自分が分かってるから分かりにくいことしか言わないザイフリートの言ってたアサシンに関する補完なので、分かってる人は飛ばしてくれて構いません。エピローグ後編及び第二部は来週終わりまでには……
『……分かりにくい、ですか?』
ワタシは、そうぼやくライダーの言葉に、目をしばたかせた
『ええ。なーんか自分だけ分かってますーみたいな感じで色々と言ってますけど、あんな解説じゃ欠片も分からねーです』
『そもそも、私は母上等と違い、あの化け物が何を言っているのか聞き取れない訳だが……』
『いえ、あれはあくまでも独り言、他人に分かるように言ってはいないでしょう?
まさか、本当に分からないとか?
あとユーウェイン、化け物は止めてください』
『そんな訳あるわけねーですよーだ
賢く可愛いこの
けれど……』
ちらり、と桃色狐はふんぞり返ってバーサーカーの勝利を……或いは敗北を待っている老人へと視線を向ける
『ライダーや、ああ言った全部知ってる訳じゃない人には、なーんにも分かりません』
『まあ、そうですね』
彼を本当に理解しているのは、ワタシだけですが
そんな言葉は口にせず、大人しく頷く
『では、まあ、一応の情報整理として、語りましょうか
そもそも、今の彼……ビーストⅡ-if、ザイフリート・ヴァルトシュタインとは何なのか、から必要ですね、理解するには』
興味が無いのか、老人は此方を向かない。ただ、時を待っている。ライダーは、昔自作の絵本を読み聞かせた日々のように、神妙に言葉を待つ
仕掛けは終わった。捕らえておいたキャスターは、既に真実の聖杯戦争を起こす儀式の贄として聖杯へと捧げられた。神の存在をもって、聖杯は願いの通りの役割を遂行し始める
『まず、ですが。この世界は……ワタシ達が刻む時間は、所謂編纂事象からは、少し外れた世界です。本来辿るはずだった時間は、今とは流れが違います
と、いっても……』
『今の自分はこの世界の住人、本来の世界の事は憶測でしか語れない……ですか?』
『ええ。その通りです
そうですね、その本来の世界を……仮にA世界線としましょうか』
軽く魔力を繰り、指先で空に絵を描く
大きな紅の点と、そこから伸びる青い一本線。この程度ならば、抑えていても出来る
『これがA世界線。本来進むはずだった時間です
此処での彼は……』
言葉を一つ区切る。本当に、この世界でも彼はそう呼ばれていたのだろうかと、ふと疑問に思って
彼が獣足りうる資質を持っていた訳でないならば、ワタシは彼に名前をあげたでしょうか、と
『ザイフリート・ヴァルトシュタインは、まあ、生まれはほぼ同じでしょう。彼が獣であろうと無かろうと、ヴァルトシュタインの計画は変わりません。元々、確実性を上げようと作ってみたら想像以上のスペックにバグって新計画が浮かんだだけですしね』
けれども、気にしても仕方ないですねと疑問は放置して、話を進める
『そして、彼は……今よりももっとマシな性格でしたでしょうね。少なくとも、ビーストのなりかけで、とてつもないエゴイストではきっとありませんでしたね』
ですから、と言葉を続ける。そんな彼の事をワタシが話すのが、何処か間が抜けていて、笑いたくなる
『恐らくですけれども、A世界線の彼には、A世界線のワタシはまず間違いなくあまり興味を持っていなかったでしょう。ええ、ワタシの計画に全く関係ありませんし、他のホムンクルス達よりは強い駒、レベルの考えで気にも止めなかったと思います』
『それで、何が違うんだ?』
『何もかも、ですよユーウェイン』
色分けを分かりやすく、秤のマークを青で描く。そして、赤でバッテンを付けた
『まず、A世界線ではルーラーは来ません』
『酷い話だな……』
『いえ、当然でしょう?』
くすりと、ライダーへ向けて銀の狐は笑う
『何故ならば、あの裁定者は、ビーストⅡを止めるために召喚されたのですから』
『……あまりにも優遇され過ぎたバーサーカーへの聖杯の良心のカウンターではないのか?
