Fake/startears fate   作:雨在新人

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八日目ー英雄原則・二律背反

「……どうした、チワワ?

 鳴いてみせろ、正義だというならば』

 右鉤爪を僅かに肥大。眼前に居る犬っころの胴体をその五指で無造作に掴みあげ、その生け贄と重ねるように空に浮かぶ星を見上げる

 紅の星、軍神の星、己を滅ぼそうという星の怒り。蒼き星の涙が呼び寄せた絶対勝利、究極の力の一つ

 さあ、撃ってこい。貴様の敵は此処に居る

 「接続(アクセス)

 

 出鱈目に振り回される犬っころの爪が頬に届き、顔に朱色の線が増える。だが、それだけだ

 霊長に対して死を押し付ける魔術。このパチものの犬っころは常にそれを放っているに過ぎない。多くの人間に噂された伝承を体現するという宝具による不死身、吸血鬼……死徒扱いされる事もあるあの犬を再現したかの魔術、死徒を食らった蜘蛛の奴の力を再現"しようとした"水晶。バーサーカーという痩せ細った愛玩犬にあるのは、たったそれだけだ

 

 「顕彰せよ、我が虚空の果ての宿星よ 紅に輝く箒星 虚無を渡りて畏れ見よ』

 息苦しそうに吼える犬っころに従い、水晶が己の全身から生えて侵食しようとする。だが、気にしない。効く訳もない。今の己ならば恐らくはあの蜘蛛相手ならば水晶への抵抗が効かなくなる方が蜘蛛撃滅よりも速いだろうが、今此処で100年寝てようが眼前の犬っころの形だけの水晶に負ける気はしない

 

 『悪食の竜がぁぁっ!

 王に、逆らうなぁぁぁっ!』

 「……王は、国は、あまりにも唐突に滅びるものだ』

 破壊せよ

 「理不尽なる侵略者によって、な

 <竜血収束・崩極点剣(オーバークランチ・バルムンク)>』

 星の旭光が、己を撃った

 

 

 「……何だ、原型が残るか』

 旭光が収まり、己は鉤爪の先に持った都合良く己を滅する為の光の大半を防ぎきれる程には硬かったが喚き動いて使いにくかった盾……だった襤褸雑巾を放り投げる

 見渡す限りの炙られて多少変形した大地に、ソレは息をしたまま転がる。皮一枚で繋がっていた首がその衝撃で取れ、コロコロと溝にそって転がって行く

 

 「……流石、海を測り、世界を貫く棒。硬いな』

 森の館に降り注いだ光は、世界の壁をぶち抜き竜脈内に隠された聖杯の部屋まで穴を空けた。それを考えると、分かってはいたものの、神珍鐵の硬さには恐れ入る

 

 『……一瞬すら吹き飛ばんぞ?

 何だ、切り札のように放っておいて、てんで弱い』

 「貴様が言った通りだ、駄犬

 己は悪食なんでな、貴様も喰らう。だから己の攻撃では貴様は消し飛ぶ

 だが、そんな概念などどうでも良い、そんなもの、貴様は幾らでも再生する。食えど喰えども限り無し、意味など無いに等しい』

 口内に唾のように涌き出た血を、転がる頭へ向けて吐き出す。血を通して全てを破壊し喰らう悪食の竜、それが今の己だから

 

 「獣を倒すには、物理的にその事象を消し飛ばすしかない。破壊し捕食する性質、貴様の魂を削るには便利だったが、この点では不便だな。概念への干渉同士では、殺せど殺せど意味はない』

 貴様は破壊された、と概念をぶつけて殺しても、何度でも甦るに決まっている王は不死身だと返されたら千日手だ。とりあえず確認の為に、そして6万以上を殺した阿呆が、それ以上を……そして何よりミラや紫乃達を更に巻き込まない為に、考えつつ引き剥がす目的で土竜ならぬ犬叩きをしていたに過ぎない。破壊して勝てるなんて甘い考えは、10度ほど殺った時点で捨てた

 

 左翼を延ばし、槍のように伸ばす

 千切れた傷痕、其処に見える骨を目安に、串撃ちの容量で己に似た顔立ちのボール()を貫き、持ち上げる

 

 「で?御自慢の不死身はどうした、犬っころ』

 『……な、に?』

 ああ、今の己をフェイが見たら、悪鬼の見本として写真が欲しいですねと言い出すだろう。それほどまでに、俺の己今の笑みは邪悪だと信じれる

 「伝承による不死身?ならば話は簡単だ』

 

