視界が晴れない。旭光が、目をしばたかせても尚視界を埋めている
『貴方の状態でも撃てたのね、それ』
「その気になれば、ミラとやりあった時からずっと撃てたよ。単純に、俺から別の相手に向けての誘導が効く状態でなければ単なる自殺にしかならないから撃たないだけだ。あれは俺を殺す為の星の怒りだからな
少なくとも、ミラ相手にはどうあがいても俺からターゲットをずらせなかった」
事も無げに、少年は語る
『なら、彼女へ向けては出来たの?』
「銀の状態の俺は、強引に他へ向けてぶっぱなせる。今の俺でも、自身の魔力の大半を集約させてビーコンにすれば何とか撃てる
けれども、あの
『同じ力が原泉だから、かしら?』
「ああ
何もせずとも、勝手にあちらを滅ぼすべき星の敵認識してターゲットしてくれた。だからこそ、あれは俺と同質の存在だと確信した。そして、遠慮なく撃たせて貰ったという訳だ」
『殺してないわよね、
「さあな」
『折角、なくなったと思った復讐の機会が帰ってきたのよ。今度は貴方が奪うなんて、許さない』
「俺は殺す気で撃った。俺と同類ならば、生きていてもおかしくはない。寧ろ、生きている方が普通だな。死んでいて欲しいが
それだけだ」
とりつくしまもなく、少年は吐き捨て……そして、手にした剣を構える
「……まあ、こんな程度で殺せていれば、何の苦労もない、か」
『ジークフリートォォッ!』
光を打ち消すように、蒼炎が吹き上がる
「さて、と
逃げるか、セイバー」
それを見て、少年は踵を返した
『ちょっ、
訳が分からなくて、つい声が上擦る
「俺は、呼び声が何なのか確かめに来ただけだ
それがお前なのか、それとも違うのか
同種の力を何故か持っているバカ、という事を確認した以上、居る意味はない」
『逃げるというの!』
「ブリュンヒルトに、勝つんじゃなかったのか。クリームヒルト」
『死ねぇぇっ!』
手にした
爆発。連鎖。更に爆裂。炸裂
止まらず、炎の華が受け止めた少年の周囲に咲き続ける
……まだランサーだったころに見た、憎悪の炎の爆発だ。あんなにも、つよいものだったなんて、まともに剣を合わせなかったから知らなかった
「撃ち落とせ、
ドーム状に黄昏の剣気が拡がる。それが、槍や翼を押し戻してゆく
「勝ち目の無い戦を仕掛けての犬死にがお好みか!
自分一人では遺産すら奪われ何も出来ない。だから、勝てる時まで、別に愛しているわけでもないアルテラと結婚してでも、復讐を果たすために、待ったんじゃなかったのか!」
私へ向けて、少年は叫ぶ
周囲に、血色の光が見えた。そういえば、鎧にも使えたわねあの光
……だが、そもそもバーサーカーの翼は、彼と違い片翼ではない
受け止められなかった、三本目の剣、左翼が……断頭台のように、その背から振り下ろされる。過たず、その剣は剣気展開の為に突き出された手首を狙い、そして、跳ねた
更に追撃の爆発。支えを失った剣が、それに煽られて宙を舞う
……だが、それで止まるような、少年ではなかった
斬り飛ばされた右手首に、紅の光が宿る。あのバカの力は、血に由来する。だからこそ、追い込まれて血まみれの状態で、ルーラーやアーチャーそして吸血鬼のバーサーカーとまで、やりあってきた。そう、斬り飛ばされた。それだけだ。新たな断面から、手に残った血が吹き出し、彼の
「セイバー、大切なものだろ、無くすなよ!」
靴に石を詰めて無くした足代わりにしたものは、既に炎に焼かれて意味をなさなくなっている。ぼろきれのようになった靴で、宙を舞う私の剣を私へ向けて蹴り飛ばし、手だけを回収
そのまま少年は翼を噴かせ、天へと右手を掲げる
その手首が、螺旋の風を放つ。無駄に回転しているのだ。その先にある手は、バカみたいな紅の光を放ち、更にはかつて完全に化け物になった際のように、銀鱗に覆われていて
「
その回転はそのままに、振り上げた拳を引き、ロケットパンチだかの要領で、右手を撃ち放った
……何だろう。あの人の夢を見るとホテルに引きこもっても寝られず、何となく付けたテレビとやらで、胸にライオンが付いてる謎の黒い動物合体ロボットが似たような事やってたような
