さらばIS学園   作:さと~きはち

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 こんな(おまえ)の言いざまじゃ、まるで喧嘩を売っとるようなもんで

 ―― 武田明 ――

   『仁義なき戦い 完結篇』



物凄くうるさくて、有り得ないほど近い

「ちょっとよろしくて?」

 SHR後と同じように声を掛けられ、俺と一夏は机のディスプレイに表示した格子と円で遊んでいたオセロから顔を上げた。

「んぁ? 誰だ?」

 腰まで見事な金髪を垂らした、碧眼の白人美少女がそこにいた。

「まぁ! この私に話しかけられているというのになんというお返事!? これだから――」

「あぁあれだ、イギリスの代表候補生。オルコットとかって人」

 キンキン声も癇に障ったが、それより口調からしてウザそうなので当人の声をさえぎり相手が何者かを一夏に説明してやった。

「そうですわ! 私は大英帝国の国家代表候補生――」

「あぁ三治が一人留学生がいるっていってた奴か。代表候補生ってなんだ?」

 オルコットをはじめ視界にいる女子全員がずっこけたようだった。まさかIS学園に入学してそんな基本的な事すら知らないなんて考えられないだろう、普通は。

 俺は俺で驚きはしたものの大して動じなかった。何せ最初の授業でアレだし予想はついた。

「信じられませんわ! 日本の男性はこの程度の――」

「要するに専用ISが与えられる優秀な奴だよ。実戦データ集めたりISの操縦上手くなったりして、まぁ戦争になったらISに乗って鉄砲玉にされかねない奴だな。あとモンド・グロッソの選手とか」

「そうですわ! 鉄砲玉――って違いますわっ!!」

「そっかーカッコいいようで意外と不憫だな。」

 多少いい加減な説明でオルコットは怒ったが、個人的には大して間違ったことは言ってないつもりだ。そもそもISがアラスカ条約で競技用しか認められないなんて建前もいいとこだ。だったら兵器を搭載し実戦を意識した模擬戦や競技なんか必要ないだろ。ISそのもののポテンシャルを最大限生かした競技をやればいい。

「とっとにかく! 私はエリートで――」

 残念ながら予鈴が鳴りタイムリミットとなった。

「話の続きはまた改めて! そっちの貴方も! よろしいですわね!?」

 キンキン声で叫ぶように言うとさっさと席へと戻っていった。

「なんだったんだ、あいつ?」

「さあなぁ、エリート様の考えることは庶民にゃ分からんよ」

 ポカンとする一夏に俺はまたいい加減な返事をしておいた。

 

 

 

 その後の休み時間はさらに姦しくなった。篠ノ之さんとオルコットの奴が休み時間に声を掛けてきたことで、その後一夏相手に抜け駆けしないよう互いにけん制しあっていた女子たちの均衡が崩れた。授業が終わるたびに別の女子グループがひっきりなしに訪れ、一夏の歓心を買おうと必死で話題を振っていたものの、反応が期待外れらしくがっかりしていた。

 本音も同じクラスの鷹月さんと谷本さんと一緒に俺の元に何度かやってきた。最初はぎこちない話し方しか出来なかったが、本音がお菓子好きということで好きな駄菓子の話題で盛り上がった。他愛も無い話題で女子たちと盛り上がるのは初めてかもしれない。俺たちが小1の頃からISが世に出て女尊男卑が幅を利かせ始め、俺の地元では男女が一緒に遊ぶ光景はほとんど見られなかった。自分が女子と普通に話すことも想像すらできなかった。

 それがよりによって今まで最も恐れていた場所で出来ているのだから、まったく皮肉そのものだ。

 篠ノ之さんとオル何とかも時々こちらに視線を向けているようだったが、こちらが見るとさっと視線をそらしてしまった。一夏が気になるものの、他の女子が大勢いる手前声を掛け辛いのだろう。そういえばいつ見ても彼女らは一人で過ごしていた。

