そうして、流れ星はそのまま私の横、数十mほどの場所に墜落する
大地が軽く揺れ、僅かに体勢を崩しかける。けれども、何事もなく復帰
単純な出力負けの形。落ちてくる彼女を止めようとして、速度が足りずに自分毎落とされた
正直な話、少し珍しい。獣……ビーストⅡを名乗る銀翼の状態の
「<
『ジィィィクフリィィトォォッ!』
二人の眼中に、私はない。銀の片翼を翻す悪魔と、蒼い焔の翼を携えた戦乙女は、二人きりの世界に浸っている
乙女は、憎き者を殺すために。悪魔は、ただ単純に、眼前に居る敵が邪魔だから。どこまでも噛み合わず、そもそも乙女が狙うべき
悪魔が、籠手に覆われた手の平から、紅の光を噴出させ、手刀として心臓へ向けて真っ直ぐに突き出す。けれども、バーサーカーがドレスのように纏った蒼い炎がそれを赦さず、胸元で剣は止められ、無数の爆風が銀と紅の悪魔を襲う
あの焔の類似を見たことはある。常時鎧のように纏っていた訳ではないけれども、銀翼……いや、紅の翼を拡げた状態の
銀翼、反転。それを意に介さず、爆風の中、悪魔の翼が肩越しに逆方向へ展開。ブースターを噴射口へ、そこから溢れ出すのは紅の……爆光
空中に、更に大きな花火のような光が爆ぜた。けれども、それは毒々しい紅、血色の光
かつて、幾多の攻撃から彼の致命傷を防いでいた光鎧の類似品であろうが耐えきれなかったのだろう、蒼い星が今度は打ち落とされ、地面に軽く凹みを作る
『私を、無視、しないで!』
剣を振り上げ、叫ぶ
届かないなんて、知っているけれど。サーヴァントでも、あの二人の間に入れば死ぬだろうなんて、分かってはいるけれども
それでも、見てるだけなんて自分が許せない
『<
選択するのは、あの人の剣。
気分がハイになる。何だってできる、そういった万能感すらも感じる。実際にはそんな訳はないと知っているけれども、この尽きぬ魔力を使えば或いはなんて思えてしまう。それが、あの
全く、笑える話ね、と苦笑するしかない。サーヴァントを越え、聖杯に匹敵する魔力量。いつの頃からか……いや、分かってる。バーサーカー戦で、一度水晶に呑み込まれた後だ。それ以降、ずっとこの状態。それ以前も銀翼に変わった際は魔力の限界を感じなかったけれども、今はもう、魔力に際限があった頃の感覚が思い出せ無い。サーヴァントとマスター、どちらも最低限の戦力になるのは数敵有利を取れるけれども魔力消費が激しいからと、消費を抑え目にやっていたライダーとの戦い辺りがもう茶番劇にしか思えない
そして、剣を振り下ろそうとして……
焔に燃える復讐相手の双眼が、私を捉えていることに気がついた
焔が、血飛沫く
吹き上がる血すらも、その場で燃えて火の粉になり、空中に溶け消える
けれども、私に衝撃は無い。割り込んだのだ、銀翼と、ぼろっぼろの黒焦げコートを翻す少年が
けれども、攻撃を防げた訳ではない。割れたハートを模したろう槍は、しっかりとその右の胸を貫いている。穂先は完全に貫通し、女性が立てると自分の頭より上に穂先が来るほどに長い柄の半ばまでがその胸に抉りこまれている
『死ねぇっ!ジークフリート、死ねぇっ!』
「けふっ』
ドス黒い血が、草原を汚す
『バカね、
黒い血を傷口から垂らすその体が、復讐の蒼い焔に包まれ……
……黒い、血?それは、本当に血?
