沢近さんの純愛ロード   作:akasuke

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播磨がギャルゲーや乙女ゲーの攻略キャラとした場合、攻略の難易度としては激ハードです。
きっと攻略サイト見ないと難しいでしょう。

外堀を埋める、程度は甘いです。
外堀と内堀を埋める、でも油断できません。

そんな彼は、この程度の状況はまだ焦る段階ではないと認識してお読みください。


それでは、本編をどうぞ。


#07「知らない彼、知らない彼女」

 

 

 

 

「え、旅行に行けない? ケンカで怪我!?」

 

どうしよう、と。

奈良 健太郎は途方に暮れていた。

 

奈良宅。

のんびりテレビを見ていた彼に、友人から電話が掛かってきたのだ。

 

 

『変な不良に絡まれてよー、ちくしょう、彼女いんのに旅行いこうとした報いかも』

 

「そうなの? てか、どういうつもりだったんだよ、お前!」

 

友人からの電話の内容は、不良に絡まれて怪我を負ってしまったこと。

そして、今度行く予定であった旅行が行けないという話であった。

 

その話を聞き、友人との電話を終えた後に思わずため息が溢れる。

 

 

――はぁ、塚本との旅行楽しみにしてたのに……。

 

奈良が行く予定の旅行。

それは、男友達だけで行くわけではなく、クラスメイトの天満、美琴、晶、愛理も一緒に行くのだ。

 

奈良は普段から天満達と仲良しというわけではない。

本来であれば一緒に旅行に行く様な関係ではないだろう。

 

しかし、先日男友達とプールに行った際、友達が彼女らをナンパし、男グループが水泳で勝てば一緒に旅行に行くという話になっていたのだ。

 

何故その様な話になったのかは途中ではぐれていたので奈良は分からない。

しかし、その結果、男グループが勝ち、天満たちと旅行に行けることになったのである。

 

 

――ぼく1人で行くわけにもいかないし……。

 

奈良は天満に好意を寄せている為、旅行を楽しみにしていた。

だからこそ好きな娘との旅行がなくなる可能性が高く、ショックを受けていた。

 

 

「塚本に相談しなきゃ…………あっ!」

 

そうだよ、それだ、と。

奈良は自分の呟きで、とあることに気付く。

 

 

「例え行けないにしても、塚本と相談してれば仲良くなる機会あるじゃん!」

 

奈良がショックだったのは、好きな娘と夏休みに居れる機会がなくなりそうだった為。

しかし、この話などを天満に相談すれば、自ずと話す機会も、逢う機会も増える。

 

クラスメイトを誘って行こうってなる可能性もあるのだ。

 

これは早速明日にでも話さなければ、と奈良は思った。

 

 

「確か、明日って塚本は学校行くって話してたような」

 

既に夏休みに入っているが、赤点の生徒は補習に参加しなければいけない。

天満は補習組である。しかも全教科。

 

 

「よし、塚本と話して仲良くなるぞ!」

 

奈良は天満から赤点の話を聞いていたので、明日に学校へ向かおうと決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#07「知らない彼、知らない彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補習。

赤点を採ってしまった生徒が受ける必要があり、

夏休みにも関わらず学校で勉強しなければいけない為、受講する生徒は基本的に嫌がる。

 

しかし、そんな中で逆に補習で喜ぶ生徒が居た。

 

 

「――するには、こう解かねばいけない。 わかったか?」

 

「「はーい」」

 

播磨 拳児である。

 

 

――な、なんてこった!

 

補習がこんなに良いもんだったとは、と。

播磨は人知れず喜びを噛み締めていた。

 

勿論、勉強が大嫌いな播磨が喜ぶのには理由がある。

 

チラリと、彼はサングラス越しに隣の席を見る。

 

 

「む、エックスとワイは仲良しさんなんだね」

 

必死に黒板の内容を理解しようと頑張っている女生徒――天満の姿があった。

 

 

――天満ちゃんが馬鹿でよかった……いや、よかねーけど。

 

播磨と同様、天満は勉強が苦手ということもあり、赤点が沢山あり、補習を受ける必要があるのだ。

 

基本的に大体の教科が赤点な二人は同じ補習を受ける為、一緒にいることが出来る。

播磨としては幸せな時間であった。

 

しかし、播磨にも不満があった。

補習は天満の二人っきりではないということである。

 

 

「こら、今鳥! 補習中に携帯を見るんじゃない!」

 

「だってー、女の子からメール来てる気がしたしー」

 

――ちっ、アイツラが居なけりゃ、もっと幸せだったのによ。

 

