『……前哨戦?』
その言葉に、セイバーは眉をひそめる
『ええ。前哨戦です、そこのセイバー
……そもそも、ヴァルトシュタインは今まで六度の聖杯戦争を勝ち抜いてきた訳です。ならば何故、7度も聖杯戦争をやらねばならないのか、疑問に思ったことはありませんか?』
「……足りないんだろう、力が」
『ええ、その通りです
人を愛する
……まあ、神の子が奇跡を起こしたその時代であれば足りたかもしれませんが、ね』
『……だから、7度もやったというの』
『ええ、そうですが?』
さと当然と、目の前の少女は頷いた
悪びれもせず。瞳に、何も浮かべず
『出力が足りないならば、増やしてやれば良いんです。幸いな事に、サーヴァントのエネルギーを纏める儀式は聖杯戦争として存在しますからね
それぞれのクラスのサーヴァント累計7騎に聖杯戦争を勝ち抜かせ、聖杯を手にした彼等でもってもう一度聖杯戦争を起こす
7つの聖杯、48のサーヴァントの魂、そしてそれら全てを束ねる大聖杯。万能を越えた全能の願望機。それだけあれば届きますよ、ワタシの願い、そしてヴァルトシュタインという
ふと、違和感があった
……アヴァロンの魔術師☆Mの目的は、本当にヴァルトシュタインの味方であろうかと
考えるなんて馬鹿な話だ。何故ならば、これはアヴァロンの魔術師☆Mとヴァルトシュタインによる聖杯戦争。その利害は一致しているに決まっている
だが、それでも。フェイの目的は、タイプ・アースの降臨ではないのでは無いか、そう思えた
「……それで、俺を殺すか?」
『……此処で殺しては無意味じゃないですか』
『そう、なら遠慮無く……』
セイバーが、手に剣を呼び斬りかかる
突き……は難しいのだろうか、上段からの斬り下ろし
……だが、それは、立ち上がった老人の素手によって掴まれ、防がれた
枯れ木のような右腕、老いて折れそうな指。そんなもので、抜き身の剣は捕らえられていた
「……身体強化は、魔術師の基本。それすら
そのまま、老人は右足のみを軸に足払いをかける。戦い慣れぬセイバーはあっさりとそれにかかり、剣を手放さぬまでも体勢を崩し……
「甘いな。貴様等悪魔は、余程アサシンに頼っていたと見える」
そのまま、手を捻った老人に、背負い投げの要領で剣毎投げ飛ばされた
「っと、何をしている……セイバー」
投げが向かうのは聖杯の方。正直な話失うのは惜しく、今の俺が過剰出力で壊れないギリギリの範囲で身体強化、穴だらけで漏れ易く100mを走っても9秒かかる程度の普通の人間と比べても誤差みたいな強化しか出来なかったが、動けるようになっただけマシだとアサシンを背負ったままセイバーを右の腕で受け止める。所謂お姫様抱っことやらは腕が片方なので不可能、引っ掛けるように、無理矢理に止めるだけ
『……は?』
「宝具を解放すれば、奴は恐らく殺せた
何故殺さなかった」
胸に走る痛みは、最早慣れたもの。無視して問い掛ける
『……外道ね、
「外道で勝てるならば外道で十分
正道のみで余裕な奴だけが正道を行ける」
目線を上げる
「……それで?」
「ああ、悪魔よ。貴様を滅ぼすのは、それに相応しいサーヴァントが居る」
「フェイか?だが、実質予選に手を出して良いのかよ」
『出しましたよ、もう。あの裁定者相手に倒れたアナタを誰が救ったと思ってるんです?』
『キャスターでしょう?』
『ええ、違いますよセイバー
あの腐れ未来視は救ってなどいません。これ幸いと精神操作して自分に都合の良い人形を作るために拐っただけ、二次誘拐ですよあんなの
ワタシが居なければ、当に終わってましたね』
「それで?バーサーカーは既に居ない、聖杯に捧げるサーヴァントの魂も恐らくはセイバーの分が足りない」
半歩下がる。踏み込みに転じられるように、或いは撤退しやすいように右足を引く。繋いだとはいえ足の修復は両方とも仮段階。魔力を吹き出せば前後どちらにも跳べる
「勝利者が必要なんだろう?