 首を傾け、歯を剥き出す

 頭が揺れた拍子に、背後からゆっくりと近付いていた首なしのバーサーカーの体に、異形に伸びた角が突き刺さる

 「星が、伝承を産む根源が、貴様に死ねと言えば良い』

 そう、それ故の星の怒り。己……正確には俺が胸に埋め込まれた指輪を通して接続(アクセス)している竜の姿の悪食を滅ぼす為に、此処(ここ)でない世、現在(いま)でない時に放たれた力。それを此処に呼び出し、更には道標をもって擦り付けるのがあの宝具

 『……なん、だと……』

 「明日(せかい)の為に、星そのものが己に滅べと出したSOS。その切なる涙を受けて放たれた怒り

 ……星が、伝承を産む全てが貴様に死ねと言ったのだ』

 そう。実際には己へのものだが、俺を量産しようとしたホムンクルスなんぞに本体を移した以上、己扱いでもある。己自身へほどでなくとも、意味はある

 だからこそ、一瞬で何事もなかったかのように甦り続けたバーサーカーは、首なしの体(デュラハン)が襤褸のような手足を引きずって俺から首を取り戻しに行かねばならぬほどに不死身が弱った

 

 「命運尽きたな、滅び去れ』

 右目に走る、微かな警告

 バーサーカーは、増えている

 

 ああ、と一人ごちる

 意識陥穽。そういえば、そんなものもあったな、と

 

 森は消し飛ばしたが、街までは行っていない。街並みは残っている。其処には、逃げ延びれた人々が……車、そして停車していた電車でもってこの街そのものからも逃げようとしている残り三万と少しの人々が居る。その小さな光達が、突如現れた塔の偉容に少し惑いながらも離れてゆく

 

 恐らくは、残りの吸血鬼(バーサーカー)はあの中に紛れている。意識陥穽、どれだけ不自然でも、当然だと思ってしまい見落とす暗殺者にとって最大級の力。人の介入の無い自動迎撃システムでは無いミラでは、焦る中で紛れられたら見落とすしかない

 ……翼を変形。ブースターを肩から担ぐように前に二度目の砲撃型へ。刺していたボールは放り出し、転がるに任せる。どうせもうあの体で出来ることはまず無いのだ

 

 ……狙いを絞りにくい。離れては何処に紛れたかは分からない

 だからといって、向かっていって探すのも骨だ。広い範囲を探せず、逃がすかもしれない

 面倒だ、纏めて消すか。どうせゼロに回帰するのだ、それ以前の犠牲など、正にどうでも良いと言えばどうでも良い。人だった俺は、それでは自分も正しくとも許せなかった正義(ヴァルトシュタイン)と同じだ、とあまりやりたがらなかったが、つまらない感傷だ

 結果はどうあろうと変わらない。バーサーカーを滅し、セイバーを殺し、まだ居るかもしれないライダーが生きていれば探し出すか居るだろう辺りを吹き飛ばして破壊し、聖杯を血で満たして喰らい世界を回帰する。俺が産まれるに至った悲劇など、無ければ良い。だから、悲劇なんてものは無かった世界に回帰する。その過程で、若しもかつても欠片を寄越し立ちはだかった、裏切られても尚愛を謡った海たる創世の神(ヴァルトシュタインの呼ぶ救世主)が再び現れようと……いや、まず間違いなくあの終焉の夢が未来への警鐘ならば強引にでも顕現してくるだろうが、倒すのみ。それが己の道だ

 

 「滅びを。破壊せ……』

 だが、言葉を紡ぐことは出来なかった

 その口が、突如として柔らかいものに塞がれたから

 130を越えたくらいの小さな体躯の軽い重みが首にかかる。その体重に、どうせ不要だと引きちぎったままの足ではバランスを保てず前傾姿勢になりかける

 『あむっ』

 「……アサシ……っ、やめ』

 言葉を発する事が出来ない。何かを言おうとしても、無理矢理のキスで途切れさせられる

 面倒だ、消すか?と一瞬思うが、その柔らかな体を、唇を、血で染める気は何故か起きなくて

 首筋に抱き付き、唇を奪うアサシンをさせるがままにする

 

