さらばIS学園   作:さと~きはち

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 自分が選んだ銃に命をかける人間にとっては、銃に関する評価の基本になるのは
 あくまで自分自身の信念であって、他人の意見の入る余地はない。

 ―― ルイス・ケイン ――

   『深夜プラス1』旧訳版



わが手に拳銃を

 生徒会室での話とは何か? 歩きながら尋ねても会長は『ここでは話せないから』の一点張りだったが、それ以外については饒舌(じょうぜつ)だった。

「知っての通りIS学園には55の特記事項があり、学園の独立性を維持するための特例として国連総会でも認められているわ。例えば第21項、IS学園に在学中の生徒はあらゆる外的干渉を受けないというルール。でもオルコットさんの件を見れば分かるとおり、これまで学園の特記事項は今挙げた21項を含め遵守(じゅんしゅ)されているとは言い難かったの」

 早足で歩きながら、会長は話し続けた。

「これまでにもこのような特記事項違反を国際問題として取り上げようとした例は何度もあったわ。でも出来なかった。相手が国力や国際的影響力のある大国だとどうしても学園側が二の足を踏むし、運営予算を負担する日本政府も決していい顔をしなかったの」

 会長の横顔が苦みしばった表情になるのが見て取れた。

「そうして創立以来IS学園は各国の何かしらの干渉を排除できずにやってきた。この状態を改善するのは不可能に思われたの」

 そこで会長は急に俺を振り返った。

「でも突破口は意外な所からやってきたわ。音羽くん、あなたよ。」

 俺は望んでもいない期待を託されたような複雑な気分だった。

「どういう意味です?」

「あなたは何者にも気兼ねする事無くこの学園の矛盾と外部からの違法な干渉を指摘し、その結果や自分の身に降りかかるかもしれない不利益を恐れずそれらの公開と改善を求めた。教職員や生徒を問わず、そんなことが堂々と出来たのはIS学園であなただけなの」

 買いかぶりだ。確かに俺はあの時どうにでもなれという気持ちだったが、何も恐くなかった訳じゃない。言いたい放題言って結果的にどうにかなったというだけの事だ。

「確かにあなたの言動は多少過激だったし、自分の立場を超えたものだったわ。学園側からすれば褒められたものじゃないわね。私から見てもそう思う。だけど、誰かがもっと早くに言うべき事でもあったわ」

 ただね、会長はそこで一度言葉をきった。

「その結果織斑先生が感情に走って力を背景にした脅しともいえる強引な交渉を行い、とある国の駐日大使が交代する事にまでなったけれど、それはあなたが気に病むべきじゃないわ。あくまでもそんな手段を用いた織斑先生の責任よ」

 会長の厳しい表情が少し緩んだ。

 正直そう言われて俺もほっとした。どうやらその件で呼び出しを食った訳じゃない事は確かだ。

「でもそのお蔭で、これまで当然のようにIS学園に不当な干渉を続けてきた各国の対応に変化が現れたわ。織斑先生は無茶だったかも知れないけど、違法な干渉は許さないという意思表示をここまで強く見せたことで、IS学園は本来のあるべき姿を取り戻せるかもしれない所まで来ているの」

 それもあなたの行動が導いた事なのよ。会長は告げた。

「正直に言うと、今度の事を知った時は自分の不甲斐なさを恥じ入る気持ちで一杯だったわ。生徒会長だなんて大きな顔して、一番やるべき事をずっと自分に言い訳して諦めてきたんだから。その上結果的にとはいえ、その役目をあなた一人に押し付けてしまった。感謝と謝罪をどれほどしても足りないの。でも今これだけは言わせて」

 会長は今まで見た中で一番真剣な顔で俺に向き直った。

 

「本当にありがとう、そして御免なさい。それが言いたくて校内放送じゃなく私自身が呼び出しに来たの」

 

 それに大事なのはその事だけじゃない、と会長は付け加えた。

「あなたは誰もが思慕(しぼ)を寄せ同時に恐れるブリュンヒルデの専横を臆することなく批判し、腕力や暴力に頼りがちな彼女の指導を少しずつ改善させたばかりか、誰も指摘できなかった非常識さを本人に自覚させたわ。ずっと社会性の無さを問題視されながら、誰も言えなかったことを直接本人に伝えて理解させた。人として当たり前の事だけど、それを織斑先生にして上げられたのはあなたが初めてよ」

