Fake/startears fate   作:雨在新人

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十日目ー来訪する者

心地好く、目が覚めて……

 

 『お早う、マスターさん

 一日経ったよ』

 その言葉に、ぽかんと口を空ける

 

 確か私は、雲の中でふっと意識を失って……失って……

 それから先の記憶はない。歩いたのは数時間。この世界でも太陽は登っていて、まだまだ明るかったはずだから昼間。だとすれば本当に一日寝ていたのかもしれないほどに、空は明るい

 

 「……うん、お早う」

 『とりあえず、スープはあるけど飲む?』

 そういって金髪の少女は、両の手に持った白いマグカップを差し出す

 中に見えるのは、干した肉だろうか、茶色いものが浮かんだ琥珀色のスープ

 ……ミラちゃんは?

 聞こうとして思い出す。サーヴァントに御飯とか要らないんだっけ。かーくんは兎も角、アサシンちゃんとか、街で昼間見かけた時は何時も……といっても見かけたのも2回しか無いけれども、ハンバーガーをかじっていたから忘れてた

 

 「うん、有り難う」

 受け取って、驚く

 暖かい。寧ろ今の私の手には熱すぎる程に

 『……おれにはねーの?』

 『無いよ?必要ないでしょ?』

 『……違う!それは違うぞ

 

 女の子の、手料理が、必要ない男なんぞ居ねぇっ!』

 『はいはい。御免ね、わたしの願いを叶える力、必要ないものは叶えないから』

 くわっ!と目を見開いての旧アーチャーを、さらっとミラちゃんは流す

 それがちょっと可笑しくて。けれども悪いなと思って

 「……一口、要る?」

 『マスターが飲んでからなら間接キッスがあるんで、マスターの残りを貰う』

 提案して損した

 

 むすっとちょっとだけ唇を尖らせ、スープを飲む。そんな事言うスケベな人にはあげないって意思を込めて強く

 

 「熱っ!」

 ……熱かった。火傷するかと思った

 マグカップは思わず手放してしまい、宙を舞い……

 『っと』

 旧アーチャーが、一滴も溢さずに受け止める

 「……ご免なさい」

 『マスターさんが火傷しないのが一番。はい、水』

 『悪い悪い。ちょっと言うべきじゃ無かったわこれ』

 ミラちゃんから水を受け取って口のなかは事なきを得、旧アーチャーから返してもらったスープに、今度こそ気を付けて口を付ける。返す前に一口啜られたのは、もう気にしないことにして

 スープは美味しかった。何処から用意したんだろうってくらいにしっかりとした野菜の味に、アクセントとして細かく刻んだ玉葱と塩辛い肉そしてコーンのコンソメスープ。お腹が空いていた体に染みる

 「よく用意出来たね、ミラちゃん」

 『おかわりが必要なら言ってね、用意するから』

 「……出来るの?」

 首をかしげる。本当に、何処にあるんだろう

 『そりゃ、人間さんには美味しい御飯は不可欠でしょ?だったら、わたしに用意できない訳無いよね?』

 ちらっと見せた小さな白い袋から、ひょいっとミラちゃんはパンを取り出す。表面が軽く焼かれている、所謂食パンの一切れを

 ……うん、確かにそうかもしれない。私だって御飯は美味しいと良いなって思うし。食欲って確かに強い願いかもしれない

 ……けれども、サンタさんが取り出すプレゼントとしては凄くミスマッチだった

 

 『そうかな?』

 「えっ?」

 『いや、わたしが食材出すのが不思議って目してたからね

 かの救世主だって、水を葡萄酒に変えたりしたから何も可笑しくないと思うけど

 それに、生前のわたしだって定期的に恵まれない人達への炊き出しくらいしてたよ?』

 「定期的になんだ」

 『一回の施しじゃ、救いどころか悪魔だろ

 今度も救ってくれるさ、という悪魔の囁きに負けてしまう』

 「ヴィルヘルムさん、そういう……もの?」

 聞きながら、ミラちゃんから受け取ったパンを千切り、スープに浸して口へ

 芸の無い感想だけど美味しかった

 

 『そういうものさ

 たった一度の救いは、人々を破滅へと駆り立てる悪魔の所業

 ……たった一度の奇跡は、起こしてはいけないものなのかもしれないのさ』

 そう告げる旧アーチャーは、何か何時もと違う空気で……

 『んでよマスター、おれにもパン一切れくれ。しっかり女の子が口を付けたスープに浸してな』

 けれども、そんな空気、一瞬で吹き飛んだ

 

 

 「……結局、何も見付かってないんだ」

 スープを飲んだ後。私はミラちゃん達から昨日から今日にかけての収穫を聞いていた

 ふよふよと浮かぶ筋斗雲に座っていて、体勢は楽。乗りたそうに見ている旧アーチャーは、ちょっと近寄りにくいので気がつかないフリ

 

 収穫といっても、何もない

 じゃあ、どうしよう。というところで、私の耳にも足音が聞こえた

 