播磨と天満以外にも、クラス委員長の花井 春樹と今鳥恭介が教室に居たのだ。

尚、今鳥は播磨や天満と同じく補習組であり、花井は補習指導役である。

 

播磨としては不満がないわけではなかったが、他の補習でも天満と一緒の為、怒りは少なかった。

 

 

――よし、頑張って補習の後に天満ちゃんを誘うぜ。

 

以前、天満を誘おうとして愛理を誘ってしまった播磨。

今度こそはちゃんと彼女を誘わなければ、と決意を固めていた。

 

 

そんな時。

ガラガラ、と教室の扉が開く。

 

教室にいる全員がそちらに視線を向けると、其処には同じクラスメイト――奈良が佇んでいた。

何故か、しまった、という表情を彼らに向けていた。

 

特に興味もない相手な為、気にせずに天満を眺めてようかと思っていた播磨。

しかし、天満が奈良に向けて話す言葉にそれは一転する。

 

 

「あ、聞いたよ聞いたよ! 一緒の旅行中止になっちゃったんだって? ここまで来て悔しいよねー」

 

キャンセル料高いし、と。

笑いながら話す天満と、ここでその話をしないでと慌てる奈良。

彼らの話を聞き、播磨は思わず奈良を睨み付ける。

 

 

――コイツ、天満ちゃん達と旅行にいこうとしてやがったのか!

 

詳しく知る為、平静を装いながらも播磨は、耳をダンボにして話を聞く。

どうやら天満や女友達、そして奈良の男友達で旅行にいく予定であったらしい。

しかし、その行く予定であった男友達が怪我を負って行けなくなったとのこと。

 

 

「考えたんだけど、代わりに三人男の子を呼べばいいんだよ!」

 

名案だと言わんばかりにドヤ顔で話す天満。

可愛いぜ天満ちゃんと思いながらも、これはチャンスだと播磨は考えた。

俺もその旅行に参加すれば良い、と。

 

しかし。

 

 

――俺は不良だ……クラスの奴らと仲良しこよしで行けるか。

 

未だにクラスに馴染めていない播磨。

天満だけならともかく、クラスメイト達で旅行となるとキャラじゃないしと少し躊躇う。

 

だが、内心の甘えた考えを却下する。

 

 

――いや、俺は生まれ変わった!天満ちゃんと旅行にいく為に頑張らなければ!

 

ここで機会を逃すわけにはいかない、と。

不良という立場は考えず、積極的に参加していこうと決意する。

 

 

――あれだな、明るく振る舞って、『俺も海行きたーい』……恥ずいが、これで行くしかねぇ。

 

明るくとか自分のキャラじゃないとは思いながらも、言葉を決め、天満へと話し掛けようとする。

 

 

「俺も――」

 

 

「オレも海行きたーい!」

 

「はい、今鳥くん、参加けってーい!」

 

播磨が言おうとした矢先、言葉を被せる形で今鳥が天満に話し掛けたのだった。

その為、播磨の言葉が聞こえず、天満が今鳥の参加を決めてしまった。

 

思わず今鳥をぶん殴りたくなる衝動に駆られる播磨だったが、まだチャンスは残っていると気持ちを落ち着ける。

 

 

――そもそも俺のキャラじゃなかったな、どしっと構えた感じで言うべきか。 『俺も行ってやろうか?』……よし、これだ。

 

改めて話し掛け方を決め直してから、天満へと再び話し掛けようとする播磨。

 

 

「俺も――」

 

 

「僕も行ってやろうか?」

 

「はい! それじゃあ花井くんもけってーい!」

 

今度は花井が播磨の言葉を被せる形で参加の意を述べてしまうのであった。

 

このメガネがっ、と睨む播磨に気付かず、花井は天満に提案を持ち掛ける。

 

 

「あと一人は八雲くんでどうだ?」

 

「うーん、行くかなぁ……人見知りなんだよね、あの子」

 

花井の提案に悩んだ様子を見せる天満。

 

残りの一枠も別の人物で埋められそうになり、独り言をつぶやく形でアピールを心掛ける播磨。

 

 

「あー、夏だなー! 泳ぎたいもんだぜ!」

 

 

「だが、塚本。 もうこの時間もないし、他に誘うのも厳しいと思うぞ」

 

「うーん、やっぱりそうなのかなぁ」

 

播磨の独り言も意に介さず、話を進める花井と天満。

 

 

「バイトなんも決まってないし、ヒマだなー」

 

 

「もう皆、予定は既に埋まってしまってるだろうしな」

 

「難しいかぁ……仕方ないか、八雲に聞いてみようかな」

 