私には、聖杯戦争中観察していてもそうとしか見え』
『いえ。対ビーストⅡで合っています』
ライダーの言葉を遮るように、銀の狐を肯定する
『バーサーカー以降に召喚されたアナタは知らなくても無理はありませんが、あの裁定者は彼が造られたその日のうちに……去年の時点で既に現界していましたから』
『とはいえ、バーサーカーへのカウンターとしか思われなかった程に、最終的に寧ろ覚醒の手助けばかりだったのはこの駄狐級の人選ミスの賜物ですが、ね』
『それでワタシ的には大助かりだったので、其処をとやかく言う気はありません。人選によっては、というよりも大半のルーラーでは初対面で何も悩まず即座に斬り捨てて終わりだったでしょうし、それをされたらあの計画は御仕舞いでしたから。いえ、世界的には、その方が幾らか平和だったかもしれませんし、まあ、世間一般的には明確な人選ミスですね
ええ、聖杯の致命的失態万歳ですルーラーたるもの悪即斬すべきだというのに、あの裁定者は自分の命を懸けて願いを叶えようとしている悪魔に対して甘すぎました』
『と、まあ、本来のA世界線では影も形も無い裁定者の話はもう良いです。関係ありませんし』
ちらり、と横目で桃色の狐を眺める
何だかんだ、今の彼をそう嫌っていないから、一応問い掛けてみる
『そんなA世界線の彼、要ります?』
『要りませんよーだ!そもそも
『ええ、ですよね
ですから、A世界線の彼はワタシ達もルーラーも関わってこない、性能的にもあんなバグみたいな強さはありませんから、まあちょっと優秀な思考回路積んでそこそこ強いホムンクルス程度ですね。そんな状態で、彼は聖杯戦争に突入した訳です』
そういえば、と話を変える
これから、必要な事だから聞いてみる
『
『ええ。そんな人間居たなー、程度なら』
桃色狐の言葉に、銀の狐も合わせて頷く
『彼を再現しようとして、やっぱりあんなバグそのものなんて作れずに失敗作として吸血鬼にして使い潰された、と思い出せばそれで構いません』
一息吐いて、言葉を続ける
『A世界線において、神巫戒人は重要視されません。まあ、当然の話です
降霊魔術故の人工サーヴァント化時のバグ染みた性能……ってまあ、共鳴したのがアレなので寧ろ性能は妥当であり契約出来ているのがバグですが。それは置いておいて、人を材料にすれば強い、と彼が見せつけたからこそ、神巫戒人は標的だった訳です。それも彼というバグの尖兵限定だった訳ですが、他に例が居ないとそんな事も分かりませんしね。ならば、彼がそう強くもないA世界線では、無視される訳ですね
そして、きっとその場合、うざったいあのハシバミ色の目の娘と共にやって来る事になります』
『……それで?どうなるんです?』
『なら、話は簡単です。彼の心臓部のライン川の底から見つかった指輪があって何とか召喚される事に成功したのがセイバーなのですから、その指輪が覚醒していない世界では、どれだけ求めても召喚される事はない。アヴェンジャーとしてならば兎も角、あの時点で埋まっていない席はエクストラクラスとの入れ替わりが発生しにくい三騎士のみ。まあ、召喚される事は無理ですね。今だって、
とまあ、それは良いです。重要なのは、神巫戒人も、あの日ハシバミ色の目の娘と共に森に居る訳です
ならばきっと、サーヴァント召喚くらい、彼もやるでしょうね。そもそもマスター適性や魔術師としての素養自体あちらの方が高いですし』
『つまり、他のセイバーが、あのなーんにも出来なかった人と契約するんです?』
『……要りますか、そのセイバー?恐らくは円卓の騎士だとは思うけれどもアーチャーさえ要れば無用の長物』
『疑問は最もな気はしますよ、C001
けれどそもそも、ビーストが居ないんですし、その状況ではあの化け物アーチャーの眼に止まら無いはずです。見て見ぬふりはしないでしょうが、そもそも見付けない
あのアーチャーがふと気になる少女を見付けた、そんな事、抑止力の介入を疑いたくなる奇跡そのものなんですから』
『……奇跡』
『ええ、奇跡です
そして、奇跡はそれが起きなければいけないからこそ、起きるものです。この世界より平和なA世界線では、まず起きない
だって……』
苦笑する。言いたくはない事
『若しもA世界線で
そもそも、聖杯はあの神霊なんかではなく、もっとバーサーカーの噛ませに相応しいサーヴァント呼ぼうとしていたと思いますよ。けれども、獣のなりかけを見て噛ませを用意する事を躊躇した
だからこそ、あのアーチャーが介入する隙を作ってしまった訳ですし、ね』
『それで?』
『彼の有無で変わるだろうサーヴァントはそれくらいです。彼が獣だろうがなかろうが、バーサーカー、ライダー、キャスター、ランサー、そしてアサシンは同一サーヴァントでしょう
