 

――わたし、バカみたい……。

 

涙がこみ上げて来るのを感じる。

怒る元気もなく、もう今日は帰りたいと思い、階段を降りようとした。

そんな時のことだった。

 

 

 

 

 

 

「やっ、やっちまったぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

扉越しに、叫ぶ播磨の声が聴こえたのだ。

急な大声にビックリしてしまう愛理。

 

先程の喪失感が残りながらも、何故か悲しい響きを感じ、まだ半開きの状態であった扉から覗く。

 

そこには、膝から崩れ落ちるように座っていた播磨の姿があった。

見るからに落ち込んだ状態であることが分かる。

 

その姿に、何故だろうかと疑問に思う愛理。

 

 

――天満にフラレたのかしら……?

 

真っ先に彼女が思い付いたのは、告白してフラレたという状況。

天満が烏丸のことを好きだと知る彼女からしてみれば、告白しても受け入れられることは無いと予想できたからだ。

 

しかし、その後に播磨が叫んだ内容は、愛理がまったく想像もしなかったものだった。

 

 

 

 

 

「せっかくの大事な告白だったのに、慌てて間違っちまったっ!」

 

 

 

 

 

――ま、間違う?

 

播磨が叫んだ内容に戸惑う愛理。

いったい何を間違えたのかと疑問に思った。

 

 

――告白、慌てる、間違う、ラブレター

 

彼の状況と言葉を内心でつぶやきながら考える。

そして、彼女はひとつの真実に気付いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

――ラブレターを…入れ間違えた?

 

 

 

 

 

彼が、播磨がラブレターを違う相手に渡してしまったことに。

ラブレターは直接好きな相手に渡す場合もあるが、机や下駄箱などに入れる場合もある。

 

実際に愛理もラブレターが下駄箱に入れられていた経験があった。

 

だからこそ、彼女は気付いたのだ。

彼が慌てて違う相手の下駄箱にラブレターを入れてしまったことに。

 

そして、屋上で待っていた播磨だが、やって来た相手が天満だったことで間違えたことに気付いたのだ。

 

それならば、あそこまで落ち込む姿を見せる播磨に納得出来る。

 

そして、それならば本来渡す筈だった相手は誰であるのか。

それは――

 

 

――わたし、よね……?

 

昨日の告白から考えるに、本来渡す相手は自分だったのだろうと確信した。

 

それに気付いた瞬間。

 

 

 

 

「…っ……もうっ、ばかなんだから」

 

 

 

 

涙が溢れてしまうのを感じた。

だが、それは先程の喪失感ではなく、安堵感や嬉しさから。

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

あの熱い想いが、嘘ではなかったのが分かったからだ。

そして、それを疑ってしまった自分を恥じた。

 

 

――きっと、あらためて伝えたかったのね。

 

昨日、返事を聞かずに逃げてしまったのを後悔したのかもしれない。

だから、あらためて自分に告白しなおそうと思ってくれたのだ。

 

あの熱い想いを聞いたからこそ、素直に愛理は納得がいった。

 

 

「聞かなかったフリを、するべきよね」

 

天満と播磨の、あの状況。

もし、愛理が見ていたことを知ってしまったら、播磨が傷付くと思った。

 

慌ててラブレターを渡す相手を間違えたなど、普通は信じないだろう。

愛理は信じられたが、播磨自身が誤解を解けないと思い、落ち込む姿が想像できたのだ。

 

そして何より。

 

 

――ごめんなさい、もう少し待ってて。

 

播磨の真摯な気持ちを知ったからこそ。

中途半端な回答は駄目だと思った。

 

もっと彼がどんな人かを知り、話し、その後に真剣に返事をしなければと考えたのだ。

 

 

「わたし……ほんと、ズルい女ね」

 

それでも許してほしい、と。

落ち込む播磨を見ながら想うのだった。

 

 

 

 

 

 

この日以降、他の男性からの誘いや告白を全て断る愛理に、周りから恋人が出来たのではと噂されるのであった。


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