Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ー毒を食らわば

そして己は、暫く後、紫乃らと合流し、新たに共に行動している相手と面と向かっていた

 「……何なんだ、お前は」

 「知ってるはずだ、其処の……」

 一瞬、己に向けて剣呑な視線を向けてくる青年の正体を計りかねて、すぐに掴む

 

 「第七次のキャスター(カッサンドラ)のマスター。己とお前は、一度出会っているはずだろう

 神霊の力を借りていた割には、慢心からあっさり負けたようだがな」

 「久遠錬。見ての通りのバーサーカーの被害者だ」

 「そのようだな。敵にならなければどうでも良い」

 右目は、彼が吸血鬼だと告げている。敵ではない、とも

 幾ら吸血鬼にされ、性能が人間を越えているとはいえ、逆に言えばあくまでも人間を越えただけなのだ。サーヴァント並の性能だ、なんて言えない。ホムンクルス等と似たようなもの。ならば、敵ではない。危険があると思えば何時でも殺せる。ミラに比べて、なんと御しやすい事か。殺せるのだから何も怖くない

 

 「己はザイフリート、ザイフリート・ヴァルトシュタイン

 セイバーのマスターであり、ヴァルトシュタインがジークフリートであれ、という願いの元、ジークフリートに縁があるであろうライン川の奥底に沈んでいた指輪を触媒にとある存在を呼び出して降霊魔術で作った偽造サーヴァントさ」

 自嘲するように、唇を歪める

 ああ、自分は阿呆だ。そんな、気が付いてみれば馬鹿らしい口先だけの策にまんまと乗っかり、助けてくれジークフリートと、此処に居もしない相手に助けを求め、その果てにあるはずの己の根源、力の大元から眼を背け続けていた。力を求めながらも、自ら絶対に辿り着かない道をひた走っていた。何と間抜けな話だろう。仕組んだフェイは、内心笑っていたに違いない。だから、あんなにも俺と語り合った。話せば話すほどに、自分の策略に見事に引っ掛かっている事が確認できるのだ。策を掛けた側としては、こんなに面白い見世物はあまりないだろう

 『……?』

 己の言葉を受け、視界で何かが揺れた

 一拍置いて気が付く。アサシンの首の角度がブレている事に。恐らくは首を傾げたのだ

 「……ああ、アサシンとも一応契約しているか。二重契約という奴だ

 

 ……そういえばアサシン、神父はどうした?」

 ふと気になって問う。アルベール神父、あの監督役はどうしたのだろうかと。まさか吸血鬼になった……なんてことは、あまり考えられないが

 

 『……来てない。この世界には

 あの騎士のマスターと、元々の世界に残った』

 「……あのマスターもか」

 こくり、とアサシンが頷く

 何故分かるんだとは言いたくもなるが、己に令呪一画と共に譲渡したとはいえ、契約していた時期があるのだからそんなものかもしれないので流す

 

 「それで、そのセイバーは?」

 「あいつは自由だ。己には、あの王女を縛り付けるだけの魅力も、権力もない」

 『それで良いのかよ』

 「良いんだよ、ウィリアム」

 此方を観察している男……旧アーチャーにそう返す。見ただけで、真名は分かる。凄く分かりやすい。知らずに対峙していれば危険だったかもしれないが、知っていれば怖くはない。絶対に矢を外さない。外すわけがない、けれども、若しも外したとしたら……。そんな、放たれざる王討ちの二の矢の使い手

 己から離れているのも、己の存在を危険視しての事だろう。結構な事だ。それで良い。薄々気が付いているが、アサシンは絶対にザイフリート・ヴァルトシュタインを裏切らない。裏切るわけがない。アサシンだけは、絶対に。アサシンにとって己は裏切るだとかその対象ではない。だからこそ、アサシンは己の側に居る

 けれども、だ。それ以外の者が、不用意に近付くなど馬鹿も良いところ。まあ、つまりは馬鹿とは久遠錬を名乗るマスターの事なのだが。だからこそ、久遠錬は敵足り得ないと言えてしまう。だが、あの王討ちの射手は警戒に値する。敵で有り得る。そう、若しも彼が己に向けた矢を外したとしたら、きっと今の己を殺しうる敵だ、あれは

 『ヴィルヘルムだ』

 「ウィリアムだろう」

 『止めてくれよ、可愛い女の子以外から名前呼ばれても、寒気しかしないだろうが』

 ああやだやだ、と首を竦める男に、そんなものか、と返す

 「じゃあ、旧時代のアーチャーで良いか、有り得べからざる王討ち」

 『旧アーチャーで良いだろ、悪意あんのか旧時代って。時代遅れのロートル扱いかよ』

 「本名で呼ぶな、と言われれば悪意があるものだと解釈しても良いだろう?

