Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ー祭の前に

「……それで、どうするんだ?」

 振り返り、所在無さげに立っている紫乃にそう問い掛ける

 まあ、当たり前と言えば当たり前の対応である。多守紫乃は普通の女の子だ。魔術の素養は……無くはないという程度。まともな魔術は使えず、鍛えても意味はない。本来、聖杯戦争なんてものに参加するような性格ではなく、マスターに選ばれうる資質も無い。アーチャーとかいう意味不明チート野郎が自分が介入して生かすために無理矢理に自分のマスターという事にして巻き込んだだけで、本質的には単なるちょっと魔力が……魔術回路が数本ある程度の一般人。殺す殺されるの魔術戦争の世界に付いてこれる訳がないのだ

 さっきの言葉ー新しい盟約とは、言ってしまえば一騎のサーヴァントを己が破壊するから、その代価としてお前の魂寄越せ、にも等しい。命を対価に別の命を奪う盟約。血生臭過ぎて自分はどうしていいか分からないだろう。それで良い。付いてこなくて良い。神巫雄輝も多守紫乃も、本来はこんなものに巻き込まれずもっと真っ当に幸せになるべき存在だ。他の命より価値は上だと、それが世界的には真実ではなくとも俺が真実にする。世界を『破壊』し『回帰』してでも成し遂げる

 そうでなければ、意味がない。今まで俺に殺された者達を、殺した意味がない。ザイフリート・ヴァルトシュタインというバケモノなど、生かしておく訳にはいかないのだ。『回帰』しなければ、『破壊』しなければ。そんなこと、分かっているはずなのに

 

 ……だから、置いていかれるくらいで理想的

 故にこの問いは、残りのサーヴァントとおまけに対するもの

 『パス。可愛い娘をナンパとか、出来ないんだろ?』

 「不貞だ何だが問題視される宮廷のドロドロさを知っている者の心象だ、娼館なんかは無いだろうな」

 『んだからパスよ』

 「そうか」

 ひらひらと手を振る旧アーチャーはまあこんなものだろうと無視し、次

 

 「キャスターとじゃなければ楽しめない」

 「……支配は解けたよな?」

 「元々心奪われてたから関係ない」

 「……まあ良い。勝手にすれば良いだろう」

 「ああ、もう一度、キャスターに会いに行ってみる」

 『んじゃ、こいつがこーんなになるキャスターちゃんでも、見学しに行くかねぇ……

 大丈夫大丈夫、マスターの嬢ちゃんとの約束は忘れてないから、夜には帰るさきっと』

 「俺の預かり知らぬ所だ。そういうことはミラに言え」

 『って事で、行ってくるさライダーのねーちゃん

 寂しくはないよな?寂しいなら……』

 『うん大丈夫。心配もしてないよ』

 『ふぎゅんっ!

 って、信頼かこれ。反応して損した

 んじゃ、行くか』

 言うだけ言って、男二人は連れ立って門を出ていった。ミラが用意したらしいタバコの煙が少しして上がり、ゆっくりと遠ざかる

 

 「……それで?」

 『付いて、行く』

 「知ってる」

 アサシンはほぼ無視。最初からそんな事知っている。向こうに付いていくとも、別行動とも言わないだろう。俺の推測が正しければ、俺人格に戻ったのも、その方が都合が良いからというのもあるが、アサシンが近くに居るからという理由があるのだろう。人間らしい弱さを持った俺では、何時か必ず壁に当たる。最後の最後、弱さが仇となる。それは分かっていて、己の方がやらなければならないら唯一の事を果たすには余程良いと知ってはいても、それでも此方になる。どちらとて、神巫雄輝の死体に巣食う寄生虫には変わり無いというのに

 『わたしが離れるのも、ちょっと不安かな』

 「……かーくん、なんだよね?

 なら、一緒に居る」

 「俺であっても、己であっても。自分がザイフリート・ヴァルトシュタインと呼称された個体である事には変わり無い」

 「うん。変な言い回し」

 笑いながら、ハシバミ色の目の少女は、俺の手を取ろうとし……

 すかっと手があるべき場所を自身の手が通り抜けるや、目を微かに伏せる

 「気にするな、紫乃

 神巫雄輝は、五体満足、精神健全の状態でお前に返す」

 『いやいや、そういう話じゃないと思うよ?』

 「……忘れるな、紫乃

 俺はザイフリート・ヴァルトシュタイン。神巫雄輝の死の上に成り立つ滅びるべき悪で、お前の大切な幼馴染の仇の一人だ。本質としては、神巫戒人の死を愚弄した腐れ吸血鬼と何ら変わり無い。あいつの言った兄弟(はらから)とは、言い得て妙だった。心を許すな、懐柔されるな」

