Fake/startears fate   作:雨在新人

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二日目断章 騎士と魔術師

ヴァルトシュタインの人形とアーチャー陣営が教会に消えてから暫くして

 

 近付いてくる二つの気配に、私は犢皮紙(ヴェラム)の束から顔を上げた。幼少より幾度となく、擦り切れてからも目を通したそれを閉じ、前を見据える

 森の入り口側から、一組の男女がやって来るのが見えた

 見覚えは無い。魔術の素養が欠片も無ければ入れぬヴァルトシュタインの森に入ってきている以上、彼等はほぼ間違いなくサーヴァントとマスターだ。ランサーか、或いはキャスター陣営といった所であろうか

 腰かけていた折れた木から立ち上がる。真正面からやって来る以上即座に敵対する気はないと思えるものの、隙を晒す趣味はない

 

 『そこの二人、真っ直ぐ向かってくるという事は私に用があるのであろう』

 彼等に先んじて、私はそう声をかけた

 近付いた事で魔力を感知しやすくなっている。サーヴァントは……少女の方だ

 「ライダー、この」

 と、マスターであろう男は傍らの少女の方へと一度視線を向ける

 「キャスターが話があるらしいんだ」

 そう、彼は告げた

 

 サーヴァントであろう少女を観察する。着ているものは白いシンプルなワンピース、現代で得た服であろうもの。真名の推測には何も役立たない

 茶髪ではあるが西洋風の顔立ちを持ち、白いワンピースから覗く手足は触れれば折れてしまいそうに細い。やはり(いず)れも真名に繋がるであろう要素では無い。私が友を呼んでいないように、明らかな特徴を持つ何かを隠しているのかもしれないが、隠されていては伺い知れない

 ただ、焦点の明らかに合っていない虚ろな瞳と、完全な無表情。英霊とはいえ相当に整った……それこそ神や王に見初められそうな顔立ちであるだけに、人形のような雰囲気を纏っているのが気になった

 

 『……マスターの代わりに話を受けよう。手短に頼む』

 マスターは、ドゥンケルは此処に居ない。サーヴァント自体が嫌いだという彼とは基本的にそれなりの距離を取り、命令はされるものの命令が無い限り単独での判断が認められている。自由にやって良い……というのは有り難いが、騎士としては仕え甲斐が無い。とはいえ、彼に仕える必要が無くて嬉しくないといえばそれも嘘になる

 「おっ、話がわかるな」

 やはり応えるのは男の方だ。一言も、キャスターは言葉を発してはいない

 「提案としては、向こう相手に手を組まないかって事だ」

 言い出したのは同盟の誘いだった

 バーサーカーとは不干渉である事を知ってのことだろうか

 『何故私に?』

 探りを入れてみる事にする

 「いや、セイバーとアーチャーが手を組むから、キャスターの目的的に協力者が欲しいんだよ」

 手を組むかどうかは彼等が……というよりも、アーチャーのマスターが今悩んでいる事だろうに、さもそれが既に確定事項であるかのように彼はそう告げた

 『同盟を組むと言い切れる根拠は?』

 「知ってるからさ、キャスターは」

 直感や啓示、或いは千里眼の類いであろうか。我が王もまた、希に未来を知っているかのような動きを見せたことがある。馬鹿の戯れ言(ざれごと)と切り捨てるのは簡単だが、今はそれは悪手であろう

 いや、そもそも、彼等はあの場面を見ていなかったようにも思える。あの人形をセイバーとしているのは気になるが、それで彼等が同盟を組むと言い出せるという事は、或いは本当に……

 「そうして、一番同盟しやすいのはアンタだった訳だよ、騎士ガウェイン」

 訂正。彼は馬鹿だ。私を自信満々にガウェインと間違える等、馬鹿にしか出来ない

 

 私は、と否定しかける自分を止める

 馬鹿だ、と切り捨ててはいけない。彼等の目的は、わざとガウェインと間違え、私から情報を引き出す事である可能性もあるのだから

 

 「えっ?違う?ガウェインじゃない?今から言うことを信じるなって最初に言った?」

 そんな私の無駄な考察を他所に何も語らぬ少女相手に、マスターの男は眼をしばたかせていた

 ……結論。マスター側は間違いなく馬鹿だ。が、サーヴァントの方はそうでも無いらしい

 「いやでも、セイバーのアレはジークフリートで、アーチャーはルドラで、ライダーはガウェインだって」

 相変わらず、男は混乱している

 隙は大きい。素人だ。私がその気ならばきっと殺せている

 

 ……恐らく、ヴァルトシュタインの聖杯が選んだ生け贄としての魔術師。ヴァルトシュタインの元にあるそれは、ヴァルトシュタインの勝利を後押しするらしいので、多分彼は倒される為に選ばれた、アーチャーのマスターの同類だ

 だが、あのアーチャーが顕現したように、その反則気味の勝利を止める為であるかのように強大なサーヴァントが呼ばれる自浄作用もかの聖杯にはある……という

 私自身はガウェインやランスロット卿、そして我が王といった本物の強き騎士を知るが故、自分がそれに当てはまる……という程自惚れられないが、このキャスターはそうである可能性がある。決して、言葉を発せず目立たぬからと彼女を侮ってはならない

 

 『私については良い。それで、此方への見返りは?』

 「あのアーチャー相手にする際に、手を貸すぜ」

 『……それだけか』

 「いやー悪いな、キャスターにも聖杯で叶えたい切なる願いってもんはあるのよ。それはもう、奇跡でも起きないとどうしようもない願いが」

 『それはそうだ。私にも叶えるべき願いがある』

 私は円卓の末席。カムランに間に合わなかった、王の最期に立ち会う事すら出来なかった、勇名に相応しくない騎士。だからこそ、私は願うのだ。王が求めた聖杯を

 剣を抜き放ち、キャスターの眼前に突き付ける

 キャスターは微動だにしない。分かっているのだろう、私が今自分を斬る気は無いと

 「それが聖剣……」

 違う。これは星の聖剣ではなく、あえて言うならば大地に属する剣。母が地竜の素材を使い星の聖剣を目指して改造するも届く事は無かった、ある人の帰還の呪い(いのり)の籠った竜殺しの剣。だが、告げる意味はない

 『この剣の力を望むなら一つ聞こう、キャスター。私の協力で、君が望むものは何だ』

 キャスターは答えない

 いや、答えたのかもしれない。それはあまりにも細い声で、しっかりとは聞き取れなかったのだが

 

 ……守って……くれる……最強の……人形(ますたー)

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