 それより参ったのは一夏だった。昼休みになり本音たちと食堂に行けたらいいなと考えていた所へ、いきなり肩を掴んできたのだ。

「三治、一緒に食堂行くよな!?」

 いきなりのことに俺は目をむいた。なんでそんな必死なんだお前は? 話しかけてきた女子たちとか、篠ノ之さんとかと一緒に行けばいいのに。

「2時間目からこっち女子たちがずっと話しかけてきて疲れるんだよ! お前といる時間が欲しいんだ」

 周囲が変にざわついてきた。一部の生徒がこちらを見て目を輝かせ、机で必死に何かを描き始めた。おいお前ら何を描いてんだ。

「ホモくせぇ言い方すんな! 誤解されるわ!」

 思わず怒鳴りつけ、一夏が驚いてのけぞりクラスの空気が固まった。と、タイミングよく本音が緊張感のない間延びした声で食堂に誘ってくれた。

「おとーさーん、食堂いこ~」

 本音の言葉にあちこちでクスクス笑い声がしてクラスの空気が緩み元の喧騒が戻ると、俺は本音に小声で礼を言った。

「すまん、助かったよ」

「にしし、お礼は食堂のデザートでいいよ~」

 ひとまずポカンとしている一夏に向き直ると声をかけて欲しそうな篠ノ之さんを誘わせ、鷹月さんたちも一緒に食堂に向かった。オル……はほっといた。

 しっかり者の鷹月さんやお調子者の谷本さんに比べどこか抜けた調子の本音は、中学時代から女子グループへの警戒心が抜けない俺とは対照的で妙に落ち着く相手だった。見たまんま小学生のように思える時もあれば、大人のような態度をとるときもある不思議な女子で、なんとなく一緒にいる時間を増やしたいという気持ちになっていった。

 それに対してすぐ隣で定食を食う一夏たちを見ると、気の置けない態度でいる一夏の横で篠ノ之さんは何故か他人行儀で、一夏の幼馴染と聞いた割には態度を硬くしたまま不満げな表情だった。

 そんな篠ノ之さんの様子が一夏とのトラブルに発展しなきゃいいがと思い一夏に視線を向けた。

「ん? おれの顔ごはん粒でもついてるのか?」

「篠ノ之さんとあんまり喋らないなって」

「そうなんだよ話を振ってもつれなくてさ、箒、腹でも痛いのか?」

「……なんでもない」

 にぎやかな食事風景で一人だけ不機嫌極まりない。そしてそれに一夏が全然気付いてない。おそらくその原因も一夏は分かっていないのだろう。まぁ俺も知らないのだが。

 

 近い内にひと波乱ある。たいした根拠はないが勘がそう告げていた。

 

 

 

 今日最後の授業が終わると俺は大きく伸びをして背もたれにもたれかかった。

 いろいろと忙しい一日だった。授業はIS以外も偏差値の低い俺には難易度高めで苦労したし、なにより生徒や教師を問わずこんなに多くの女性と話をしたのは生まれて初めてだった。

 教室で過ごすのに慣れてきて驚いたのは、自分のクラスを始め生徒も教師も美人揃いだということだった。一応入学前には公安関係者からハニトラに対する注意も受けてはいたが、これじゃそんなもん見分けも出来やしない。だいたいがほとんどの女子は一夏に必死で、俺の方には本音と数人ぐらいしか寄ってこないからほとんど気にも留めなかった。

「美人か……」

 考えてみると本音は美人というよりマスコット的な可愛さのタイプだな。鷹月さんや谷本さん、相川さんはもうちょっと年相応な感じか。でも鷹月さんは委員長タイプっぽいけど、谷本さんたちは恋バナとかにしつこそうな……

「誰が美人なんだ?」

 伏兵の奇襲に俺はあわてて振り返った。

「なっなんでもねえって!」

「? とりあえず帰ろうぜ。今出ればモノレールの時間にちょうどくらいだ」

 俺はうなずき鞄にテキストやノートを詰め始めた。一夏は放課後図書館に行く予定をすっかり忘れてるようだが、入学初日で俺も疲れた。一日伸ばしてもいいだろう。初めて教室に入った時に席に着くだけで疲れたなんて思ったが、そんなのは序の口でしかなかった。

