偉丈夫が、馬上で手にした剣を構える
せめて何か出来ないかなって、効くとも思えない
「な、何!?何なの!?」
その、異変に気が付いた
空が、白い
そんなのは当たり前の事……な、訳はない。ミラちゃんと旧ランサーの居る場所から逃げ出したその時、天気は晴れだった。それは確か
だけれども、こんな真っ白じゃなかった
空はまるで、白いペンキで塗り潰してしまったかのように、雲もなくて、それなのに真っ白だった
……いや、違った。そんな色の無い空に、たった二つ、二つだけ色があった
二つの星だけが、空に輝いていた
「……真昼の、月……?」
一つは、普通の空模様では見えるはずの無いもの。一切欠けていない、蒼く光を放つ満月。有り得ない、昼間に月が登るわけがない、なんて事はない。昼間に登る時期もある。けれども、それは欠けた月。その姿の幾らかを影に隠したものだけ。満月が真昼に、太陽があるはずの場所まで登るなんて有り得ない
そしてもう一つは……空に輝く、軍神の星。紅の光を湛え、幾度となく空に見た、勝利の星
「
どんな時に、あの星は輝いていただろう
その事を思い出そうとして、一瞬で辿り着く
時の止まった灰色の空にも、あの星は色を保っていたから
……そう、あの星は……
かーくんが、バケモノになってしまっている時に、強く輝いていた
「かーくん、なの……?」
その呟きは、空に消えて
『今』
『了解!』
アサシンちゃんの合図と共に、ミラちゃんが私を腕にひっかけるようにしてジャンプ。そのまま、旧ライダーさんも空に気を取られている間に、その場を離れる
「ミラちゃん!?アサシンちゃん!?」
『ストップ、マスターさん
彼は味方にならないよ、だから、逃げるが勝ち!』
『「ボク」の希望のサーヴァント、クリームヒルトを溺愛する駄目亭主
その愛妻を縛るマスターの恋人(?)、機嫌が良い訳がない』
「でも、セイバーさんは」
『行きなさい、そこのマスター
貴女達が自称バーサーカーと化したランサーを勝手に討たない限り、私は何も言わないから
あの夫を止めといてあげるわ、だから勝手にあの
私は、あんな星の危機を直接見るのも御免だから此処に残るわ』
取り合う気もなく、セイバーさんは銀髪を揺らした
『おっけー、任せておいてよ!
って、言いたいんだけどね』
『問題ない。「ミー」が必ず
例え裁定者が裏切っても、「ボク」が護る、成し遂げる
今度こそ』
私にはやっぱりちょっとついていけないけれども、かーくんを助けることを託されたって、それだけは解った
それだけの会話を交わし、私を抱えたミラちゃん達は、空を舞った
「それでミラちゃん、此処は?」
辿り着いたのは、良く分からない場所だった
燃え盛る山
何だっけ、南の方……だったかな
それは、山じゃなくて城だった気がしたけど、山の上の城の事?
混乱する私に、ミラちゃんは苦笑する
『アサシンさんの領域、百鬼の城
……の、はずなんだけどね』
「燃えてるよ?」
『……攻められた』
「誰が?」
『分からない』
アサシンちゃんは首を振った
空が、赤い。明々と燃える火で、百鬼夜行の場として常に夜になっているらしい空が、酷く明るく見えた
けれどももう、空は白くはなかった
『っ、と』
背中にべったりと血の付いた少年……確か
「……その人、大丈夫なの?」
『血でコウモリの羽根生やしてたのが、途中で力尽きただけだから問題なし
いやー、にしても囮は疲れたわー』
『うん、お疲れ
はい、水。お礼はこれで良いかな?』
『もっと無いの?