 生徒会室の前で会長は一旦立ち止まった。

「私はあなたの可能性に賭けたいの。勝手な願いで申し訳ないけれど、生徒会役員に加わる事を考えてくれないかしら? あなたはきっとこの学園のカンフル剤になれる存在なのよ」

 会長はドアを開けた。

「連れてきました」

 会長に続いて俺と本音が入室すると、中では虚先輩と織斑先生、山田先生の三人がいた。

「来たか」

 鷹揚(おうよう)にうなずいた織斑先生は俺たちに座るよう促した。俺と本音が並んで座り、会長を含めた四人と向かい合う形となった。

「今回呼んだのは他でもない。内閣決議により音羽、貴様に外出時の護身用拳銃を携帯することが義務付けられたのを伝える為だ」

 俺は目をむいた。白状すれば俺は若干ミリオタで多少は銃の知識もあるし、映画のような銃撃戦を空想した事も一度や二度ではない。しかしまさか自分が本物の銃を携帯するよう指示されるとは。

「なおIS学園の島内であればその必要は無い。あくまで島の外部に出る時のみの規定だ。本来なら織斑のように絶対防御を持つ専用機を与えられるべきなのだが、音羽の場合IS適正が本来の最低基準よりも低いため貴重なコアを割り当てる事は出来ず、学園から訓練機を貸与しようにもIS自体の習熟度も低く使用も今一つ不安定だ。それでも最低限の自衛措置は必要としてこの結論に落ち着いた」

 驚いているのは本音も同じだ。対して向こう側にいる虚先輩と会長は先に知らされていたのか動揺はない。

 実際俺のIS使用を見ていたら誰でも危なくて見ていられないだろうし、これは俺に自衛手段を持たせるための苦肉の策だろう。

「といっても最近までただの学生だった貴様では基礎知識すらままならんだろう。そこで山田先生に銃の取扱い指導並びに射撃訓練をお願いする事になった。織斑の特訓で見ているように山田先生の射撃の腕はかなりのものだが、それはISを使わない生身でも同じだ。大変かも知れんが間違っても暴発など起こさんようしっかり指導してもらえ」

「よ、よろしくお願いしますね」

 山田先生はもう大分落ち着いているようだが、織斑先生の近くだとまだ英大使館がらみの恐怖心が消えないのか多少挙動不審だ。

 俺が挨拶すると、再び織斑先生が口を開いた。

「山田先生もお忙しい身だ。なるべく放課後の空いた時間を活用してご指導頂く様に」

 何か質問は? という問いに、俺は今思いついた事を話してみた。

「一つ聞きたいんですが、携帯する銃は自分で選ぶなり購入するなり出来るんですか?」

 織斑先生の表情は変わらなかった。

「自分好みの銃を携帯するなら自腹で買う事になるぞ? IS学園の教練用なら無料で貸与するが」

「音羽くん、何を考えてるのか分かるように話してもらえる?」

 会長は何かしら意図がある事に気づいたようだ。

「早い話が、見た目も威力もゴツいものが欲しいんですよ。そして一般の生徒が見ている前で、威力を見せ付けるような破壊効果の大きい的を撃つ訓練も何度かしておきたいんです」

 向かいの四人の内、会長を除く三人の表情が疑問をあらわにし、会長だけが成る程という顔をした。

「つまり、抑止力ね?」

 わが意を得たり、という所だ。まだ他の三人も本音も頭に?が浮かぶような表情でいる。

「そういうことです。つまり俺が銃でもって身を守る一番の相手は他でもない女尊男卑の過激派でしょう? そしてここIS学園にも残念ながらそのシンパがいる。そいつらを通して俺が拳銃を持っている事はいずれ伝わる」

 一呼吸おいて本音の顔を見た。不安そうだ。織斑先生はじめ向かいの四人は程度の差こそあれ厳しい顔つきになる。

「しかし、俺がアクション映画よろしく大口径拳銃で標的を派手に吹き飛ばすのを何度も見せたら? 間違ってもこんなもので撃たれたくないと思うでしょう。そしてそれは外部の連中にも伝わる」