「ぜひ、そーしてくれたまえ!」

 

――播磨くん、行く気マンマン……。

 

播磨のアピールも虚しく、天満が八雲を誘うということで決まってしまうのだった。

唯一、奈良が播磨のアピールに気付いていたが、不良が怖いこともあり、そっと気付かないフリをしていた。

 

 

――ちくしょー……置いてかれちまう。

 

教室から出て行ってしまった天満たちを他所に、ひとり落ち込む播磨。

せっかくの機会を逃してしまったことによるショックが大きかったのだ。

 

 

「ちくしょう! 好きな女の娘と行けるチャンスだったのによ!」

 

思わず机に拳を叩きつけてしまう。

この補習以外に会う機会など他にない為、旅行がいけないと夏休みは逢えないのだ。

 

 

――おれは運がないのか……。

 

灰色の夏休みと化した播磨は暫くこのまま教室で不貞寝しようかと思っていた。

しかし、そんな彼に救いの手が差し伸べられる。

 

 

「播磨くん」

 

それは彼の最愛の相手――天満だったのだ。

教室から出て行って筈の彼女が戻って来ていた。

 

天満から次に発せられる言葉は播磨にとって大歓喜な内容であった。

 

 

「一緒に海、行かない?」

 

諦め掛けていた天満との旅行の誘いに、泣きながら頷く播磨。

物凄い勢いの頷きに奈良は引いていたが、天満は微笑ましそうに彼を見つめていた。

 

 

――天満ちゃんはやっぱり天使だった! 間違いねぇ!

 

ひとり歓喜に身体を震わせていた播磨であったが、天満が近付いてきて小声で話し掛けた。

 

 

「誰か分からないけど好きな女の子と一緒に海行けて良かったね」

 

応援してるぞ、と。

ウインクしながら天満は教室を後にするのであった。

 

聞かれていた、且つ勘違いされたことで呆然とする播磨を他所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、その後。

 

 

「あ、そういえば」

 

「ん、どうしたの、奈良くん?」

 

廊下で天満たちが歩く中、奈良が思い出したかの様に声をあげる。

天満が奈良の様子が気になり疑問を投げる。

 

 

「沢近さんって、海行くのかな?」

 

彼が気になったのは愛理のこと。

プールで水泳の勝負をし、旅行が決定しても最後まで渋っていたのが愛理だったのだ。

だからこそ、奈良は旅行に彼女は行かないのではと思った。

 

 

「わたしも、愛理ちゃん行かないかなって思ってたんだよね」

 

最近は放課後も異性と遊んだりしなくなった愛理。

そんな彼女を見ていたからこそ、天満も同じ様に考えていたのだ。

 

しかし。

 

 

「さっき晶ちゃんからメールが来たんだ」

 

「へ、なんて?」

 

奈良の疑問に答える形で、天満は晶からのメールを見せるのであった。

そこには、晶からの文章が記載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――我に策あり、と。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

その日の夜。

愛理は自宅の屋敷にて晶と電話で話していた。

 

 

『やっぱり海、行くつもりないのかしら?』

 

「えぇ、ごめんなさいね」

 

晶と話している内容は、旅行について。

自分は行くつもりがないのだと晶に伝えている最中であった。

 

元々、愛理は乗り気ではなかった。

プールでナンパされた時も断るつもりであったが、いつの間にか旅行いくか勝負することになり、負けたのだ。

 

渋々ではあったが勝負に負けて行かないとは言い辛く、今回は行くしかないと思った。

 

 

「晶たちだけなら良かったんだけどね」

 

しかし、先日播磨と映画を行ったことにより、やはり旅行は断ろうと思ったのだ。

放課後に播磨と一緒に行った際、彼は始終ぶっきらぼうであった。

その態度に少しムッとした愛理であったが、観る映画が分かった瞬間に気持ちが一転とした。

 

 

――播磨くん……や、やっぱり積極的なのね。

 

彼が誘った映画は、最近話題となっていた恋愛映画。

カップル推奨の映画ということもあり、周りはカップルだらけであった。

 

しかし、重要なのは其処ではなかった。

 

この映画が学生の中で流行っているのは、何も映画の内容が理由だけではない。

想いを伝える方法として話題になっているのだ。

 

直接好きと告白するのではなく、この映画を誘うことで相手に間接的に好きと伝え、受け取れば私も好きとの返答になる。

これにより、カップルが最近増えたと巷では噂になっている。

 

 

――大胆よね……播磨くん。

 

そもそも、愛理は直接、播磨に告白されている。

しかし、彼女は返答を先延ばしにしており、播磨もそれを了承してくれていると彼女は思っている。

 

