Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ー神殿語り

食事の後

 ミラは、もう何も言葉を紡がず、黙々と匙を動かしていた。紫乃もまた。たまにちらりと己を見ることこそあれ、何も言わない

 

 それで良い。特に語ることも無い。所詮は目的を果たせば消える身、語るに足る言葉など、如何にして聖杯をこの手に納めるか、それだけだ。その他のどんな言葉も、俺の遊びに過ぎない。言葉遊びにかまけて、本来のやるべき事に支障をきたす、実に笑えない話だ。それがまるで自分が生きているかのように思わせ、何時か光を鈍らせる。そんなこと、俺でも分かっていただろうに。無為に、無意味に、幸福なんぞ享受し続けた

 ……だから、己が何とかしなければならないという場所まで来てしまった。実に情けないオチである。最早真っ当な手で、己の力を借りることなく神巫雄輝の存在を保てない。だが、まあ良い。迷うこと、緑の光。今の己に無いかの光の紛い物としての意味くらいは、その無意味にも存在する。無意味だとしても、その甘さ()をわざわざ切り捨てる事はない

 

 「……なあ」

 そうして、少女達が用事があると少し離れた木陰へ消えた頃。一人の少年が声をかけてきた

 話しかけにくる方は分かりきっている

 「何か用か、吸血鬼」

 キャスターのマスター、久遠錬。フェイによって聖杯にぶちこまれ、この世界を作るのに使われながらも、亡霊として死に残っているサーヴァントとの縁故か、彼を殺したバーサーカーはすでにランサー扱いされて己に滅ぼされたはずなのに、主君に義理立てすることなく死に残っている動く死体。己のある種同族

 「その呼び方は止めてくれ」

 「ならば、久遠」

 正直な話、名前を呼ぶほど親しくなる間柄でも無いだろうが、と俺みたいな事を無為に思いながら、そう名を呼ぶ

 目は、ずっと遠く。けれどもその気にならずとも、其処だけ常に暗い南の空を眺めつつ。振り返りはしない、その必要を感じない

 

 「……キャスターと、会ったのか?」

 そうして、切り出されたのはそんな言葉

 「いや、会ってはいない。神殿には近付いたけれどもな」

 「キャスターを、救えるだろうか」

 「無理を言うな。足掻くならば勝手にしろ

 己に出来るとすれば、全てを陵辱する事だけだ。今一度トロイアを。所詮自分一人未来が見えようが、何ら変えることは出来ぬと思い知らせるくらいならば、出来ないことも無い」

 大嘘である。人間不信の未来視ならまだしも、アレに憑いている軍神はそんなもので落ちるタマではない

 「止めてくれ」

 「分かっている

 そもそも、神殿に攻めいる手段が無いに等しい。出てくる事も無かろうし、放置しか手が無いというのが現状だ」

 「そんなに、神殿は堅いのか?」

 「常時宝具状態だ、あの神殿は

 あのキャスターの宝具に関しては、お前の方が詳しいだろう」

 「あ、ああ……

 そうか、天罰か……」

 そう、天罰。結局の所、真面目に使われた所を一度として見ることなく気が付けばキャスターは倒されていたのだが、一応今の右目が教えてくれる

 <戦神神殿・天罰執行(アテーナー・ヘイルダウン)>。それがかの宝具の名。トロイア戦争の後、アテーナー神殿で陵辱された事に戦神がキレて双方に天罰を下し死に追いやったという、カッサンドラの死に様が昇華された天罰宝具。アテーナー神殿を呼び出してそれに籠り、神殿および自身に加えられたダメージに応じてアテーナーの天罰が下るというもの。それは物理的な傷のみならず、精神的、性的なものまで含む。まあ、強姦されれば強い心の傷も残るであろうし、精神的なダメージを転嫁してくるのも可笑しくはないだろう。己の存在故か、アテナ自身が纏われる形で欠片とはいえ顕現しているからこそ発動する、神の権能そのものである宝具である。同格の神霊クラスでなければ、天罰に耐える手はほぼ無い。人間の体を使っている以上、今の己にも十分通る。実際に其所に居る神の裁きは止められない。極度に強い神秘耐性がもしもあろうとも、だ。眼前に神が居るのだから、神の否定などしようがないという話。殺せば、神は死んだ、神秘は終わったと言えるのだが