だから、俺達に……」
『いえ、要りませんよ?』
その瞬間、異様な危機感にかられ、全力で飛び退いた
ただ、後ろへ。着地を考えずに後方へ向かい、地面に背中からダイブ。背負ったアサシンを申し訳ないがクッションにして接地。微かな距離を滑り、段差から身が飛び出したのを良いことにセイバーを抱えてバック宙返り。何とか体勢を立て直す
『……っ!』
セイバーが、腕の中で震える
……無理もない
俺がさっきまで居た場所に、火柱が立っていた
いや、違う。顔がほぼ見えないほどの焔を巻き上げ、一人の女性が立っていた
けれども、その姿には見覚えがある。いや、忘れるわけもない。セイバーは、絶対に彼女を見間違えたりしないだろう
『ジィク、フリィィィィトォォォォォッ!』
怒りをもって焔を噴き上げ、槍を携えた狂乱の戦乙女。その者の名を
「……ランサー」
『いえ、バーサーカーです。バーサーカーが勝たなければいけない聖杯戦争ですからね、あの吸血鬼はランサーで、彼女こそがバーサーカー。そんなクラスの入れ替えも快く許してくれました。まあ、血は入れましたがね、それだけで済むとは、実に安い
アナタが居なければ、彼女にとって魂を焼き尽くす狂気に身を委ねてしまうほど憎い
恋は盲目、怨もまた。ジークフリートとは関係ないアナタからしてみれば傍迷惑かとは思いますが、すみません。基本的な計画に必要な事なので諦めて勘違いで怨まれてて下さい、そのうち返り討ちにしても結構ですので』
「……酷い言われようだ」
ある程度機能を取り戻した右目で睨み付ける
見えたものは、サーヴァント、バーサーカー。真名をブリュンヒルト/ブリュンヒルデ
成程、フェイが此処で嘘を付く気はしなかったが、やはり嘘では無いらしい。あれは死んだと思っていたランサーであり、聖杯によってバーサーカーというクラスのサーヴァントを勝者とすべくバーサーカー扱いされている。恐らくそれは、聖杯戦争を始める為に、7つのクラスが必要だから。ランサーが勝ってはいけない
今ならば分かる。あの聖王が何者だったのか。あれは、かつてヴァルトシュタインが呼び、そしてその度の聖杯戦争に勝利したランサーのサーヴァント。真なる聖杯戦争の参加者。敢えて言うならば、旧ランサー。あれが獣で無かった既に剪定された世界の俺の世界でのランサーかと思っていたが、良く良く考えてみれば、俺が獣かどうかは俺関係なく魔術師により呼ばれたランサーには影響が無い。世界線でランサーが変わるはずが無かったのだ。だからこそ、間違いはまず無いだろう
……つまりだ、聖杯戦争を行うなら、ランサーが二騎居てはいけない。そしてランサーは既に居る。だから、バーサーカーにした。
焔は揺らぎ、柱を形成する。光の無い瞳は、怨みだけを湛えて俺のみを見ている
……だが、動かない。静止している
隙がある訳ではない。翼が実体化していた程にビースト化が進行したほぼ完全な尖兵状態でなら兎も角、今の俺では綺麗にカウンターを決められて首を跳ねられるのがオチだ。動かない事をこれ幸いと殴りかかるのは得策ではない。ならば、何故動かないのかを……
『全く、せーっかく
その声は、雰囲気を壊すように明るく響いた
「……やっぱり普通に喋れたのか、二人とも」
目の前に新たに降り立つのは、獣耳を持った二人の影。即ち、C001とC002。銀と桃の狐
『おやおや、見抜かれてましたか』
「俺に向けて言われているカタログスペックよりは、幾らか有能だろうという所はな」
だが、流石に予想外
「まさかサーヴァントそのものみたいなものだとは思わなかった」
正直、右目を疑いたい
なんてな、バグってらと笑い飛ばせれば、どれだけ良いだろう
もうクラスカードを使って隠してなどいないからか、右目はしっかりとそのサーヴァントの真名を教えてくれる。隠してないピンクだけだが
「……天照」
『
「どっちでも同じだろうがタマモリリィが!