「つまり、貴様の襲撃をためらうような代物を持っているとアピールする訳か。確かに効果はあるかも知れん」

 織斑先生たちもようやく理解したようだ。

「そういう事です。避けられる危険は避けるに限る」

 山田先生と虚先輩は若干ホッとしたようだが、織斑先生は少し難しい顔をした。

「理屈は分かるが、その要望を満たせる拳銃だとかなり大型で重量も負担にならんか?」

「S&W社製のM329PDなら、弾薬はいわゆる44マグナムですが、重さは弾抜きで710gぐらいだったはずです。普通の軍用拳銃くらいの重量だし、あれならどうにか携帯できるサイズでしょう」

「ずいぶん詳しいな。貴様の趣味か?」

 織斑先生は面白がっているようだ。やっと俺をいじれるネタを見つけたと思ったのかも知れない。

「まあ、知識だけは」

 俺は苦笑した。

 

 織斑先生はその後もいくつか注意事項を説明した。

「――以上のように、拳銃使用に際しては本人の判断に任せられるが、先に挙げた通り制約もある。最後になるが、拳銃の保管管理については――」

 急に会長が口を挟んできた。

「それについてですが、音羽くんと同じクラスの布仏さんにお願いしようと思います」

 俺は唐突な申し出に混乱してしまった。本音に拳銃の保管を任せるとか一体何を言い出すんだこの人は!?

「なぜだ?」

 うさん臭そうな織斑先生に会長は涼しい顔で答えた。

「先生方はご多忙ですし、かと言って本人に管理させてみだりに使用する事があっても困るでしょう? 彼女なら銃器整備の腕も一流です。それに」

 そこまで言って言葉を切り、俺の方を向いた。

「間違っても強引に持ち出そうなんて出来ないでしょうし、ねえ?」

 会長が織斑先生の前でこんなにニヤニヤするとは思わなかった。俺をいじりたかったのはあんたか!

「一応真面目な話をするとね、私たち生徒会役員や先生方は忙しくて一々音羽くんの外出に応じていられないし、キミの身近で信頼できる人間となると本音ちゃん位しかいないのよ」

 まぁ本音ちゃんも生徒会役員なんだけど、あんまり生徒会の仕事にタッチしない方が手間が増えなくていいし。そう会長が締めくくると本音はばつが悪そうな笑顔で頭をかいた。本音よ、真面目に生徒会やれ。

 俺と本音を見比べ、さらに会長を見て織斑先生はやれやれと首を振った。本音を正面から見据える。

「布仏、任せて大丈夫なのか?」

「は、はい! 大丈夫です。おじょ……生徒会長の家にお仕えしてきた間に心得は有りますので!」

 本音は珍しく緊張した態度で、大きな声でしっかりと答えた。生徒会長の家? 会長はお嬢さまと呼ばれているから名家の出身かも知れないが、本音や虚先輩がそう呼びお仕えしているって事は、布仏姉妹は侍女か何かか?

「フッ……そうか、では任せる。だが一時の感情に流されるような判断だけはするな。いいな?」

 どこか満足気な織斑先生は本音の返事に余裕のある笑みを返した。

「はい!」

 本音は少し嬉しそうだ。傍から見てると何となくいい場面だと思うのだが、拳銃よりはるかに危険なISで無茶な特訓と私闘をやらせ、さらに言えば感情的になって体罰名目の暴行を繰り返していた人が言うと悪い冗談に聞こえなくも無い。

 と言うか、会長の家で心得があるってなんだ? 会長の家は警察が自衛隊関係者なんだろうか?

 俺が疑問を口に出そうとした瞬間、会長はさっと手で制した。

「詳しい事は今話すと長くなるから、後で本音ちゃんから聞いて保管についてもよく話し合ってね。山田先生が訓練に来られない場合は私が代わりに行ってあげるから」

 微笑む会長に虚先輩が不満そうな視線を投げたが、本人は少しくらいいいじゃないとどこ吹く風だ。こりゃまたサボる口実の線が濃厚だな。

「まぁいい。私たちの伝達事項はそれだけだ。訓練を受けたい日は山田先生によく確認するように。なおこの事は本来内密にしておくつもりだったが、音羽の方針で行くなら隠し立てする必要は無いだろう」