バーサーカーは、避けない。避ける必要が、まず無いのだろう
何故ならば、当たれば反撃する、当てれば追撃する。彼女が、
……だけれども、そんなもの、普通の場合の話。
紅の光を纏った拳は、螺旋の風を軌跡に残しながら女だと一応認識できる化け物に激突。火花を散らし……
その腕に残された令呪の痕に、血が走る。今尚手に残る令呪という強力な魔術を導線に、魔力爆発を起こす
『……良くやるわね
「令呪の宿る手さえあれば、令呪を移植してマスター権限を奪えるかもしれない。だが、逆に言えば手が斬られただけではマスター権限はそのまま、リンクも繋がる。そう、神父様は言っていた。要は、他人が令呪を奪い取る事でしかマスター権限は委譲されない
ならば!三画とも使いきっている今、令呪のある手そのもの自体なんぞ令呪痕という使い捨て魔力爆弾が搭載された便利なパーツに過ぎない
斬られたなら捨てても良い、それだけだ」
いや、その理屈は可笑しい
というか、何で平然としてるのよこのバカは。自分の手を斬られたのよ?そもそも、あの面倒臭いルーラーに左腕を消し飛ばされ、両の足は水晶に閉ざされた時に
「下がるぞ、セイバー、良いな?」
低い声で、少年は言った
私は、流石にそれに頷き、剣を収納して、飛び去ろうとする少年の右腕に捕まるしか無かった
『此処で良いわ』
「此処は旧ライダーの領域だろう」
『だから、此処で良いのよ。馬鹿かしら』
「……命の恩人相手だろう、少しは静かにしろ」
『……貴方への貸し、いくつあったかしら?』
私の言葉に、少しだけ少年は迷い、飛翔の高度を下げてゆく
私は、充分下がったところで、少年の手を離す。既に両の手を喪っている
財宝の靴で、落下速度を落として着地。宙に浮かべるから、ブースターを噴かせて先に近くの地面に着地した少年相手にも足は見せない。そんなスカートをめくるような着地なんて無様は晒さない。私の足は他人への見世物ではないのだから。他人でないならば兎も角。というか、サンタクロースの服装だと足が見えるルーラーや、あのブリュンヒルト等は良くもまあ晒せるものだと思う。恥ずかしくないのだろうか
『じゃあね、見送りなんて要らなかったわよ、
「……行くのか、結局」
『ええ。貴方の言う通り、私は復讐を今度こそ果たすために、あの名目上の夫の所に帰るわ』
「夫だろうに、ひどい扱いだな」
『向こうが嫁に来いと言ったのよ。それに私は乗っただけ。私の心はあの人のもの、その意思表示として喪に服しつづけていたというのに、わざわざ向こうから騙されに来たのだもの、文句なんて言わせないわ』
くすり、と笑う
「そう、か
……俺の目的は、あのバーサーカーが消え去った果てにしか無い。お前の目的は、あのバーサーカーを倒す……いや、殺すこと。俺は、別に自分の手で倒す必要はない」
『何が言いたいのかしら、
「戦うとき、俺を呼べ
どうせ、マスターとサーヴァントだ。魔力を込めて叫べば分かる」
『ええ。考えておくわ』
その言葉に安堵したのか、ふぅ、と息を吐いて、少年は
「<
いや、違うな。あれが、俺の二匹目のドジョウを目指して作られたシリーズの心臓なのだとしたら……。偽、ではない、あの日
『
少年は、何事か言葉をぶつぶつと口のなかで転がす
その無いはずの空虚な右瞳には、やはりというか蒼炎とは間違いなく感じの違う蒼い光が集まり……
「顕象せよ、我が虚空の果ての宿星よ 刻を渡りて、遊び
力を貸せ、
瞬時、少年は獣と化す。銀の片翼が、私の視界を埋めるように翻る。喪ったはずの右手は、既に籠手に覆われていて
「
銀の流れ星が私の真横から駆け上がり、落ちてきた蒼い流星と激突した
知らなかったのか?星の敵からは逃げられない
まあ、逃がす意味がない限り、傷付いてサーヴァントから逃げたとして追ってきますよねという話。聖杯戦争なんて殺し合いなんで。寧ろ今まで追わない理由がある(フェイの為に殺すまではいけないライダー、出来れば見逃したいルーラー)相手ばかりから逃げてたのが異例の幸運という