Fake/startears fate   作:雨在新人

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何はともあれ、福袋から出てくるマーリンはシスベシフォウ次第である。お前の一応の嫁をヒロインの片割れに据えてるからって抗議の為に出てこなくても良いぞマーリン。既に重なってるのに
ガチャから出てこないマーリンはシスベシフォウ。出てきたマーリンはカロウシスベシフォウ。すなわち、マーリンこれすなわちシスベシフォウなのである(カト・フォウソリウス〔大フォウ〕の言葉より抜粋)


十一日目断章 降り立つは双獣

『……良いから、殺されなさいよ!』

 空へ向けて、更に一発

 

 『<喪われし財宝・幻想大剣・天魔失墜(ニーベルング・バルムンク)>っ!』

 放つのは、黄昏の剣気。飛翔する彼女にピンポイントに鏖殺の剣を叩き込むなんて、私の腕では無理だからドーム状に放つあの人の剣の方。私も飛べればその限りではなかったけれども、残念ながらニーベルング族の財宝に、真っ当な速度で空を飛ぶ事が出来るようになる宝物は一つしかない。<黄金鱗火(アンドヴァンリ)>、持つものを財宝を守る竜に変える黄金。あれは、使いたくはない。バカにした彼女のような醜い化け物に成り下がるから。あの人は、その影響すら格好良く昇華していたけれども。私は竜殺しの英雄ではないから、無理。少なくとも、ファフニールや道具(マスター)のような邪竜に成り果ててまで空を飛ぶのは却下したい

 幻想大剣は人を殺すための剣ではないし、再現であり本物の剣でもないから火力は大きく下がる、一撃では恐らくは殺せない。だとしても、ならば死ぬまで撃ち続ければ殺せると考えれば良いだけ。流石に、私が勝手に見た悪夢の中で、能ある猿は棒を隠すってな!と幾千幾万幾億の如意棒レプリカを宇宙空間から地表に絨毯爆撃していたアーチャー程の連発は出来ないだろうけれども、一発の宝具で足りないなら十発の宝具を撃てば良い

 けれども、

 

 『<偽・月王顕す契約(プリズム・レガリア)>ァァッ!』

 黄昏の剣気すらも、その叫びと共に吹き上がる炎に掻き消されて空しく空に散るだけ

 届かない。何処までも、届くことはなく。絶対的な壁として、彼女は其所にただ飛翔する

 

 嘲笑う。悪魔が嗤う

 この私を、どうしようもないバカだと、世界が嗤う

 勝てるはずもない。どうやって、勝てというのだ。眼前で、蒼炎の翼をくゆらせる化け物は、あの化け物(ザイフリート)の同類だろうに

 『それ、でもよっ!』

 手に痛いほどに握り込んだ剣の柄を振り上げる

 『<悪相大剣(バル)……』

 『無駄ぁっ!』

 けれども、振り下ろす前に、上空から炎の槍を振るわれ、剣を手から弾き飛ばされる

 剣は宙を舞い、城壁に深く突き刺さって止まった

 だからといって、回収に行くような手は、私にはない

 

 『ここまで、来て!』

 あの人の剣を呼び出す。私の覚えている財宝を呼び出し続け、負荷で頭が割れるように痛い。けれども、眼前に居る仇を、この手で殺せない心の痛みに比べたら、こんなもの何でもない!はずだった

 『無駄無駄無駄ぁっ!』

 『きゃっ!』

 なのに

 そのはず、なのに

 体が動かない。周囲に撒き散らされる炎に、びくっとして縮こまる。立たなければ、あの人の仇を討てないのに

 眼前のバーサーカーの唇がつり上がる。威勢だけであった私を、見下して

 それでも、もう何も出来ず

 

 『さようなら』

 『<喪われし財宝(ニーベルング)>』

 それでも、せめて

 と、あの人の剣を手に、振り下ろされる焔を纏った槍に立ち向かおうとして……

 

 「<悪相大剣・人神鏖殺(バルムンク)>」

 されど、その軌跡は、横殴りに放たれた剣気によって歪められた。私を、貫くはずだった軌道から

 捻じ曲がる。死の運命が

 それは、あの日。私が召喚に応じた際の再現のようで。けれども、違う。私は護られる側で

 