ふと気が付く違和感。
その瞬間、大地から間欠泉の如くに沸き上がった黒い泥が、一瞬でバーサーカーを呑み込んだ
『ギァァァァァ!』
言葉にならぬ悲鳴。槍を捨て、蒼炎だけを頼りに、黒泥の間欠泉からバーサーカーが飛び立つ
けれども、そのドレスの各所には今もべったりと泥が張り付き、焔の勢いを弱める
『ジークフリート!ジークフリートォ!』
『
そんな異常現象に動じず、少年は無造作に右の手で胸元の槍を折り取る。少量の黒泥と共に体内に残された穂先側は吐き出され、黒泥にまみれた
「近付くなよ、セイバー。食われるぞ』
『食われる?』
「ケイオスタイド。触れれば呑まれる、黒き神の血。海水たる神、或いはそれそのもの』
『何でそんなもの使えるのよ』
「……己は、ビーストⅡだぞ?
血をケイオスタイドに変換しようとしたら、今なら出来ることに気が付いた
どちらにしても侵食する性質ならば、多少の往く先の差はどうでも良いらしい』
『いや可笑しいわよそれ』
初めて、バーサーカーが止まる
どこまでもひたすらに、狂化のままにジークフリートだと思い込んだ男を殺しに来ていたその恨みだけの塊が、漸くその狂化の先で戸惑っている
『ジーク……フリート……?』
「己はザイフリート・ヴァルトシュタイン
元より、ヴァルトシュタインのジークフリートたれと呼ばれた、ジークフリートであって欲しかったものでしかない
ならば、お前が望むならば、貴様にとっての己はジークフリートであれば良い。好きに来い、破壊する
それとも……』
少年の体が、ぽっかり空いた胸の穴から吹き出した泥に覆われる
「
『……はい?』
突然、言葉が理解出来なくなった。何と言ったのか、一応発音としては理解できていた、今までは。けれども、これは違う。これは、人間の理解できる言葉では、きっとない
細長い頭、その全体を占める、縦に裂けた歯が剥き出しの口。異様に長い両の腕、そして翼のような二本の腕。けれども、その先は一本は先がなく、一本は半ばから消え、翼腕片方は根本から斬られている。全体としてはほそ長く、絵の初心者が黒絵の具だけで適当に筆で書きなぐった人体のような姿
『何よ、これ……』
生理的な吐き気を、口を押さえることで防ぎ、呟く
「
やはり。言葉は理解不能
「
vluf2、
意味の理解不能な言葉が、空気を震わせる
だが、その瞬間……
急に踵を返し、バーサーカーは飛び去っていった
『……?どうかしたのかしら』
「……マスターに呼ばれたんだろう。戻ってこいと。一応、二代目マスターは令呪を持って生きてるんだからな』
化け物の姿を、
『……戻れたのね、それ』
「ちょっと姿を変えてみただけだからな。銀翼状態なら気分でああなれる、それだけの話さ』
微妙に焦点の合わない眼で此方を見ながら、少年は続ける
『何なの、あれは?』
「ラフム、ティアマト神の願った新人類だ
……少し前にも言ったぞ?』
『聞こえなかったわね』
「そうか。どうでも良い、今改めて言った』
ぱしゅっと、軽い音と共に銀の翼が解ける。黒いカードは、形を現すと同時に空気に消えていく
ふと見回すと、大分草原は酷い有り様だった。大半は、蒼い焔のせいで焼けた焼け野原。一部は黒い水溜まり。クレーターも3つくらい
「帰るんだろう、セイバー?」
『ええ、そうね。でも……
貴方に捕まった事にしてくれるからしら?』
「……この惨状に関わってないという保身か?まあ良い、勝手にしろ。実際、己のやった事だからな」
そう、少年は微笑する
視界の先に、馬の駆ける姿が見えた
今回使用されている謎言語ですが、基本はラフム語です。とあるものを二つ折りにして変換した後、それをラフム語にしたものとなります
小文字が変換出来ずに大文字二つ重ねで強引に表現していますが、解読する奇特な人が居るならば文脈判断をお願いします