 ならば、同等の悪意で返すだけだ」

 『気に入らねぇ……女の子ならツンも可愛いモンかもしれないが、男とか誰が得すんだ』

 「そんな事を言えば、折角の味方サーヴァントが男で得するのかと己も返せるが」

 冗談めかしてそう告げる。売り言葉に買い言葉。正直な話敵になるかもしれないサーヴァントの性別などどうでも良い、何が変わるわけでもない。女は斬れない等の誓約(ゲッシュ)があれば関係するだろうが、生憎己にそんなものはない。例え老人だろうがイケメンだろうが世界一の美女だろうが、破壊してしまえばかつて己の前に立ちはだかった(正義)の残骸、でしかない。其処に差異など認められない。元々それがミラであろうが、フェイだろうが、ウィリアム・テルであろうが、ザイフリート・ヴァルトシュタインであろうが、それこそ多守紫乃であろうが、だ。心の奥底で弱さが何か言っているが、邪魔だ黙れ俺の出る幕ではない。己でなければ、最早存在すら出来ない奴がほざくな

 自身のサーヴァントであれば、交流を黙するならば相性によって同性の方が有利になったり、異性の方が深く信頼(えにし)を結べたりがあるのだろうが、生憎と旧アーチャーと縁を結ぶことは無いだろう。もう一つの真名、力を貸しているだろう纏われた英雄の名が、欠片も浮かんでこない。己の右眼(演算)を警戒しているのだろうが、霊基の奥底、底の底に静かに沈んでいる。だとすれば逆に、それこそが己の敵足り得る何かを持つ証明。だからこそ、対策を考えさせないために姿を隠す。よもや星の聖剣使いでは無いだろうが、それに類する射撃兵装の英雄の可能性はある。単に、ブラフの可能性もゼロではないのだが

 というか、万一対峙することが無ければ、この思考は無意味なのだが。警戒を片隅に置いておくことに意味がある。それならば、何時どのタイミングだろうが、一拍余裕が増える。それが、外れないはずの一の矢に当たれるかどうかを左右するかもしれないのだ。奴の本領は外さなかったが故に放たれなかった二の矢。外す気で撃たれた矢に当たれば二の矢の条件は満たさない。奴の本領は封殺出来る

 

 「かーくん、仲良く出来そう?」

 「さあ、どうだろう。良く知らないから何とも言えない」

 そう問い掛けてくる紫乃には、そう返す

 ……ああ、仲良く出来そうだ。あの旧アーチャーとは

 「酷いなオイ」

 「当たり前だろう

 ……それで、久遠、お前の目的はキャスターをどうにかする事だったな」

 「ああ」

 「あい分かった。キャスターは己が破壊する

 完膚無き迄に、どんな不幸も遺さない」

 「や!め!ろ!」

 「……冗談だ。今の己にそんな力はない」

 とりあえず、今の不完全な赤だけでは恐らくは勝てない。端末にならば勝てるだろうが、アテナ神の本体には負けるだろう。あの機神を滅ぼす力は今の己には無い。食らうにも、自身の大きさが足りない。それでは意味がない。一度殺しているが、だからこそ、今の己の弱さでは無理だと分かる。全くもって、弱く厄介な体だ。それでも、これでやるしかないのだ。『回帰』を

 

 『はい、スープ出来たよ。皆空気は、和やかに。ピリピリしてると美味しくないよ?』

 空気を破り、ミラが手に皆の分の皿を持ってくる

 各々の前に、それは置かれた。クリーム色のスープ

 『じゃがいもの温かいポタージュ』

 ……けれども、己の前には置かれない

 「……ミラ、己の分はないのか?」

 『あるよ?でも、あなた両の手無くなってるでしょ?だからわたしが持って食べさせてあげようかなって』

 「……要らん」

 左腕で銀匙を抑え込み、その柄へ向けて、力を込めて右腕を突き込む。肉を裂き、柄が埋まる。匙を肉で挟み込む

 「これで食える。一人で充分だ」

 「ご、強引だねかーくん……」

 そうして、己の前にも皿が置かれる。同じくクリーム色の何かが

 「ミラちゃん?」

 『普通のスープだよ?特別視なんて、ここではしないから』

 「う、うん……そうだよね」

 首を傾げる紫乃は無視し、とりあえず固定した匙でもって液体を掬う

 