 ……ならば、だ。立場が逆だというならば、来るのは彼しか居ない

 「俺を呼んだのはお前か?クリームヒルト」

 『呼んでないわよ、貴方なんて。自意識過剰は大概にしてもらえるかしら

 最期の時、私が呼ぶのはあの人の名前だけよ』

 「最期じゃないなら、呼んでくれても良いだろうに」

 一人の男が、其所に立っている。吹き飛ばされ城壁に飾られたオブジェになっていた大剣を、両手用だというのにその右手に軽く携えた男性が

 

 『ジィク、フリィィィィトォォォッ!』

 歓喜の咆哮が、城壁を震わせた

 「ザイフリート・ヴァルトシュタインだ」

 『ジークフリート、殺す!』

 「って、聞いてないか」

 『それで道具(マスター)、何故来たの?』

 当然の疑問

 それに対して少年は、どこか呆けた顔で答えた

 「呼ばれてる、気がしたから」

 『頭でもイカれたのかしら?』

 「とっくの昔(一年前)に、イカれてるよ

 そうでなければ、こんな俺(ザイフリート)なんてやるものか。イカれだからこそ、俺は消えず、今此処に居る」

 

 「で、何故あいつが俺みたいな翼を生やしてるんだ?」

 『さあ?私が聞きたいわ』

 吐き捨てるように、私は返す

 その間、バーサーカーは自身の周囲に焔を集めていた。直ぐには、襲ってこないで、力を貯める。何かを、待つように

 

 『何を待ってるのかしら、お馬鹿さん』

 『悪魔……ドラゴン……ジークフリート……』

 「まあ、良いか」

 潰れた右目に、蒼炎とはまた感じの異なる蒼光を湛え、少年はその胸の前に、一枚の黒いカードを呼び寄せ浮かべる

 「夢幻召喚(インストール)

 少年の姿が変わる。眼前の化け物と同じ、翼を広げた姿に

 

 『道具(マスター)、翼はどうしたのかしら?』

 「……出せるのが、片翼になっていた」

 そう。けれども、その変貌は半端であった。本来のバーサーカーとの決戦の日に見せた銀翼ではない。何時もちょっかいをかけてきたうざったいルーラーとあの道具(マスター)が殴りあった日の、血色の両翼でもない。右だけが肥大化した、不気味な血で出来た角。背に背負うバックパック状に展開した、左翼。けれども、変化はそれだけ。その半端さが、逆に不気味と言えなくもないけれども

 

 『<偽・月王顕す契約(プリズム・レガリア)>……』

 化け物が纏う炎が、槍を中核に大きく膨れ上がる。噴き上げるような蒼炎、揺らめく双翼、流星の如く

 『<死が分断つ悲愛の理(ブリュンヒルト・トラジェティ)>!』

 だが、潰れた片眼で笑う少年は、それをただ、静かに見据える

 数秒の後、落ちてくる焔が、自身を、そして私も焼き払うだろうに。ただ静かに、残った左目で、空を見据える

 「何だ。やっぱり、同類か。ならば、星の怒りに灼かれて死ね」

 宙に、もう一枚の黒いカードが、突如として現れる

 「限定展開(インクルード)

 カードが変質し、現れるのは一つのキューブ

 限定展開、という言葉からして、夢幻召喚の下位、クラスカードだか何だかの武器を呼び出すようなものかしら。恐らくは、私の<喪われし財宝>と似たようなもの

 けれども、それで呼び出されたのは、武器とは思えないキューブ。とはいえ、それには見覚えがある。アーチャーとの決戦日、あそこから銀翼を翻した星の敵(マスター)は蒼光を放ち、神の杖なんてインチキ宝具を何とか止めたのだ

 「暁は遥か夢の果て 涙を祓うは旭光の吐息

 破壊せよ、<竜血収束・崩極点剣(オーバークランチ・バルムンク)>」

 吹き上がる旭光が、私の視界を焼いた


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