 やがて織斑先生が解散を告げ、山田先生と共に職員室に戻ろうとする際、俺に耳打ちした。

〝音羽、もし今すぐにでも外出する必要が生じたら、織斑を連れて行け。あいつはあれでも今は男で世界最高のボディーガードだ。政府はSPを準備しているとも言うが、監視されての外出が嫌なら貴様の場合これが最善だろう〟

 俺がうなずくと、織斑先生はさっきとは違う笑みを見せて生徒会室を後にした。その後に続く山田先生は、今日はちょっと、明日なら夜8時から時間が空きますので、と早口で言いドアの所で転びそうになりながら織斑先生の後を追いかけていった。

 織斑先生が俺の事にちゃんと配慮してくれているのには感謝したが、割と腕力でむりやり事を進めるイメージが強いのもあって正直意外だった。

 俺も立ち上がり、色々な疑問や拳銃の管理について話すため本音と生徒会室を出た。

「で、さっきの話だけどどうかしら? 今なら生徒会長秘書のポストを用意してるんだけど。あ、今日の山田先生の代役なら大丈夫よ?」

 なぜか会長も後からついてきた。そう言えばさっきの話は本気だったのか。しかし動きがどこかぎこちない。何かを引きずってるみたいだ。

「お嬢さま?」

 引きずってた。虚先輩を。この人目がすわってるよ。

「ちょっと怖いわよ虚ちゃん? ほんの出来心じゃない。それにもう大体の所は片付いたでしょ?」

 会長も虚先輩は怖いようだ。しかし忙しいのに一夏の時といい俺の時といい口実つけて仕事から逃げまくる所ばかり見てるな。

「各部活からの陳情メール一つも読んでないじゃないですか。予算増やせ男子入部させろと何十通も来てるんですよ?」

 会長は虚先輩を引きずったままずるずる進んでいる。

「可愛い後輩の生命が掛かった訓練なのよ? 生徒会長の私が行かなくてどうするの。それにほら、上手くすれば音羽くん生徒会に入ってくれるし!」

 俺は首を横にふった。

「俺に大した事はやれませんよ、会長の過大評価です。それに俺なんかより事務作業手伝う人をたくさん入れて仕事を早く回した方がいいですよ。」

 虚先輩が会長を強く引っ張った。そろそろ怒り出しそうだ。

「あ~あフラれちゃったか。でもほら、私の家と本音ちゃん達との関係気にならない? その辺の話もしておきたいし」

 俺はチラッと本音の方を見た。もう垂れた袖を振り振りいつもの調子に戻っている。

「本音に聞くからいいですよ。それと今日銃と射撃の訓練をしてもらうんなら、虚先輩の了解を取らないとまずいでしょう」

 会長はうええという顔で虚先輩を振り返ったが、大きく首を横に振られただけだった。

「じゃ、俺と本音は食堂のカフェで話してますんで、時間が出来たらお願いします」

 そう告げると俺たちは歩き始めた。

「待ってよー。そうだ! 二人も手伝ってくれたら――」

「駄目です、決定にお嬢さまの同意が必要な作業なんですから」

 未練がましい会長が虚先輩に引っ張られて生徒会室に戻っていくのを一応見届けてから、俺たちはカフェに向かった。

 

 

 

「私たち布仏家は代々更識家に仕えてきた家系でね、お姉ちゃんはお嬢さま、私はかんちゃんの専属侍女なんだ~」

「ああ、だから虚先輩も本音も会長をお嬢さまって呼んでるのか」

 俺は紅茶を飲みながら、本音と会長の家について説明を受けた。会長から折を見て説明するように言われていたらしいのだが、今回の事がちょうどその機会になったわけだ。

 しかし会長の実家が代々対暗部用暗部の家系って、今時忍者みたいな家系があるとは。秘密工作や暗殺の妨害と聞いたので、24のジャック・バウアーみたいなもんかと言うと本音はそうかもねーと返事していた。ぼかしておきたいのか本音も実は良く分かっていないのか判断がつかなかった。