 本来は20cm近く身長差があるが、足を引きちぎった故に少し目線が合うようになった少女に、そう告げる

 『なんでもっと気楽に生きられないかなー』

 「生きたさ。あるべきでは無い俺にとって、一年の生は、あまりにも眩しすぎた。そうして今も、どうせ時間まで間があるならと、更に遊び呆けようとしている」

 『そっ、か』

 肩を叩かれ振り向くと、金髪の少女は、久し振りに見たーそして、聖杯戦争が始まる前の日々は何度も見たようなー柔らかな笑みを浮かべていて

 『昔の日の呟き、叶っちゃったね』

 と、白くしなやかな手を差し出した

 「祭り、行けたら良いのにってアレか」

 確か、あれは……約1月半ちょっと前。ハロウィンパレードの時だったか。自分の本分も忘れて、神巫雄輝から奪った幸福を享受した上に、そんな叶うとも思わず、叶えてもいけなかったはずの妄言を吐いたのだった

 

 ああ、叶うはずもなかった。伊渡間での次の祭は12/24。神巫雄輝の命日であり、クリスマスイブ。理論上俺の寿命は持つが、あの日から一年もの間ヴァルトシュタインが待つとは思っていなかったから。きっとその日は来ない。想定としては、12/24が来る前に聖杯戦争は起こり……俺は、世界をザイフリート・ヴァルトシュタインの居ないあるべき場所に『回帰』していたはずなのだから

 ……まあ、実際に今、聖杯戦争は起こったのだし。想定外の事があるとすれば……どうせ世界の回帰で殺すようなものだとはいえ、出来れば巻き込みたくはなかった二人が……そして巻き込まれるはずもないと思っていた神巫雄輝の幼馴染が、サーヴァントやマスターという殺し合いのただ中にいること。そして……いや、寿命が持たないのは当たり前か。獣でない俺……その消滅の間際に俺の中のサーヴァントを通してかの光無き世界に閉ざされた禍星に手を伸ばした俺は……サーヴァント頼み故に寿命がギリギリ持ったのだろうか。少なくとも、尖兵であるから人間の寿命を無視している今の俺なら兎も角、あの俺には寿命が尽きても動く事は不可能のはずだ

 

 まあ、考えても仕方はないので、思考を切り替える

 『うんうん、それそれ。わたしも、このままじゃきっと無理だろうなって思ってたんだけど』

 「……フェイも一緒に、は叶わなかったけれどもな」

 『だって、あの娘は敵だもん。流石に叶うわけないよ』

 「それはそう……かもしれないが」

 『ふふっ

 おかしいね。もうこんな風には話せないかもってあの時は思ってたのに』

 「ああ、大分と、俺も甘い」

 『甘くて良いよ。わたしは少なくとも、非情になりきれないそんなフリットくんを助けたくて、こうしてるんだし』

 

 と、ミラは不意にいつの間にか手に持っていた白いプレゼント袋から、幾つかの大きな塊を取り出して投げる

 『ということで、わたしからのプレゼント

 今から見て未来の義手と義足。魔術的なシステム組み込んでるから、自分で付けないと意味無いんだよねこれ。だから、落ち着いたら渡そうと思ってたけど』

 「……無くても戦える」

 『まあまあ、そう言わずに』

 言われるまま、地面に落ち……た訳ではなく普通にアサシンがキャッチしていた塊のひとつ、右手用の義手を嵌めてみる。しっくりくる

 死体にしっくりくるとはこれ如何に、ではあるのだが、しっくりくるとしか言いようがない。魔術回路を通して……ではないが、俺がやっているように血管系を擬似的に魔術回路と化し、ひとつに引っ付けている。今やこの肉体は死骸である為意味がないが、生きていれば細胞を活性化させて完全に融合させたりしたのだろうか

 気にしても最早しょうがないことだ。残りもとりあえず付ける

 

 違和感は残るが、どうせ死体を動かしている時点でそれは当たり前の事だ。とりあえず、問題なく足は固定されているし、手は動く

 「端から見てどうだ?」

 『問題ない』

 「紫乃、どうだ?」

 『う、うーん。ちょっとだけマシになったかな

 前の状態、眼を背けたいくらいにボロボロだったし……あれで祭は、仮装祭以外無理かも』

 「そうか」

 ふと、祭の格好と言われて思い出す

 

 『ミラ。助かりはするがこんなものを出している暇があれば、紫乃達の分の服を出してくれないか?

 招待されたとはいえ目立つ』

 『うんうん、そう言うと思ってたよ。了解りょうかい』

 それだけ言うと、金髪の少女は別に要らないとぼやくアサシンを引きずるようにして、紫乃と共に門の裏に消えた

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