 

 「ああ。天罰だ

 あれが物理的な話ならばまだ良い。精神的なものを含むのだからやってられん」

 「そうなのか?」

 「当たり前だろう。フェイなど、近付くだけで天罰死するだろうな」

 ブリテン内に限り過去未来を見通す千里眼と、誰も信じず自力でしか未来を変えられぬ未来視。本来、神から与えられた未来視は絶対。アーチャーの攻撃する地点すら読みきれた程に。だが、ブリテン内では千里眼の方が格上。あれはブリテンの王の力。だからこそフェイは未来視を誤魔化して勝てたのだろう。基本的に絶対の未来視だからこそ、未来視に何も起こらないと見えることはキャスターの油断を招く。逆に言えば、キャスターにとってその際の敗北は陵辱にも等しい。その心の傷は深いだろう。姿を見れば、トラウマは再発するだろう。それにすら反応するのだ、あの天罰は

 それは己も同じ。近づけば恐れられる。心が恐怖でずたずたになる。神でない方のキャスターの心は、それほど脆い。勝手に傷付き、理不尽な天罰が己に降り注ぐ

 己に近い何かの正体を探りにバーサーカーの城近くを探索した際、それを理解したから、キャスターの対処は諦めて放置することにした。その気になれば倒せなくもないだろうが、器を殺されて若しも戦神本体が降臨すれば今の己では詰む。降臨出来ずに消えれば問題はないが、アーチャーなんてものが居るのだ。神霊に関しては警戒し過ぎるなんて概念はない。何をやってこようが可笑しくないのだ

 

 「……強っよ。キャスターはそんなに凄かったのか」

 「……知らなかったのか、お前」

 「いや、外見が可愛いことしか知らなかった」

 はあ、と息を吐く

 「よくもそれでマスターやれたな」

 「無条件に信じる。そうでなければマスターなんてやれなかった」

 「それもそうか。だからこそ、お前を得て、俺を求めた」

 『男を、求めるサーヴァントだと

 ミスったな。第七次行けば良かった』

 「何の用だ、旧アーチャー」

 突然、後ろからからかうような声がした。まあ、何も言ってこないが居ることは知っていたのでそのまま返す

 『可愛い女の子に求められるとか、第三次に比べて天国か、と』

 「自由意思は求められていないがな

 人間である限り、神の定めた信じてはならない、という呪いをまず打ち破れない。どれだけ願おうが、彼女の言葉を聞けば、心はねじ曲げられる。信じぬ、と

 だからこそ、絶対服従。疑問を挟むことも、勝手に動くことも許されず、機械人形のように求められた事を語り、求められた動きのみを行う。サーヴァントとマスターとしては破綻した形の主従にしかなれない

 

 それで良いのか、旧アーチャー?」

 『おさわりは?』

 「何時かさせて貰えると、聖杯を得た暁にはイケると思ってた。いや、今も信じてる」

 そう、傀儡であった少年は続けた

 『oh……ダメじゃないか』

 

 「それで、もう一度聞く。何の用だ」

 『少し気に入らないってのはあるがよ

 誘いに来たぜ』

 「何に」

 『どれだけ尽くしても触らせてもくれない冷たい女の子より、良いコト』

 「良いコト?」

 久遠が、すっとんきょうな声をあげる

 

 理解した

 『ねーちゃん達が、水浴びしてんのよ。割と隠れられる場所でさ』

 「覗きか」

 『んまぁ、それくらいの役得は、貰わねぇとねぇ。可愛い女の子のサーヴァントなんてやってられないっての

 

 んでよ。一緒にやる気、あるか?』

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