そして、セイバーと契約する事無く、更には弱かった彼は……サーヴァントを求めて消えかけたアサシンに出逢い、契約を交わす』
『まるで恋愛譚みたいですねぇ』
『茶化すのは止めてください、尻尾の毛を狩りますよ』
こほん、と咳払い
そのまま、話を続ける
『そしてアサシンを得た彼はあのハシバミ色の目の娘達と合流、神巫雄輝を助け出す一つの目的の為の同盟を組んでヴァルトシュタインへと立ち向かう……といった感じでしょうね』
『……私は?』
『間違いなく純粋に敵です。中ボスみたいな扱いだったんじゃないですか?』
『……酷くないか?』
『そうですか?ワタシの為にキャスターをワタシと倒したりとしてくれた事が全て無くなりますからね、彼等の味方要素なんて欠片もありませんよA世界線では』
『そして、此処は弱くとも3騎いれば何とかなる、と言いたい訳ですね?』
『その通りですC001。キャスターは強くない彼には興味がないでしょうし』
聖杯へと視線を向ける
ほぼ聖杯に喰われ生け贄として溶けてしまったキャスターが、此方へと既に棒でしかない腕を伸ばし、何か言っている
同情はしませんよ、キャスター。アナタは誰でも良かった。ただ、どこまでも自分に忠実な人形で男を近付けない強さがあれば。そうでしょう、
ええ、彼を選んだのは慧眼です。奇跡的に彼のまま尖兵となったような化け物ですからね。手に出来れば申し分ない。けれども、誰でも良い、自我なんて要らない、そんな程度の思いでワタシのものに手を出そうとしたのですから、自業自得です
……まさか、女神アテナが彼女への仕打ちに怒った、という逸話を通して女神の力の欠片を纏ったから、そして未来が見えるから聖杯戦争にも勝てる、とでも?
このブリテンで、ワタシに勝てるとでも思っていたんですか?千里眼:EXくらいワタシにだってあります、アナタの見た未来は、ワタシが見せた嘘ですよ。結局、アナタがそうと気がつく前に勝ててしまいましたが
目線を上へ外す
『まあ、何とか勝てるでしょうね』
空に、綺麗な光の花が咲いた。アサシンの宝具。英雄を消し去り、悪を消す対消滅の概念宝具。英雄が舞台から降りる事をもって、英雄譚を終わらせる。悪が居て、英雄が居て。そんなものはもう終わり。火種たる力ある者は消え、世界は平穏を取り戻す
まあ、バーサーカーにこんな綺麗な花火から生還する力なんて無いでしょう
『連れてきて良かったですね、保険』
「……ふん。シュタールめ。正義に泥を塗るか、阿呆。勝てる戦いを捨ておって
子孫の失態を補うのも、役目か」
ワタシの声を受け、老人は手にした注射器を、ライダーが運んできた女性の首筋へと刺し、撃ち込んだ
『話を戻しましょうか
まあ、3騎居て、バーサーカーへの対応として多分勝手に呼ばれただろうアサシンも居るんです、まあバーサーカーにはアサシンを対消滅させて勝ち、彼等は聖杯に手をかけた』
『そして、罠にひっかかった、と?』
青い線の端に、紅くバッテンを描く。終わりの印として
『ええ、その通り。見事に、あの東方の聖王の再臨の際に目を付けられて殺された。まあ、A世界線はそんなオチでしょう。アサシンを失った彼が、サーヴァントに勝てる訳もないですからねA世界線
けれども、死の間際の想いというものは強いものです。死の間際、彼は遂に自分の中で眠るアレに届き、指輪の力をもって彼は獣の片鱗と成り果てた。けれども、A世界線の彼自身は其所で死んだ
そして、彼は時を遡ったんですよ。獣としての力である単独顕現、『回帰』の性質。それらをもって、産まれた瞬間の自分に、その資質を、ね。本来は記憶も送りたかったんでしょうが、上手くいかなかった。けれども、単独顕現により、獣の資質だけは確かに届いた』
大きな丸から今度は紅の線を伸ばす。少しズラし、青い線に添うように
『そして、ビーストⅡ、ザイフリート・ヴァルトシュタインとしての世界線が始まる訳です。まあ、この世界の事ですし、後は語らなくても分かるでしょう』
『アサシンは?』
『あれはバーサーカーのようにコテコテの概念の象徴的な人格を持つのではなく、無数の意識の集合ですからね』
青い線の端近くから、紅い線の端よりそれなりに前へ向けて線を描く。その横に、紫でアサシンのマークを描いた
『そして、ならば話は簡単です。ヴァンパイアハンターの集合体ならば、彼と共にバーサーカーという吸血鬼を滅ぼしたA世界線のアサシンだって、ヴァンパイアハンターの一人でしょう?
A世界線のアサシンの記憶が混じり合うことで、今のアサシンが出来上がった。そしてバーサーカーという障害は取り除いたはずなのに何らかの理由で聖杯を手に出来なかったマスターを、もう一度やり直すならば今度こそと思ったんでしょうね』