 だが銃火器の取扱い知識と経験は本物らしい。実銃を触った事もない俺は、まず反動の小さい22口径の拳銃から射撃を始めた方がいいと助言された。

 その他にも色々とアドバイスを受けたところで一休みし、もう陽が傾いたなと思ったとき、以前会長と始めて会ったとき気になった事を聞いてみた。

「そう言えば、さっき言ってた『かんちゃん』って会長の妹か?」

「えっ、うん……」

 なんだか急に声が沈んでしまった。これはひょっとして。

「嫌ならこの話題は止めるけど、会長ってひょっとして妹さんと折り合いが悪いのか?」

「どうして分かったの!?」

 本音はびっくりした様子で俺を見た。やっぱりか。

「セシリアとの決闘の件で会長と初めて話した時、姉妹や兄弟は正反対だとか俺は妹より出来が悪いって話した直後に会長が暗い顔をしたから、仲の悪い兄弟姉妹がいるんじゃないかって思っただけだよ」

 俺が説明すると、そうなんだーと返事した後に問題のかんちゃんこと簪さんについて教えてくれた。

 

 幼い頃から本音と姉妹同様に育った事。俺たちと同い年でIS学園の4組にいる事。内気な性格のため孤立しがちでクラスでいじめられていないか心配な事。幼い頃から優秀過ぎる姉に劣等感を抱いているらしく、姉のように専用機を独力で完成させてそれを解消しようと焦っている事。どこか姉に隔意を抱いているらしく一緒にいることはほとんどない事。実際は日本の代表候補生でありとても優秀な事。

 

 最後にこれは内緒だけどと前置きして、突然表れた男性IS操縦者である一夏の専用機、白式の開発を急遽優先されたせいで代表候補生にも関わらず専用機が未完成のままにされてしまい、自分で完成させなければならなくなったと小声で耳打ちした。

「おりむーやみんなには言っちゃ駄目だからね。おりむーのせいじゃなくてタイミングが悪かっただけだもん」

 頷きつつも、俺は会った事もない会長の妹さんに同情した。出来のいい兄弟や姉妹と比べられる辛さは俺もよく分かる。それも本人がちゃんと優秀さを発揮していてそれではなお(こた)えるだろう。その上一夏の影響で専用機が未完成ともなれば、ヤケを起こさないだけマシというもんだ。少なくとも彼女の専用機が完成するまでは一夏にはなるべく会わせない方がいいだろう。まぁ本人が会いたく無いだろうけど。

「うーん、しかし会長が自力でISまで作ったとは、にわかに信じられないけどな」

 本音が補足した。

「お嬢さまの専用機ミステリアス・レイディはフルスクラッチタイプで組み上げたのはお嬢さま一人だけど、ロシア製のモスクワの深い霧ってISのデータを元に作ってるの。でもかんちゃんの打鉄弐式はまだ流用できる機体データが無くて」

 あーなるほどな。気は焦るがなかなかIS作りは進展しないようだ。俺が納得すると本音が珍しくため息をついた。

「ねえ、かんちゃんの事どうすればいいかなぁー? お嬢さまともずっと話もしないし、いつまでもこのままじゃ良くないよ~」

 弱った。俺が力になれるとは思えない。俺も妹とは仲の悪いまま疎遠なのだ。

「そうだなぁ……会長はどう言ってるんだ? 簪さんにしても一度本音を聞かないことには始まらないだろう」

 布仏本音だけに。何かと寒いギャグをかます一夏ならこう言う所だな。

「かんちゃんとお嬢さまの本音かぁ……お嬢さまはかんちゃんと仲良くしたいみたいなんだけど~」

 本音は天を仰いでぼんやりした。本音でも聞くのは難しいのかもしれない。

「簪さんも会長の事をどう思ってるのか、具体的に聞いてみたら? 虚先輩も会長専属なんだし、それとなく聞いてもらったらどうだ?」

「お姉ちゃんに? そっかー聞いてもらった方がいいのかな~」

 本音がこれだけ考えている姿を見るのはあまりない。全然らしくないけど。

 と、急に俺のほうを見た。

「そうだ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 俺が会長に話してくれとか?