だが、播磨も焦れったいと思ったのだろう。

だからこそ、この映画を誘ってきたのだ。

 

 

――わたし……チケット受け取った、のよね。

 

この映画の誘いの意味を知りつつも、愛理は播磨から渡されたチケットを受け取ったのだ。

 

 

 

 

それは、つまり――

 

 

 

 

 

 

――わたしたち、恋人、なのかしら。

 

 

 

 

 

直接告白の返答をした訳ではない。

しかし、晶にボイスレコーダーでからかわれた通り、自身の発言は間接的にだが、好きだから映画に付いてきたと播磨に思われても仕方ないと思った。

 

実際、映画を受け取った以降は、恥ずかしくて愛理は播磨を直視出来なかった。

だが、それでも播磨の側に居ると胸の中が暖かくなる様に感じたのだった。

 

お互い、その恋人云々とは言っていない。

だけど互いに何となく分かっている。

 

何だかその関係がくすぐったくて、愛理は思い出すと、笑みが溢れてしまう。

 

唯一、愛理が失態だと思ったのは播磨の連絡先を聞かなかったことであった。

 

 

『――さん、愛理さん、聞こえてる?』

 

「あ、あぁ、ごめん。 ちょっとボーッとしてたわ」

 

思考の渦に埋もれていたらしく、晶の声に我に返ると、彼女に謝る愛理。

 

 

「と、とりあえず! 男が居るなら私はキャンセルさせて貰うわ」

 

『…………そう』

 

梃子でも動かない。

そんな様子を見せる愛理に、晶は納得したように頷く。

晶の返答に、これで理解して貰えたと安堵する愛理。

 

だが、晶の次の発言に思わず身体がビクッとなってしまう。

 

 

『もし、旅行にいく男子に播磨くんが居れば、別だったのかしら?』

 

「……えっ、な、ちょ…なんでそうなるのよ!」

 

『違うの?』

 

「ち、違うわよ!」

 

晶の問い掛けに顔を赤くしながら否定する愛理。

実際は晶の言うことに間違いはないのだが、愛理としては肯定するのは好きと認めることと同意なので、恥ずかしかった。

 

それに、播磨も不良ということもあり、あまり周りには知られたくないだろうと考えたのだ。

 

 

『そう……勘違いだったみたい、ごめんなさいね』

 

「べ、別に気にしてないわよ」

 

これ以上はボロが出る気がした為、もう切るわよと、告げてから通話を切ろうとする愛理。

 

しかし、それに待ったを掛けたのが晶である。

 

 

「まだ何かあるの?」

 

『愛理さんは参加しないけど、一応ね。 一緒に行く予定だった男子だけど、怪我したみたいでメンバー変わったのよ』

 

「ふーん、そうなんだ」

 

明らかに興味ないと分かる相槌をうつ愛理。

それを気にせず、晶は淡々と話を続ける。

 

 

『変わって参加するのが、奈良くん、花井くん、今鳥くん……それと』

 

播磨くんよ、と。

最後の晶の言葉に思わず咽る愛理。

 

 

 

え、なんで播磨くんが。そういうの参加しそうにないのに。もしかして私が参加すると思って?でも、一回断っちゃったし。これで参加するって言ったら、あからさまよね私。でもせっかくなら行きたい。だけど今更行くって言うのは流石に――

 

 

 

頭に色々なことが過り、何を話せば良いか戸惑ってしまっている愛理。

きっと、そんな愛理の様子を晶は分かっているのだろう。

 

 

晶は愛理からの返答がないのを気にせず、言葉を続ける。

 

 

『愛理さん、ごめんなさい。 わたし、物覚えが悪いみたいで。 もう一度聞かせて欲しいんだけど――』

 

晶の声はいつも通りに淡々としている。

しかし、彼女がどんな表情をしながら話しているのか、何となく想像できてしまう愛理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『旅行、いくんだっけ?』

 

 




感想、評価、本当にありがとうございます。
見ていただける人が居ると分かると頑張って描こうと思います。

とは言っても、完全に楽しんで描いてます。

最近のアニメや漫画も大好きですが、スクランもキャラの魅力は負けていないと思ってます。

それはさておき、最近はどんどんランキングにマイナー(描く人が少ない)作品が上がってきてますね。
純粋に凄いなと思いました。私も頑張らなければって思います。
プリキュアは流石に驚きました。
でも出て来るのが可愛いキャラが多いことを考えると、二次創作ではもっと多くても良いような気がしますね。
読み手としても楽しみです。

それでは、
また見ていただければ幸いです。

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