 これ以上初日を騒がしくする前にさっさと帰ろう、そう思った矢先だった。

「あっ織斑くんと音羽くん! よかったまだ残ってたんですね、お二人の部屋が決まりましたんで鍵を渡しに来たんです」

 そう言いながら山田先生が小走りにやってきた。今さら気づいたがこの人走ると凄く胸が揺れて目の毒だ。

 二人の部屋? 俺たち二人は急な入学で寮の割り当てがまだ決まらず、当分一夏は実家、俺は国が用意したマンションから通うはずだったが。

「本来ならお二人は一週間後から寮生活に入ってもらう筈でしたが、事情が事情なので無理をしてでも部屋を割り当てることになりました。寮監室の隣ですよ」

「寮監室?」

「私の部屋だ。お前たちは数少ない男性IS操縦者としてハニートラップ等に狙われる可能性がある。なにしろ他の生徒はすべて女子だ、可能性がないとは言えん」

 後から現れた織斑先生が説明した。

「その点私の隣であれば防ぎやすいからな。お前たちの荷物は私が手配してやった。ありがたく思え」

 そう言う織斑先生は若干ドヤ顔になっていた。生徒である俺に小言を言われた後だからだろうか。出来る教師ぶりをアピールしたがってるように見えた。

 まぁ言ってる事は正しいし、これからモノレールに揺られてマンションまで帰るよりは近いだろう。でも俺の荷物はダンボール詰めのままホテルに置いてきたからそのまま送れるとして、一夏は?

「織斑の荷物も部屋に送ってある。まぁ着替えと携帯の充電器があれば十分だろう」

 一方的な宣告に青くなった一夏を促してカギを受け取ると、山田先生から簡単な説明を受けた。俺たちは途中まで黙って説明を聞いていたが、大浴場が本来女子専用なので俺たちは自室のシャワーで当分我慢しろという説明の段になるとややこしくなった。

「何で俺たちは大浴場が使えないんですか?」

「要するに大浴場は女湯のみって事だよ。女子に混じって入ってみるか?」

 一夏の馬鹿な質問に答えてやると、今度は山田先生が慌てだした。

「ええっ? 織斑くん女子とお風呂に入りたいんですか!? だっダメですよ!」

「えっいや入りたくないです!」

「ええっ入りたくないんですか? それはそれで問題が――」

 山田先生は話の受け止め方が極端すぎるぞ。俺が呆れるが早いか織斑先生が大きく咳払いした。

「それじゃ私たちは会議があるのでな」

 織斑先生は妙な妄想で頬を染めた山田先生を引きずって教室から出て行った。残っている女子たちは俺と一夏を見て何やら話し込んでいる。

 クラスメートの会話に不穏な空気を感じた俺たちは一部の熱視線を尻目にそそくさと教室を出た。

 

 

 

 教室を出ると後ろには一定の距離を空けて女子の集団がついてきた。同じ寮に帰るのだから方向は同じだが……。

「後ろ見たか? 今からこんなじゃ先が思いやられるぜ」

「ぶっちゃけあいつらお前目当てだけどな」

 連中は俺と一夏の会話にも聞き耳を立てている様子だが、それは言わないでおいた。

「ええっ? 冗談だろ?」

 困り顔の一夏に俺が返した正論はまるで受け止められなかったらしい。

 さすがに少々イラッと来た。

「中学の時だってモテてたんだろうに、そこまでいくと嫌味だぞ」

 驚いたことに一夏はむきになって否定した。

「モテたことなんかねえよ! 中学の頃はやたら女子たちに付きまとわれたり、買い物に誘われた事はけっこうあるけどさ」

 一夏のデカい声に背後が静まり返った。

 普通なら自虐風自慢に取られそうな言い草だが、どうにも俺にはそれが遠まわしのモテ自慢には聞こえなかった。まだ一夏と出会って半日しか経ってないが、いろいろ話してみて一番感じたのは、一夏は賢くはないが正直で単純だが悪人ではないということだった。

 そう考えると気になり疑問点を尋ねてみた。

「なあ、女子がつきまとうって、何か心当たりあったのか?」

「ないな。ただやたら女子に噂されたり話しかけられたりして、学校内では男子の友達と遊んだりしにくかったな」

 それはまあ、分からなくもない。一夏はここで滅茶苦茶モテるし、やたら異性にモテるやつは同性から疎まれることもあるだろうから。

「じゃあ買い物に誘われるってのは、どんな店に?」

「わかんねーよ、買い物に付き合ってくれって言うから、どこに行くのか聞いたら」

「聞いたら?」

「なんか急に泣き出してさ、どっか行っちゃうんだよ。誘ってきた女子みんなそうなんだ」

 ……どうにも話が分からない。買い物に付き合えというのはデートの口実としても、どこに行くのか聞いただけで泣き出すというのは普通じゃない。何か知るべき部分が欠けているのか?