そこの新顔ちゃんを紹介してくれるとかさ!』
『無いよ』
『お断り』
「ちょっと無理じゃないかな」
『サーヴァント使いが荒い。マゾヒストでないから辛いぞこれ』
ちゃかすようにしながら、旧アーチャーは空を見上げた
『それで?どうなってるんだこれ』
「誰も知らないよ」
と、私は肩を竦めてみせる
『寧ろ、白い空に関して、そっちなら何か見たんじゃないかな?』
『おお、良く聴いてくれた
お代は』
『頭撫で撫で以上ならぼったくりとして訴えるからそのつもりで値札付け宜しくね』
『よし、じゃあ新入りちゃんの紹介も兼ねてその子指名するわ』
言いながら、少し腰を屈める
ちょうど良くなった頭髪を、無感動にアサシンちゃんがくしゃっと混ぜた
『サーヴァント、アサシン。今の「ボク等」の固有識別名として、ニア、という名前を貰った』
『ニアちゃんか。本名は?』
『忘れた』
『ってオイ!サーヴァントが自分の真名を忘れるかよ!』
『
そういった夜の魔の狩人の誰か、「わたし」はそういうもの。誰なのか、「オレ」も知らない。きっと、「ボク」が誰なのか、定まってすらいない。混ざりあった、どんな場面でもちょうど良い、どんな吸血鬼にも対応出来るような概念の擬人化
……だから、ニア。希望に貰ったその名前だけが、今の「ボク」の真名。敢えて言うなら、そう』
『なるほどねぇー』
頭を撫でられて目を細め、旧アーチャーは笑う
『第七次ってのも、カオスだった訳か』
「うん、まあ」
アーチャーとか、オレはお買い得な上級サーヴァントよ、って言っててその通りだったし。かーくんが居なくても、バーサーカーとかカオスって言っても仕方ない
『けどよ。考えてみりゃ今回も似たようなモンか
あのキチガイセイバーとキチガイキャスターが居るんだしよ』
ああもういい、堪能したと満足げに頷きながら、旧アーチャーはそう続けた
『見たの?』
『ちょいとだけ、な
仮面を被った……んまあ、恐らくはセイバーだろうサーヴァントの野郎を』
「どんな人だったの?」
『仮面でようわかんねえって感じだけどよ
腕から出たビームソードで倒せるよ?ってそこのねーちゃんが笑ってた風神雷神を消し飛ばしてた』
「はい?」
首を捻る
ビームソード?確かにセイバーっぽいけど、そんなの昔の英雄に……
居そう。アーチャーだって自分で言ってた事によると一応インド神話の半神みたいなものらしいし、主君とか居たらしいし、同類ならきっと出来る。何ならアーチャーもやろうと思えば南国の大王様の名前の付いたビームくらい出せそうだし。アーチャーが聞いたら、やった方が良かった?なんてきっと言っていただろう
『インドラやスーリヤならぶんまわしてるの見たことあるし、その息子達もたぶん撃てるぜ?ってか、ビームってかレーザーソードなら此処の国の太陽神辺りだって鏡使ってぶんぶん出来るぞ?神霊なら光に関係ありゃ使える基本事項、円卓辺りでも割と標準装備だからビームソードってだけならアテになんねぇよ』とか、そんな幻聴を聴いた。うん、言いそう
『その、光って……赤?』
『いんや、白かった』
『じゃあ、光を使ったものかな?』
『いや、違う。絶対に外れないはずの矢を、此方の宝具を巻き込んであっさり消し飛ばしたからな
理由は分からないけれども手に光が集約して、理屈は知らないけど相手は斬られて、何でか理解出来ないけれども、斬られた相手は負けた事になる。物理的な破壊力じゃねぇよあんなん。因果操作だ。此方の宝具と同質で、もっとタチが悪い
神霊かっての!』
「因果操作?出来るの?」
『わたしの宝具もそうだし、アサシンちゃんのも対吸血鬼に関してはそう。他には今回は召喚されてないけれども、クランの猛犬さんとか、有名所で何人か持ってるね』
あっけからんと、ミラちゃんは言った
『それにしても、良く解ったね?因果操作だって』
『家の宝具もそうだからよ
んで、ねーちゃんはあのインチキセイバーの真名に心当たりはあるか?』
その言葉に、ミラちゃんは静かに目を伏せた
『紅だったら、多分ビーストⅡなんだろうなって答えたんだけどね。白いとなると、わたしにもちょっと
『勝利』って考えると……軍神系統かな?』
『ひっでぇなオイ。軍神とか基本的に呼んだ時点で勝ちだろ、反則イケナイ』
『そこの』
と、アサシンちゃんは驚き顔の旧アーチャーに抱えられた少年を示す
『キャスターには、軍神が降りてた』
『既にもう一柱居たのかよオイィィッ!
もうやだ、ねーちゃん達と引きこもりたい』
『はいはい。兎に角、見たこと無いと何とも言えないね』
ミラちゃんは、そのまま燃え盛る城を見る
『それで、マスターさん。どうする?このまま何処かへいく?それとも、あそこの城へ行ってみる?』