―― レヴィ ――
『BLACK LAGOON』
黛先輩の取材はのっけから酷いものだった。
「それじゃあ早速、織斑くんと音羽くんの愛の性活について教えて頂戴!!」
俺、一夏、本音の三人と向かい合って座るなり、黛先輩は大声で言い放った。
言い方ぁ!!
俺の右に座る本音がわずかに顔を引きつらせる。言うまでもなくそんなもん始めっから無い。
「三治? 先輩が言ってるのって何のことだ?」
左にいる一夏が首をかしげた。分からんで良いんだよ。
「気にすんな。あ~その、取材の前にちょっと。生徒会長から黛先輩に俺のIS専用武器製作にご協力頂けると伺いました。感謝します」
頭を下げる。こんな調子の先輩でも礼を欠かすわけには行かないのがつらい所だ。
「マジか!? やったな三治!」
「サンキュ。でもまずまともに模擬戦出来るようになってからだけどな」
が、直後の先輩の返事に俺のみならず一夏と本音も絶句した。
「あ~いーのいーの。あれ元々ウチの科で開発してたやつの流用だから! どうせ音羽くんってまだ接近戦とか苦手なんでしょ? だったら今整備科で作ってる飛び道具、多目的滑腔砲でいいじゃない?」
「……はぁ?」
思わずソファからずり落ちかけた。俺の専用武器ってただのあり合わせかよ!?
「そんなガッカリしないでよ! 新技術や工法をふんだんに使った研究品レベルのゼータクな造りなんだから! たっちゃんがくれる追加予算で、研究途中で止まってた誘導砲弾とか瞬時自動追尾照準とかも出来るし、余所じゃまず見かけないもんだから格好つくでしょ? 実体弾とか時代遅れとか言いつつまだ結構使われてるし、弾速もアリーナみたいな距離ならミサイルより早いわよ。弾種によって色々できるしねー。あとは戦い方しだいじゃない?」
「そ、そうですか……」
素直に喜んでいいのか分からん。でもまあ、それこそ剣とか接近戦武器だったら使いこなせるはずも無いし、これでいいのか……?
一夏は訳が分からずポカンとしている。
「三治、結局いいもん作ってもらえるって事でいいのか?」
「まあ、考えようによっては、たぶん……」
「それよりホラ! 二人の愛の性活っ!! 大事なとこでしょっ!?」
男子同士のやりとりにゴシップ記者が切り込んできた。意地でもホモネタが欲しいのか? また織斑先生に潰されるのに。
「はぁ……そんなん無いですけど」
「ない!? ちょっとそんな訳ないでしょ? 女子だらけのIS学園で男二人きりで同じ部屋よ!? 何も起きないはずが無いわ!!」
「俺らホモじゃないんで」
「織斑くんはどうなのっ!?」
俺を押しのけ一夏に食い入るゴシップ記者。ドン引きの一夏。
「え、あの何か起きないかって言うと?」
「そりゃもちろん二人の事よ! 音羽くんと毎日二人きりでナニしてるでしょ!? 毎晩ベッドで、こうアレよ!!」
「ベッドでって、ベッドメイクぐらいは三治も自分でやるし、でも寝る前は騒いでたまに千冬姉に叱られる事もありますけど」
トンチンカンな答えが記者の琴線に微妙にヒットした。
「それよ! 騒ぐって具体的にどんな!? 二人で抱き合ったりキスしたりとかそういうのは!!?」
「抱き合ったりキスって……そりゃ三治が千冬姉とそうなるならまあ大歓迎ですけど、三治はのほほんさんがいるから」
「だいかんゲイ!? っていうか今の千冬姉って織斑先生のこと? 音羽くんとどういう関係なのよ!?」
その話やめろって言ったのに! またシバかれても知らんからな。
俺の気も知らずに笑顔で話すノータリンイケメンに黛先輩は砂被りで食い入るように聞いている。
「ああ、学校じゃ織斑先生と呼べって言われるけど、おれついつい千冬姉って呼んじゃって……三治には千冬姉とくっ付いてくれたらなあと思ってたんですけど、のほほんさんと付き合ってるみたいで――」
いきなり先輩はテーブルをバンと叩いて叫んだ。
「これはスクープだわ! 音羽くんを巡って織斑くんと織斑先生、それに本音ちゃんの四角関係ね!!」
突拍子も無いゴシップ醸成に俺たち三人の時が止まった。この人面白おかしけりゃ何でもいいのか!? 気付けば周囲のテーブルにいる全員が一斉にこちらを向いて静まり返っている。
「何言ってんですか!! そんなデタラメ乗せたら今度こそ織斑先生に廃刊にされますよ!?」
俺の言葉に耳も貸さず、黛先輩は夢中になってタブレットに記事を書き込んでいる。
「ありゃりゃ~……」
「えっ? 三治、先輩が言ってるのってどういうことだ?」
お前ちょっと黙ってろ! ぼへっとした一夏と頭を抱える本音を脇に黛先輩の脳内ワイドショーを止めようと必死になっていると、横合いからさらに別の声がした。