何だよ!神霊三騎めとか、勝たせる気あんのかてめぇ!」
『……そんなもの有るわけ無いと言ったのは誰だったかしらね』
「煩いセイバー、黙れ。というか、冠位含めてキャスター三騎?過剰もいい加減にしろと」
『まあ
臆した者から妾落ちするのです!というか、
鼻息も荒く、拳を振って身振り手振りで桃色狐が興奮する
脳裏に蘇るのは、フェイが探してくれた資料の一つ。確か、第三の聖杯戦争でヴァルトシュタインが呼んだのは、狐耳の少女を連れた帝。イチャつくとかリア充かと思ったが……
と、目の前の狐を見る。タマモリリィ。九尾の狐だったとも言われる玉藻の前、その
「……ああ、そうか、フェイ。その手にあるように見えたのは……」
『ええ。一時的に別所に移しましたが、取り戻して馴染ませておかないと面倒ですからね。アナタがワタシの部屋で見たものは、アナタ風に言えば旧セイバーの令呪です』
……肯定される
呼んで良いのかあんなもの、と思うのは、俺も
「サーヴァントがサーヴァントを持つのか?」
『サーヴァントがサーヴァントと二重契約してたアナタよりはマシですよ
まあ、もしも今からでも勝てないから諦めるというならば、
「……それもそうか」
だが、諦めるとは言わない
当たり前だ。俺に出来ることは諦めない事くらい。そうして此処まで来て、諦めたならばそこで死ぬ。息をしているだけの死体に成り下がる。完全に神巫雄輝は消える
……出来るわけがない。俺にあったのは、誰でも出来る諦めない事だけだったというのに……
獣の力は沸き上がらない。光通さぬ何処かにある本体とのリンクは、アサシンが半分持っていったせいかジャミングが酷くて上手く行かない。助け?ライダーが来るわけ無く、紫乃は来たら死ぬから来て欲しくはない。頼みの綱はミラだが、反旗を翻した裁定者なのだ、聖杯に近寄りたくはないだろう。希望は……正直無い気もしてくる
それでも、顔を上げ、フェイを見る
『と、まあ、おしゃべりはこれくらいにしましょうか』
「セイバー、
気が付けば、キャスターは聖杯に煮込まれていた。恐らくは聖杯戦争五日目、セイバーはキャスターが連れていったと言い、けれどもフェイがライダーが運んできたといったあの日のうちにフェイとライダーが実質撃破してしまっていたのだろう。だが、それでもまだサーヴァントは三騎も残っている。まず間違いなく、最終局面、ライダーを殺せば願いが叶うとなるギリギリまで、何だかんだフェイは……魔女モルガンは
『だから、あのバーサーカーなのですよ』
その瞬間、勝者を選ぶように、止められたランサーの手に、聖杯の器は飛び込んだ
『理解出来ましたか?正直気分が良い方法では無いですが、数万の魂を食らって聖杯に魂を回収させれば、サーヴァント1~2騎なら誤魔化せるという事です』
正直名前を言いたくない、隠していても大体分かる銀の狐がそう告げる
『まあ、良いです』
「……キャスター、もう要らぬ者達を片付けよ
今此処に、真なる聖杯戦争が幕をあけるのだ
勝つのは、
『ということで、正直勿体無いのでバーサーカーは使わず、何とかしてください』
『はいはい。サーヴァント使いの荒い事で』
結局、解決策なんて何も無くて
気が付くと俺達は、
……此処に、ザイフリート・ヴァルトシュタインの参加した第七次聖杯戦争は、聖杯による強制的なバーサーカー勝利にて、幕を閉じた
第二部、fake/startears fate Harvest Star Desire(ミラのニコラウス/モーガン・ル・フェイルート)へ続きます
考えはしましたが、多守紫乃/カッサンドラルートやヴァンパイアハンター/クリームヒルトルートは文章化予定は今のところありません。なので、半分意味の無い部分割となりますがお付き合い下さい。第二部ですが、別作品としてではなく、このまま続けます
因みにですが、紫乃ルートは5日目に覚醒せずアーチャーの救援を待つことで、クリームヒルトルートは最初にアサシンに名前を求められた時点で彼女をニアと呼び、令呪を得た時点で正式に契約したことを認める事で分岐します