そうして、辿り着く
かつて倭と呼ばれた國、その繁栄の象徴……
即ち、平安の都に
いや、敢えて言うならば、平安の都だったもの、に。それは、旧アサシン的な意味ではない。別に
当時ほぼ複数階建ての建物は存在しなかったが故の平屋の集合、それを縦横に貫く幾つもの大路小路。それらは確かに平安の都の特徴なのだろう。北からではあるが、其所にある内裏を突っ切れば流石にフェイにちょっかいをかけられるだろうから多少大回りして、西の方から右京に入る。遭遇した際にまだしもどうにかしようがあるのが、旧ライダー側であるからの選択だ。因にだが、当たり前ではあるが西から左京ではなく右京に入るのは間違いではない。北におられる帝から都を見た時、右とは西の方角にあるのだから
まあ、そんなことはどうでも良い。細かい名称など知らないし興味もない
重要なのは、それらの装い。一言で言い現すならば祭
現代でも様々な祭は全国に存在する。ある程度
だがそれは、形式が確立した現代での話。平安の都があった時代、祭の形式は恐らくは現在と大きく異なったはずなのだ。少なくとも、キラキラしい飾りつけの存在など有り得なかったはずだ。そんなバカみたいな量の光を灯して無駄遣いしても問題ない程に、灯りというものは大安売りされていない時代であったはず。油を使った灯りは、貴重なものであった……はずなのだ
だというのに、これはどうだ。門を抜けた先に広がるのは、無数の屋台に行き交う人々、そして日中だというのに灯される灯り。実に当時らしくなく、バカらしい
というか、この時代に遊戯の屋台なんぞ恐らくは無いだろ何当然のように広げてるんだフォォォックス!
「へ、平安の都って凄いんだね……」
『いやいや、これは可笑しくない?』
「見栄張りすぎだろうがフォォォックス!」
思わず叫ぶ
「見栄でそうなるの?」
「なるさ」
横で首を傾げる紫乃に頷く
「この都は旧セイバーの心象の投影。つまりは、旧セイバーがそうであろうと思い描いていた世界だ
彼は基本的に平安貴族の世界を見てきたはず。ならば、一般的な生活の基準は高い。都民の中に降りてしかと見たことは無く、けれども己の産み出した繁栄を信じ、その心象が思い描いた都は、現実の当時の都よりもある程度は栄えたものになる……はずだ」
「つまり?」
『貴族でお金持ちの人が思い描く庶民の世界って、現実よりもみんなお金持ちじゃない?
例えば、自分の家は車を何台も持ってる。庶民でも1台は持ってるはず、みたいな感じで』
「そうかな?……そうかも」
『つまり、この都に生きる人々は、旧セイバーサマのこれくらいは裕福なはずって心象に歪められて裕福になったってコトかよ
旧セイバーサマサマじゃん。ああ、羨ましい、寄越してくれよなそれ』
愚痴る旧アーチャーには苦笑して
「で、だ。旧セイバーにはとりあえず彼自身のスキルで呼んだのだろう二匹のサーヴァントが控えている
その二匹があること無いこと吹き込んで、それが正しいと思えば、心象に過ぎないこの都は幾らでも発展する」
「未来都市くらいにもか?」
「あんまりに現実、生前に見た光景とかけ離れ過ぎたら信じられないだろうな」
『けど、自分達が遊びの行事を大々的に行った際にやったくらいのお祭り感は出せるって所……だよね、フリットくん』
「そういう話だろう。ボロ布と木で作った屋台擬き、自分達は割と潤沢に使えた油による灯り、そして我を忘れての大騒ぎ。それくらいはやろうと思えば恐らくは投影出来る
それをやらせたのが……」
『朝宮陽光良賢妻(仮)』
「そうだ。読みはタマモちゃんリリィでもそのまま
言いかけて、気が付く
そもそも、この場でそのスキル名を口に出来るのが、仮面を付けてた頃に見た俺を除けば、とりあえず三人しか居ないだろう事に
「紫乃、隠れろ。ミラの後ろくらいで良い」
祭を邪魔すればそれはそれで面倒だろう。故に、軽く構えるのみ
眼前に立つ、祭の喧騒の中でも見失いようが無いくらいには目立つ、はだけた和服の少女と、面と向かって静止する
『みこーん、巫女で狐で更には良妻、これだけあってお得な美少女。これは最早、寵愛しか、ねぇ!
そんな正に世紀のお買得、それが、ご主人様に呼ばれたオマケサーヴァント、
こーんな豪華過ぎるおまけ、食玩かっ!いやでも、幾らタマモちゃんでも、ご主人様ほど偉大では無いですしぃ?それは何か違うかもなので』
『外見だけかよ』
話を遮り、旧アーチャーが吐き捨てる
言いたい事は分かる、だが止めろ旧アーチャー。そう言いたいが、言ったところで止まらないだろう。彼は俺を信用などしていない
『ちょっとそこのぼっちアーチャーさぁん?