「あれ? 一夏たちここで何してるの?」
思わず振り向く。政府提供の新専用機の調整に出向していたシャルが戻ってきていた。
「あ、シャルじゃないか。どうしたんだこんな所で?」
「それはこっちのセリフかな。学園に戻ったら食堂から大声がするんで見に来たら……さっきから何を騒いでるの?」
「もしかしてキミ、シャルルくん!?」
ずっとタブレットにかじりついていた先輩がいきなり立ち上がった。思わずのけぞる。
「え? あのどちら様ですか? 一夏この人は?」
「ナイスタイミングだわ! シャルルくんよね!? イヤッホウ! わが校の二大美少年が揃い踏みね!! こんなチャンス早々無いわ、なにかグッとくるような……そうだ!!」
またも大声を上げ、1分ばかり腕組みをして考えていたかと思うと、いきなり一夏の腕を取って立たせた。
「ちょっと織斑くん、シャルルくんと向かい合ってみて!!」
「えっなんですか?」
「ほらシャルルくんも! 互いにもっと見詰め合って!! ホラ早くってば!」
「ええっ!? アレまたやるの?」
とまどいつつも引き合わされ、言われるがままに向かい合う一夏とシャル。なんかどっかで見た光景だな。
……あ、俺がやらせたんだっけ? しかしまさかここで再び目にするとは、腐女子恐るべし。
「と、尊い! 尊いわ!! まさにキリトとユージオって感じ!! 最っ高! まさにSAOアリシゼーションの再現よっ!」
一人大騒ぎしながら夢中でシャッターを切りまくる黛先輩に、レンズの向こうで呆然と突っ立っている一夏とシャル。それを遠巻きに見る俺と本音。
「ねえ一夏、これってなんの写真なの? なんだか、ちょっと照れちゃう……かな」
「さあ? どうなんだろ。三治、これって何かいい写真になるのか?」
少し顔を赤くするシャルにとぼけた顔の一夏。まぁ二人とも意味分からんだろうな。
「とりあえず新聞部の増刊号だかに載るんだよ」
「しっ新聞部!?」
俺の興味無さげな返事にシャルだけが過剰反応する。
その間にも戸惑う二人にゴシップ記者は容赦なく注文を飛ばす。
「二人共もっと見つめ合って! そうだわ! 織斑くんシャルルくんに右手で顎クイして! はやく! こうするの!!」
見る間に一夏はシャルルの顎を右手で軽く上げ、キスシーンのような演出をやらされていた。
「うううっ、完璧よっ! もう言葉が見つからないわ!! ……は、鼻血出そう」
もはや黛先輩は頭のフットーした腐女子でしかない。
「一夏、これ……なんだか、その、恥ずかしいよ」
「なんだろうなコレ? このポーズどんな意味があるんだ?」
「あはは~何だかほんとに少女マンガみたいだね~」
「それより先輩がやばい状態だろ。どうすんだよコレ?」
二人の美少年? にあちらこちらからシャッターを切りまくる新聞部副部長。さっきからよだれを垂らしつつウヘヘヘとしか言わない。
その上周囲がどんどん姦しくなっていく。
「ねえねえアレ、ちょっと凄くない?」
「すっごい! リアルにBLじゃない!? ウチらも撮っちゃう?」
さっきからこちらを興味津々で眺めていた食堂中の女子達がだんだん近づいてきた。徐々に包囲の輪を縮め、手に手にスマホを取り出す。
「おとーさん」
本音が俺の袖を引っ張った。
「ああ、もう俺らには用が無いみたいだな」
長居は無用だ。俺と本音はそっと立ち上がると、シャッター音が鳴り響く記者会見場と化した食堂を誰にも注意を向けられる事なく離れていった。
「な、なにをやってるんですかぁ!?」
廊下に出ると、食堂の方から山田先生の悲鳴のような声がしたが、聞こえないフリをした。
そのまま簪さんと本音の部屋に行き、夕方までアニメを見たりスイーツを食べたりしてのんびりと過ごすと、夕食の前にいったん寮に戻って来た。
夕陽に照らされたオレンジ一色の部屋。一夏がベッドに沈み込んでいた。
肩をすくめる。流石に今回は俺が悪かったかな、しかしまさかあそこまでの騒ぎになるとは思わなかった。後でシャル共々謝っておくか。
「ようやく戻ったか」
ふいに肩を掴まれギョッとして振り返ると、昨日一夏を引きずって消えた幽鬼が夕陽に浮かび上がった。右手に何か持っている。
「少し付き合え」
あんぐりと口を開けたまま返事も出来ず、俺は言葉を失ったまま生徒指導室まで連れてこられた。
「私はな、今日は非番だ。当然だろう日曜なんだからな。お前らも休日だ、羽目を外したいのは分かる。しかし……しかしだ」
あろうことか片手にぶら下げてきたビニール袋からはロング缶が現れ、当人はためらいも無く開けると死んだ目つきでそれをあおった。
「私も教師だ。しかしその前にあれの、一夏の姉だ。思えばあれにも苦労をさせてきた。いい姉ではなかったかも知れん」