「なんだ?」

 本音は真剣な表情で向かい合った。

「あのね、かんちゃんとお友達になってくれない? かんちゃんって自分から友達作るのが苦手で、4組でも一人ぼっちじゃないかすごく心配なんだー」

「ああ、なんかすげえ分かるわ」

 俺なんて一夏と別のクラスだったら孤立どころか精神を病んでノイローゼになってたかも知れん。まぁ今は苦労も多いが。しかしそうでなくても陰キャは孤立しやすく辛いものだ。気づけば類友で固まっていたりする。類友もいなけりゃ……。

「まぁ俺で良ければ、友達にならせてもらうよ」

 さっきから沈みがちだった本音の表情が花が咲いたような笑顔になった。

「よかったー! かんちゃんってじっくり話を聞いてくれるタイプの人の方が話しやすいから、おとーさんが仲良くしてくれると助かるんだ~」

 まぁ俺にしてみればこの笑顔が見られるなら大概のことは良しとしてしまう。それに会長の妹ってどんな子か気になるし。

 

 その後他愛もない雑談をしていると、一夏から電話が掛かってきた。

「三治!? まだ会長の用事終わらないか? 頼む! 助けてくれ!」

 さすがは雰囲気ブレイカーだ。大事な話が終わった途端電話とは、あいつどっかから見てんじゃないのか?

「今終わった。何があった?」

 こんな気分じゃ最低限の言葉しか出やしない。どうせ箒とセシリアがらみだろ。

「箒とセシリアがどっちと週末出掛ける話するのかってもめてどうしようもないんだよ!」

 そら見ろ、犬も喰わねえよ。

 スマホからは二人が一夏に詰め寄る様子がこれでもかと伝わってくる。

「取り合えず今カフェにいるから、ちょっと早いけど夕食にしようって連れて来い」

 さっさとスマホを切ると、本音がおかしそうに見ていた。

「またおりむー? セッシーとしののんも大変だね」

 逆だろと思ったが、一夏相手に想いが全く伝わらない二人の方が精神的にキツいのかな? まぁどっちでもいいか。俺にしてみりゃ些細(ささい)な違いだ。

「こっちに来るってさ。まだ6時前だけど一緒に夕飯にしよう」

「わーいご飯~」

 窓からオレンジ色の陽を浴びる景色を見ながら、そのうち一夏を彼女候補生二人と遠くへ追いやって、本音と二人でのんびりしようと考えた。

 

 ほどなく現れた一夏は両腕を箒とセシリアにがっちりホールドされていた。わいわいやりながらそれぞれ注文を受け取ると、またどちらが一夏の隣に座るか揉める前に俺の正面に一夏を、その左右に箒とセシリアを座らせた。

 食事中の話題はすぐに一夏がどこへ二人を連れて行くかで大騒ぎになった。

 箒はデートスポットとして人気らしいアミューズメントパークをゴリ押しし、セシリアは情緒あふれる港町での散策を主張したのだが、一夏が何時間も待たされる所はお互い大変だし、港町ならこの人工島がそうだろと言ってお約束のように二人を怒らせたのだった。

 結局騒ぎを聞きつけてやってきた織斑先生にたんこぶを作られ、二人が静かになってから、一夏と一緒にゆっくり過ごせるとこならどこでもいいだろと一応なだめておいた。一夏は何にも理解していないのか、みんなで一緒に出かけようかなどと言い出す始末だった。

 

 

 

 結局会長は最後まで食堂に姿を見せなかった。もしかすると今も泣きながら虚先輩と生徒会の仕事に追われているのかも知れない。さっさと人手を増やせ。

 俺は一夏と寮に戻ると先週の日曜に買ってきた分厚いダイアリーを開いて、入学以後に起きた事の詳細を書き留めているそれに今朝からさっきまでのあれこれを追記し始めた。

「そういえば三治、いつも寝る前に何書いてるんだ?」

「日記だよ。毎日あった事を出来るだけ具体的に書いてるんだ」

 一夏はいつもの爽やかな笑顔を見せた。最近はこの顔が何にも考えていないバカの顔に見えて仕方がない。

「三治はマメだな! 俺なんて昨日あったことなんていちいち気にしてないぜ」

 お前は一番気にしなきゃいけないんだよ! と言いたかったが今日の諸々を書き込むのに忙しくて口には出さなかった。

 

 俺は本日の出来事を克明に記録しながら、いずれ卒業したらお前らのハチャメチャな実態を回顧録にまとめて出版してやるからなと誓った。

 




暑い……パソコンつけるとなお暑い……。

そういや原作新刊出てたんですね。さすがにあれこれ言われて原作者も懲りたでしょう。アマゾンの評価は……あっ。
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