 『……治まった?』

 暫くして、アサシンが唇を離し、首筋に回した腕も外し、すとんと地面に降りる

 「……何とか、な」

 息苦しさのなかそう返した瞬間、出力が足りずにバランスを崩し、アサシンにもたれ掛かる

 翼は紅に戻り、左腕は消え去った

 今もまだ指輪の輝きは消えてはいない、リンクは繋がっている。だが、あの時ほどの力は既に無い。全身の痛みも戻ってきて、更には指輪を埋め込む為に切除されて既に無いはずの心臓がキリキリと痛む。息苦しい

 その右手には、金と黒の二枚のカードが何時しか戻っている

 

 抑え込まれたのだ、と一拍遅れて気が付く。何故かは知らないし愛の力だとかキスの奇跡だとか言うつもりは毛頭無いが、アサシンの口付けにより、完全に覚醒していたはずの俺は再度ビーストのなりかけに戻っていた

 

 「……アサシン」

 抗議するように声をあげる

 抗議す気は、そこまででもない。戻ってこれた事に、情けないことに安堵までしている。あのままであった方が俺の目標としては間違いなく良い、そんなことは自明どころではない真理だろうに、それでも、生きたいと思ってしまう弱い人間である不完全形態に戻れて助かった、と考えてしまう

 それが、情けなくて、歯痒くて、血が滲むように下唇を噛み締める

 「これでは、バーサーカーを滅ぼせない」

 

 けれども、これが重要な事。未だバーサーカーなあの狼男は、あの俺ならば倒せるだろう。だが、逆に言うと勝ち筋はそれだけだ。アーチャーなんて本物の神霊ならばそれこそ霊長の殺戮権限に向けて真っ向から異論叩き付けられるだろう。そのまま倒せるかもしれない

 けれどもだ。それは霊長では勝てないという事を示している。正直、不死身だった事、後は霊長相手に死をばら蒔く魔術と抵抗力を喪った奴を水晶の異世界に閉じ込める力くらいしかバーサーカーには無い。単純なスペックでは、アーチャーやミラ程には絶望的でもないのだ

 けれども、水晶に閉ざされている間にミラを追い込んでいたのは、サーヴァントだろうが基本は霊長だという前提がある。基本スペックは吸血鬼だからかそこらのサーヴァント(セイバー等)よりは上程度。器用で不死身だがミラのニコラウス等に比べれば大分マシ。それでも、霊長である限り相対すれば死という結末を押し付けてくる為まず勝てない。指輪を通してリンクし擬似的にその尖兵となる俺と、吸血鬼という概念だからとそれに含まれる獣を再現したバーサーカー。本体との近さ等に差はあれど、結局のところビーストのパチものという事には変わりがない。いや、俺のリンクしたアレは、俺の思考にひきずられてビースト扱いされただけの他のクラスだとは思うが

 

 けれども

 『問題ない』

 アサシンは、そう微笑する

 その瞳の端に微かに光が反射する

 ……心から言っている気がしない

 『それが、「ボク」のお仕事』

 「……なにを」

 『「わたし」は、魔を狩る者

 「我」こそが、魔という悪に対する正義』

 「……」

 『「ボク」の希望の言うとおり。悪あっての正義。悪がなければ、正義なんて居ない

 正義が成り立つには、悪が居ないといけない』

 魔力は繰れる。寿命はとっくにゼロで、全身に痛みはあるがそれでも死にはしない。翼は作らず、千切れた足から軽く魔力を噴出して浮かび上がる。体勢が上手くいかず、意図せずアサシンの赤い瞳と目があう高さに。都合が良い

 『二律背反。英雄は、悪を求める

 悪は、英雄を呼ぶ』

 だから、とアサシンは笑う

 『英雄は、悪の居ない平和に必要ない

 英雄は、悪と共に滅びる。それが、最後の仕事

 

 さようなら、「ボク」の希望』

 駄目だ。アサシンを行かせてはいけない

 アサシンが居なくなれば、誰が俺を止めるのだと、右目が警告した

 持ち逃げした覚醒の因子がアサシンと消えれば、あの神に勝てない程に追い込まれない限りあの俺に戻れないかもしれないと、獣としての本能が呻いた

 何も返せてないと、情けない俺が騒いだ

 

 全てが、アサシンを止めなければと叫んだ

 

 けれども、手は届かず、アサシンの姿は眼前から消えた

 

 

 

 ……これで、終わり?

 否やと、右手が灼熱した

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