一息で飲み干すとさっさと次を開ける。俺は今にも他の教員がやってくるのではないかと不安になった。
「お前もそうだ。これまでISになどまるで縁のない人生を送ってきて、急にIS学園に入学させられたのだ。不安も不満もあろう、いやあって当然だ。しかし……」
見る間に空き缶が増えてゆく。俺は口を挟むのもはばかられ、きまり悪い態度で固まっていた。
「しかし……なにも、なにもアレはないだろう! 私がどれだけ昨晩の騒ぎで衝撃を受けたか、お前なら分かっているはずだろうが!?」
拳一つで長机がひっくり返りそうなほど揺れた。
「あっ……あ~食堂での騒ぎですか」
「他に何がある?」
ぎょろりとした鬼の目に身がすくむ。よく見ると織斑先生は昨晩一夏を引きずって消えた時から髪も化粧も服もそのまんまだ。
「いえ何も」
即答した。どうやら食堂での撮影会が山田先生から伝わり、昨晩の俺を脱がせようとした件の直後というのもあって相当堪えたらしい。
「あれは本人たちもその、どういう意図でああなったか分からないまま黛先輩が興奮して突っ走ってしまったといいますか……」
「それはもう聞いている。聞いてはいるがな、教師として問題を処理は出来ても、一人の弟を持つ姉としての気持ちはそれとはまったく別だっ!!」
次の一撃はついに長机が倒れてしまった。10本近い空き缶が散乱する。黛先輩も怒られたのだろうか。そりゃ怒られただろう。俺の専用武器完成前に死んでなきゃいいが。
「何もIS操縦者として大成しろだとか、そんな事は言わん! せめて、せめて普通に、健全に一夏のやつが育ってくれればそれで何も文句は無い!!」
「……はあ」
言葉もないが、相槌でも打たねば精神的にもたない。
「お前だってそうだ! 音羽、これでも私はお前の事を評価しているつもりなんだ。デュノアの件で骨を折ったことも含めてだ。お前の行動で少なくとも一人の生徒の人生が救われた……それはいい」
とりあえず机を起こし、空缶を片付けた。
なんでこんな事せにゃならんのだとは思うが、あの状況をほっといたのは俺だし、多少は責任も感じる。大したこっちゃないが、これが原因で学園中で一夏がホモとして定着したらさすがに姉としても嫌だろう。俺も相方にされそうだし。
「何も同性愛が悪いとは言わん……しかしあいつには普通に結婚して、普通の家庭を築いて欲しい……音羽、私はな、ただ心の平穏が欲しいだけなのだ。分かるか? 分かるだろう?」
がっしりと両手で肩をつかまれ、ガクガク揺さぶられた。
「わ、わかります」
眼前にアルコールで真っ赤のブリュンヒルデの顔が迫る。こ、恐い……あと酒臭え。
「頼むから、頼むからあいつを……一夏をだな、普通の、健全な、年相応の男子でいさせてやってくれ!!」
ぐわんぐわんと揺れる視界で一夏の姉は泣いていた……かもしれない。
その後、どうにか大人しくなった担任をなだめすかして飲酒の痕跡を片付け、生徒指導室を後にした。
とっくに時間は夜の8時を回っており、着信のあった本音にスマホで連絡して一人で夕食を摂ると、ほうほうの体で寮に戻った。
夕方に見た時より散らかった部屋では、一夏がさっきとはさかさまに、ぶっ倒れるようにして寝転がっていた。どうやらてんぷくトリオが来たらしい。
「お前も大変だな」
一夏の腹が返事をする。晩飯がまだのようだった。
無論、それから2日と経たぬうちに今回の取材をパーにされた黛先輩が、ワンモアチャンスを求めて俺と一夏に泣きついてくるのであった。
おそろしく遅れて、昨年の内に投稿するはずが、年をまたぎ越してしまいました。お待ち頂いていた方々にはお詫びの言葉もありません。
言い訳ですが、昨年11月に近所の眼科で緑内障と診断されて鬱になっており、年末大学病院での再診で、眼圧ギリギリ正常値だから慌てなくて良いといわれてホッとした所にのどをやられ、咳が酷く何も手につきませんでした。
結果、何も出来ぬまま年越し……孤独のグルメ見たかった。
なお、前回の後書きの元ネタは、映画【戦争のはらわた(1977)】のセリフ
ブラント大佐 〝この戦争が終わったら何が始まるのかな〟
キーゼル大尉 〝次の戦争の準備ですよ〟
でした。訳によって多少違うので、分からなくてもしゃあないかな……それ以前にネタが古すぎるわ!
そもそも前回の後書きは、冗談か本気か分からない書き方だったので、今回はそのお詫びもかねて(?)今回までの各話タイトルの元ネタ全てが分かった方に、お望みの番外編を一つ書かせていただきます……今回かなり短くなっちゃったし。ご興味ある方は作者宛のメッセージボックスにご連絡ください。