 『それで、味はどうかな?』

 「うん、温かくて美味しい」

 一口付けた所で、ミラがそう問いかけてきた

 『いいお嫁さんになれる。というか、嫁に来ない?』

 『行きません。あなたはどうかな?』

 「右に同じ」

 面倒なので、紫乃に合わせる

 

 「……かーくん?」

 それに、何でか紫乃が首を傾げた

 『……本当に?』

 不安そうにミラに問われ、もう一匙、口を付ける

 体温より暖かな感覚

 「嘘を付く意味が、何処かにあるのか?」

 『……やっぱり

 あなた、誰?』

 「だから何度となく名乗っただろう。己は、ザイフリート・ヴァルトシュタインだ」

 『嘘。幾ら最初はあんなまっずい丸薬を美味しいって言ってたフリットくんでも、そのスープが暖かくて美味しい訳無いよ』

 「何でだ?」

 確かに暖かいはずだ。己の体温より大分上なのだから

 『だってあなたに渡したそれ、ぬるい水に絵の具と毒を溶かしただけだよ?』

 「そうか。どうでも良い」

 気にせず、匙を進める。毒だろうが多少の魔力の足しにはなる。血を通してしか侵食が出来ないのだ。少しでもそれを増やすのは、今の己には必要な事

 それには、何かの経口接種が楽だ。だから、匙を進める

 「ちょっと、かーくん!」

 声を珍しく荒げ、己から匙を奪おうとしてか、紫乃が手を伸ばし……

 「冷たっ!」

 己の腕に触れるや、その手を引っ込める

 

 『何だ、幾ら低体温でも……って冷たぁっ!外気と変わんねぇだろこの温度!』

 興味半分か、触れに来た旧アーチャーが大袈裟に飛び退く

 「それがどうかしたか?」

 体温が低い、それに意味など見出せない

 どうでも良いにも程がある

 

 『今の気温って4度あるかだよね』

 「そうらしいな」

 右目は、3.6℃を教えてくれる

 『体温4℃って、おかしくない?』

 「動くからどうでも良い」

 『外気と同じって、死体の温度だよっ!分かってるの!』

 「当に寿命はつきてるんだ。そんなこともあるだろう

 この体はまだ動く。願いはまだ、果たすことが出来る。その果てにこの肉体など残るわけがないのだからそれまで持てば良い

 多少焦点が合わなくなってきたが、戦闘に支障はない」

 銀翼状態ならば幾らでもブーストが効く。この身が既に死体?何を馬鹿な事を

 元々俺自体、神巫雄輝の死体を動かしていたようなものだろうに。魂の砕けた死骸と、魂が残った肉体の残骸にどれほどの差があるというのだ。空っぽの器も、中身が見えてる壊れた器も、結局目的さえ最後に果たせる状態ならば良い。魔力を通せば死骸は動く。時を『回帰』すれば魂は砕ける前に戻る。己のやることは『回帰』、霊核(たましい)宝具(にくたい)(パス)、それらが残っているならば、何も気にする事はない。そんな権利はないと言いつつ、幸せを噛み締めていた弱さ……俺は、肉体の死を大半の幸せを味わえなくなる大事と思うかもしれないが、結局元々味わうべきではないものだったのだ。あってはいけないボーナスタイムが終わっただけだと割り切るだろう

 「この体が死んでいるかどうかなど、どうでも良い。死んでいる、それだけだ、どうと言うこともない。何か特別語ることも無いだろう

 話は済んだか?食事に戻る

 

 ……ああ、ミラ。食事を有り難う。他のサーヴァントの夢に広がったこの辺りの大地は食おうにも消化に悪くて困るところだった。助かった」

 己は、更に一匙、毒と絵の具のスープを掬った

 呆然と固まる二人の少女は、まあ良いかと無視をして




今までもありましたが、一人称己と俺が混在しているのは仕様です
本来のザイフリート・ヴァルトシュタインの人格が己、フェイらによってお前はジークフリートであるへきだと歪められたちょっと無理してる人間っぽい弱い人格が俺、という区別となります。記憶を完全共有した別存在なので、同一人物ですが己と俺と区別しています
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