タマモちゃんはご主人様の良妻なので、浮気NG。幾ら願っても絶対に届かないからってすっぱい葡萄は止めて貰えます?』
『例え届かなかったとしても、こっちのおっぱいデケーライダーのねーちゃんの方がマシだっての』
少し思っていたのだが、やはりというか、旧アーチャーはひとつ勘違いをしているようだ。ミラがライダー枠で、紫乃のサーヴァントだと。いや、現状その勘違いは好都合かもしれず、だからミラも紫乃も誤解を解かなかったのだろうが。というか、本来の紫乃のサーヴァントであるアーチャーについてとか語るだけ面倒だ。サーヴァントとして負けたから脱落するわと消えていった癖に、例外的にサーヴァント名乗ってたからか脱落時の処理が正常に働かず令呪だけ手に残っているなど例外に過ぎる。語りにくくて仕方がない。久遠は……まあ、あのキャスターの言いなり状態では、キャスターが興味ないだろうアーチャーと紫乃などまともに見ていないか
『わたし?わたしは一夜の過ちとかは、ちょっとだけ軽蔑するかな』
『ふげらっ!』
『愛があるなら別に良いと思うよ?でも、これでも一部からは聖人扱いされてるしね、道徳的な事もたまには言わないと、なのです』
「それらは置いといて、だ
何をしに来た、C002。お前の主君は、銀狐を通して俺達の来訪を認めた
というか、お前自身玉藻通宝なんて冗談染みた金を送って焚き付けたろうに」
『いえいえだから、別にこのタマモちゃん、止める気なんてありゃしません。どうぞご勝手に、ご自由に、心ゆくまでこのタマモーランドをお楽しみ下さい?その為に年末の忘年祭なんてやった訳ですしぃ?』
「色々と準備したろうC001の式神が嘆くぞ
『どうぞご勝手に、いや寧ろ嘆け腹黒。多少の意趣返しくらい可愛いイタズラと見逃すです!
でも、何で乗ったんです?
「……新しい盟約を、果たしに来た」
一瞬だけ迷い、俺はそう言葉を紡いだ
『……えっ?』
「えっって何だ駄狐ェッ!お前が言い出したものだろうが」
『あの約束、有効手形だったんです?
「……反故にした方が、良かったか?」
「ねぇかーくん」
袖を引かれ、少しだけ意識を離す
「新しい盟約?って何?」
「仮面を付けて式をやっていた己が居るな?
あの時期にあの桃色狐から突き付けられた不平等条約だ。不平等は不平等。是正も考えたが、履行してやる事に異論はない」
『どんな?』
「それを言うのは盟約違反だ」
当たり前である。潰す気もなく、来るなら来い寧ろ仕掛けてこられたら己の心の弱さを殺しその首を跳ねられると放置しているフェイの使い魔は、今もこの死体の中で聞き耳を立てている。わざわざ式神として言葉無く刷り込んだ盟約を、此方が口にしては桃色狐がフェイに隠した意味がない
「……でも、果たそうとするくらいの約束なんだよね?」
「果たした暁にはその
「か、
『不潔っ!浮気者っ!』
『下衆いなオイ!』
「……は?」
刹那、言い方が悪い事に思い至る。だが、それで良い
「恋愛だ何だを介さず、欲望を果たすだけだ。後腐れもない」
寧ろ、勘違いを煽る。当たり前だろあの狐が……この世の幸せを謳歌していた藻女時代のこの頭まで桃色が、誰かにその体を差し出す訳がない。そんな浮気、裏切られたと思ってちょーっと荒んでた妖怪玉藻前時代でもなければやらかさない。寧ろあの時代ならイケてる魂だと思われれば此方に付くまで有り得たが、そんな都合の良い話はない
だけれども、聞いた限りではそういった艶事にも聞こえるだろう。寧ろそうした。なあ、聞いてるだろうフェイ。そういうことだ。軽蔑しろ
『まっ、出来るとも思いませんしぃ?では、
と、まるで勇者を送り出すお姫様のような言葉と共に、タマモちゃんは去るのでしたとさ』
意味ありげにミラを見て、桃色狐の姿は消えた。単純に視覚を誤魔化しただけで、そそくさと逃げる姿が右目に映っていたが無視する
『……フリットくん。此処に殺しに来たのは……わたし?』
「違うと言って信じるか?
安心させた所を後ろからばっさり、それが一番楽だろうに」
『信じるよ、信じたい』
「……違う」
良い淀みながら、そう答える
嘘だから、という訳ではない。こんな俺を……信じたい、という言葉に、気圧された
『保障する』
「いや、別人が保障してもだろアサシン」