 「……誰?」

 『とりあえず、サーヴァントじゃないよ。問題があれば一瞬で片付けられる』

 「ま、まずは話を」

 『分かってるよマスターさん

 といっても、話が通じない場合に備えておくのは重要だよね』

 そんな話をしているうちに、消えてない足音は私達の居る場所まで来て……

 「す、スープを……」

 思いがけない言葉に、緊張なんて出来なかった

 

 「ふう」

 訪ねてきた男の人は、私も飲んだスープを口にして息を吐く

 「有り難う、助かったよ」

 そう告げる彼に、私は見覚えが……見覚えが……

 「えっと、誰?」

 欠片も無かった

 『とりあえず、足音消せない程度の奴だろ?』

 旧アーチャーの物騒な認識は置いておいても、不思議な人だった

 顔立ちは……かーくんには負ける、くらい。つまりはかなり良い。なかなかのイケメンさん

 でも……

 「頼む!力を貸してくれ」

 その彼との間に、ずっとミラちゃんが立ち塞がっている。私と彼を引き離すように

 両の腕を組んで、通さないよって

 

 『何の用かな、吸血鬼さん。まだ生きてるんだって驚きだけど、貴方の出るべき時じゃないと思うよ?』

 「確かにオレは吸血鬼だ。バーサーカーにそうされた

 けれども、それとこれとは……」

 「吸血……鬼」

 ミラちゃんの肩越しにちらっと見えたその瞳は、やっぱり真っ赤で

 「ひっ」

 やっぱり、怖い

 あの紅が、戒人さんを思い出してしまうから

 「こ、来ないで」

 きゅっと、手を握りこむ。その手に如意に延びる棒を延ばして握り、せめてもの抵抗をと

 

 『……魅了魔術かな、これは

 まっ、わたしに精神に作用する魔術なんて一切効かないけどね、マスターさんには効くからマスターさんはわたしの後ろから離れないでね

 ……それで、もう一度聞くよ。何の用かな、吸血鬼さん』

 バチバチと、静電気が走る音がする。ミラちゃんの回りで、細かいスパークが走る

 「オレはただ、協力してもらおうと……」

 『喧嘩売ってるようにしか見えないんだが?』

 『売りに来たなら買うよ?』

 「止めてくれよ!」

 「だ、大丈夫。話なら、聞くから」

 怖いけれども。それでも

 如意棒を握っていたら、話を聞く勇気は出た。まるでかーくんに手を握ってもらってた時みたいに、あんまり怖くない。違う、怖いけど大丈夫って信頼出来る

 

 「キャスターを、助けてくれ」

 『うん、無理』

 意を決したように告げられた一言は、ばっさりと旧アーチャーに切り捨てられた

 切り捨てなければ、きっと私がそう言っていた

 「頼む!オレでは救えないんだ!」

 『誰でも救えねぇよあんなの!幾ら尽くしてくれる美少女でもあんな魔女は御免だわ』

 あれ?と違和感を覚える

 ミラちゃんが、何も言わないことに

 

 『……うん。確かに、ね

 貴方は、その為にまだ残ってるの?』

 「……キャスターを、救ってくれ」

 『やだよ

 キャスターさんをちょっとでも救えるのは、マスターの貴方だけだよ』

 ……何か、違う?

 『待てよ金髪のねーちゃん

 おれの勘違いじゃなければ、そいつ……クライノートの奴だろ?』

 「クライノート?」

 『うん、ちがうよ?

 クライノート・ヴァルトシュタインさんは、今回の仕掛人の一人。旧キャスターさんのマスターで、ヴァルトシュタインの祖

 だけど彼は別人。思い出してみて

 この聖杯戦争に、キャスターは他に居るよね?』

 言われて、思い出す

 全然会わなかったキャスターの事を

 アーチャーは面倒な相手と言っていた、ギリシアの……反英雄?だっけ

 

 「第七次の方?」

 『うんうん、モルガンじゃなくてカッサンドラさんの方

 男は裏切るから裏切らない人形にしてしまえって良い感じに精神病んじゃってたから、わたしもあんまり近付いてないけどね』

 「……そんな真名だったんだ……」

 アーチャーに抱えられて、かーくんを助けに入ったときに見かけた……かな?ってくらいで、本当に分からない

 『カッサンドラ……うん、やべぇわ

 願い下げだなそりゃ』

 「……ならば

 キャスターを、助ける為に、手を貸してくれ」

 『まっ、バーサーカーさん自体は滅んでるし、吸血鬼とはいえ制御される事はないかな

 マスターさんが良ければ、不穏な動きをしない限り手助けすることに異論はないよ』

 『可愛い子がちゅーしてくれるってなら……と言いたいけどよ

 間接的にやっちまったからオマケして従ってやるぜ?』

 サーヴァント二人は、やっぱり私に最後の選択を投げる

 正直、よく分からない。けれども、助けないって言ったらミラちゃんが神鳴消し飛ばすだろう

 ……吸血鬼なんてそうで良いじゃんって気持ちはある。吸血鬼は、戒人さんを苦しめたんだし

 

 ……でも

 「まず、話を聞かせて」

 まずは、しっかりと事情を聞かないと始まらない

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