「どんな風に誘われたんだ?」

「それがさ、いつもわざわざ校舎裏とか屋上とかに呼び出されて、なぜかみんな判で押したように〝付き合ってください〟って言うんだ」

 一夏の話す内容に違和感を感じた。それは後ろの女子たちも同じようで、急に後ろのお喋りが下火になった。

「こっちが〝いいぜ、どこの店に行けばいい?〟って言ったら、急に泣いてどっか行っちゃうんだよ」

 後ろの話し声が小声になり、雰囲気が悪い噂をする時のそれに変わった。

「……なんとなく分かった」

「えっ? 何をだ?」

「なんで女子たちがわざわざ一夏を呼び出して、なぜ急に泣いたかをだよ」

 一夏はよほど驚いたようで、目を丸くして立ち止まった。後ろの女子たちも慌てて立ち止まる。

「マジか!? なんでだ?」

 俺は一夏の顔をまじまじと見た。人をからかっているようには見えない。これで演技ならアカデミー賞どころか詐欺師になれるな。

 つまり一夏は無自覚に女子からの告白を片っ端から断っていた事になる。それも完全な勘違いで。告白した女子にしてみればたまったもんじゃないだろう。そりゃ泣くわ。

「なあ何でなんだよ?」

「その前に質問だ。一夏、今まで何回ぐらいそうやって誘われた?」

「正確には覚えてないけど、2~300回くらいかな」

 俺は息を呑んだ。尋常な数じゃない。言葉を失ったのは背後の連中も同じようだった。

「それじゃ、今まで女子に告られた事は?」

「何だよ急に? そんなこと一回もねえよ」

「……なるほど、良く分かった」

 後ろの女子たちのお喋りが完全に不穏な噂に変わっていた。明日には全校生徒に広まるかもしれない。俺はまずい事をしてしまったのに気づいた。いずれ分かることだとしても、知らなくてもいい事を多くの女子に知らせてしまったのだ。

 俺はどうすればいいか迷った。一夏にどこまで伝えるべきか。後ろで交わされる言葉は明らかに一夏の人格や正気を疑う内容だが、本人はまだ気づいていない。さらにその原因であるさっきの話、大勢の女子の告白をみんな買い物の誘いと勘違いして断り続けたという正気を疑う過去。

 全部伝えたらどうなるか? 少なくとも俺の知る一夏の性格からして、自分の大変な過ちを知って後悔と罪悪感に苛まれるだろう。落ち込んで引きこもってしまうかもしれない。あまりにショックが大きいと、どんな反応になるか想像もつかない。そもそもどこまで本人に話すか俺が決めていいのだろうか?

 俺は知っている唯一の一夏の身内に相談することにした。

「一夏、先に謝っておく。まずい話をしちまった。すまない」

「え? そうなのか?」

「それともう一つ。……今の話は忘れてくれ。俺から織斑先生に説明する」

「? おう?」

 当たり前だが、一夏は何が何だか分からないという顔をした。けれど次の瞬間には他に興味を移していた。

 別の話題を始めたとき、何かに気づいて一夏は後ろを振り返った。

「三治、いつのまにかあいつらいなくなったぞ。やれやれ、これで落ち着いて部屋を探せるな」

 一夏の顔は爽やかな笑顔を取り戻していた。

 生返事を返しながら、俺はその笑顔をどう受け止めればいいのか分からなくなっていた。

 

 

 

「そういえば三治、のほほんさんたちと休み時間よくしゃべってたけど」

「のほほんさん?」

「ほら、あのちっこい袖余りの女子。あの三人の内だれかが好きなのか?」

「んなっ! 何でそう思うんだよ!?」

「いや、なんとなくだけどさ」

 ……一夏の奴は、女心には鈍感だが、男の恋愛感情には鋭いのかも知れない。 

 

 

 




なぜか書けば書くほど長くなってゆく。
それと一夏がだんだんアレになってもゆく。

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